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渡り人~異界の魔術師~  作者: 李珠
プロローグ
6/42

創世の魔術師


「おはよう、よく寝ていたね」


無駄に広い部屋にぽつんと佇む、無駄に大きいベッドの上で悠一は目を覚ました。

頭が働きだして、漸く悠一はあのよく分からない“魔法”による移動で酔ったのだ、と思い出す。


「…ここ、何処ですか?」


ゆっくり体を起こしながら問う。


「あの水晶の中だよ」


読みかけの本から視線を外すことなく、巳夏はそう答えた。

悠一は変わった巳夏の格好に気付く。

巳夏は紺色の重たげな長い服を着ていた。


(ローブっていうんだっけ?)


悠一は記憶を探る。

ファンタジーものの映画で、魔法使いが着るような服だ。

しかしながら、巳夏にはそれがしっくりきていた。

悠一は周りを見渡す。

悠一が起きるまでに随分沢山の本を読んだようで、新聞のような物から大図鑑のような馬鹿デカイサイズの本まで大小様々の本が乱雑に積み上げられている。

悠一は巳夏を几帳面な人間なのだと思っていたが、そうでもなさそうだ。


「すみません巳夏さん。何て言ったら良いのか分からないんですけど」


「まあ、そうだろうね」


そう言いながら、巳夏はようやく本から目を離して閉じた。


「簡単に言えばね。僕は魔法使いだ。そもそも僕は用事があって君の家の隣に越してきた。君と関わったそのこと自体が偶然じゃない」


家庭教師なんてやらされることになるとは思わなかったけれど。


そう付け加えながら巳夏は話を進める。


「僕が越してきた理由は別に今じゃなくていい。今必要なのは、君が必要とする“時間”を僕が作れるという事実だ。さっき見せた水晶はある魔道具でね、ああつまり魔法が掛かった道具ってことだけど。“時留めの城”って言って、あの水晶の中に入ると時間が経過しないという優れものだ」


全く簡単な話ではないし、はいそうですかと言える人間がいるならその人は確実に頭がどうかしているだろう。

しかし、悠一は黙って頷いておく。


「今の君には打ってつけだろう?」


悠一は常識的に考える事を放棄した。


「…聞きたいことは沢山あるんですけど、聞いても答えてくれる訳じゃないんですよね?」


「勉強より好奇心を優先するならそれでも構わないよ?」


暗に、いいから勉強したら?そう言われているようだ。

粘ってもいいが、多分適当にあしらわれて終わりだろう。

悠一が折れる他選択肢はなさそうだ。

そう判断する。


「とりあえず、“分かりました”。巳夏さんは魔法使いで、時間がない俺のためにその魔道具を使って時間を作ってくれる。そういうことですよね?」


「物わかりのいい子は好きだよ」


そう笑った巳夏を見て悠一は溜め息を吐いた。

今はもう怖いとは思わないし、尊敬していると言って過言でないが、基本的に巳夏は秘密主義者なのだ。

どうやら嘘を好まない性格らしく、適当な作り話をしない代わりに、話せないことは端から語ろうとしない。

悠一は口を開いた。


「一つだけ教えて貰えますか?」


「何かな?」


「それは、いつか教えてもらえるものなんですか」


悠一はきっとそうだろうと確信していた。

巳夏の秘密主義は徹底している。

どんなつまらない内容でも、話していい内容なのか、話していい相手なのか常に選んでいると言っていい。

ただの大学院生だと思っていたから変な人という認識だったが、先程の魔法使いであるという話を信じるなら事情は変わる。


何か用事があって名足家の隣に越してきて、家庭教師などという七面倒くさい事を引き受けた。

その時点で、巳夏の用事は倫子か悠一のどちらかが絡むものであることは明白だ。


「賢い子は嫌いじゃないよ」


巳夏はまた笑った。

それが多分、答えなんだろう。







それから一年弱の時間の中で悠一は、巳夏が魔法使いであることの他に、この世界の人間でないこと、何かの研究はしているが大学生というわけではないこと、見た目と年が比例しないことの三点を知った。

つまり、ほぼ何も進展がないままという訳だ。


巳夏さんのガードの固さは尋常じゃない。


悠一はそう項垂れた。

つい、とかポロリと口にした、何て言ううっかりミスは巳夏と無縁のものらしい。

最も、巳夏自身が先程の倫子の誘いを受けなかったように、必要以上に喋らされる環境を拒んでいる面も大きいように思う。


地球上の時間を然程使わなくて済む水晶の中で勉強出来るようになった悠一は、巳夏の家に通って勉強することなったと倫子に告げた。

時留めの城というアイテムは、大体中で一時間過ごすと外が五分経過しているというもので、完全に時間が止まっている訳でない為、悠一の部屋では不都合なのだ。

今までと違って、小一時間しない程で帰ってくる悠一を見て、最初は心配していた倫子だが、問題なく成績が上がり続けているのを確認すると何も言わなくなった。

疑問を持っていない訳ではないのだろうが、悠一と同様に聞いても答えが返ってこないことに気付いていたのかもしれない。


そうこうしている内に試験は終わり、悠一は無事高校生になった。








入学式を終えた真新しい学ラン姿の悠一は、真っ直ぐ巳夏の家に向かっていた。

最後の勉強会の帰り、巳夏に話があると言われていたのだ。


「いらっしゃい」


勝手に入っていい。


言い付け通りにチャイムも鳴らさずに中に入ると、リビングのドアが開いていた。

中を覗き込むと、ソファに巳夏と困惑した表情の倫子がいる。


「母さんも来てたんだ」


そう首を傾げると、倫子は隣に座るように促した。


「倫子さん。話しても大丈夫ですか?」


よく見ると倫子の顔色はあまり芳しくない。

悠一は再度首を傾げる。

それでもはっきり倫子は頷いた。


「巳夏さん、よろしくお願いします」


頭を下げる倫子が何かとダブる。

ああ、そうだ。

巳夏に家庭教師を頼む時も倫子はこうやって悠一の為に頭を下げてくれていた。

ただ、あの時よりもっと切羽詰まったような必死な雰囲気だ。


「…母さん?」


「悠一。お願いだからちゃんと聞いてちょうだい」


真剣な倫子の視線を受けて、悠一はよく分からないながらも了承の意を示す。


「悠一くん。僕が一年前言ったことを覚えているかな」


あ、その時が来たんだ。


切り出された段階で、何となく悠一はそう勘づいた。

しかも、倫子の様子を見るにそれは悠一に関することなんだろう。


「覚えてます。巳夏さんは、用事があって異世界から来たって事ですよね」


巳夏は頷いた。


「そう、僕は用事があって地球に来た。その用事が何か、君に分かるかい?」


「内容は分からないですけど。…でも多分、俺のことなんですよね」


疑問ではなかった。

確信だ。

巳夏は、悠一に関する用事があって地球にやってきたのだ。


「どうしてあんなに勉強が苦手だったのか分からないほど優秀だね、悠一くん。そうだよ。僕は君にあることを伝えにきた」


「あること?」


「悠一くん。君は僕と同じ…君は魔法使いだ。厳密に言えば“魔力を持っている人”だけどね」


魔法使い?俺が?


キョトン、と目を瞬く悠一を見て巳夏が微笑む。


「あまり驚いていないね」


「充分驚いてますよ…ただなんだろう、巳夏さんが魔法使いだって知った頃からですかね?俺、何となくそういう人って他にもいるんだろうなって思ってたから」


悠一は、ポリポリと頬を掻きながらそう言った。


「悠一…」


倫子は最早泣いていた。


「違うの。違うのよ、悠一。貴方…」


泣く倫子に巳夏がハンカチを手渡す。

倫子は再び口を接ぐんで、目にハンカチを押し当てた。


「そうだね、ただの魔法使いはそれこそ腐るほどいるよ。悠一くん、君は忘れてないかい?僕が君に与えた知識の中で、一つだけ倫子さんを泣かせる理由があるはずだ」


言われた悠一は頚を傾げた。


え?なに?

何が母さんを泣かせるんだろう?


悠一は過去の引き出しを探る。


俺が巳夏さんのことで、知っている事。

魔法使いで、異世界からきた人で、大学院生じゃなくて…あ。


そこまで来て悠一は漸く気付いた。

ぼろりと、答えが口から溢れる。


「…もしかして俺、年取らない?」


わっと倫子が泣き出した。


「そう。君は他の魔法使いよりずっとずっと力が強い。それ故ある一定から年を取ることがない」


泣く倫子を視界の端に捉えながらも、悠一は茫然とすることしか出来なかった。








茫然と佇む悠一と泣きじゃくる倫子。

魔法を掛けて倫子を眠らせると、巳夏は散歩に悠一を誘った。

何度か経験した転移魔法で移動した先は公園だった。


「座って」


促されるままに腰を下ろした。

何となく分かる。


(ここは地球じゃない)


分かった理由が分からない。

ただ、悠一が感じたことのない何かで満ちている。

それを無意識に感じ取ったのだ。


「これが見えるかな」


そう言って、巳夏は地面に手を翳す。


「…?なにか、光ってますか?」


今日聞いたことに比べれば、地面が光っていることくらいはなんでもないような気がする。

しかし、巳夏のやることに無駄なことがないと理解している悠一は、それをよく観察した。


光は大地から立ち上って空中に溶けている。

かと思えば、草木から降り注いだ光が地面に吸い込まれて行く。

不思議なのは、草木が茂る所の方が光の密度が高いことだ。

よくよく目を凝せば、公園の地面の大体の場所から光が立ち上っていることが分かる。

顔を上げて見つめると、悠一に見えていると理解したらしい巳夏が話始める。


「これはね、個人差があって、魔力を持っているものでも見える見えないが別れる物質なんだ」


「…物質?」


この、光が?


訝しげにそう言った悠一に、巳夏は頷くことで肯定を示す。


「魔素、と呼ばれるものだ。地球にもかつて存在した万能物質だよ。生き物の中で作られ、魔力に変換される。使い方次第で、どんなものにもなり得る素晴らしい物質だ。一点を除けばね」


万能物質、という単語にも気をとられるが、一番気になるのは違う所だ。


「…かつて、ということは今はもうないものなんですか?」


「ないね。更に言えば、地球の人間…いや地球の生き物は魔素を作る器官がない。だから、魔力を持つものは非常に珍しい、というか見たことがない。そもそものルーツが違うんだから、無理もないことだけど」


巳夏は頷き、断言した。


ルーツが違うから魔法が使えない。

その事実をゆっくり噛み締めた悠一は、自分の存在に違和感を覚える。


「じゃあ、俺はなんなんですか」


声が震えるのを感じた。

そう、地球の人間は魔法が使えない。

だというなら、悠一は一体なんだというのだろう。

巳夏はゆっくり頷いた。


「考えられるのは二つだ。一つ目は君が突然変異の特殊体である場合。もう一つは、君の父親が地球の人間でなかった場合。僕は後者が正しいんじゃないかと思っている。地球に魔力持ちが生まれる可能性はほぼゼロに等しいことだ」


父さんが、地球の人じゃない?


あまりピンとは来なかったが、そうなのか、とそれは単純に受けとる。

悠一の父が死んだのは、それこそ悠一が生まれて間もない頃の事だ。

倫子に哀しい顔をさせるのが嫌で、あまり深く事情を聞いたことがない悠一の中に、父の情報は殆どと言っていいほどない。

だからか、何処か他人事のようにその言葉を受け止めていた。


「これは正直調べようがない。本人が亡くなったこと自体が最近の話じゃないから余計にね。一年間色々調べたけど、駄目だった」


そう言って巳夏は首を振る。


(そっか…分からないんだ)


がっかりしたような、その方が良かったような、いっそどうでもいいような、そんな微妙な気持ちになりながら悠一は尋ねた。


「父さんが魔法使いだったとして、地球にどうして来たんでしょうか。どうして帰らなかったんでしょうか?」


仮に、母さんが好きだったから残った。

なんてロマンチックな経緯があったのだとする。

けれど、そもそも地球に来た理由はなんだったんだろう。

しかし、それについては根本的に問題点が違うようだった。


「ああ…僕がポンポン使うから、悠一くんは魔法使い…いや魔術師なら誰でも好きに移動出来るものだと思っているかもしれないけど、異世界に転移するというのは結構な荒業だ。莫大な魔力を必要とするから、普通の魔術師にはまず出来ない。転移出来るような魔術師は僕が所属している所…通称“ファミリー”が把握しているから、君の父親は自分の意思で地球に来た訳ではないんだろう。何かに巻き込まれて地球に来て、帰ることが出来ないから魔法を使って社会に溶け込んだ。そう考えるのが一番普通の流れだと思う」


普通の魔法使いは世界を越えられない。

成る程そういうものなのか。

巳夏は結構な魔法使いだったらしい。


「他の人が調べても分からないんですか?」


結構失礼な質問だとは思ったが、聞かずにいられなかった。

記憶に薄い父の事が知りたいというよりは、魔法使いがどんなことを出来るものなのかという好奇心に近い。

分かっていたのだろう。

巳夏は怒ることなく淡々と答えた。


「ファミリーは、ある魔術師を中心に突然変異の化け物クラスの魔術師が集った一つの集団で家族なんだ。そもそも研究職の僕が引きずり出されてこの案件に派遣されたのにも理由がある。総帥である先生を除けば、繊細な魔力操作は僕が一番優れているから適任だと思われたんだ。先生は忙しい人だからファミリーの基地を離れられない。それを鑑みれば、他の人間が来ても分からないだろうね」


「そうですか…」


「さて、君のルーツの話はこれでおしまいだ。これからは君の話をしよう。さっきも言ったように、君は魔力を持っている。それもちゃんと使えるようになれば、僕ほど乱発出来なくても異世界へ転移出来るくらいに大きい魔力だ」


「そういえば。魔力って、遺伝じゃないんですか?」


父の魔力で不可能だった事が息子に出来るものだろうか。

巳夏は肩を竦めた。


「大体は遺伝する。でも、鳶が鷹を生むようなことも時折起きる」


巳夏にもよく分かってはいないのだろう。

可能性は低いが、他に考えようがない。

そういう事らしい。

話ながら、悠一はあることに気が付いた。


「…父さんは生きていれば家に帰れたかも知れないんですね」


そして疑問に思う。

父は何故死んでしまったのだろう。

悠一は父の死因を知らない。

魔法が使えたって死ぬ時は死ぬのだろうが、悠一に巳夏が死ぬ様子は想像できなかった。


(いや、そもそもの格が違うのか)


「…そうだね。君の父親がそれを望んでいたかは分からないけれど」


そもそもやり方を知っていたとも思えないしね。


そう言う巳夏に、悠一は首を傾げた。


「…?どうしてですか」


「その話になるとそもそもの世界の始まりから話すことになるけど、聞きたい?」


「はい」


「じゃあ、話すけど…あまり長々話すようなことでもないから駆け足でいくよ?」


そう前置きして、巳夏は話始めた。


元々世界は一つしかなかった。

地球がある宇宙空間。

これを次元と呼ぶことにする。

次元は恐らく幾つかあるのだろうが、今は見つかっていないし、干渉し合うことも出来ない。

次元の中で、地球は魔素と多くのエネルギー源に恵まれた豊かな星だった。

魔法と錬金術により、今と変わらないほど文明が進んでいて、発展した星だった。

沢山の人間、沢山の魔法。


魔素というものは、生き物が作り出すエネルギーの一種だ。

その頃の地球の生き物は特殊な器官を体内に持ち、魔素を体内で作り、若しくは取り込んで、魔力に変換し、力として行使することが出来た。


今と同じくらい文明が進んだ地球には、沢山の生き物が住んでいた。

そして、戦争により沢山の生き物が死んでいった。


ある日、地球のある大陸が突然消えた。

これが、研究が進まない万能物質たる魔素が見せた悪魔の一面だった。


一番最初の暴発は、戦場で起きたのだという。

突如消し飛んだ大陸を見て、人々は大パニックを起こした。

理由は中々究明されず、その間にいくつもの土地が消えた。


そんな中、一人の魔術師の研究が実を結び、ようやく大陸がなくなった理由が発表された。

通称“魔素溜まり”による暴発。

魔素は、許容範囲の濃度を超えると爆発を起こす。

そんな発表に人々は戸惑った。

なぜ戦地でばかり魔素溜まりが発生するのか?

そのことに答えたのも同じ魔術師だった。

名を蒼真リオ。

現在の日本とよく似た文明を築いた国出身の魔術師だった。

魔素溜まりの原因は多くの生き物の死。

魔素は生き物の体内で増え続け、死ぬと還元される。

戦地は生き物が多く命を落とすため、魔素溜まりが誘発されやすい。


蒼真リオが著名な魔術師であったことが幸いし、概ねその説は認められ、人々は戦争を止めた。

魔素溜まりの暴発も一時的には収まった。

しかし、問題は解決しなかった。


普通に生きて、死ぬという当たり前のプロセスの中で増え続け、許容範囲を超えると全てを無に還す。

地球には魔素がどんどん溜まっていく一方だった。

このままでは星ごとなくなってしまう。


そこで、蒼真リオは立ち上がった。

彼女は地球から魔素を切り離し、その魔素を使って違う世界を創ることを提案。

人々は困惑した。

提案通りにことが進めば、地球は滅びずに済むだろう。

しかし、そんな人間技じゃないことを一体誰が出来るというのか。

そんなことは不可能だ。


しかし、蒼真リオは自ら集めた数人の仲間と共に新しい世界を創ってしまった。

「創世の魔術師」「時の魔女」とも呼ばれる創造主リオの誕生である。


人々は新世界に移住。

多くの生き物たちも新世界へ移された。


そして、地球から魔素は切り離された。

溜まりに溜まったその魔素から、新しい世界がいくつも生まれた。


「話を聞いて分かったと思うけど、世界は今無限にある。魔素が増えるっていう問題が解決しなくてね…今も世界は増え続けている」


何かを作るには理解が必要なのだという。

リオは違う世界を作る上で、理解しやすい地球をベースにしている。

そのため、作られた世界は何処と無く地球に似ている世界が多いという。


ぼろぼろだった地球は長い年月を掛けて再生し、今に至る。

一度滅びやり直した星。

地球は何時だって他の世界から見ればオリジナルのものだ。


リオを中心に集ったファミリーは、異世界の管理に追われている。

しかし、全てに介入するのは困難であり、やってはいけないことだ。

そのことから、世界の大半は作られただけで放置されるという。

勝手に生命が生まれ、勝手に文明が築かれる。

中にはとても平和とは無縁の崩壊の一途を辿る世界もある。


巳夏が言うのはそういうことだ。

悠一の父が、恵まれた世界から来たとは限らない。


「ファミリーの仕事ってなんなんですか?」


「基本的には世界を管理する事だ。魔素が溜まりすぎないように調整をしている。中には、長期的に干渉するような事案もある」


他にも、個々で仕事を持っている人が多いようだ。


「巳夏さんの仕事は俺を監視する事?」


それに対しては首を振られた。


「監視というより、何が起きたのかを探らされている。君の存在は過去に例がない。地球人が再び魔力を持つようになったのか、ファミリーの目を盗んで地球に侵食する術があるのか。重要議題なんだよ」


要するに、悠一の存在そのものが問題なのではなく、そこに至る経緯が巳夏の研究議題なのだ。

話を聞きながら、悠一は思ったより深刻な事態だったらしい事に気付く。


「…それって分かりそうなんですか?」


「…どうかな」


思わず訊ねたが、巳夏は遠い目をしていた。

悠一が悪いわけではないのだが、何だか申し訳なさが募る。


「まあ、僕の事はいいんだ。時間は馬鹿みたいにあるんだから、片っ端から可能性を洗っていくしかない。問題は君だよ、悠一君」


「あ、はい」


思わず背筋が伸びる。


「君、どうするの」


「…どう、とは?」


単直すぎて意味が分からない。

巳夏は目に見えて不機嫌に言った。


「今のまま生きていけるなんて思ってないだろう?」


悠一はそれで気づいた。

そうだ。

悠一は何れ成長が止まる。

そして、その後はこの人と同様に悠久の時を生きていく事になるのだ。

少し考えて、ゾッとする。


「…俺、地球にいられないって事ですよね」


「出来ないことはないよ。ただ、今の君では無理だろうね。それに、地球に居続けるという事は、より身近な人の死を目の当たりにすることになる」


地球人は驚くほど寿命が短いからね。


悠一は思わず体を乗り出した。


「異世界の人って長生きなんですか?」


巳夏は肩を竦めた。


「それこそ個人差がある。地球人と同程度しか生きない人もいるし、何千年単位を平気で謳歌する者も少なくない。基本的に寿命っていうのは、魔力の大きさがものをいうんだ」


それを聞くと、俄然異世界に興味が沸く。

地球にいれば、悠一は何れ一人ぼっちになるのだ。

その中を延々と生きる?

そんなこと、


(まるで、地獄じゃないか)


異世界に行けば同類に会えるというなら、勿論会ってみたい。


「君はどうしたい」


どうしたい?

悠一は苦笑した。

出来るなら普通に戻りたいに決まっている。

長生きできる!嬉しいなぁ!

そんなお目出度い発想を悠一は出来ない。

普通の地球人として生きたい。

でもそれは出来ないのだ。

ならせめて同じ人たちの所へ行きたい。


「俺に、魔法を教えて下さい」


絞り出すように、悠一はそう言った。

同類どうこう以前に、悠一は今出来ることをしないといけない。

地球にいられないなら、異世界に渡るしかない。

しかし、果たして今の悠一が何処別世界へ行った所で普通に生きられるだろうか。

今のままでは、寿命云々以前に争いに巻き込まれて死ぬのではないだろうか。

悠一に必要なのは、選択肢を広げる力だ。


「いいよ。ただ言っておく。僕は身内には優しいけど冷たいから」


なんの宣言だろう。

悠一は意味が分からず、巳夏を見上げる。


「受験勉強とは訳が違うからね。君は今日から僕の弟子になる訳だ。ただの生徒は他人だけど、弟子は身内。意味、分かるよね」


意味を悟って、悠一は青ざめた。

一人ぼっちのまだ遠い絶望よりも、差し迫るスパルタの嵐。

あの有り難いが辛かった日々が脳裏を過る。


あれを、身内バージョンで?


(…俺、そもそも天寿全う出来るのかな)


長生きする前に死ぬのではなかろうか。

少なくとも、今の悠一に未来予想図は描けそうになかった。






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