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渡り人~異界の魔術師~  作者: 李珠
第2章 リリアス
21/42

訳ありご一行様


「ありゃ、盗賊だな…!」


駆け始めて程なくして見えた人影に、ラウルがそう呟く。

バンダナに小汚ない防具、風貌。

分かりやすい盗賊スタイルの男たちに囲まれた馬車は一目で高級品だと分かる。

盗賊の奇襲に応戦しているのは二人だけで、さっきケルピーが二台と言った馬車は既に一台しかない。

結界系の魔法でも掛かっているのか、未だに馬車への進入は許してないが、馬が完全に強硬状態で動けそうにはなさそうだ。

五人の内二人は既に倒されたようで、地面に転がっている。

遠目に転がる二つの人らしき影を確認して、悠一は顔をしかめた。

覚悟を決めたって、人がやりあっている様は見ていて気持ちのいいものではない。


「悠一、どうする?」


こんな光景を見れば真っ先に突っ込んでいくと思われたラウルは意外にも冷静だ。

怪訝な顔をしていたのだろう。

ラウルは肩を竦めた。


「あんなハデな馬車で護衛もろくに付けてないんじゃ半ば自業自得だろ」


ラウル、お前意外と冷たいな。

いや、いいんだけども。

悠一は少し考える。

うん、見捨てる方が後で嫌な思いをするだろう。


「…そうだな。倒してやる義理はないが、助けてやるくらいは親切の範疇だろう?」


そう判断して、悠一駆けたままその辺に的を絞って地面を陥没させる。

遠すぎて若干的が外れたらしい。

騎士は巻き込まれなかったが、落とす筈の盗賊が何人か残っている。

仕方がないので突風を起こして彼らを凪ぎ落とす。

残っていた盗賊達は、叫びながら穴に転がり落ちていった。

叫び声の長さから言って、思ったより深く掘れていたようだ。

何人かは落ちた際に天に召されたような気がしてこなくもない。


…やり過ぎたか。


「…これなら自然災害に見えるだろ」


「…どうかな」


悠一はそう言って誤魔化す。

ラウルは微妙に反論しつつも目が虚ろだ。

悠一の初体験はあっさり幕を下ろした。


…覚悟しなくたってその内殺してた気がする。


そして、隣で走っているラウルが暫し沈黙を守った後、ぽそりと呟く。


「…相変わらず、悠一の魔法は怖えよ…」


敵に回したくねぇー。


「…」


そのいい様はヒドイ。

そう言えば、前に見られた魔法も録なのじゃなかった。


…怖くて悪かったな!






「大丈夫でしたか?」


あたかも、突然陥没した地面に驚き心配しながら駆け寄った風を装って、悠一達は落とし穴に落ちないように気を付けながら馬車に近づいた。

騎士のような格好の男たちは剣を構える。


勇ましいのはいいが、あちこち怪我してるのに大丈夫なんだろうか。


悠一とラウルは顔を見合せ、肩を竦める。


「お止めなさい」


騎士が口を開こうとした途端、高級馬車の扉が勢いよく開いて銀色が飛び出してきた。


「お嬢様!?」


銀色の影は少女だった。

おおよそ旅装束には程遠い蒼のかっちりとしたドレスを纏い、砂避けの淡い水色のベールを被っている。

気の強そうなペリドットのキラキラした瞳が、何だか見透かされそうな雰囲気を醸していた。

健全な占い師、といった装いである。


慌てる騎士に彼女は詰め寄った。


「フリッツ、モーリス、剣を納めなさい。助けて下さった方に無礼だわ」


彼女はキッパリそう言い切ると、悠一に向き直った。


「申し訳ありませんでした。わたくしはラスフルール辺境伯が娘、エリェニエスカ・ラスフルールと申します。お助け頂き有難う御座いました」


さらさらの銀髪の少女は、見とれるほど綺麗な礼をした。

盗賊に襲われたばかりなのに冷静なことだ。

二重に助けて頂き、と強調され悠一は困惑する。


彼女は馬車の中にいて、いくらガラス製の窓が有るといっても日本のガラスほど技術がないこの世界のガラスでは録に戦況など見えなかった筈だ。

それに加えて、悠一が魔法を放ったのはかなり遠く。

端から見れば勝手に地面が陥没したように見えた筈なのだ。

というか、見えてくれてなきゃ困るんだけど。


…やはり血を見る覚悟で戦うべきだったろうか。


あまり追及してこない人達であることを祈る。


「…ご丁寧にどうも。私は名足悠一、そちらの男はラウルと言います。様子がおかしいようだという仲間の話のもと、偵察に来ていた際に地盤沈下に巻き込まれたように見えたので、慌てて駆け寄ったのですがお怪我がないようで安心しました」


きっと勘違いだろう。


そう祈りを込めて、地盤沈下を強調しながら、悠一は愛想笑いを張り付けて彼女に倣って軽く頭を下げた。


(うさんくせー!)


隣から余計な小声が聞こえてきたので、彼女に見えないようにどつく。

付け焼き刃の作法が余計胡散臭さを増していることは、自分でも何となく分かっている。


礼儀作法とか知らないんだって!


彼女はふふっと上品に微笑む。


「まあ、謙虚な方。でも、わたくしには分かりますのよ。魔力にはそれぞれ特徴がありますもの。先程穴が空いた時に感じたのは、確かに貴方の魔力の波でしたわ」


いきなり電波なことを言い始めた。


魔力の波?

どういうこと?


ラウルを見るが、黙って首を振られる。


まあそうだよな。

ラウルは魔法使わないし。


「助けて頂いてこんなことを言うのも申し訳ないのですが、私共の話を聞いて頂けないでしょうか」


彼女は真剣な眼をしてそう言う。

悠一はラウルと顔を再度見合せた。

時間はもて余してる身だからな。

上から言われれば腹もたったかもしれないが、彼女はあくまで低姿勢だ。

聞いて欲しいと言われて断る理由もない。

悠一はとりあえず同意を示した。


「いいですよ。ただ、仲間を待たせているので、とりあえず合流してからでも宜しいですか?」


「大丈夫ですわ。ありがとうございます」


彼女は頷く。


「とりあえず、彼らはどうしますか?」


悠一が死体と穴を指し示すと、彼女は静かに首を振った。


「盗賊は本当なら奴隷として売り払った方がいいのでしょうけど、連れていくのは無理ですから。他の人が襲われても困ります。…フリッツ、モーリス、彼らを始末して。悠一様、そこの死体の彼らはわたくしの部下ではないので共に置いて行きます。…後で話しますわ」


「そうですか」


悠一は物分かりがいいふりをして頷いた。

仕方ないのだと思う。

第一、転移すれば出来ないこともないのに、悠一は盗賊のために身売りする気にはなれないのだから同罪だ。

この世界では盗賊を殺した所で罪にはならないが、気分的なものである。

彼女が悲しげなことも、悠一に仕方ないのだと思わせたように思う。


気絶したままの盗賊を二人の騎士が始末し、死体を穴に放り込んだ後、悠一は迷った末穴を塞いで地に埋めた。

土の魔法は先程も見られているから問題ないだろう。


それを見届けて、先程の悲しげな雰囲気を払拭するかのように、明るく彼女は手を打った。


「ではこの馬車でそちらへ向かいましょう。フリッツ、モーリス、外の警戒を頼むわ。悠一様、どちらへ向かえばいいかしら?」


既に一緒に行くことは決定しているらしい。

待っていたようなものだし、別にいいけど。

悠一達がいない間にまた襲われでもしたら気の毒だ。


…だが、様付けは頂けない。

メリエル達は兎も角、彼女は貴族だ。


「訳ありって感じか?」


「多分な」


ラウルが耳打ちしてくる。

悠一は同意した。

いくらなんでも、供の人数が少なすぎるとは思ったのだ。

彼女に聞こえないように言葉少なにやり取りしながら、悠一とラウルは馬車に乗り込んだ。






乗り込んで早々、悠一は頭が痛くなった。

けして乗り心地のせいではない。

自分の価値観のずれを目の当たりにしたせいだ。


(狭い…)


分かりきっていたことだが、この馬車は見た目と中身が変わらない。

当たり前のことなのだが。

寧ろ本当は外見を裏切らないゴージャスな造りとか、少ない振動とかに感動すべき所なのだろう。

だが所詮この世界水準のゴージャスだ。

悠一の馬車とは比べるまでもない。

自分の贅沢癖が恐ろしい。


「せま…」


隣で口から滑り出しそうになっている男を再度どつく。

手振りで“ごめん”と言っているのが分かるが、序でにもう一度どついておいた。

ラウルが静かに悶絶している。

どうやら急所に入ったようだ。


…迂闊すぎだっつの。


「わたくしのことはエリスとお呼びください」


一発じゃ名前が聞き取れないし覚えられない名前の主は、そう寛大なお言葉をくれた。

慣れているのだろう。


いや、助かるよ。

正直覚えられなかったし。


エリスは、ここから一番近い領地からレギト王国の国境までを治めるラスフルール辺境伯の一人娘だという。

辺境伯っていうのは、国境の重要な地区を治める貴族の事で、ファーレンには結構沢山いるらしい。

まあ、デカイ国だしな。

国境も多かろう。

地位としては上から国王、大公、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、士爵なのだが、辺境伯というのは侯爵と伯爵の間程度の権力を持つという話だった。

多すぎて、どれがどのくらい偉いのかがよく分からない。


流石に王様がものすごく偉いことは分かるけど。


精々五キロくらいの道のりだと告げると、録に話が進まないと理解したのか、エリスも今すぐ先程の話をするつもりはないらしい。

自分達は王都に向かっていた、といい、悠一達は何のために旅をしているのかと聞かれて、冒険者なのだと身分証を提示したら納得したように色々教えてくれた。


そうだよな、俺この身分証明書じゃ外国人だし。

…隣に生粋のファーレン人なのに知らなかった奴もいるけどな。


件のラウルは、半ばだらけている悠一と違い、ビシッと背筋を伸ばしている。

ラウルは元孤児で、ハルシオンの領主ドリュス伯爵に拾われて孤児院で育ったという経歴があるため、どうも貴族そのものに頭が上がらないらしい。

見ていて面白いけど、ちょっと緊張しすぎだと思う。


…俺がラフ過ぎるのか?


「悠一様、あの馬車で宜しいでしょうか?」


「ええ。恐らくいきなり近付くと警戒するでしょうから、先に降りて話をしてきますね」


そう言って悠一は自分の馬車に戻る。


「おかえりなさいませ、悠一様」


ケルピーを撫でてお礼を言い、御者台に座って槍を構えていたレグルスにヒラヒラと手を振る。

レグルスが顔を綻ばせて近付いてきた。


「只今。特になにもなかった?皆は中?」


矢継ぎ早にそう言うと、レグルスは頷きながら中を指差した。


「ええ。魔物が数体出た以外は特になにも。満月により既に解体されて中に置いてあります。二人は悠一様がいないことが落ち着かないようで、馬車の周りをうろうろしていたので、危ないから中に入らせました。…悠一様がお戻りですよ!」


レグルスがそう声を張ると、メリエルが真っ先に飛び出してくる。

余程心配してくれていたらしい。


「怪我、怪我してませんか!?」


必死な様子で心配してくれているメリエルを軽く抱き締める。


「大丈夫だよ、メリエル。三人とも聞いてくれ。客がいるんだ。…まだ何も聞いてないけど、もしかしたら仕事になるかも」


出遅れてしょげているスピカの頭を、メリエル越しにぽんぽん撫でる。

忘れるな、と言わんばかりに頭によじ登る満月。

自己啓示欲の激しい兎である。

可愛いからいいけど。

悠一は満月の背をひょいとつまみ上げて、満月の頭も撫でてやった。

ふわふわの温かな手触りが気持ちいい。


「大丈夫だって、満月を忘れた訳じゃないよ。解体ご苦労様」


きちんと労ってやると、満月は満足げに腕の中で丸まった。


「何かあったのですか?」


「盗賊に襲われていたから、助けた。ああ、俺は怪我してないから。その人達の話はまだ聞いてないんだけど、どうも訳ありみたいなんだよな。どうするかは決めてないけど」


盗賊、と言った途端また青ざめたメリエルに悠一は弁解する。

レグルスは何か考えているようだ。


「…私達はどうしたらいいですか?」


「とりあえず、全員で話を聞こうと思う。もう少し行ったらちょうど良さそうな泉があるみたいだから、そこで夕食がてら話そうか」


「御主人さま、食事はどうするのですか?」


スピカが首を傾いだ。

そうだよな。

彼らと食事を摂るなら普通に用意しなくては怪しまれるだろう。

悠一は一つ溜め息を吐いて宣言する。


「不自由させて悪いけど、普通の旅と同じような感じにしないと駄目だな。そんなことで怪しまれても困るし」


悠一の嘆息とは裏腹に、皆は張り切っていた。


「大丈夫ですよ。私は元々森に住んでいたので、その方が慣れてます」


「たまにはそういうのも面白いと思うのですよ。薪集め頑張るのです!」


「そういうことでしたら、食材も採集してきますね」


「…おお」


そうか、皆こういうの慣れてるのか。

なんやかんや俺が一番箱入りだな。

みんなが頼もしくて何よりだよ。


…とりあえず、約たたずのレッテルを貼られない為にも、習得したばかりの生活魔法は出し惜しみせず披露しよう。


「…じゃあ話してくるから移動するか」


その後、山に引き返して銘々色んなものを集めてきてくれた。

誰も入らないせいで半ば無法地帯で魔物の巣窟な山で手に入れてきてくれたものは、中々貴重なものも多かった。

中でも一番嬉しかったのは、メリエルが摘んできてくれた黄色く熟れた大きな篭たっぷりの木苺だ。


そうか、今まだ春だもんなー…。


ここに来て以来、あまりそういうことにまで気が回っていなかったので、何だか染々する。

旅の目的に散策もプラスしておこう。











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