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渡り人~異界の魔術師~  作者: 李珠
第2章 リリアス
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推論の真実①


アルダスの奴隷商館は派手だった。

何処と無くくたびれたリリアスの町並みの中で、そこ一軒だけが場違いにきらびやかだ。


「…本当にアルダスはリリアスを壊そうとしてるのか?」


悠一は成金スタイルには似合わない哀愁を含んだ視線を建物に寄せる。


「…どうでしょう?」


メリエルも小首を傾げる。


別に、端からそうだと決めつけている訳ではない。

アルダスになんの意図もないならばそれが一番だ。

そうなると、何故リリアスが荒れているのかという原点に戻ってしまうが、それは仕方のないことだろう。


ただ、これを見ると何故店を開いたのか全く理解出来ない。

リリアスの住人はその建物だけを遠巻きにやり過ごしている。

明らかに警戒されているのだ。


売るのが目的ではなく、単にリリアスに入りたかっただけなのか?


疑念は無くならないものの、入らないことには何も分からないと、悠一はそれらしくメリエルと腕を組んで店の扉を潜った。






「いらっしゃいませ!ようこそ御越しくださいました!!」


突進する勢いで店員が飛んできた。

悠一は偉そうにするのも忘れて、ひきつった顔になる。


「いやーもう!遠路遥々店を開きにきたのに、誰も来てくれなくて…!本当にありがとう、サービスするので幾らでもいてください!」


何だかものすごく苦労したようだ。


必死過ぎて、怖い。


悠一のみならず、普段他人のことなんて気にも止めないメリエルでさえ一歩後退りした。

悠一は現実逃避しながら無理矢理微笑む。


どうやら、筋書き通りにはいかないらしい。


いや、まあこんな微妙な計画が上手く行くなんて最初から思っていなかったのだが、これは流石に予想外過ぎた。

売る気がないんじゃなくて、本当に売れない理由に気付いていないなんて普通思わないだろう。


ここまで綺麗に予想を空振りすると、恥ずかしいを通り越して痛い。

悠一は若干、意識を浮遊させた。


もう帰りたい…。


飛んだ悠一の脳内を、走馬灯のように計画を立てた時の光景が過る。


本来、描いていた(穴だらけというかあり得ない)シナリオはこうだ。


奴隷商館の主は、こずるい悪党か何だか知らないがとりあえず何かを企んでいる。

何を目論んでいるのか知らないが、奴隷を売りさばいて日夜野望の駒を進めているのだ。

そんな中、美女メリエルを侍らせた嫌な成金冒険者(悠一)が、偉そうに奴隷達を買い占めに来る。

怪しんだ店員に断られても、ネチネチ文句を言って成金は強引に買い取っていく。

そして、計画が頓挫したことに焦った商人の行動を裏から監視する。


ーーーという、まあテレビの見すぎだろという筋書きだったのだ。

悠一がノリで話した事なのだから仕方がない。


現に、エリスはそんなに思い通りにいきますか?と首を傾げていた。

悠一もそうだよなー、と流そうとしていた。

ちょっとしたジョークのつもりだったのだ。

が、何故か他に案がないからそれでいこうという運びになった。

悠一は、自分で提案した癖に全力で反対した。

反対して、ラウルの大丈夫大丈夫という無責任な言葉に押し込められた。

ドラマかよ!なんて言ってくれる人間は誰もいなかった。

当たり前だが。

そして、自分の発言の責任を取ることになった悠一はその夜少しだけ泣いた。

そんな如何にもな人間を演じるのが恥ずかしくて。

しかし。

先程も言ったように、上手く行くなんて最初から思っていなかった。

思っていなかったのだ。

だが、ここに来て本当に思う。


空想より、ほんとに的外れだった今の方がよっぽど恥ずかしい…!!


恥ずかしいを通り越して、何だか気分が落ち込んでくる。

こんな計画を立てるなんて、俺って馬鹿なんじゃない?

何が旅の恥は掻き捨てなの?

ああ。

ここ最近、意味が分からないことだらけで考えが錯誤している気がしてならない。

俺ってダメなやつだ。

何故か、一度思うと止まらない。

いつも、誰かが仕切ってくれて、悠一はそれに付いていくだけだった。

そうだ、俺はリーダーとか向いてないんだよ。

薄氷が割れるように、一度ダメだと思ったら、マイナス思考が止まらない。


やっぱり俺、リーダー向いてない。


本当に、恥ずかしい。


なんだよ、このきんきら金の服!!


今すぐ脱ぎ捨てたい衝動を押さえつけ、自棄になっていると言えばそれまでだが、意図せず悠一は当初の計画通りの言葉を叫んだ。


「この店の奴隷、全部頂戴…っ!」







「悠一様、とても面白かったんですよー」


メリエルが手を合わせてにこにことそう言う。

悠一は既に心労と羞恥でソファに蹲っていた。


店であんな台詞を吐いてから三時間。


「よーろこんでー!!」


という、どこぞの飲食店のような言葉を店員から貰った悠一達は、無事、計24名の奴隷と共に屋敷に帰ってきていた。

当然、あの無駄にきらびやかな服は帰宅と同時に脱ぎ捨てている。

連れて帰った奴隷達は、とりあえず食堂で食事を摂らせていた。


「いやー、僕も見たかったですねー。その、悠一さんの勇姿!」


「…お前、思ってもないこと言うなよ…」


茶化すモーリスに弱々しく悠一が抗議する。


「まあ、結果が良いのだからよいではありませんか」


「良くないだろ、なんでリリアスこんなになってるのか全然分からなくなってるけど」


エリスにもクスクス笑われて、悠一は再びソファで丸まった。

今回の事でよく分かったのは、アルダスは意外と何も考えていないのかもしれないということだ。

もし何かあっても、奴隷商人如きが知らないだけかもしれないが。

真面目に考えている悠一の顔にもふもふしたものが降ってくる。


おいこら、満月。

落ち込んでる俺の顔にはりつくんじゃないよ。


満月は、久々に悠一にくっついていられるのが嬉しいのか先程から離れない。

離れないのはいいのだが、さっき悠一が身を起こした衝撃で頭から徐々にずり落ち、今は悠一の顔にしがみついている状態だ。


…くしゃみでそう。


「悠一様はそんなことを思われていたんですか」


回想の中で、悠一が吐露した内容を聞き咎めたレグルスが不思議そうに呟く。


うん、思って…たっけ?


ちょっと疑問が混ざる。

思ってたような、思ってなかったような。

敢えて言うなら、何も考えてなかったような。

いやいや、考えてたんだよ、多分!


目まぐるしく変わる脳内の自己主張に溜め息を吐きながら、悠一は諦めてソファに転がった。


「考えるよ。だって俺ただの一般人だし。ちょっと魔力多くて変な知り合い多いだけなんだから」


うん。

考えてたかはよく分からないが、リーダーに向いていないのは確かだろう。


仲間を得てからずっと。

一応努力はしてきたつもりだ。

元々、人を引っ張っていく能力がない悠一は、かなり頑張って命令したり、話をまとめたりしていた。

それを苦だと思っていたわけではないが、今染々と痛感する。

人を纏めるにも才能がいる。

それは、カリスマ性だったり、人を惹き付ける能力だったり、色々あるのだろうがどれも悠一にはないものだ。

悠一がリーダーであるということは、必然と色々な人にものすごく手を借りなければならない。


そんな情けないリーダーは、ない。


そうだ、ないんだよ…。


その言葉に反応したのはラウルだった。


「まあ、お前は充分良くやってると思うけどな」


「…今日は失敗しただろ」


ラウルは苦く笑った。


「別に失敗って程じゃないだろ。ほら、あれだろ?ちょっと失敗したから落ち込んでるだけだって」


ラウルが優しい。

そんなことにも涙腺が弛みそうだ。

何なんだろう、今日の俺は。

そんなやり取りを見ていたレグルスが、珍しくふっと声を漏らして笑う。


「私は別に、何一つ失敗なさらない、素晴らしいご主人様だから貴方に付いていきたいと思った訳ではありませんよ?」


予想外の言葉にがばりと体を起こした悠一の隣に、レグルスが腰かける。


「付いていきたいと思ったから、お仕えしているのは確かです。ただ、リーダーというのは完璧でなければいけないものなんでしょうか?」


「…完璧じゃなくたっていいと思うけど、俺はかなり人に手を借りないとこなせないよ?」


元々人使うの慣れてないし。


ああ、ダメだ。

ラウルのいう通り、失敗を尾に引いてるだけなんだと思うけど、自分で自分がめんどくさい。

落ち込みが止まらない。

実際、そんなに大したことじゃなくね?と思う自分もいるのだ…。


そういうとエリスも首を振った。


「わたくしも貴族として、同じように悩んだことがありましたわ。でも、悠一様を見ていて思いました。リーダーの形なんてそれぞれなんですわ。悠一様は、メンバーの皆さんに振り回されて、一番上の立場なのに一番働いていて。一風変わっていますが、いいチームじゃありませんか」


皆さん、悠一様を中心に集まった人達でしょう?


悠一もそれには頷いた。


「一緒にいたい。助けたい。力になりたい。それでは、いけませんか?」


そうレグルスは微笑んだ。

悠一は首を振った。


「ダメなわけないだろ。レグルスこそこんなことで一々落ち込むようなめんどくさい奴でいいの?」


レグルスは珍しくにっこり笑って言った。


「はい。悠一様は悠一様だからよいのです。可愛らしいご主人様だと思いますよ」


「…それは、誉め言葉として受け取りづらい評価だな」


何とも言えない顔の悠一を見ながら、レグルスは素晴らしいとも思っていますけどねと言って更に笑みを深めた。

そこにラウルも割り込んでくる。


「まあ、俺もそうだぜ。いいじゃねえか、持ちつ持たれつで」


ラウルの癖に良いことを言う。

皆が優しくて辛い。

っていうか、なんで俺こんなに不安定なんだろう?

悠一の手を握ったのはメリエル、そしてスピカだった。


「力になりたいって、思わず思ってしまうのが悠一様の力なんですよ」


そんな素敵な能力があるとは思えないけど。


「スピカも、ご主人様の力になりたいのですよ」


悠一は苦笑しながら思う。


皆がそれでいいと言ってくれるならそれでいいのかもしれない。

確かに、演じ続けて身に付くものだってあるだろう。

しかし、悠一の周りはそれを望まない。

なら、いいじゃないか。


そう思ってふと思う。

なんでこんなことを悩み始めたんだろう、と。





悠一が落ち着いた後、リビングは重苦しい雰囲気に包まれていた。

使い物にならない悠一に代わって、場を取り仕切るのはモーリスだ。


「という訳で、仮設は一部頓挫したわけですが。僕らもなにもしていなかった訳ではありません。まずは、エリス!」


頓挫、という言葉にまた悠一が落ち込む。

モーリスに指名されて、エリスは頷いて話始めた。


「はい。わたくしとフリッツは街を歩きながら、おかしな波がないか探っていました。そして、リリアスにいる騎士の殆どからおかしな波を感知したのです」


「ってことは、やっぱり?」


エリスは困ったようにフリッツを見て続けた。


「それが…元々リリアスにいた騎士は500名ほどでした。半数ほどに削られた後も、250名以上の騎士が残っていましたわ。今日、改めて見て気付いたことがあるのです。残っている騎士は、比較的魔力が少ないものたちなのですわ」


え?


悠一達はモーリスとフリッツを見る。


エリスは困ったようにモーリスに続きを促した。





なんでたまにエラーになるんでしょうか…。

編集した後、たまに文が消えて心が折れるのでやめてもらいたい…。

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