あの日の私。
ちょっと短いです。
「おっ! 美乃梨ちゃんおはよー!」
「おはよ〜!」
「お、おはよう…」
いつも通り教室に入ると、まず最初に友達との挨拶。正直あのテンションにはついていけない。友達でも話すのがめんどくさい私は自席に着き携帯を取り出して意味もなく画面を触る。
クラスを見渡すとまだ余り人が来ていなかった。もうすぐ授業が始まるのに、みんな何してるんだろう。
「うわっ、ねー! アレ見てアレー! やばくない?」
「煙やばっ! えーこれガチ?」
「すげー! 映画っぽい!」
何やら窓ぎわにクラスのみんなが集まり出した。私も席を立ち、窓の外を見た。
「え?」
おかしい。私がさっき歩いてた道の方や校門の近くで人が叫びながら逃げ惑っている。街からは煙が上がっている。なんだこれは。
「あれやばいやばい!」
「えっ!? マジで襲ってね?」
「あっ、噛まれた」
正門の前でサラリーマンが警察官を襲い食べている。朝の眠気もあってか、何が起こっているのか状況が全く理解出来ない。街から煙が上がり、人が人を襲う。まるで映画の様な光景だ。
「ね、ねぇ、入ってる、入って来るよ!? あいつら来てる!!」
ひとりがそう叫んだ。見れば校庭に既にさっきのサラリーマンと同じ様な人達がウロウロしていた。
バンッ! バンッ! ……バンッ!
私達が窓の外に夢中になっていると、ドアを強く叩いている音がした。さっきの光景を見てからの音なのでみんなが開けるべきか、お互いの顔色を疑う。
それにおかしいのだ。だってドアは横開きなんだから普通に開けられる。鍵だって閉めていない。
「誰だぁー?」
中山がドアを開けようと前に出た。もちろんみんなそれをやめるように言った。
「中山やめといたほうが……」
「やばいって」
だが中山はやめなかった。
「別に大丈夫だろ。気にし過ぎなんだよ、もしなんかいるなら殴って逃げりゃいいーじゃん」
中山は運動部なので殴る蹴るなどは普通に出来るだろう。みんな中山に言われて黙った。ゆっくりとドアが開かれる。
すると中山の目の前に血塗れの男が立っていた。まるで死体の様に真っ青な肌、目は焦点が定まっていないのか、凄く不気味だ。
「うわッ! びっくりしたぁ~。おっさん誰だよ?」
「あ"ぁぁぁぁ」
中山はよく分からない呻き声を発する血塗れの男の腹に思いっきりパンチした。だが男は全くひるまない。
「はぁ? 上等だ。次は顔行くぞぉぉ!」
「やっちまえ中山!」
「キモ男出てけー!」
中山が右腕を引きパンチする体制に入った瞬間、男の目が中山に向いた。その瞬間中山は男に飛び付かれて押し倒された。
「気持ちわりーーっつの!! 離れろッ!」
「この、離れろクソヤロー!!」
「こいつすげえ力だぞ!」
中山から男を引き剥がそうと男子達が椅子などを使い男を殴り始めた。私達女子は怖くて窓側から離れらるなかった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!! クソがぁぁぁっ!!!!」
「こいつっ!! 離れやがれ!!」
中山の首に男が噛みつき、血が噴き出す。その瞬間男子の振り下ろした椅子が男の頭に強打し、男は動かなくなった。
「おっ…ぶふぉっ…あぁ…いてぇよぉ」
「血がとまんねーよ!?」
「おい女子! 見てねーで何かタオルとか貸せよ!!」
そう言われて私はすぐさまバッグから体育用に持って来たタオルを取り出し男子に貸した。私の友達は自分のタオルが血塗れになるのが嫌なのか、誰ひとりとして中山を見ない。
私は教室の後ろのドアを開け、廊下を見た。既に生徒はバッグを取り逃げ始めていた。開けておくとまた変な人が入ってくるかもしれないと思い、とりあえず閉めた。
「ね、ねぇ、先生も来ないし早く私達も逃げよ?」
「はぁ!? 中山どーすんだよ!」
「中山が自分でやったんだから自業自得でしょ!?」
「あ"ぁぁぁぁ、あ"ぁぁ」
クラスで言い争いが始まる中、意識が薄れていた中山が呻き声を上げた。すぐさまそばにいた豊瀬が反応した。
「中山! 大丈夫か!? なんだ? 何て言ってるんだっっっっっっっ!?」
「「きゃーーーーーっっ!!!!」」
私は自分の目を疑った。中山が豊瀬の鼻を丸ごと食いちぎったのだ。女子は叫び、近くにいた男子は吐き気に耐えられず嘔吐した。
「おぇぇ……うぉぇ……」
「お、おい中山なにしてんだよ……」
そのまま中山は近くの男子の足に噛みつき食いちぎると、今度は私達女子目掛けて突進して来た。
咄嗟に私はクラスの後ろのドアに逃げた。振り返れば捕まった女子が中山に噛みつかれていた。
この光景を見て私の脳にある単語が浮かび上がる。
『ゾンビ』
それ意外に人が人を襲うなんて考えられない。だがいきなりゾンビが現れて冷静でいられる私では無かった。混乱してドアを開けるはずが掃除用ロッカーを開けてその中に入ってしまった。
叫び声すら上げれないほどに私は焦っていたのだ。ロッカーの扉を閉めて中に隠れた私は、長方形に3つ空いた穴からクラスの様子を見た。
「痛い痛い痛いっっ!! やめてやだやだやだやだやだやだ!!」
「おいっ、こっちくんなよぉ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
ゾンビ噛まれた人はゾンビになる。言葉通りの光景を私は無言で見ていた。
何も出来ない。何かしたらここにいるってバレる。
ただただぼーっとその光景を見ていた。信じられないとかでは無く、音をたてて場所がバレたら間違い無く殺されると体が判断したのだ。脳は正直、機能していなかった。
「あ"ぁぁぁぁぁ」
クラスの中がゾンビで満たされると、奴らは空いている前の方のドアから廊下に出て行った。角度の関係でよく見えないがどうやら真っ直ぐ体育館に向かう様だ。
「はぁ……………………………………………………怖いよぁ……誰か助けて……」
私はロッカーの中でしゃがみ込む事も出来ず静かに声を押し殺して泣いた。
訳が分からない。ほんの数分でみんながゾンビになったのだ。信じろと言うほうが無理だ。
家に帰りたい。お母さん、お父さん、会いたいよぉ……。
それからしばらくして涙も止まり、遠くから聞こえる悲鳴に怯えていた。
「と、とりあえず教室を見て回ろう」
男の声が聞こえる。誰だろ?もしかして助けに来たのか……いや、噛まれた奴かもしれない。
「開けるぞ」
「ヒッ!?」
ガタンッ!
私はびっくりしてロッカーの中で飛び跳ねてしまった。
ばれてませんようにばれてませんようにばれてませんように……
「だ、誰かいるのか?」
バレてませんようにバレてませんようにバレてませんようにバレてませんようにバレてませんようにバレてませんようにバレてませんようにバレてませんように…………
そしてロッカーの扉が開いた。
その時は完全に人生が終わったと思ったが、よく考えたらちゃんと会話してるし、ゾンビな訳が無かったんだ。彼らは2年生でここで起きた出来事を知らないらしい。おびえる私に日向野先輩という静かそうな人がブレザーをかけてくれた。優しい人たちで良かった。
こうして私は先輩達に助けられて無事に地獄とかした高校から脱出出来たのだ。




