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問題発生

 俺はしばらく口が開けなかった。宮元さんはここに来るまで何度も辛い思いをしてきたのだ。



 空気が重い。非常に気まずい。詳しくは話してくれなかったが、宮本さんは離れ離れになった妻を捜しているらしい。ドラマや映画ではよくあるが、それが現実になると人をこうも必死にさせる。



 今まで得意げになって引きこもってたしてきた自分が少し恥ずかしくなった。それに直面はしたものの、戦いはしなかった。襲われる人間も遠目でしか見た事が無い。だが宮本さんは既に戦い9人は殺してる。その精神状態は俺には理解できないだろう。この先そんな場面に出くわそうとも、体験談を聞いた後の人間の思考と初体験の人間の思考はまるで違う。もしかしたらこれから先、壊れてしまった人に会うかもしれない。あの日以来、久しぶりに恐怖というものがこみ上げてきた。


「あの、聞きいても良いですか?」

「なんだい?」


 俺は一番気になっていたことを聞いてみた。


「こんな状態になってるのって、東京だけですか?」

「……詳しくは分からないけど、僕が聞いたことが正しければ全国で起きてるようだ」

「樹の言ってた事当たってたね」


 坂口が口を開いた。できれば当たってほしくなかったが、俺の中ではまだ当たってうれしいという感情がある。自分の趣味が現実になったら誰だって「やったぁ!」となってしまう。本当にそれが良い事なのか悪い事なのかを考えもせず。



「あれ? 坂口、顔赤くないか?」

「え!? そんな事無いよ!?」


 そう言って坂口は明らかな作り笑顔で笑った。思えば夜中も顔が少し赤かった。体調が悪いのか?


「そんなことよりさ! 改めて自己紹介しない? 名前だけだとお互いのことよくわからないでしょ?」


 俺と宮元さんは坂口の流れに乗せられうなずいてしまった。


「まずは私からね! 坂口史花です! 17歳! 史花って呼んでください! 趣味はネトゲ!」

「意外だな。お前ネトゲやるんだ?」


 てっきり趣味は尾行だと思ってた。あと声でかい。


「あ、あと尾行! んでーー」


 やっぱりきたかぁ。坂口が続ける前に宮元さんがビックリして口を開く。


「尾行!? そこまで本格的な尾行なんてまさかしてないよね?」


 坂口はヤバイと感じたのだろうか宮本さんの言葉を聞いて口を押さえた。だがその行為はもう「口滑らせた! マズイ!」みたいな感じだ。これが大人なら即逮捕だろう。


「ま、まぁその話は置いといて、次は宮本さん!」

「置いとくのかよ……」


 冗談だと思ったのか宮元さんはそれ以上追求しなかった。


「宮元誠也です。歳は24で、今年25歳になる。趣味は……趣味は……家でゆっくり……妻と……」

「あわわわ、辛いなら無理しないでくださいよ!?」

「……」


 趣味に入ったあたりから宮本さんは顔を下げ、何かを思い出し口に手を当てた。それを何とかしようとする坂口、ただ見てる俺。坂口の気遣いに宮本さんは顔を上げた。


「趣味は妻とドラマを見ること、あと漫画を読むのも好きです」

「がんばった! 誠也さんよくがんばりましたぁ! はい拍手!」

「……ごめん、気使わせちゃったね」


 俺と坂口、2人だけの寂しい拍手がリビングに鳴り響く。宮本さんは相当奥さんが大好きなんだろうというこ事はよく分かった。だがここまで2人がいろんな意味で盛り上がるとおそらく何も問題の無い俺の自己紹介はしらける。




「はい! 次は樹!」

「火鷹樹、歳は17歳。趣味はゾンビ映画の鑑賞とネトゲ。よろしく」




「……」

「……」


 ほらしらけたじゃん。もう勘弁してくださいよぉ。

 泣きそうな俺に宮本さんが質問してきた。


「ふたりって付き合ってるのか?」

「「はい!?」」


 坂口も反応しハモってしまった。余計疑われるからやめろ。


「ちなみにどこをどう見たら付き合ってるように見えたんですか?」


 坂口が宮元さんに問う。頭大丈夫かこの人。


「ん~、彼氏彼女ってお互いの家によく行くとか聞くし、今こうして当たり前のようにふたり一緒に座ってるし、かなり自然に会話してるし、ふたりともネトゲが趣味だし」

「そりゃまぁ」


 宮本さんに言われ坂口が口を開いた。


「まぁ確かに樹は自分の好きなことにまっすぐだし、料理もおいしいし、顔も百歩譲って良いし、良い人? なんだけど~」



 は? おい、待て待て待て、ありえるのか? もしかしてありえるのかおい!? 多少なりとも俺に好意を抱いていると見て良いのか!? 


 俺は期待に胸を膨らませ、というか爆発寸前だった。



「けどなんか駄目なんだよねぇ。別に悪いところは特に無いんだけど、不思議とまったく惚れない。無い無い。世界が滅んでもあり得ない」




「ひ、火鷹くん、なんかごめんな」

「いやいいっすよ、ぜんぜん。……ハハ」



「よし! 話変えるぞ!」


 自己紹介も済みこれ以上無駄にしゃべっていても意味は無い。今はもっと重大な問題がある。スイッチを切り替えよう。



「知っての通り、この町がこんなことになってもう1週間経った。ここで意外と気づかない辛いことを言っておく」


「なに?」

「なんだい?」



「賞味期限だ」



「「は? ……あっ!?」」



 どうやら2人とも気づいたようだな。


「そう、我らがいちばん利用するコンビニやスーパーにある物の大半は2日か3日で賞味期限が切れる!! だから腐るのが遅い食べ物を今のうちに集めておこうと思う!」


「な、なるほど確かにおにぎりやパンはもう賞味期限が切れてる頃だろうな。だけど腐りにくい食べ物ってたとえばどんなんのだ?」


「宮元さん、あなたの好きな料理って何ですか?」


「んー、スパゲティかな」


「コンビニに売ってるレンジでチンするやつはみんな腐っているでしょう。だがしかし!」


「う、うん」


「パスタと缶詰は当分腐りません」


「パスタと缶詰………………あっ、なるほど!」


「そう、バラバラに売ってる物の大半は賞味期限が1~2年後です。たとえ賞味期限が過ぎたパンなどでも今ならまだ食べられるでしょうが、本格的に腐りだしたらこっちのほうが長持ちします。だから今のうちに」





 バタンッ!





「お、おいしっかりしろ! どうした!?」


 坂口がいきなり倒れてソファーから落ちた。うつ伏せになった坂口の上体を起こし肩を揺する。顔が赤い。それに体も熱い。


「お前もしかして熱あったのか!?」

「火鷹くん! とりあえず布団かベッドに寝かせよう」




 俺と宮本さんで坂口を俺の部屋に運んだ。俺の部屋は窓の配置が良く風通しが良い。看病もしやすいだろう。又してもベッドを明け渡す事になるとは。



「38度……だから顔赤かったのか」

「いやぁ……なんとなくさ……迷惑かけるのも気が引けるからさ~。あはははは」

「俺の家に来てるだけでかなり迷惑だよ。取り合えず薬飲んで寝てろ」

「悪いね。ありがと」


 時期的にも風邪引きやすいからな、仕方ないか。これから食料調達行こうと思ってたのに坂口一人残したらまずいよな。


「食べ物……取りに行くんでしょ? 私留守番してるからさ……行って来なよ」

「え、大丈夫なのか?」

「鍵掛けとけば大丈夫でしょ!」


 まぁ、今まで大丈夫だったんだから大丈夫だよな?

 映画見たいに帰ったら死んでたとか無いよな?


「分かった。なんかあったら連絡しろよ?」

「あー、それなんだけど……」

「ん?」

「携帯圏外になってるんだよね……」

「はぁ!?」


 すぐに携帯を出してホーム画面を見る。マジだ、圏外じゃん。


「問題発生したら窓から飛び降りて逃げるから大丈夫だよ」

「庭に飛び降りたら多分骨折るぞ? それより鍵閉めとけ。俺鍵あるから」

「そうだよ。史花ちゃんはゆっくり休んで早く直した方が良いよ。あとひとつ確認してい良いかい?」


 宮本さんがベッドで横になる坂口に1歩近づいた。ものすごく真剣な表情をしている。


「な、なんですか?」

「どこか怪我した所とかないか? 噛み付かれた痕とか」

「あぁ、それなら大丈夫ですよ。どこも噛まれてませんし怪我もしてません」

「そ、そっか、なら良いんだ」

 

 俺と宮本さんは1階に降りて食料調達の準備を始めた。 

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