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ある大人は必死に…

 そこかしこから悲鳴やサイレン、時々銃声が聞こえた。時間はまだ12時を過ぎた辺り。今朝、家を出てからまだ半日も経っていない。


 途中で警察官の遺体から銃を拝借した。かなり古いタイプ、リボルバーだ。弾は6発。

 俺は携帯で同僚や他の署に連絡を取ろうとしたが、どこも回線が混み合っていてかからない。見渡せばマスコミ達が挙って現状を報道していた。唯一分かっているのは、この謎の暴動が全国で起きている事。



 俺はただただ走った。途中、警官達が発砲しているのが見えた。警察官が一般人に発砲するなんて普通は無い。よく見れば警察官同士で撃ち合いになっていた。そんな中、俺は自分の家を目指して走った。まだ妻が居るはずだ。



「おーい!! 誰かぁーー!!」

 小さな男の子が必死に叫んでいるのが目に止まった。まだ小学生だろうか、見れば同じくらいの女の子が転んで怪我をしていた。


「大丈夫かい? さぁ早く!」

 俺は気付けば2人を連れて逃げていた。女の子を背負い、男の子の手を掴みひとまず近くのコンビニへ向かった。

 コンビニの中はかなり混んでおり、沢山の人が堂々と万引きしていた。普段なら現行犯で逮捕するが、今は緊急事態だ。



「良いかい? 僕の手を離したら駄目だよ?」

 俺は2人を連れてコンビニの中に入りバンソウコを手に取った。そのまま混雑するレジに金だけ置いてコンビニを出た。自分が一人の刑事として、警察官としてあるまじき行動をとっているのは百も承知だ。

 だが一人の人間として今とってる行動は間違っていないはずだ。


「さぁ、君達の親を探しに行こう」

 俺は女の子の傷口にバンソウコを貼り二人の親を探すことにした。2人は兄妹、兄である渡辺勇人わたなべゆうとくんは小学3年生。妹、悠里ゆうりちゃんは小学2年生。とても仲が良いようだ。




 2人の親を探す事にした俺は、避難所に指定されている小学校を目指した。この子達が通っている学校だ。既に校庭に多くの人たちが集まっていた。中には負傷者もいるようでその中には子連れもいるようだ。

 なのですぐに見つかった。


「2人の母の渡辺美代子わたなべみよこと申します、本当にありがとうございましたぁ……ありがとうぅ……」

 俺は2人の母親に涙ながらに頭を下げられた。年は妻と同じくらいだろうか。とても綺麗で優しそうな方だ。


 俺達は校庭の隅にあるジャングルジムに腰掛けた。


 これでようやく家に帰れる。そう思った。だが、気になってしまった。目に留まってしまった。先ほどから2人の母親の様子がおかしかったのはこの所為か。


「僕は宮元といいます。失礼ですが、その右腕の傷は?」

「あ、あぁこれね? ここに来る前連中に襲われて、そのとき噛まれたの。夫もそのとき亡くして……。宮元さんも来る途中に会わなかった? 夢中で人に襲い掛かってくる奴らに」

「え、えぇ。まぁ」

「実は噛まれてからなんだか気分が優れないんです。なんだか吐き気とは違うんですが、胸の辺りがこう、むずむずするんです」

 そう言って胸の辺りをさすっていた。妙な汗をかいている。目に見えて分かるのはそれくらいだ。

 そのとき俺の脳裏に流れたのは先輩を殺した時だった。先輩は噛まれてあいつらと同じになってしまった。だが先輩は噛まれて死んでからああなった。まだ美代子さんは死んでいない。



「逃げろぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!!」


 男が大声をあげて校門から走ってきた。その後ろからはのそのそと奴らの大群が迫っていた。悲鳴とうめき声、さらに子供の泣き叫ぶ声が交差し、5分も経たずに小学校は地獄と化した。


 

 俺は3人を連れて全力で逃げた。校舎をはさんだ所にある裏門は逃げ惑う人々であふれていた。そんな中、俺の隣にいた顔から血を流す男が倒れた。頭と首の皮がべろりと剥がされていた。だがまだ生きている。


「助けてくれ……死にたくないよぉ……」

「大丈夫ですか!? しっかりしてください!!」

 男の上体を起こし肩を揺らしながら叫んだが、まもなく男は口から血を流し固く目を閉じてしまった。

「みんなこの男から離れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 そう叫んで美代子さん達の手を掴み男からなるべく離れた俺は銃を取り出し弾を装填した。周りの人達も俺の銃を見て危険だと感じ取ったのだろう、男を中心に5メートルほどの円ができた。


 男は目を開け上体を起こした。そして口をポカンと開けていた。


「おい!! まだ人間なら右手を上げろぉ!!」

 男は俺に振り向いた。目が普通じゃなかった。

「もう一度言うぞ! 右手を上げろぉ!!」

 返事は無く、男は立ち上がり俺目掛けて走ってきた。口や目から血を流し、まるで限界まで持久走をさせられている奴みたいだ。あの時先輩を殺した奴はのろのろ動いていたが、やはり個人差というものがあるのだろうか。


 パァァァァンッッッ!!!!



 男は倒れた。頭を一発で撃ち抜いたのだ、俺が出くわした奴らも頭を強打したりすると動かなった。恐らく弱点なのだろう。


「宮元さん!? なんで銃なんか!?」

「実は僕、朝まで刑事だったんです」

「け、警察の方だったんですね」

 俺はここまでの経緯を軽く説明し、決して怪しい者では無いと納得させた。



 再び裏門は逃げ惑う人々であふれかえった。校庭からは絶えず悲鳴が聞こえてくる。逃げ遅れた人達が襲われているようだ。


「ね、ねぇ、トイレ行きたい」

「え、えぇぇ!? 我慢できないの?」

 悠里ちゃんがトイレに行きたいと言って聞かないので、校舎に入った。だが1階のトイレでは危ないと考え2階のトイレに向かった。


 俺が外で見張る事になり3人はトイレに入った。


 子供達はすぐに出てきたが美代子さんが出てこない。心配になって子供達に見張りを任せ中に入った。


「だ、大丈夫ですか!? しっかりして下さい!!」

「ゲホッゲホッ! ……うぅ…」

 美代子さんはドアの目の前で蹲り口から血を出していた。両腕で口を抑え咳き込むその姿はあの時の女性警官に似ていた。

 俺は美代子さんに肩を貸し、ゆっくりと立ち上がらせながら必死に呼びかけた。

「しっかりして下さい! 大丈夫です、早く逃げましょう」

「これって……さっきの人と同じ何ですかね……」

「大丈夫です!! あなたはまだ生きています! それに子供達がいるじゃないですか!!」

「ふふっ……そこまで言われるとこうして血を吐いてる……自分が情けなくなっちゃうじゃない……」

「笑える元気があれば必ず助かりますよ! さ、頑張って」


 肩を貸しながらゆっくりトイレを出た。だがそこに2人の姿が無い。居たのは鍵の閉まった教室のドアをガリガリと引っ掻く血だらけの女だ。


「美代子さん、すみませんが目を閉じていて下さい」

 俺は美代子さんを壁に寄りかからせて銃を構えた。

「おい! 人間なら右手を上げろ!!」

「あ"ぁぁ……!?」

 女は俺に振り向くなり目を丸くし、数秒後、俺めがけて前進を始めた。

「右手を上げろ! さもないと撃つ!」

「あ"ぁぁぁぁ!!」

「ちっ……」


 パァァァァンッッッ!!!!

 

 バタンッ……


 女は倒れ、鍵が開いた。


「怖かったよぉぉぉ!!」

「あり"がどゔぅ……」

「ゴメン、ゴメンなぁ、怖かったなぁ。さぁ、みんなで逃げよう」

「「うん!」」


 泣きじゃくる妹を宥める勇人くんはもう立派なお兄ちゃんだった。2人はすぐさま母である美代子さんの元に向かった。



 だが……




「ごないでぇ……ゲホッゲホッ…うぅ……おえぇぇ……はぁ…はぁ…うぅ…」





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