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渡り人~異界の魔術師~  作者: 李珠
第2章 リリアス
22/42

野営の準備をしましょう


泉に辿り着いたのは、日が完全に落ちる寸前だった。

隣をエリスの馬車が走っているので、いつも通りという訳に行かなかったのだ。

隣の豪奢な馬車と並走していて、悠一は改めてケルピーの脚力に感心する。

貴族の所有する馬というだけあって、毛並みも良く、けして鈍足という訳でもないだろうに、ケルピー達はそれを全く寄せ付けない。

悠一達だけならば半分の時間も掛からずここまで来れただろう。

尤もそれを咎めるつもりではない。

人前で出していいスピードが分かり、却って勉強になったと思っている。


着いて早々、各人で野営の準備を始める。

エリス達の馬車は近くにない。

どういう訳か、エリスは泉を間近に言いづらそうに反対側に停車させると言ってきたのだ。

遠くでは分からなかったが、泉というより湖に近い大きさなので、ここからエリス達の馬車は見えない。

聞かれず話したいこともあるのだろう。

何となくそう推し量って、悠一は無理に反論しなかった。

正直、魔物でも出たらどうするんだろうという思いはあったのだが。


まあ、食事時に合流すれば問題ないだろう。

どう見ても彼らはろくな食糧を持っていないのだから、一緒に作るのは当然のことだ。

向こうもそう思っているか分からないということを、悠一はすっかり忘れていたのだった。





慣れない野営の設定はラウルとレグルス、それに満月に任せ、悠一はスピカとメリエルを伴い夕食の準備に取り掛かる。


「悠一様、拾ってきましたよ」


「ありがとう、メリエル、スピカ」


たくさんの小石を抱えて二人が戻ってくる。

悠一は一旦下拵えの手を止めて、石を受け取った。

本で予習した通りに適当なサイズの石を積み上げて、簡易のストーブのようなものを作ることにしたのだ。

悠一は二人に拾ってきてもらった石を積み上げ、中に昼間スピカが集めてきた枯れ枝を組み入れて火を起こした。


「御主人さまは生活魔法も使われるのですね」


感心したように後ろから覗き込んでくるスピカ。

まだ始まったばかりだが、面目は無事守られたようだ。


「まあな。便利だろ?」


そう言って笑うと、何故かメリエルが後ろからダイブしてきた。

背にまろい何かが当たる。

メリエルは分かっているな。

頑張るよ。


「悠一様、素敵…」


笑ったせいだろうか。

何かよく分からないが、素敵ならまあいい。

自分のことが今一つ分かっていない悠一は身を反転して、メリエルを抱き寄せる。

悠一は基本的に表情が固い。

涼しげで賢そうな顔立ちも合間って、非常にクールに見えがちなのだ。

実際は全くそんなことはないが。

そんなことには気付かないまま、悠一はメリエルの額に唇を寄せた。


恥じらい?

そんなもの犬に食わせとけ。


「メリエルは今日も可愛い」


いちゃつき始めた二人をスピカが羨ましそうに見ていた。

旅に出るまでは毎日致していたが、流石に旅中に一緒に寝ることは出来ないため、せめていちゃつくくらいは、と連日こんな調子だったのだ。

途中からは溜め息を吐きながら、スピカは山菜の下拵えを始める。


うん、バカップルでごめんな。


生活魔法は他の魔法と違い、魔力は然程掛からない。

だからといって使用人口が多いかと言えば違う。

魔法は結局イメージなので、生活魔法ごときとはいえ、使える人間は少数だ。

おまけに魔法使いは貴重な魔力をこんなことには使いたがらないようで、労力を割いてまで覚える価値もないと思われているらしい。

便利なのにな。


簡易のコンロを作ると、魔法を使って小ぶりの鍋を水で満たし、同じように石を積み立てたもう1つには網を敷く。

色々考えたが、調味料関係は不味い。

日本から持ってきた数々の調味料は仕方がないので、とりあえず封印だ。

使って可笑しくないのは塩と香辛料だけだろう。

そう判断した悠一は、黙々とグリーンウォーグルの股肉を短刀で一口サイズに切り分け、竹に似た枝を削り出して作った串に打っていく。

その肉を網に並べ、塩と胡椒を小さな石臼で砕き混ぜ振りかけてじっくり焼く。

その隣でケルピー用の肉も一緒に炙った。

メリエルとスピカの二人は、覚えたての飯盒炊爨で米を炊いている。

鍋の方には、グリーンウォーグルのガラを投げ入れ、採取した野生のきのこと山菜を追加し塩で味を整えた。

本当はだしをきちんと取りたいところだが、時間もそう掛けられないのでそういうわけにもいかない。

いつもよりあっさりした味のスープと、旨味がたっぷりの焼き鳥、主食には塩を効かせた握り飯を作って食事の準備は完了した。

塩味ばかりなのは仕方ないだろう。

メリエルとスピカが握った不格好なおにぎりが何とも愛らしい。

デザートには凍らせた木苺もあるし、何とか形になったと思う。

米と塩はレギトの特産品だ。

行ったことがないので然程詳しい訳でもないが、レギトは日本に相当似ているように思う。

主食は米であるし、海沿いに細長い国で、塩は勿論、海産物も多く採れるらしい。

出身地と偽っているせいもあるが、一度行ってみたい国だ。

お陰でそれらの品は、レギトとの距離がそれほどないハルシオンに数多く輸入されていた。

旅先で調理するなら、ファーレンで主食の小麦より余程使い勝手がいいため、かなりの量を買い込んである。

日本の米ほど旨くはないが、まあ普通の米だ。

無論、精米技術は低いため、悠一は魔道具で精米し直してから使っている訳だが。

二人は食べたことがなかったようだが、ここ数日で特にメリエルが悠一好みの食事の作り方を研究してくれているため、米を炊くくらいは余裕らしい。

主人名利に尽きる話だ。


「悠一、テントは張れたぞ」


「お、ありがとう。こっちももういいぞ」


「うお、ホントだ。早くねぇ?」


レグルスとラウルが戻ってくる。

満月は躊躇いなく定位置である悠一の頭に飛び乗った。

既に完成している食事を見てラウルは大げさに驚いている。

レグルスは気が利く男なので、エリス達がいない内にケルピーに肉を与えに行った。


「そっちのテントが多かったせいだろ」


悠一が肩を竦める。

いつもなら馬車の中で適当に仕切って雑魚寝だが、拡張魔法が使えないので、テントは全部で三つ立てている。

満月も土に埋まった砂利の排除に貢献したようだ。


見れば、馬車の周囲は更地に近い地面になっており、そこに白っぽい麻のテントが張られていた。

日本の物とは比べ物にならないが、この世界では一般的な辛うじて防水と防風の魔法が付与されたものだ。

自分で幾らでも弄れる悠一はただの安い麻のテントを購入して、自分で魔法を掛けた。

魔術師の中でも、こういったアイテムに魔法を付与する付与術師は貴重な存在なため、こんなちゃちな付与魔法でも掛かっているだけで金額が跳ね上がるのだ。

一般的でないという理由で、空間拡張はしたいが自重した。

テントの中を確かめて感心する。

悠一が自分で立てようとしなかったことからも分かるだろうが、このテントは日本のもののように誰でも扱えるような設計じゃないのだ。


なるほど、立つとこんな風になるのか。


今度は立ててみよう。

そう思いながら、悠一はテントから這い出す。


「じゃあ、エリスさん達に声かけてくるよ」


悠一はそう言って立ち上がると、レグルスが頷いて馬車から木の器を選んで持ってきた。


「では人数分取り分けますね」


「うん、頼んだ」


レグルスは仕事が丁寧なので、戻ってきた時には綺麗に配膳されているだろう。

悠一は泉の反対側に停車している馬車に足を向ける。


「…まあこういうのも面白いよな」


悠一は振り返って、わいわい賑わう様子を見ながら微笑を浮かべる。


直ぐに着くつもりだったエリス達の馬車は、意外と遠くて結構大変だったのはここだけの話である。

場所くらいは確認しておけば良かった。


…とりあえず、場所は移動させよう。

流石に話は終っただろう。







「エリスさん、食事出来ましたから一緒に食べませんか?」


コンコン馬車の扉を叩きながら悠一が声を掛けると、少し疲れた様子の三人が馬車から出てきた。


「一緒に食べません?」


そう言って反対側を指し示すと、エリスは困ったように首を振った。

悠一は失念していたが、元々彼らは食事を無心する気はなかったらしい。

それを配慮しての馬車の停車だったのか。


「荷馬車を失ったとはいえ、一応最低限の食料はこの馬車にも積んでおりますの。泉を見つけて頂いただけでも有り難いのに、これ以上ご迷惑は掛けられませんわ」


モーリスとフリッツの二人もエリスの意に反論はないらしい。

二人とも静かにエリスの両隣に佇んでいた。

悠一は困ったように頭を掻く。

そうか、悠一の意図を彼らが理解して甘受してくれるとは限らないのだ。


「迷惑なんて思いませんから大丈夫ですよ?」


「…悠一様はそう言ってくださっても、他の方は…」


そう言う弱り果てたエリスを見ていて、悠一は申し訳ないことをしたな、とぼんやり思う。

エリス達はやはり悠一達が気を使わないようにわざと離れて停まったらしい。

勢いで頼んだものの、状況が整理できてから悠一達に迷惑しか掛けないことに気付いて途方に暮れていたということか。

最初からそういうつもりなのだと思うべきでなかったなと反省する。


「そんなことを迷惑なんて言う人はいませんよ」


「…今のわたくしにはその恩に報いることも難しいのです」


あくまで頑なに首を振るエリス。

育ちの良さに感服だ。

録な食料もないだろうに、見返りもなく助力を受けることが許せないらしい。


どうしたものかと悠一は天を仰ぐ。


失礼だが、最初から見返りなんて求めていなかったし、食料がないだろうことにも、彼らだけでは他の町に生きてたどり着くことは無理だということにも悠一は気づいていた。

更に言えば、エリス達がそんなことに気付いていないとは思ってもみなかった。

そんな危うい様子でないなら、話なんて聞かずにとっくに離れていただろう、とは今更言い出せない暴言だろう。


さっきの盗賊との戦いを考えると、護衛の二人だって弱くはないのだろうが、悠一が旅路に誘うほどの腕はない。

訳がありそうで、放っておいたら死にそうで、それでいいと思えないから今一緒にいるのだ。

一種のボランティア感覚で話を聞くことに了承したのだから、こんなことは今更な話なのだが、エリス達はここに来てそれを気にしているらしい。

困ったことだ。

悠一は一つ溜め息を吐いた。


「…なら言い方を変えるか。俺たちだけで食べるのも気が引けるから、一緒に食べようエリス。ここにいるのは、伯爵令嬢のエリェニエスカじゃなくて、ただのエリスだ。そういうことなら、まだいいだろ?」


許せないのが貴族の矜持というなら仕方ない。

正直金なんかどうでもいいが、それが一番安心できるんだろう手段は今のエリスは使えない。

普通の物見遊山中の令嬢がこんな状況に陥ったのなら、送れば金なり何なりと要求して後腐れもなかったのかもしれないが、エリスは恐らく実家を飛び出してきている。

そして、持ってきていた財産の殆どは騎士数名を含め既に盗賊に襲われた際に無くしている。

他に何か交渉手段があるなら、閉じ籠って会議をする必要はなかった筈だ。

つまり、今のエリスは食事に対する見返りも用意できないような身の上なのだろう。

なら悠一がしてやれるのはこれしかない気がする。

ただの少女を庇護した。

そういうことにすることだ。

詭弁だろうが、他に納得させられる手段が悠一には考え付かない。

食糧があるといっても直ぐに尽きる程度だ。

王都に本気で行くのは勿論、一番近くの街までさえ持つか怪しいものだ。


「悠一様…」


「悪いけど、これで納得してくれない?俺もね、君達に死なれる方が寝覚めが悪い。君達をそういう風にも扱わない代わりに庇護してあげる」


敢えて偉そうに言う。

エリスは迷いながらも、深々と頭を下げた。

後ろの二人もそれに倣う。

内心は知らないが、保身を選んで文句を言わない彼らに悠一は安堵する。

面倒な奴がいれば、悠一だっていつまでも寛容な態度ではいられないだろうから。


「すみません、よろしくお願いいたします…!」


「うん、よろしく。じゃあとりあえず食事をしよう。…話は、食事の後に聞くから」


「でも…」


話をすることにも躊躇いが生まれたらしい。

悠一は溜め息を吐いてきっばりと言う。


「話を聞かないと君をどうしたらいいのか分からないから、話してもらうよ。それから、どうするかはまた別だけど」


「…はい」


エリスは涙を浮かべて、おずおずと首を縦に振った。


悠一は馬車ごと移動するように指示する。

聞かれたくないこともあるかと許していたが、あんな場所に居られたのでは何かあった時に対処しづらいからだ。

フリッツが御者台に乗り、馬車を進める隣を三人で歩く。

悠一という庇護者を得てからのエリスは非常に大人しい少女だった。

なんというか、多分あの指示も無理をしていたのだろうな、と思わせるくらいの従順ぶりだ。

歩くエリスのドレスを視界に入れて悠一は嘆息する。

連れて歩くには目立ちすぎるのだ。


…この子の服どうしようかな。


「エリス、他に服はないの?」


意図に気づいたのだろう。

恥じ入るようにエリスは顔を伏せた。


「似たようなドレスなら何枚か…後でお話することになりますが、わたくしは今まで城を出たことがなくて…。お恥ずかしい話ですが、旅に出るというのに相応しい服を用意できなかったのです…」


フリッツとモーリスが制服を着ているのも似たような理由らしい。

彼らは男爵家と士爵家のお坊っちゃまで、エリスの幼馴染みのようだ。

今回、とある理由から出奔を決めたエリスに付いてきてくれたのも、そういう経緯があったかららしい。

しかし、仮にも貴族な二人は、私服の方がきらきらしい、という有り様だったため動きやすいような服は制服しかなかったのだ。

この世界では旅をするのは商人と冒険者だけ、と言われるくらい旅をする人間は珍しい。

適当に見繕うにも、買いに行かせる味方もおらず、目立つわけにはいかなかったため、服は仰々しい物しか用意できなかったし、夜中に馬車を出す羽目になったということだった。


よく無事にあの位置まで移動できたな、と言うとエリス達は顔を曇らせた。


「…一緒にいた二人は覚えておりますか?」


「ああ、早々に倒されていた男たちだろ?」


「はい。わたくし達が服屋へ行くのはおかしくても、ギルドへ行くのはそうおかしいことでもないのです。彼らは、領を出る時にギルドで雇った冒険者だったのですわ。王都まで、というのは無理でしたが、領を出てから一番近い町までの案内を依頼しました。元々、領から出たことがあるという者があまりいなくて。…わたくしは人を見る目がありませんね。唯一行ったことがあるという話を鵜呑みにして、彼らに頼む運びとなったまでは良かったのですが…」


後をモーリスが続いた。


「一番最初におかしいと気付いたのは多分僕です。ろくに領外に出たことはありませんでしたが、王都に行くなら南下しなくてはいけないというのは殆どファーレンでは常識ですから。領から出て暫くして、何となく方位計を見たら、やっと若干北上していることに気付いて馬車を止めさせたんです。そしたら逆上されて…フリッツが直ぐに御者台の冒険者を何とかしてくれなかったら、多分皆死んでいたと思います。もう1つの馬車は他の冒険者が二人乗っていましたから諦めて、僕が御者台に乗ってすぐこの馬車を走らせました。そしたら、あの盗賊が出てきて。馬が驚いて止まってしまったので、戦うしか道がなくなって、ただでさえどうにもならない状況だったのに、どうやったのか冒険者の二人も追い掛けてきたんです。あまり覚えていませんが、盗賊と話している感じから言って、多分ぐるだったんだと思います。…あいつらだけはどうしても許せなくて。話している後ろから僕が冒険者の男を刺しました。そのあとは悠一様がいらっしゃった時に見た通りです」


何となくだが、その盗賊とぐるだった冒険者は風魔法の使い手なんだろうと推察する。

悠一のようにケルピー並みの馬力、とは言わなくても普通の馬程度に加速するのはそれほど難しいことではない。

攻撃魔法を使えなかったらしいことは不幸中の幸いだ。


「あそこに至るまでの道は、極端に魔物が少なかったように思います。常用しているからなのか、どうか分かりませんが…」


多分彼らのいつもの手だったのだろう。

悠一もよくは知らないが、貴族に手を出すのは中々いい根性だという認識くらいはある。

まさか初犯ということはあるまい。

だから、無駄に整備されていたのだ。

そう思いながら、悠一はとあることに気付いた。


「冒険者って何人だったんだ?」


「三人でしたわ。どうしてでしょうか?」


「いや、だったら、馬車はまだその場所にあったんじゃないのか?」


エリスは首を振った。


「今のラスフルール領は騎士を使って治安を守ることが上手くできていないのです。そのせいで盗賊が近くに増えていることは知っていました。今回のことは、私たちを襲った者だけではないでしょうから、馬車はもう奪われていると思います」


「盗賊のアジトみたいなものがあるってこと?」


「恐らく…」


「そうか」


なるほど、盗賊はあれだけじゃないらしい。

それもそうかと思い直す。

全員で掛かるなんて小悪党なら、そもそも冒険者の依頼をだしにしたりはしないだろう。

偶々通りかかった馬車を襲うのが関の山だ。

意外と大きい盗賊団があったりするのかもしれない。


潰したらいくら手に入るだろうか。

恐らく被害に遭っているのはエリス達だけではない筈だ。

打算的で申し訳ないが、この先を安全に進むためにも、資産を奪うためにも、盗賊の殲滅は利に敵っている。

金は無心するほど必要な訳じゃないが、あって困るものではない。

それに、馬車を取り返して財産が戻ってくれば、エリス達だってこんなに肩身を狭い思いをしなくてよくなる筈だ。


(あとで、ラウルにも相談してみるか…)


到着して、居場所なさげにおろおろしている三人を簡易な椅子に座らせる。


「レグルス、ありがとな。わざわざテーブルまで用意してくれたのか」


「あった方が並べやすかったので」


レグルスはそう言って微笑み、悠一にハーブティを手渡す。

戻ってみれば、木の簡単なテーブルと椅子が拵えられていて、一見キャンプに来たような雰囲気が出来上がっていた。

食事は既にテーブル一面に並んでいる。

グリーンウォーグルの焼き鳥にキノコと山菜のスープ、おにぎりに木苺。

更に待っている間にメリエルとスピカが追加で作ったらしいジャーマンポテトのようなものも乗っている。

呆けている三人を視界に入れて、悠一は苦笑した。


「…まるで、ちょっとした宴会場ですわね」


辛うじてエリスがそう感想を絞り出した。

後ろではモーリスとフリッツが未だに立ち直れず絶句していた。

言い過ぎな面もあるだろうが、やはりこのチームの食卓は豪華すぎるらしい。


「まあ、そう言って差し支えないだろ。エリス達を歓迎する宴会だ。とりあえず、楽しめよ」


そう言って悠一が音頭を取ると、ささやかな宴会は始まった。


実際は、エリスの言い過ぎでも何でもない。

肉と果物は基本的に高価なものなのだ。

勿論安いものがない訳ではないが。

悠一にその自覚がないのは、ハルシオンで滞在していた食卓のせいである。

あそこは悠一がそうなのかな、と首を傾げていた通り高い宿だ。

普通の宿の三倍は掛かっている。

レグルスとスピカが最初に目を白黒させていたのも、ラウルに規格外だと言わしめたのも、そんなことも絡んでいるのだ。

そんなズレを理解しないままなのは、よくも悪くもそんな悠一の感性を尊重してしまう周りのせいかもしれなかった。



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