表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
渡り人~異界の魔術師~  作者: 李珠
第2章 リリアス
37/42

推論の真実②


「…それってどういうこと?」


悠一が首を傾げる。

エリスは頷いて続けた。


「そのこと自体は然程問題ではないのです。いなくなった騎士の行方が、問題なのですわ」


エリスがそのことに気付き、モーリスが調べてきた内容を照らし合わせると、一つの事が浮上したという。


「いなくなった騎士は、皆行方が分からないのです」


「…え?」


エリスは静かに目を伏せた。


「理由は分かりません。何時からいないのかも、正直分からないのですわ。何しろ、騎士の任務を解かれた後、彼らがどういう経緯を辿ったのか知る者がいないので…」


悠一はレグルスと顔を見合わせた。

恐らく考えていることは同じだろう。

そんな人数が一度に行方不明になっていて気付かない。

リリアスはいよいよ破綻しているとしか思えなかった。


「悠一さん、さっきちょっと変だった自覚ありませんか?」


モーリスに言われて、悠一は苦笑する。


「変って」


今回は自覚があるだけになにも言えない。

変といってしまえば変だっただろう。


「そうじゃないんです」


「え?」


どういうこと?

怪訝な顔をする悠一を見ながら、モーリスが真剣な顔をして言った。


「こういうのって、魔法絡みが多いじゃないですか。それでさっき、皆さんに何か感じないか確認して貰ったんです。そして、スピカさんがリリアスには闇の魔法が充満しているらしいことに気が付いたんです」


「闇の魔法?」


「そうなのです。スピカは屋敷の中にいたので気が付かなかったのですが…この街はちょっと嫌な空気が充満しているのです」


メリエルが首を傾げてスピカに聞いた。


「ええと、スピカちゃん。じゃあ、このお屋敷の中は大丈夫ってこと?」


スピカは頷いた。

スピカは見ることは出来ないが、魔力を感じるという観点で腕を磨いていた。

悠一がエリスの能力を高く評価したせいもあるのかもしれない。


「はい。このお屋敷は凄いですよ。あらゆる魔法がブロックされているのです。でも…」


スピカは困ったように言葉を切った。

その先が悠一の様子に関わっているらしい。


「多分、ご主人様の不安定の理由は魔力不足だと思うのです。魔力が不足すると魔法使いは気を病みますから。このお屋敷は永いこと主がなかったと聞きました。乾いた大地が水を吸うように、このお屋敷はご主人様から破格の魔力を奪っているのです。満たされれば、収まると思うのですが…」


その状態で外に出れば闇に侵されるのも無理はない、と。


悠一は唖然とした。


魔力不足。


何だか縁のない言葉である。

自覚がなかっただけに少しショックだ。

先程妙に皆が優しかったのも(いや別にいつだって優しいけど)、それを知ってのことだったらしい。


ん?魔力不足?


ハッと気付いて、メリエル、満月、瑠璃を見る。

二人と一匹は大丈夫だと言うように首を振った。

既に譲渡を終えた魔力はその範疇にないようだ。

悠一は胸を撫で下ろして、ある事に思い当たった。


「あー…だからか。俺、リリアスに来たときなんか嫌だなーって思ったの」


スピカはまた頷いた。


「はい。闇の精神魔法はあまりに術者の力量が離れすぎていると無効化されてしまうのですが、それでも不快に感じさせるくらいの影響力はありますから」


寧ろこんな途方もない屋敷の不足した魔力を補った上で、いつもとそれほど変わらないなんてご主人様は本当に規格外なのです、と言われる。


闇の魔法については、エリス達は元々リリアスにいたせいで慣れてしまったのだろう。

はて、メリエルは?と思うと、これもヴィーラの特性だという。

精霊に状態異常の魔法は効かないようだ。


「エリスの目にも見えないのか?」


エリスは頷いた。


「元々、大気には魔法が溶けているのか、微量の波があるんです。微量の波というのは、色素も波も薄く特徴がないので掴みにくいのですわ」


微量の波、とは恐らく魔素のことなのだろう。

全てが同じ波に見えてしまうエリス。

魔素は見えても魔法や魔力の感知は今一つの悠一。

なるほど、スピカしか気が付かなかった訳だ。


「そこで、元の話に戻るんですけど。魔力が高い人間っていうのは、基本的に貴族に多いんです。いなくなったのは貴族の騎士で、残ってる騎士は殆どが平民です」


「…つまり?」


今一要領を得ず、悠一は首を傾げた。


「…まどろっこしい言い方しねぇで、さくっと言ってくれないか?」


悠一より更に小難しい話が苦手なラウルも頬を掻きながら便乗すると、モーリスは苦笑しながら謝った。


「つまり、狙われているのはラスフルール領ではなくて、“貴族”なんじゃないかって事なんです」


そう言って、モーリスは話始めた。







モーリスは朝から街で色々聞き込みを行っていた。

聞く相手は様々で、住民から露店商、レギトの商人など、手当たり次第聞いて回ったという。

レギトの商人からある話を聞いたモーリスは、その話の裏がとれないかと、危ない橋を渡って、城内に侵入捜査に踏み切った。

伊達に幼い頃から出入りしていた訳じゃない。

警備の薄い所を選んで、侵入。

警備の目を掻い潜って、執務棟に侵入する事に成功した。

影に隠れて、色々見聞きはしたが、めぼしいものは見つけられず、精々分かったのは以前より一層城内の人気が無くなったということだ。

どうしようかと思っていた所で、モーリスは最大の危険を払うことに決めた。


「…なんかものすげえ冒険譚みたいになってんな」


ラウルがうんざりしたように呟く。

話好きのモーリスクオリティである。


「…まあ、無事帰ってきてるんだから言わせて上げよう」


悠一はそう返して、意識を戻す。


そして、モーリスはラスフルール辺境伯の執務室に潜入した。

ここでまた話の腰が折られる。


「…モーリス、貴方そんな危ないことをしてきたの?」


エリスが声を震わせて言った。

怒っているエリスを、モーリスは焦りながらもまあまあと宥めている。


言ってなかったのかよ。


これ以上やぶ蛇をつつく行為を避けるために冒険譚を諦めたらしいモーリスは、普通に顛末だけをさらっと口にした。


「まあ、入ってみたら大したことなかったんですけどね。いやー酷いもんですよ?書類の山、山山…近くに人もいませんでしたし、とりあえず片っ端から悠一さんに頂いた巾着に放り込んで城を飛び出し、皆さん帰ってくるまで部屋に閉じ籠りきりで読んでいたわけなんですが」


モーリスが一度言葉を切る。


「話した通り、陪臣貴族からの苦情とか、任を解かれた筈の騎士が実家に帰ってこないという旨を知らせる手紙なんかが沢山出てきたんです」


こんなになっているのに、ちゃんと調書とか届くのか。

怪訝な顔をした悠一にモーリスは嬉しそうに言った。


「変ですよね?こんな事になっているのに、律儀に報告してくるんですから」


「モーリスが言うんです。もしかしたら問題が1つじゃないのかもしれないって」


敵は、陪臣貴族の中にいるのかもしれない。


モーリスは頷いた。


「仮定なんで何とも決断し難いんですけど、アルダスの件とこの事、一緒にしちゃってるけど本当は二つ重なって変になってるんじゃないかと思うんです。聞き込みをした中で、レギトの商人が面白い話を聞かせてくれました。昔から、アルダス商人はオークションによく出入りしてるみたいなんですよ。元々、ラスフルール領が異常に毛嫌いしているだけで、他の国は結構緩くてオークションとか奴隷の売買なんてもっと自由に行われていますから。ここ最近いきなりそうなった、という訳でもないようですし、アルダスは元から金稼ぎの手段でオークションと奴隷の売買を常用しているみたいなんです。その事から、僕はアルダスがラスフルールに干渉したから可笑しくなったんじゃなくて、ラスフルールが可笑しくなっているところにアルダスの商人が交渉しに来てしまったんじゃないかと思ったんです」


皆なるほど、と頷いている。

と、大人しかった瑠璃が口を開いた。


「で、その黒幕に心当たりはあるの?」


モーリスは決まり悪そうに笑って言った。


「いやーその先は全く分からなくて。何のために?ってことも思い当たらないんですよー…」


「…まあ、そうよね」


瑠璃は脱力しながらそう言った。


オークションは三日後なのだという。

アルダスが関係していないかもしれない時点で、潜入する意味があるのかは分からないが、明日明後日で再度調査してくるという話で纏まった。

因みに、悠一は外出禁止を言い渡され、少しだけしょげる。


「ご主人様は基本的に働きすぎですから、せめて魔力が回復するまでは大人しくしていてくださいね」


そうレグルスに釘を刺される。

屋敷はまだ懲りずに回復する傍ら悠一から魔力を吸っている。

瑠璃とスピカ曰く、三日後のオークションには間に合うだろう、とのことだ。

にしても、レグルスとスピカの機嫌があまりよくない。

一連の流れで瑠璃とメリエル、満月と交わした契約を知られてしまったからだ。

レグルスに至っては名前じゃなくてご主人様と呼ぶ辺りに怖さを感じる。

なんで新参ものと先に契約したのかと、瑠璃にまで呆れられた。

またしても落ち込む悠一をメリエルが慰めてくれる。


うーん、今の俺、ホントに打たれ弱いな。


とりあえず、回復したらちゃんと話そう。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ