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渡り人~異界の魔術師~  作者: 李珠
第2章 リリアス
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復讐者


悠一は振り向いた。


そこには、まるで闇を纏ったような立ち姿の男がいた。

真っ黒な髪と瞳、全身真っ黒な服に身を包んだ姿は悠一に酷似している。

ただ顔立ちは爬虫類系、というべきかキロりと大きい三白眼に薄い唇、顔に張り付いたように低い鼻。

まるで蛇だ、と悠一は思う。


「見ぃーつけた」


彼は無表情を一変させてニタァ、と嫌な笑い方をした。

悠一は眉を顰めて、ハンマーを握り締める。


「あーあーあー。本当に困っちゃうんだよなァ、アンタみたいなお人好しのお節介はさァ」


ゆらゆらと、揺れるように距離を詰めた男は、屈み込んで悠一を下からなめ回すように見上げた。

不覚にも背筋をぞくりとしたものが這う。

怖いというより、不気味な男だ。


「…意味が分からないんだけど」


「アーン?わかんねェ?そんなわけ、ないデショ…?アンタさ、俺の獲物横取りしたじゃない…」


悠一は無言で彼を睨んだ。

彼は気分を害した様子もなく、ニタニタ笑っている。


「アンタさ。匿ってるデショ。そこのクズのガキンチョ」


悠一の頭をエリスの顔が過る。

匿ってる?

こいつは、エリスを追っていたのか?


「…お前は?」


静かに問うと、彼は目を眇めて言った。


「名乗る必要なんてねェだろ?あの女を寄越しなァ。ラスフルールの連中は皆殺しさァ」


こいつ、完全にイっている。


こいつが黒幕なのか?

ラスフルール領を滅茶苦茶にしたのも、集団の行方不明も全て?


…何のために?


この男は、危ない。

それが分かって尚、悠一は情報を引き出そうと話を続ける。


「なんのために?」


その瞬間、彼の纏う空気が殺気に変わった。

ビリビリと肌を焼くような威圧感だ。


この世界に来て、初めてヤバイ奴に会った。


そう思う。

が、悠一は怯まない。

怯んだ方が敗けだ。


「決まってんだろ。復讐だよ」


暗い瞳で彼はそう言った。


と、弾丸のように飛び出してくる。

悠一は咄嗟に魔力の節約を止めて、身体強化を纏い直した。

突っ込んできた彼を片手で受け止め、弾き飛ばす。

飛んだ男に激突され、柱が何本も折れた。


どんだけ硬いんだよ…!


悠一は顔を引き攣らせながら、息を吐く。

主柱ではないだろうが、城がボロボロになるだろう。

エリスには悪いが、今の体調でそこまで気を配る余裕はない。

男はよろつく様子もなく立ち上がった。

全くの無傷のようだ。


「ヒャッハー!何だよ、ただのお節介じゃねェのかよ!!いいねェお前…強い奴は大好きさァ」


心底嬉しそうに男は吠える。

悠一はもう一度顔を引き攣らせた。


「…俺はあんた別に好きじゃないよ」


それを聞くか聞かないかの内に、彼はまた突っ込んでくる。

悠一は狙いを定めてハンマーを振るった。

低い体制で躱され、下から爪が襲いかかるのを視認して咄嗟にバック転でやり過ごす。


は!?爪!??


思わず動きを止めて、ガン見する。

愉しそうにしている男の腕は引き摺るほどに長く、太くなっていた。

ゴツゴツとした黒光りする鱗の先端に、凶悪な白い鉤爪が生えている。


「…あんた、何者?」


顔を引き攣らせて悠一は言った。

彼は愉しそうに笑う。

もう闘う気はなさそうだが、悠一は警戒したまま構えは解かない。

男はおもむろに口を開いた。


「いいよ、アンタは特別だ。俺はヴェルガルド。復讐に燃えるドラゴンさ」


そう言って、突風が巻き起こったと思うと、彼はバルコニーから外に飛び出していた。


一瞬で、姿が変わる。


次の瞬間、凶悪な程大きく恐ろしいと人に思わせるだろう漆黒のドラゴンが外を悠々と羽ばたいていた。

ヴェルガルドはバルコニー近くに飛んできて唸る。


『お前の名前、教えろよ』


グルルル…と唸っているようにしか聞こえないが、何を言っているのか何故か分かった。

悠一は彼を真っ直ぐ見て言った。


「悠一。俺は…名足、悠一」


『フーン…ユウイチ、ユウイチ…悠一…何か懐かしい響きだなァおい』


ドラゴンはグルグル唸りながら、何度も悠一の名を口に転がす。

何故かとても愉しそうだ。


『いいよ、悠一。お前に免じてラスフルールは諦めてやろう。が』


ドラゴンは静かに悠一を見て言った。


『それは粗方済んだからだ。次に会ったその時も譲ってもらえるとは思うなよ』


邪魔をするなら、殺す。


悠一はごくりと生唾を飲んだ。

ヴェルガルドが恐ろしいから、というよりは彼の想いに萎縮した。

ヴェルガルドが燃やす復讐心は本物だ。


何が、彼を復讐に駆り立てるというのだろう。


『まあ、気を付けろよ。此処に目を付けてるのは俺だけじゃねェからな。まだまだおわんねェよ』


去り際にそんな嫌なことを言う。


「…ちょっと待って。何処までがヴェルガルドの仕業なんだ?」


飛び去ろうとしたヴェルガルドを呼び止めると、ヴェルガルドはグルグル唸りながら嗤った。


『俺がやったのは、そこのオッサンを傀儡にしたくらいのもんだよ。ああ、後瘴気は俺のせいか。居るだけで出るんだから故意じゃねェけど。後はまァ、あの小娘は殺してやるつもりで盗賊どもをけしかけはしたが…』


グルグルと嗤って続ける。


『行方不明は俺じゃねェなァ』


どうせ、ラスフルールはお仕舞いだ。


そう嗤ってヴェルガルドは飛び去った。

残された悠一は眉根を寄せて思案する。


「傀儡にしたのはヴェルガルド…つまり、奴隷商人とオークションの認可はヴェルガルドが操った影響だ」


騎士を首にしたのも、税金を上げたのも、民や陪臣貴族の不満を煽る為だったのだろう。

ヴェルガルドの働きは確かにラスフルールに大打撃を与えたが、結果的に見れば人は死んでいない。

無論、盗賊や冒険者になって死んだ者がいることは分かっているが、直接的に殺した訳ではない。

あくまでも、内から攻撃する。


「…なんかそういう手際の鮮やかさって、国政に携わってる奴みたいだよな」


ポツリとそう呟く。


いや、そんな訳がないのだが。


残る問題は一つか。

貴族、正確には平民もだが…が行方不明になっていること。

悠一は眉根を寄せる。


「…誰が、なんのために誘拐してるんだ?」


本当にヴェルガルドは絡んでいないのだろうか。

魔力を高い人間を首にしたのが、操りにくかったからとはとても思えない。

そのくらい、あのドラゴンの魔力は破格のものだった。


「…ヴェルガルドは、自分じゃないって言っただけだ」


誰が、何をしてるのかは知っているみたいだった。

悠一の頭に一つの可能性が過る。

魔力が高いものは高く売れる。

付加価値が付けば、恐らくもっと。


…奴隷?









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