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あの時あの場所で私は……。

「え、えーとね」

「それに他の連中はどうしたんだ? 川口は? 笹木は?」


 先程

 俺は病人相手に結構キツイ質問をしていた。聞かなきゃ気が収まらない。それに俺は隠し事は嫌いなんだ。



「あの後さ、私が提案したんだけど、美乃梨ちゃんの家に行く事にしたんだよ。それで途中コンビニに寄って昼ご飯食べて、甲野がトイレに行ったのね。戻って来たらゾンビになってた」

「待て、何でいきなりゾンビになるんだよ」


 帰って来たらゾンビだった系の映画やゲームは良くあるがいくらなんでも現実じゃそんな事ないだろ。あったら謝るけども。



「中に一体いたのに気づかなかったの。トイレにいたみたいだし」

「そいつなら宮元さんが店の中で倒したぞ」

「え、もしかして私の行ったコンビニと同じ所!?」

「あ、あぁ多分な。つか甲野に会った時点でそうだろ」

「え!? じゃあ美乃梨ちゃん見なかった!? コンビニのあたりで逸れちゃったんだけど!? メールであの辺りに家があるって! でも連絡できなくなっちゃって! あでもっ!」

「待て待て、落ち着け。何がなんだかよく分からねーからもうちょっとゆっくり話せ? な?」



 そこからの彼女の話は長かった。いや長いなんてものじゃない。1時間半もの間、俺とはぐれた直後から俺の家まで来る話を、持ち前の表現力と観察力で語られた。



 あまりにも長すぎたので要約すると、坂口は笹木の不安を少しでも和らげようと本人の家に行ってみようとした。

 その途中で俺が行ったコンビニと同じコンビニに昼飯を食べるために寄り道をした。

 そこで甲野がトイレに行ったところ、そこにいたゾンビに噛まれてお仲間になり、坂口達に襲い掛かった来た。


 だが笹木が逃げ出したのを気にみんな別々の方向に逃げ出した。

 事態が安定しない内に外に出るからそうなるんだ。だから怖いから外に出ない奴は生き残れる。俺の様に。

 


「とりあえず笹木はいなかった。そのとき逃げ出したんならきっと家に隠れてるんじゃないか?」

「そうだと良いんだけど、言い出したの私だし、携帯も通じないし」

「あんまり気にし過ぎると身体に悪いぞ?」

「そうは言っても気になるのっ!! あ、じゃあ美乃梨ちゃんの家探しに行こうよ! みんなでさっ!」


 なんでそこまでしなくちゃならないと言おうとしたがそれでは男として、人間として駄目な気がしたのでOKした。それにゾンビ共がどこに行ったのかも気になる。

 笹木の家が見つかるならそれに越したことは無いし、どっちにしろ3人と増えるかもしれないもう1人の事を考えると食料が長くは持たない。

 全国でもこれくらい酷い状況で尚且つ移動が困難ならばしばらくは家に立てこもらなければならないな。


 



 翌日、坂口は全回復して元のうるさい女に戻った。


「ねぇ~ご飯まだーー?」

「うるせーな、少し声の音量下げろよ」

「まぁまぁ二人とも」


 いや、以前にもましてうるさいな。これはもう追放を考えておかないとだな。

 こいつがうるさいのは昨日俺が笹木を一緒に探しに行くと約束した所為だろう。


「「いただきます」」


 本日の朝ご飯はトーストとコーンフレークだけだ。どんどんメニューがしょぼくなっていくのは仕方がない。食糧備蓄の為だ。しばらくは少なめにして空腹に慣れないとな。


「それじゃまず最初はコンビニの辺りまで行ってみよう!」

「待て待て、今日行くのか?」

「誠也さんも着いていてくれますよね?」

「あぁ、もちろんだよ」

「無視かよ!?」



 朝食を終え、昨日と同じく必要最低限の物を持ち家を出た俺達は坂口の言うとおりにコンビニを目指した。

今日は気温も28度と、夏に比べれば大分涼しくなったので、ジーンズに半袖と生地の薄い黒色のパーカーを着た。坂口は相変わらず制服のままだ。おそらく部屋着しか持ってないのだろう。


宮元さんはまだ一度も着替えていない。身長が高いので合う服が見つからなかったのだ。まだ加齢臭がしないのが何よりの救いだ。今回も武器担当は宮元さんだ。


「あ、あのコンビニだ」

「俺と宮元さんが行ったのもあそこだ」

「え、あ……」


 そう言った坂口が見ていたのは甲野の遺体だった。

 それを見た坂口は絶句した。

 そうか、こいつは甲野のゾンビ化以降は知らないのか。とどめを刺したのは俺じゃないが、ゴミ箱の横に置いたのは俺だ。

 悪臭が漂いハエがたかっている。臭い。



 気分をとりなおしてコンビニに入る。だが中は最悪だった。


「くさっ!?」

「うわっ!? 揚げ物が腐ってる!」

「と、とりあえず僕が揚げ物は何とかするから二人は食べ物集めたりしておいてくれ」


 宮元さんが自らの鼻を犠牲にしレジにある揚げ物コーナーの物を片っ端から捨てる作業に入った。

 昨日までは油って感じの臭いが漂っていたコンビニだったが、一日くらいでこんなに変わるのか。



 俺はカゴに賞味期限などを確認しながら考えていれていくのに対し、坂口は好きな物をぽんぽんいれていた。もちろん袋の裏も見てないし賞味期限も気にしていなそうだ。


「お菓子はともかく、パン類は賞味期限見た方がいいぞ。中身によっちゃあ食ったら腹壊すぞ」

「大丈夫大丈夫、熱っためれば食えるっしょ!」

「おばさんくさ……」

「あっ! チョコレート発見!」


 自分でも分かっているが俺は口が悪い。平気で人に悪口を言うタイプの人間だ。だが坂口に対しては言っても問題なさそうだな。現に今スルーされた気がする。


 集めた食料をバックに入れ適当に食事を済ませてコンビニを後にした。



 俺達は坂口が言う笹木が逃げた方向に向かって歩いた。坂口の話が正しければこの道沿い笹木の家があるらしい。


「あれ? この辺りなら俺知ってるぞ?」


 てかこの辺って道が少ないだけで距離的にはうちの近所じゃないか?


「え? マジ?」

「あぁ、マジマジ。この辺なら時々来る」

「でも美乃梨ちゃんの家は分からないんでしょ?」

「あぁ」

「……使えなっ」

「本音漏れてますよ〜?」

「私はいつだって本音丸出しだよ?」

「それはそれで怖いな」


 しばらく歩いて一軒家が多くなって来た。恐らくこの辺りに笹木の家があるのだろう。


「あっ、これじゃね?」


 俺の見つけた一軒家の表札には笹木と書かれていた。さすがに何人も笹木がこの辺りに密集しているはずも無いので恐らくはここだろう。


「よし! ドア開けて入ろう!」


 そう言って坂口がドアに近づいたが目の前に立ち急に動きが止まった。


「ね、ねぇ? なんかドアノブに血が付いてるんだけど……」


 坂口が恐る恐る振り返り俺達に血を見せる。既に乾いているがそれが何を意味しているのかは大体分かる。少なくとも何かやばい事があったのは確かだ。


「とっ、とりあえず、ピンポンしよう。そうしよう……」


 坂口は気が動転したのかインターホンを鳴らした。


『ピンポーーン!……………………』

「反応ねーな」

「史花ちゃん……もしかしたらここにはいないんじゃ……」

『…………………………はーい! 今行きまーす!』


 インターホンから聞こえたのは元気な笹木の声だった。俺達はホッと胸を撫で下ろし笹木が出て来るのを待った。

 もちろん出て来るまで坂口は「ほらやっぱり何もないじゃん!」とうるさく騒いでいた。




「史花せんぱーーい! あっ! 火鷹先輩も!」


 ガチャっとドアが開いた。今までの事が嘘だった様な、ゾンビなんて知らないと言わんばかりの普通の対応で中に迎えられた。

 笹木の家の玄関は広く、靴も笹木を合わせて三足ある。親は無事だったのか?




「すみません、いろいろ忙しくって。あれ? その方は?」


 玄関に入り靴を脱ぐ見知らぬ大人を見て笹木の口が開いた。もちろんその大人とは宮元さんだ。


「はじめまして。僕は宮元誠也、元警察官だ」

「警察の方でしたか。でも何でこんなところに?」

「ちょっと問題だらけでいろいろね」


 やはり宮元さんはあまり奥さんや出会った人の事を話したがらないな。相当きつい思いをしたらしいがもう話してくれても良いんじゃないか?


 そんな事を思っているとそれまで黙っていた坂口が前に乗り出し笹木の肩を勢いよく掴んだ。


「美乃梨ちゃん、何か隠してるでしょ?」

「へ? あ? ……え?」

「とぼけないで!」

「なっなにしてんだよ坂口!?」

「史花ちゃん何をっ!?」


 坂口の言葉にはトリックを見破った探偵の様な自身を感じられた。確かに言われてみれば笹木はさっきからキョロキョロしてるし、どこか作った様な変わらない笑顔でいる。以前とは違う。


 坂口に言われた笹木はどんどんその作り笑顔を崩していった。だがそれでも白を切る様だ。


「隠すって何をですか?」


 そう言って笹木は自分の肩を掴む坂口を突き飛ばした。俺と宮元さんは状況がよく分からず、突き飛ばされた坂口を支えるくらいしか出来ないでいた。


「じゃあ、質問良い?」


「はい、良いですよ?」


 この数秒の間にただの会話がもう喧嘩の様になっていた。正直逃げ出したい。


 笹木の顔から笑顔が消え、完全に無表情になった。


「親には会えたの?」


「はい、会えましたよ」


「じゃあ何でさっきから作り笑顔したりしてたの!? それにこのドアの血は!? 大人の靴が三足あるのに何で親は出て来ないの!? ……何で隠し事するの?」


 正直に俺はこの時坂口はめんどくさいと心の底から思った。


「ちょっと中に入るね」


 坂口は笹木を避けて勝手に家の中に入ろうとした。

 だがそれを笹木が呼び止める。


「待って下さい、まだ駄目です」

「ねぇ、隠し事なんてしても辛いだけだよ?」



 しばしの沈黙が流れた。






「両親は…………」

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