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◆ 終わった後の世界


書き直しました。

書き直した回に◆を付けて行きます。大筋は変わりませんが、ちょっとだけ長くなってます。

 夜中だというのに、アラームにでも起こされた様な気がして目が覚めた。アラームをセットした覚えは無い。音の正体を探る為に、微かな音も逃さない様に耳を澄ませた。


『ピーンポーン』


 インターホンが鳴っていた。物音を立てなければきっと大丈夫だ。

 早く行ってくれと思い、布団を顔まで被って目を閉じた。


『ピーーンポーン」


 二度目を聴いて飛び起きた。我が家のインターホンは押してすぐ離すと、『ピンポン」と鳴り、長く押せばそれだけ『ピーンポーン』と長く鳴る。今のは意識してインターホンを長く鳴らした音だった。


 枕元にある目覚まし時計を手に取り、内蔵されたライトを付けて時間を確認した。深夜二時丁度だった。

 こんな時に夜道を歩いてくる人間なんている訳がない。暗くて寒いし、何より襲われる危険がある。この辺りは何度も見回りをしたし、そんなに居ないことは確認済みだ。


『ピーーーンポーン』


 一人しか居ない家の中に、インターホンの音はよく響く。外の音が元々無いというのもあるが、家の中に微かに反響して耳に伝わってくるのが怖いし、気持ちが悪かった。

 俺の部屋は二階だ。無視していれば何処かに行ってくれるのでは無いかと思い、俺は居留守を決め込んだ。流石に電気も付けてない時間だし、カーテンだってしてるし、窓も雨戸も閉めているから中の状況だって分からないはずだ。人が居ることも分かるまい。待っていれば諦めるだろう。諦める程頭が良ければなのだが。


『ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン!!』


「ひっ!?」


 何度も鳴らされて思わず悲鳴を上げてしまった。

 十分以上じっとしていたが、インターホンを押している奴は諦めようとはしてくれなかった。ドアも頑丈だし壊される事はないだろう。これ以上鳴らされ続けては寝付けない。ちょっと覗いて見ようと思った俺は、ベッドから出た。


 部屋を出て一階の玄関に向かう為階段を降りる。家に俺以外誰も居ないというのもあってか、一段一段降りる度にするギシギシという音が家の中に響き、玄関の前にいる奴にも聞こえてるんじゃないかと不安になる。


『ピーンポーーン……ピーンポーーン……ピンポンピンポンピンポン』

 

 人間であって欲しく無いのには幾つか理由がある。こっちが子供一人に対して向こうが数人、もしくは武器を持ってた場合、こちらには包丁や傘くらいしか武器が無いのだ。人間で無ければ幾らか対処も出来る。


 しかし、インターホンのボタンをピンポイントで押せる様な奴なんて居るのだろうか。記憶が残っているのかもしれないが、脳だってそのうち腐敗するだろうから動いてるだけで異常なんだ。

 そんな事を異常で済ませると考えるだけ無駄なのだが、それを踏まえて、音が鳴るから押してるだけが、一番納得がいく。今後もっと観察する必要があるな。


 静かに廊下を歩き玄関の前に立つ。瞬間、インターホンが止んだ。こちらの存在がばれたのだろうか。脳裏に映画の嫌なシーンが大量にフラッシュバックし、すかさず下駄箱に置いておいた包丁を構える。


 ホラー映画でよく見るアレだ。覗いた瞬間目があってドアをぶち破ってくるパターン。映画だと音でビビるが、実際に体験してみると静か過ぎて、身体の芯から震えが止まらない。勿論、近づかずに逃げるのが一番なのだが、家に来てしまっては立ち向かうしかない。


 深呼吸をし、覚悟を決めて恐る恐る覗き穴に目を凝らす。


 見覚えのある後ろ姿に、自分の目を疑った。


 そこには俺の通っていた高校の制服を着た、背の高い女性の後ろ姿があったのだ。大きなリュックサックと右手にも大きなバッグ、まるで旅行にでも行くような大荷物を持っている。丁度諦めて帰ろうとしていた様で、既に道路に出ようとしていた。


 本当に人間かどうかも確認せず、俺は鍵を開け、玄関を開けて声を掛けた。


「坂口! ……ッ」


 その背中がビクッと反応し、足が止まった。

 声を掛けた後で如何に軽率な行動だったかと思い、襲い掛かられる前に包丁を構えた。


「……樹?」


 振り返った女性は間違い無くクラスメイトの、坂口史花さかぐちふみかだった。改めてよく見ると、制服には砂ほこりや返り血が付いており、目を大きく開いて口を開けていた。肩までの髪は乱れ、何日か風呂も入っていない様子だ。学校から逃げた時に一緒だったってだけで、そこまで親しくはなかった。まして家の場所を教えた記憶も無い。


 今の今まで死んだか、もう避難したんだと思っていた。

 この時間、危険な夜道をわざわざ歩いて来たのは何故だ? しかも大荷物。

 とりあえず噛まれた痕が無いか、もう一度良く観察した。表情も人間らしく、目も普通だ。


「……」


「よ、よう。とりあえず危ないから入れ、な?」


「なんで……」


「……はい?」


 坂口はキリッと俺を睨み付けると言った。


「なんですぐ出てくれなかったの!? 私ずっと鳴らしてたんだけど!?」


「……ごめん、寝てた」


 実際、インターホンをいつから押していたのかは分からない。寝たら中々起きない自分だから分かる事だが、普段はインターホンくらいじゃ起きない。きっと起きる前からずっと押していたのだろう。


 坂口は肩を落として小さく溜息をつく。とりあえず、「ごめん」と謝罪すると「もう良いよ」と呆れた声で言われてしまった。坂口は俺の方をじっと見ると、もう一度溜息をつき指をさした。


「包丁構えられたままだと怖いんだけど」


 言われて自分がまだ右手で包丁を坂口に向けている事に気が付いた。慌てて下げたが「酷いぃ」とさらに溜息をつかれた。インターホンの音に気付き、折角勇気を振り絞って鍵を開けてやったのにこんな事ばかり言われると、少しばかりイライラしてしまう。


「入らないなら閉めます」


 玄関を閉めようとすると、坂口の腕がスッと伸びてきて無理矢理こじ開けようとした。


「ちょっと待ってよ!? 入ります入ります入れて下さいお願い!」


 うちの周りは元々静かだが、人が居ないだけでいつも以上に声が響く。インターホンも鳴らしまくってたし、近所のが集まって来るかもしれないと思い、すぐさま玄関を開けて坂口を中に入れた。


「おじゃましまーす。改めてまして、こんばんわ!」


 さっきまでの怒りは何処に行ったのか、スニーカーを脱ぐと坂口は荷物を降ろして挨拶を始めた。

 

「こんばんわじゃねぇよ。馬鹿かお前? こんな夜中に一人で」


「いやいやいや、別に大丈夫でしょ。この辺りには多分居ないから。来る時もゾンビ見なかったし」


「でもな、もしもって事があるだろ? 家の前がゾンビだらけになったら俺は夜も怖くて眠れないんだよ。それに家に他人が入って来たらもうフラグなんだよ! 今に窓ぶち破って襲ってくるぞ? 俺はお前を見捨ててボートで脱出しなくちゃいけない」


「また映画? ネタ分かんないよ」


 フラグどころか、今や現実にも起きうるのである。

 坂口は俺の心配をよそに、喉を摩り「あ”ぁぁ」と唸って持ってきていたバッグを持つ。


「とりあえずなんか飲み物あるかな? 私、喉カラカラでさぁ」


 そう言うと「よろしく」とそのバッグを渡されたので流れで持ってしまった。以外と軽く、半分程空いたファスナーの中にビニール袋に包まれた服などがみえた。あえて軽い方を渡してくるあたり、こちらはそんなに大事ではないらしい。

 俺を抜かして廊下に上がると坂口がドアを指さして聞いてきた。


「リビングここ?」


「そうだけど」


 坂口はリビングのドアを開けて中に入っていった。それに続き俺も中へ入る。リビングの中は真っ暗で、夜という事もあって冷んやりとしていた。坂口はいきなりリュックサックを降ろしてまっすぐ冷蔵庫に向かったかと思うと、開けて顔を突っ込んだ。


「おい、なんで冷蔵庫漁ってんだよ」


「さっきも言ったでしょ、喉乾いたの喉]


 麦茶を手に取ると坂口は戸棚からグラスを取り出し、それを持ってソファに座る。

 座ると腰を回し始めた。疲れが溜まっていたのだろう、ポキポキと音が鳴った。


 とりあえず、最大の疑問をぶつけてみよう。


「何で俺の家知ってんだよ。俺とお前、この前まで話した事無かったじゃん」


 今のクラスになってからは、友達が居なかった。別に中学の頃は友達も居たし、クラスでは話が合わなかったというのもある。ので、俺の家を知っている人間といえば担任くらいなのだ。


「あぁ、それならだいぶ前に後をつけた事があってね。確か4月頃だったかな」


「は?」


 予想外のセリフに俺は自分の耳を疑った。余りにも平然というものだから聞き返した。何かの間違いかもしれないし。


「つけたって、後をつけたんすか?」


「その時の記憶を頼りにここまで来たって訳。いやぁ〜私って天才! もうこの街は私の庭も同然だからね!」


「……出てってもらって良いですか?」


「え? なんで?」


 そう言うと坂口はコップに注いだ麦茶をゴクゴクと一気飲みした。他の連中も坂口に後をつけられていたのはこの間話した時に何となく分かっていたが、まさか俺の家まで知ってたとは。唯の暇人なのか、危ない人なのか分からなくなってきた。


「あのさ、なんで俺の家までわざわざ来たんだ?」


 俺の質問に、坂口は麦茶をさらに勝手に飲みながら答えた。そのグラス、父さんのなんすけど。


「私の中では一番生き残ってる確率高かったからかな」


 とりあえず無言で続きを待つ。

 こちらに目は向けたまま、麦茶を飲み干したコップをテーブルに置く。

 ……貴重な麦茶が。


「樹の家の窓、特に一階なんかには段ボールと発泡スチロールで音漏れ対策? 的な事してるし、電気も付けてない。おまけに何時でも逃げられる様に玄関にサバイバルに必要そうな物一式詰め込んだバッグがあったでしょ。包丁は既に持ってたし。あの時学校でもなんか珍しく会話に参加してたし、ゾンビ詳しいのは分かったし」


 そう言って一度立ち上がり、坂口は麦茶を冷蔵庫に戻した。


「え、それだけなの? 別にうち来る必要無いじゃん。他の人のとこ行けよ、てか家に居ればいいのに」


 冗談で言ったつもりだったのだが、ソファに座ろうとしていた坂口は立ったまま腕を組み、考えるような姿勢をとった。でも大したことは無かったのか、すぐに口を開いた。


「いやぁ、いろいろありまして家に居られないんですよ」


「色々って何だよ?」


 言うと坂口は黙り込んだ。考えるというより、下唇を噛み、拳を握って何かを堪えている様にも見えた。

 が、「っぱぁ」と息を吐き出して深呼吸すると落ち着いた様子で俺の目を見た。首を傾け、けろっとした顔で答えた。


「色々」


 その目はこれ以上聞くなと言っている気がした。


「……ごめん」


 坂口は「気にしてない」と言って、気を紛らわすように自分のバッグの中身を広げ始めた。

 聞いてはいけない事を聞いてしまったのは流石に分かる。家に居れないというのは、恐らく入れないという事だろう。中にゾンビが居るのか、家族が亡くなってゾンビになっているのか。

 もう一度謝ろうと坂口に声を掛けた。だが同時に坂口がこちらに話しかけて来た為に遮られた。坂口には聞こえていなかったようだ。


「充電器繋いで良いよね?」


 坂口はスマホの充電器を持ちながらコンセントを探していた。


「あぁ、良いよ。空いてるの使って」


 

次回の更新は明日か水曜日になると思います。

しばらく書き直した物を投稿する予定です。

これからもよろしくお願いします。

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