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渡り人~異界の魔術師~  作者: 李珠
第2章 リリアス
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盗賊達と…


ハルシオンの人が少ない場所を選び転移した悠一は、持ってきていた上着を着込んで目深にフード被り、急ぎ足でギルドへ向かった。


ちょうど人がいない時間だったため、初めてギルドに入った時と同様に冒険者の姿はない。

しかし、遊緋の姿もなかった。

一瞬、どうするか考えたものの、悠一はカウンターに寄り声を掛ける。

何度か見かけたが、アリアでもミレーネでもない受付員だ。


「遊緋さんいますか?」


受付員は怪訝な顔をしたが、悠一が黙って身分証を提示すると、ああ、と頷き奥へ続く扉を開けてくれた。


「マスターなら今さっき、出先から戻られた所です。直接行って貰えますか?」


悠一は頷いて二階へ駆け上がった。

遊緋は自分が受付にいない時の為に、ギルドの人間に悠一が来たら通して構わない旨を伝えてくれていたのだ。

仲を勘ぐられるかと思ったが、遊緋自身が日頃から得体が知れないと周りに思われているせいで今更そんな詮索をする人間はいなかった。


「いらっしゃい」


戻ったばかりというのは、文字通りだったようで、遊緋はいつものスーツもどきでなく、真っ黒なローブを纏っていた。

巳夏といい、魔術師の正装はローブだとでもいうのだろうか?

小説だとそういう設定は多いが、生憎と“魔法と剣の世界”に来たというのに、悠一は他の魔術師に会ったことがないせいで判断がつかない。

しかし、巳夏にしても遊緋にしても言えるのは一つだけだ。

すごく似合っている。

遊緋は切れた雰囲気を纏った美人なので、さながら魔導士といった感じが格好いいし、巳夏は巳夏で知的な美貌の青年なのでいかにも魔術師といった風格があったのだ。

と、ここに来た目的を忘れそうになりながら、悠一は口を開いた。


「すみません、間が悪かったみたいで」


遊緋は何でもないように首を振った。

ローブを脱いだ下は、ぴったりとした黒のタートルネックとグレーのパンツだ。

ローブの下は普通の服なのか。

悠一は変な感慨に耽る。

適当にその辺にローブを放る遊緋は、ソファに適当な仕草で腰をかけて、悠一に着席を促した。


「で、私は何をすればいいのかな?」


既に何かを頼まれることは分かっている風な遊緋に、悠一は項垂れる。


「…なんで、何かを頼まれることが前提なんですか」


遊緋は首を傾げながら呟く。


「他に何かあるのか?」


悠一も黙りながら、正論だ、と落ち込んだ。

悠一が遊緋にしてやれることなどないし、大体遊緋に会う時は頼み事、もしくは訊ねたい事が在る時だ。


「いいえ、何かすみません…」


遊緋は肩を竦めた。


「それが悪いなんて言ってないだろう?第一、私が頼み事をしなければいけないのはリオくらいなものだ。お前が気に病むようなことは何もない」


力を持つ者の宿命だよ。

凛とそう言う遊緋に、悠一はどきりとした。


俺はどうだろう?


力があるから、無いものを守るのは当たり前。

そんな風に思えるだろうか?


なんてことない事件なら別にいい。

命懸けでやらなければいけないようなものに、俺は命を懸けられるだろうか。

逃げてしまわないだろうか。


突拍子もないかもしれないが、遊緋の言葉だからこそ悠一の胸に響いたものがあったのだ。

多分、人のために幾つもの死線を潜り抜けて来た人だから。


そんな思いを悠一は振り切る。

今は違う話をしに来たのだ。


「ご明察通りなんですけど…ハルシオンに盗賊を沢山捕らえて捕まえてきたら引き取って頂けますか」


悠一がそう言うと、遊緋は眉根を上げて言った。


「とりあえず、詳しく話せ」


と。






「じゃあ、今晩決行なのでよろしくお願いします」


「ああ。気を付けろよ」


ぺこりと頭を下げる悠一に、遊緋がそっけなくそう答える。

理由を話すと、遊緋はあっさり頷いて近くの訓練所を開けてくれた。

他の人間だと面倒だということで、遊緋が直接盗賊に呪を施し、奴隷商館に運ぶらしい。

人数が人数だけに、大陸裁判所と奴隷商館の査定に時間が掛かるだろうとため息を吐きながら言われたが、そもそも直ぐに受け取れるとは思っていなかった為、また受け取りにくると伝える。

リリアスに到着後、また来ればいいだろう。


「ではまた」


疲れているのか、遊緋は思ったように面白がることはなかったが、とりあえず了承は得たので気にするだけ無駄だと悠一は転移魔法を使う。


悠一がいなくなった空間に、遊緋は心底面倒臭そうな顔を向ける。

ただ、楽しく旅をしていれば良いものを、何故そんな所に首を突っ込んでいるのか。

中途半端に人がいい結果だと考えると、頭が痛くなる。


「アルダス、か…。甘ちゃんが卒業出来なければ、死ぬぞ。悠一」


悠一は気付いているのか、いないのか。

干渉しない筈のファミリーが、ドラグーンに一度介入しているその意味を。


(変な所で引く奴だからな)


読めば分かるが、遊緋は人の感情に触れることが好きじゃない。

それは、干渉すべきものではない。

悠一は妙な所で勘が働く人間のようなので、無意識に気にしないようにセーブを掛けている気がしてならない。

それで死地に飛び込んでいれば、訳ないのだが。

とりあえず、今教えた眷族契約を上手く使うことを期待するしかない。


お前は不死身じゃないんだからな。


苦くそう呟く遊緋は、放り投げたローブから魔水晶を取り出した。

透明度が高い魔水晶。


「取り合えず、ミナツに回すか」


調べものは専門外だからな。

そう言い、遊緋はどこから入手したのか謎のその魔水晶を、魔封じの呪を付与した巾着に入れ直して、手紙と共にミナツへ送った。





悠一が戻って直ぐ、盗賊の根城がある地点に向かって馬車を進める。

先程は夜まで休憩出来ると高をくくっていたが、よく考えれば転移魔法は使えないことに気付いたのだ。

何故か。

簡単な事だ。

あれは、慣れていないと酔う。

最初の悠一のように。

酔って誰も動けませんでしたとか笑えないよな。

遊緋にも言い訳が立たない。


という訳で、今悠一達はエリス達の馬車に速度を合わせながらも、結構必死に進んでいた。






「あ、もしかしてアレなのです?」


日もなくなる間近になって、スピカが悠一の後ろから身を乗り出して言った。


「そう。盗賊の根城ってことを考えなきゃ結構面白い建物だよな」


「確かに…」


継ぎ接ぎだらけ、なんて表現をしたが、盗賊の根城は結構面白い建物だ。

ファーレンはどこかしら地球の文化がミックスされたような違和感で、正直町並みを楽しむような面はあまりないが、これは違う。

なんというか、ちゃんと彼らの歴史が刻まれているようでいい建物だと思う。

これから、侵略する人間の言うことではないが。


「うーん、壊しちゃうの勿体無いかもなのです」


「え?壊すの?」


スピカの発言にそう返すと、呆気にとられた顔が並んでいた。


「悠一様…壊さなくては、また誰かに使われてしまいます」


一番早く立ち直ったレグルスにそう言われ、悠一は成る程、と顎を掻く。


「んー、悠一が勿体ねえって言うなら、俺らで使うか?ほら、アルダスの奴隷達を置いとく場所とかないだろ、今」


勿体無いって言ったのは俺じゃないけどね。

ラウルの提案に、皆が頷いた。


「奴隷は主人の不利になる情報を話すことが出来ないので魔法のことも話しませんし…いい考えだと思います」


メリエルもそう言う。

そこで、悠一は首を傾げた。


「今回の奴隷って全部俺が買うわけじゃないだろ?」


それじゃ駄目なんじゃ?と言うと、また呆気にとられた顔が並ぶ。

何でだよ。


「あのな、悠一。お前の中でどういう未来図が描かれてるんだか知らねぇけど、契約すんのはお前だからな?」


そう断言するラウルに、悠一は目を瞬いた。


「いや…皆で貰ったお金使って買うんだぞ?俺が全員引き受けてどうするんだよ」


「…もしかして、お前知らないのか?奴隷っていうのはな、魔力が下の奴じゃ縛れないんだぞ。だから、俺じゃ契約するの自体が無理」


アルダスが抱えてる奴隷なんて、小出しされてる亜人だろ。

軒並み魔力高いに決まっている。

そう言われて、悠一はまたアホな所を披露してしまった、と少し落ち込んだ。


「あれ、じゃあ言い方悪いけど、魔力が低くて奴隷買う人ってどうしてるの?」


「契約を他の人間に任せるのです。ただし、魔水晶は魔力を流した人間にしか取り出しが出来ないため、書き換えなどもかなり面倒ですが」


そういう手もあるのか。

やる?という意味を込めてラウルを見ると嫌そうな顔をされた。


お前、魔力がどうとか完全言い訳だろ。


どうやらラウルは奴隷が嫌らしい。

別に、その制度がどうとか言うわけではなさそうだが。


「人に敬われたりとか無理なんだって…」


項垂れながらそう言うラウルを悠一は意味がわからないものを見るような目で見る。

そんなの俺も一緒だけど。


「なんだかんだ順応出来てるだろ…?」


否定はしないけど。

つーか、ハルシオンであれだけ慕われといて何を。

そんなこと意味を込めて、ラウルを白い目で見ている内に根城の近くに着いた。


ラウルさんが分からない。






エリス達と合流し、再度作戦を確認する。


作戦って言っても、俺が発案者だからザルみたいなもんだけど。

正直、皆のスペックの高さ頼りです。


夜も耽ると、やはりちらほら人が戻ってくる。

眠いが、夜が明ける寸前くらいが狙い目だと思うんだよな。

あんまり遅いと逆に出ていってしまいそうだから、見極め難しいけど。


「…じゃあ、行くか」


午前3時。

計画実行です。


根城の中には、予想以上に沢山の人数がいる。

計324名。

村かよ。

まだいるだろうことを考えると頭が痛い。

だってこれ、盗賊の数なんだぞ…。

盗賊というより、一つの家族のようなものなのかもしれない。

犯罪者集団であることに変わりはないため、迷いはしないけれど。


犯罪者とは関係ないが、こんな夜中だというのに見張り以外でも寝てない人が結構いる。

夜に加えて、魔法を掛けるという作戦は強ち間違いではなかったようだ。

普通に拉致してたら、その内見つかっただろう。


スピカが呪文を唱える。

それは、今までスピカがやってきたことなので、こっちの方がいいなんて無理強いして止めさせる気にはならなかったのでそのままだ。

ただ、かなり長い。

魔法じゃなくて、呪文で寝そう。

そんな事を思っている間に呪文は完成したらしく、夜明け前の暗い闇が根城に溶けて行く。

温かい、心地よい闇が広がり、根城の明るい部屋の住人もまどろみ始めた。


次にメリエルが根城に侵入して、眠りを誘う木の魔法を掛ける。

この魔法は近くで掛けないと逆に危ないということで、侵入する他に手がないと言われれば仕方がない。

ただ、過保護と言われようが、断固として一緒に入ると主張した。

結局2、3人蹴り飛ばすことになったのだから、後悔はない。

メリエルは杖も呪文も必要としない。

普通に手をかざすとキラキラした粉が舞って、体に纏わり付くと昏倒する。

非常に手際がよかった。

メリエルは精霊で、生まれてずっと一人だったから寧ろ周りがそういうものを必要とすることを知って驚いていた。

言っておくが、この魔法は国を滅ぼしたものとはまた違う。

ちゃんと目覚めるから、起きたときは牢屋かも知れないが命に別状はない。

メリエルの魔法により、まどろんでいた人間達が崩れ落ちて行く。


此処からは早かった。

入り口付近の見張りを縛り上げ、エリスに満月を抱かせて皆で中に入る。

中も面白い建物だったがそれは置いておいて、メリエルとスピカも手伝い、盗賊達を縛り上げて行く。

広すぎて一ヶ所に集めるのは無理だったので、近場の連中だけまとめるよう頼んで、転移しまくる。

子供も大人も非情になってお構い無しで送りまくる。

正直、途中からは運搬作業なノリだった。

運んでるの人なのにね。


約束通り、訓練所に居てくれた遊緋さんに転移して渡しまた転移し…を繰返し、朝方には片付いた。

一度、エリスから帰ってくる集団がいると連絡が入ったが、満月が問題なく伸していた。

急いで近くに行くと、褒めてと言わんばかりにぱたぱたしている。

可愛い顔して怖いやつめ。


後で木苺上げよう。


そう思いながら撫でてやった。

遊緋に礼を言って、戻る。

とりあえず盗賊問題は片付いた。

エリスと満月にまた番をしてもらって、皆で根城を捜索する。


彼らがいくらになるのかはよく分からないし、また帰ってくる人間がいるかも分からないので油断は出来ない。

出来ないが…まずは差し迫る問題だ。

地下に降りて見つけたのは、宝だけじゃなかった。


「悠一様、この子達はどうしますか?」


レグルスが指差した先には、女の子達…。

地下には、奴隷がいた。


「…どうしよう?」










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