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渡り人~異界の魔術師~  作者: 李珠
第2章 リリアス
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盗賊討伐大作戦


「ただいまー…」


悠一が泉に戻ってきたのは、結局昼過ぎだった。

根城が意外と遠くて右往左往しながらかなりの距離を飛び回って、精神疲れが半端じゃない。


「おかえりなさい、悠一様」


メリエルがいち早く気付き、パタパタと駆けてくる。

悠一はメリエルに上着を預け、テーブルに皆を集めるように指示を出した。


「じゃあ、皆揃ったな。盗賊の根城なんだけど…」


悠一は皆が集まったことを確認すると、普通の地図を広げる。

視界の端で、エリスが何となく居心地が悪そうにしているのを見咎めて、悠一は顔を上げた。


「…どうした、エリス?」


エリスは已然顔色が悪い。


「…?」


どうしたんだ、という意味を込めて周りを見ると、モーリスが苦笑しながら教えてくれた。


「エリスは魔力が波みたいに見えるって言ったよね?だから今回悠一さんが飛び回ってるの、エリスだけずっと意識的に追いかけちゃってたみたいで…」


成る程、東奔西走しているのを感知されていたのか。


「気にするな、エリス。俺タフだからこれくらいなんでもないし」


実際、大したことではない。

単に一人で飛び回っていたから、気疲れしただけだ。


「はい…ありがとうございます」


エリスが申し訳なさそうに一礼してから、再び地図に目線を戻したのを確認し、悠一は説明を始めた。


「根城はな、ここから結構遠かった。距離でいうと、50キロ近いかな。位置はここ、大体南西に行けば着く。ただね、ちょっと問題が…」


「…?どうかしたんですか?」


「いや、大したことじゃないんだけど。ちょっと規模がデカくてな。根城自体は増築を繰り返された継ぎ接ぎだらけの建物なんだけど、今いるだけでもざっと200人は堅いな。夜になればもっと増えるだろうし…ちょっと集めるのが面倒くさい上、一度じゃ搬送するのが無理そうだ」


悠一がそう苦言を呈すと、ラウルがじっと悠一を見ながら笑った。


「どうせ、何か手があるんだろ?」


妙な信頼が篤くて困る。

悠一も苦笑を返しながら言う。


「簡単に言うなぁー…まあね。ないことはない。ただ、これはあまりおおっぴらにしたくないし、する気もないから皆には深く聞かないことと吹聴しないことを約束してもらいたい」


悠一がそう言うと、皆は当然、というように頷いた。


「勿論ですわ。お約束は必ずお守りすると創造主様に誓います」


「…創造主?」


何だか聞き覚えのある単語である。

一度話を置いて問うと、エリスは頷いた。


「ファーレン建国のきっかけとなった方ですわ。ファーレンの者は、神ではなく創造主様にお祈りを捧げるのです」


何となく読めてきた。

ファーレンの建国には、どうやらファミリーが噛んでいるらしいことが。


(…巳夏さんも人が悪いよなあ…)


悠一が苦く笑う。


これも試練なのか?


そう思いながら、とりあえず街に着いたらファーレンの建国について調べようと決める。

とりあえず今は差し迫る問題の方が大切だ。

悠一は無理矢理意識を盗賊に戻す。


「分かった。手と言うのは簡単なことだ。金を手に入れるという目的で盗賊団を潰す以上、盗賊は売り払わないと話にならない。何しろ、隠し財産のようなものが必ずしもあるとは限らないからな。盗賊団なら、大陸裁判所が依頼を出してギルドで受注している筈だから、クリアしたなら証明書に表示されて報償金は貰えるだろうけど、それで足りるとは限らない。そこで、俺が転移魔法を使ってハルシオンのギルドに運ぼうと思う」


転移、というこの世界の常識を覆した発言に流石に驚いたラウルが身を乗り出してくる。


「そんなこと出来んのかよ!?」


悠一は頷きながら、やはりこれは奥の手だな、と他人事のように思う。

ラウルのように他者に寛容な人間でこれだ。

面倒くさい人間知られたらどうなるか、考えたくもない。

エリス達は驚ながらも、誓いを守るためか口を接ぐんでいた。


「ああ。幸いハルシオンのギルドマスターとは顔見知りだからな。前以て知らせておけば、あまり目立たないように力を貸してくれるだろう。ただ、転移魔法は行ったことがあるか正確に位置を知らなければ使えない。つまり、資金を確保した所でリリアスに行くには普通に陸路で向かうしかないんだけど…」


遊緋なら面白がって力を貸してくれるだろう。

そう思いながらも、直ぐにリリアスには向かえない点は痛い。

なるべく早く着いた方が良いのなら、最悪悠一が夜通し空を駆けていって、転移魔法で移動するしかない。

そう言うと、エリスが前向きな意見を出した。


「今のリリアスは、荒れに荒れているという状態ですから、人知れない魔法で到着、なんてことをして目立つのは賢明じゃありませんわ。それに、一刻を争うような問題では最早ないのです。時間が掛かっても、陸路で向かうのが良いと思いますわ」


方向が定まった所で、レグルスが重要な一つの疑問を上げる。


「ただ、盗賊の無力化はどうしましょうか?200人ともなると、気付かれないというのはまず不可能です」


それに対策を講じたのはメリエルだった。

メリエルが可憐に微笑み言う。


「大丈夫です。私が、先に侵入して皆を眠らせてしまいますから」


それに渋ったのは悠一だ。


「…危険じゃないか?」


「悠一様、私もチームの一員です。守られるだけのお荷物になるつもりはありません」


きっぱりそう言い切られると、悠一も反論は出来なかった。


(…最近のメリエルは自分の意見を言うようになってきたな)


悪いわけではない。

寧ろ、綺麗なお人形さんが人に変わってきている…そんな感じだ。

ただのお人形に魅力はない。

悠一と共にいてそう結論を出し、成長しようとメリエルがもがいている証だった。


「では、そのサポートは私がするのですよ。闇の魔法は精神に作用するものが多いですので、眠りやすい環境をつくります」


スピカもそう言う。

悠一も今度は反論しなかった。

二人なりに考えた結果だ。

守られるのではなく、共に戦う。

その為に、スピカが日夜練習に励んでいたのをただ見ていた訳ではない。


「分かった。じゃあ、二人に任せる。二人が無力化した盗賊をラウルとレグルス、モーリス、フリッツで縛り上げて一ヶ所に纏めよう。それを俺が随時運ぶ。エリスは能力を使って根城に近付くものがないか監視してほしい」


「分かりました」


レグルスが頷き、ラウル、メリエル、スピカもそれに続く。


「僕らの為なのにそれだけっていうのも心苦しいんだけど…僕たちはそれで大丈夫だよ」


モーリスとフリッツが頷いたのを確認した悠一はエリスを見る。

エリスは頷きながら、少し考えて口を開く。


「何かあれば、わたくしはどなたに知らせたらいいでしょう?」


「そうだな…」


悠一は少し考えて、満月の存在をバラしてしまうことに決めた。

満月は仮にも魔物なので、エリス達と合流した昨日から馬車の中で留守番状態になっている。

賢い満月は大人しくしていたが、可哀想だと思っていたのだ。

悠一が満月を喚ぶと、満月は直ぐに悠一の頭上に現れた。

目を瞬くエリスに悠一は満月を見せる。


「俺の使い魔の満月だ。賢い兎だから、何とか上手くやるだろう。預けるから、エリスは何か問題があれば満月に教えてくれ。満月が理解すれば、俺も分かるから適任だと思う」


「…分かりましたわ」


エリスは頷いて手を差し出した。

満月はピコピコと尻尾を揺らしながら、エリスの腕に飛び込む。

愛らしいふかふかの満月を少し嬉しそうにエリスが抱くのを見届けて、悠一は頷く。


これがベストだろう。

悠一の魔法では、盗賊達を死なせてしまい兼ねない。

それに、エリスの能力はかなり有用だ。

基本的に大雑把な悠一は、スピカを視た時のように相当集中しないと相手の魔力を測れない上、個別の違いなんて全然分からないのだから。

この世界の住人で魔力を持たない者はない。

エリスは巳夏が地図に搭載した生体反応レーダーより上、正に固体レーダーのようなものだ。

味方なら心強い分、敵方にこんな能力を持たれたらかなり厄介な能力だろう。


「…とりあえず夜までは休憩だな。今の時間じゃ、いない奴が多いだろうから」


皆が頷いているのを確認して、悠一は解散させる。


そして、遊緋と交渉するために、一人ハルシオンに転移した。








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