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渡り人~異界の魔術師~  作者: 李珠
第2章 リリアス
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作戦会議


翌朝、悠一がメリエルと共に朝食を作っていると、目を腫らしているものの清々しい顔をしたエリスが駆け寄ってきた。


「悠一様、メリエルさん、おはようございます」


「うん、おはようエリス」


「おはようございます、エリスさん」


悠一は苦笑しながら、一度馬車に戻り木桶を持ってくると泉から水を汲んで魔法で作り出した氷の欠片を落とした。


「はい。目、腫れてるから冷やしておいで」


「すみません、ありがとうございます」


エリスは恥ずかしそうに笑って、それを受け取った。

余程恥ずかしかったのか、馬車に駆け戻って行く姿を見ながら、メリエルが呟く。


「…元気になったみたいで良かったですね」


「うん、まだ解決出来るかも分からないんだけどな…」


困ったようにそう言う悠一を見ながら、メリエルはクスクスと笑った。


「大丈夫ですよ、悠一様なら。何だって大丈夫です。皆が付いてます」


「メリエル…ありがとう」


メリエルはにっこりと、見惚れるほど綺麗に笑う。


うん、メリエルの笑顔は色んな面で元気になれるな。


「おはようございますです、寝坊してしまったのですよ…っ」


悠一が染々していると、パタパタ駆けて来たのはスピカだった。

昨日は何だかんだ遅くなってしまったから仕方ないだろう。


「おはよう、スピカ。大丈夫だよ、まだラウルは寝てるんだろ?」


「うう、まあそうなのですが…ご主人様もレグルスさんもメリエルさんも働いているですのに…」


面目ないのです…そう落ち込むスピカ。


「じゃあ、スピカちゃんはこれ盛ってくれる?」


メリエルは仕事を与えて気を反らすことにしたらしい。

スピカもほっとしたようにお玉を受け取って、盛り付け始めた。

朝食が終わればとりあえずは作戦会議をしなくては。





今日の朝食はパンケーキと木苺ジャム、グリーンウォーグルのつみれ汁にチーズというメニューだった。

見事なバラバラ具合だが、まあこんなものだろう。

木苺ジャムは、昨日の内に作って煮沸消毒した瓶に詰めたもので、まだ大きめの瓶にたっぷり二本分ある。

エリス達は相変わらず目を白黒させながらも、何も言わないことを決めたらしい。

順応力が高くて何よりである。


朝食が済んで、ハーブティを皆で飲みながら悠一が切り出した。


「とりあえず今の状況を整理しよう。とりあえず問題になっているのは、ラスフルール辺境伯と会えないこと、税金が上がっていること、今まで認可されていなかったものが認可されていること。それに付随して騎士が首になったり、領地が荒れているってことだよね?」


「ええ、大まかにはそんなところですわ」


「辺境伯と最後に会ったのっていつだったか覚えてる?」


少し考えて、エリスが口を開く。


「…今から七ヶ月前ですわね。わたくしのお母様の誕生日が9月なのですが、その時は家族で祝いましたもの。その時は特に変わった様子ではありませんでしたわ。元々父は多忙であまり顔を合わせることがなかったので、あまり不思議に思いませんでしたが」


「辺境伯がその指示を出してるっていう確信はあるの?」


「ええ。わたくしもその事は慎重に調べましたの。残念ながら、父が出したもので間違いありませんでした。書類の筆跡が父のものと同じでしたから」


「じゃあさ、皆で考えてくれる?そんな指示を出さないといけない理由ってなんだろう?」


ラウルが苦笑しながら、口を開いた。


「悠一は何となくこう思うっていうのあるんじゃねえの?」


「あるにはあるんだけど…あってる確信なんてないし、出来れば色んな意見を聞きたい」


肩を竦めると、ラウルは首を振った。


「とりあえず、それ聞いて考えようぜ?」


皆が頷いているのを見て、悠一は苦笑した。


「あんまり先入観持ってもらいたくないから言わなかったんだけど…まあ、いいか」


「俺が引っ掛かってるのは、エリスが言っていた中にあったアルダスの奴隷商人のことなんだけど」


モーリスが同意する。


「僕もそれ気になってた。基本的にリリアスってアルダスのことをあまり良く思ってない人が多くて、奴隷に関してもそれは徹底してた筈なんだ。大体、リリアスはレギトの国境境にある領地で、アルダスからは結構遠いし、お互い旨みもあまりないから、全然交流なんてなかったんだよ」


悠一もそうだろうな、と頷いた。


「俺が気になってるのは、アルダスが使う服従の魔水晶だ」


「悠一様、それは…!」


レグルスが反応するのを、悠一はゆっくり頷いて肯定する。


「それはなんなんですの?」


「服従の魔水晶っていうのは、アルダスが奴隷に入れるもので他の奴隷が入れられている誓約の魔水晶と似ているものだよ。レグルスはアルダスで奴隷にされた経歴がある。俺はレグルスにその事を聞く時に引っ掛かったことがあった。服従の魔水晶と誓約の魔水晶は似ているけど、全く違うものなんじゃないかってね」


ハーブティで咽を潤し、続ける。


「二つの決定的な違いは、服従の魔水晶は基本的に入りっぱなしだってことだ。現にレグルスは俺が壊してしまうまで、服従の魔水晶を入れられたままだった。あれは多分だけど、アルダスのやり方を知っている人間じゃないと取れないようになってるんだと思う。普通さ、売り払うものにそんな余計なもの入れたままにするかな?誰も疑問視してないみたいだったけど、普通嫌だと思うよ。そんな変なもの入れられているの。奴隷なら価値が下げられても文句言えないと思う」


「…結局何が言いたいんだ?」


「服従の魔水晶はもっと危なくてアルダスに利を与えるものなんじゃないかってことだよ。つまり、服従の魔水晶は入れられた本人だけじゃなくて、その近くにいる人間すら惑わすことが出来るのかも知れない。そんなものが入れっぱなしなんて嫌だと人に言わせないことが出来るなら…人の心に関与出来てもおかしくないだろう?その通りなら、辺境伯は同じように魔水晶を入れられて操られているのかも知れないし、今のリリアスにはアルダスの命令通りに動く兵が沢山送り込まれているのと同じなのかも知れない」


「…それがもし本当なら、リリアスはもう終わりですわ」


呆然とエリスはそう呟く。

悠一は首を振った。


「だから、これは俺の推論で「いいえ、きっとそうなんですわ」…?」


エリスがカタカタと震えながらそう言った。


「悠一様、わたくしが最初に話した時に言ったことを覚えてますか?」


悠一はゆっくりその時を思い出す。


「…波?」


「はい。わたくしは元々の爵位を持っていた母と婿入りした父の娘として生まれ、人より高い魔力を持っています。中でも得意なのは、人の魔力を感知すること。わたくしには人の魔力が波のように見えるのです。人によって波は色が濃さが、波紋が違って見えるのでわたくしにはそれが誰のものだか一度見れば分かる」


エリスは首を振った。


「お母様は魔力自体は高いのですが、わたくしのような力はありませんし、弟妹もそうです。こんな力を持っているのはわたくしだけ…。他の家族がお父様に会っていても、わたくしは会えなかった理由はこれかもしれません。魔水晶が入っているなら、間違いなくわたくしには分かります。悟られないためには、わたくしが邪魔だったのでしょう」


フリッツも頷いた。


「先程は言わなかったが、ここ最近エリスお嬢様の周りは不穏でした。領を出なくてはならなかったのは、この事もあるのです。もし、悠一様が仰るように、その魔水晶が他に影響を及ぼすものならば城内のおかしな様子も納得がいく話です。ただ…」


モーリスも首を傾げる。


「ただ、なんで僕らが平気だったのかが分からないんだよね…」


悠一はそのことについては自信があった。


「服従の魔水晶は、魔力を込めた人間より上位の者…つまり魔力が高い者には影響することが出来ない。エリスにモーリス、フリッツは、魔水晶を入れた者より魔力が高いんだろう。現に俺はレグルスの中にあった魔水晶を不快に思って壊しているからな。ただ、そうだな…邪魔なものだと思って調べもしなかったからな…どんなものなのか正確に調べるのは無理だ」


そこで、手を上げたのはメリエルだった。


「リリアスでアルダスの奴隷を買えばいいと思います。今回のことは仮説通りだとすれば、辺境伯の中に入れられた魔水晶を悠一様が壊せば済むことかもしれません。けど、本当にアルダスの陰謀ならそのまま終わることは考えにくいと思います。アルダスの奴隷を出切るだけ買い占めて魔水晶を抜き取ってしまえば、弱体化させることは容易なのではないでしょうか?」


メリエルの演説は素晴らしいものだった。

悠一は感心しながら頷いた。

ラウルが口を開く。


「それに、何がやりてえのかも調べた方がいいかもな。オークションと奴隷商人、あと出来れば城の中。手分けしてきな臭い所は全部調べながら真相を探ればいいかもな」


エリスが困ったように言う。


「ですが、それではお金が掛かりすぎますわ。無論、事が収まればラスフルールが誠意を持ってお支払しますが、当面のお金は…」


そこで、スピカが挙手しながら得意気に笑った。


「大丈夫なのですよ!ご主人様にはいい考えがあるのです」


悠一は苦笑した。

チームの人間には昨夜伝えてあることがある。

レグルスも頷いた。


「彼らには申し訳ないことですが…、盗賊を一掃させてしまえば問題ないかと」


悠一も溜め息を吐きながら同意する。


「じゃあ元気に盗賊狩りに行きますか」


仮説は仮説だが、調べていけば例え真相が違っても気付くことができるだろう。

とりあえずは、資金作りに向かって、全速前進だな。


「因みに盗賊狩りっていつ行くの?」


悠一が問い掛けると、メリエルがにっこりと微笑んだ。


「早い方がいいでしょうね。悠一様、頑張って下さい」


悠一は遠い目をする。


「うん…じゃあ、ちょっと行ってくるから」


「はい。問題が片付いたら、また夜のお散歩連れていって下さいね」


餌までぶら下げられては走らない訳にはいくまい。

悠一は巳夏の地図を片手に空へ舞い上がる。


根城ってどこにあるんだよ…!


こうして、悠一の盗賊探しの幕は上がったのだった。

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