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渡り人~異界の魔術師~  作者: 李珠
第1章 ハルシオン
10/42

魔術師ギルド


朝食を摂ると直ぐに宿を出る。

宿を出た悠一は、真っ直ぐ魔術師ギルドを目指していた。

髪の色を変えるアイテムを手にいれる為だ。

何時までもフードを被ったままではいられないので、相応の染め粉なり魔道具なりがあるなら購入しておきたい。


南門で身分証を提示し、門内に入る。

魔術師ギルドは門内北区のメイン通りにあった。

教会だと言われても納得出来る、静謐な佇まいの建物だ。

尤も、ハルシオンに教会はない。

教会も神も、ハルシオンには存在しないものなのだ。

魔術師ギルドの拠点は美しかった。

天井が高く、ステンドグラスが外からも見える場所に嵌め込まれている。

その大きさと美しさが、魔術師ギルドが特別であると周りに知らしめているようだ。


(そもそも、立地が全然違うもんな)


冒険者ギルドは下町のある南。

魔術師ギルドは貴族階級が暮らす北。


幾つかの世界を渡っていて気付いた事がある。

魔力の有無と才能はまた別物なのだ、と。

魔法が使えるほど魔力を持った人の中で、使えるようになるほどの才能を持っていて努力出来る人間というのは意外に少ない。

そのせいか、この世界に限らず魔術師は基本的に特別視される傾向にあるのだ。

時には神のように、時には悪魔のように。

この街に限って言えば、立地などを鑑みると多少優遇されている帰来はあるが、対応はあくまで普通である。

その事に少しだけ安堵した事は否めない。

魔法が多少使えるという以外は、悠一は自分を凡庸でつまらない人間だと信じていた。

だからこそ、必要以上に持ち上げられる事も、恐れられる事も好きではなかったのだ。


魔術師ギルドの中に入ると、教会というよりは一流のホテルのような雰囲気だった。

床もカウンターも白い大理石で出来ており、赤い絨毯が敷き詰められている。

入り口間近に、金粉で彩られた天使の彫像が置かれていた。

解説文を読むと、ヴィーラという精霊だと書かれている。

森のニンフと呼ばれる美しい精霊で、おとぎ話の主人公として親しまれているそうだ。

周りを見ればヴィーラだけではなく、様々な彫刻が至るところに置かれていた。

そして。


「…肖像画?」


目についたのは、カウンターの後ろにある壁だった。

額縁の中に、すっきりとした顔立ちの深い紺の髪と瞳を持つ青年がいた。

端麗。

そんな言葉が似合う。

肖像画とは言え、この世界においては来て初めて似たような色みを持つ人間に出会った。

真っ黒なローブを纏った彼は、椅子に腰掛け、青い背表紙の本を読んでいる。


(…創立者か何かか?)


首を捻りながら、正面のカウンターから目を外す。

左奥に木製の扉、右は広々とした空間が広がっていて、魔道具と思わしき物が陳列している。

覗こうかと思って、昨日の話を思い出し踏みとどまる。

会員になれれば、安く売って貰えると言っていた筈だ。

カウンターに改めて目をやると、等間隔に並んだ色とりどりのローブが目に入る。

鮮やかなオレンジ、スカーレット…どうにも女性が多い。

悠一はフードを目深に被ったまま、一番地味なローブを纏った女性に歩み寄った。

彼女の前には“クラン”と書かれたプレートが置かれている。

担当者の名前のようだ。


「すみません、登録をお願いしたいんですが」


忙しく手を動かして仕事をしていた、落ち着いた群青色のローブを纏った魔術師はゆっくりと顔を上げた。

鈍色の豊かな髪、金縁の眼鏡が特徴的な魔術師だ。

年の頃は三十手前、無表情のせいか落ち着いた印象を受ける。

日本人とはまた違うが、淡白であっさりとした顔立ちの美人だ。

品定めするようにじっと見つめられ、悠一は気まずさに身じろぐ。


「では、簡単な試験を幾つか受けて頂きます」


漸くそう言った彼女は、カウンターの扉を開け、悠一を後ろの部屋へ誘った。

部屋は背の低い立派な白いテーブルと、柔らかそうな赤いソファが二脚置かれていた。

壁に備え付けられた棚には、魔道具らしき物が並んでいる。


「どうぞ」


悠一は向かいに腰を下ろす。


「魔術師ギルドの会員となるには、きちんとした魔術師である事を示して頂く必要があります。火種が出せる、コップ一杯の水が出せる程度では魔術師と認めません。もし、そういった魔法しか使えないのであれば、即刻退場して頂きます」


そう言って再度見つめられる。

ミレーネが敷居が高いと言うだけある。

魔術師以外はお断り。

ちょっとした魔法しか使えない人間は魔術師を名乗らせない、と言った所だろうか。

しかし、悠一はその事に対して嫌な感じは受けなかった。

彼女の対応はあくまで淡々としたもので、決められた通りにやっているようだったし、取り決め自体も魔術師という職に対して誇りを持っているからこそ作られたものだと理解出来たからだ。

悠一は当たり前だが動かない。


「では、試験を始めます」


試験内容は単純に二つだけだ。

魔力の計測と、実演。

それで問題なければ、身分証が更新されるそうだ。


「これを」


そう言って差し出されたのは、ビー玉サイズの魔水晶が中心に嵌め込まれた小さな魔道具だった。


「一番単純な灯りの魔道具です。これに、魔力を充填して見せてください」


しげしげと魔道具を見つめる。

魔水晶が電池の役割を果たしているようだ。


「はい」


悠一はそれに手を翳し、流し込むように魔力を注ぎ始めた。

小さな魔水晶は直ぐに満たされる。


「これで大丈夫ですか?」


思ったより試験内容が易しい。

この程度の事すら出来ないのに押し掛ける人間が多いのだろうか。

先程念を押された意味が分かる。

悠一ならば、こんな人間の相手など一々していられない。


「ええ、では次は魔法を見せて下さい」


彼女は頷きながら魔道具をポケットに仕舞った。


(どうしようかな)


悠一は少し考えた。

あまり派手なのは困る。

しかし、この程度では、と追い返されるのも頂けない。

何より此処を壊すような魔法は駄目だ。

思い浮かぶのは、何れもこの部屋を爆破しそうなものばかりだ。

悠一は思案した末、頭の中で使いなれた魔法陣を描く。


「“重力”」


部屋全体に魔法を付与する。

空を飛ぶ時の応用編で、この部屋全体の重力を無くしたのだ。

ぶわりと風で下から煽ってやると、家具も魔道具もふわりふわりと空を舞った。


「これは…」


驚いた試験官が部屋を見回す。


(これなら大丈夫そうかな)


多少驚かせる事に成功した悠一はほっと息を吐く。

そう思った瞬間、悲劇は起きた。


「あ」


風がローブを巻き上げ、彼女のスカートまでもをぶわりとめくり上げたのだ。


「…」


悠一は一瞬、頭の中が白くなった。


「…」


彼女も無言だ。

何も言わずに、スカートを抑えている。

悠一は慌てて、魔法を解いた。

ふわりと彼女を地に下ろして、駆け寄る。


「すみません…!」


ぺたりと座り込んだ彼女に、土下座せんばかりの勢いで詰め寄る。

彼女はあくまでも冷静な様子で顔を上げた。

そして、無表情に言い放つ。


「合格です」


と。







試験に無事合格した悠一は、身分証に杖に蔦が絡んだような紋様を増やしていた。


(思い付きでやる事って、本当に上手くいかないよな)


悠一は乾いた笑みを浮かべた。

怒られこそしなかったものの、その方が余計に恐ろしかった。

あんなことをされて怒らない女性は普通いない。

彼女は魔法を見た瞬間にしか表情を変えなかったし、特に気にした素振りも見せなかったが、あれはないだろう。

暫く自己嫌悪に陥って落ち込んだ末、悠一はその事そのものを忘れる事にした。

言及されない以上、いつまでも加害者側が気にし続けるのはマナー違反だと思う。

なかった事にした方が互いの為だ。


登録を終えた悠一は、別の職員から魔術師ギルドの説明を受けた。

何でも彼女は急ぎの用事があるらしい。

基本的に、魔術師ギルドにはランクなどという概念はなく、交流する場として使われる事が多いようだ。

幾つかの説明を聞き終わった悠一は、売店を彷徨いていた。

売店と言っても、広さはそこそこ。

少なくとも、50㎡以上は間違いなくある。

ここは販売の他に、買い取りと充填の受付を行っており、出来がよければ作ったものでも高く買い取ってくれるそうだ。

よくよく見れば魔道具には札が付いていて、価格と製作者の名前が書かれている。


「色々あるんだな」


魔術書に魔道具、ローブや杖といった物が所狭しと並んでいる。

杖は同じ物は一本もなかった。

一種の魔道具になっている物が多く、効能はそれぞれだが、魔力を節約したり、魔法の威力を向上させるタイプのものが人気のようだ。

悠一は既に、腕に落ち着いた色みのローブを何枚か抱えていた。

魔術師らしい格好をした方が良い事もあるだろうと考え、何枚か手持ちに加える事にしたのだ。


悠一が探しているのは見た目を変える魔道具だが、出来れば風呂の魔道具も見ておきたいと思っていた。

今持っているバスタブは、基本的に自分でお湯を張らなくてはならない。

勿論、シャワーも出ないのだ。


(多分、風呂の魔道具があれば、普通に使えるようになると思うんだけど)


数がありすぎて、今一つ何れが何なのか分からない。

何気なく、手前にあった魔道具を手に取り札を見た悠一は顔を引き攣らせた。

金貨一枚(10万K)、凡そ百万円だ。


「高…」


思わず声が漏れる。

顔を引き攣らせながら、悠一は名前も見ずに魔道具を棚に戻した。

ただのランプにしか見えない魔道具でこの値段か。

何れだけ割り引かれるのか知らないが、ちょっと舐めていた事は否めない。

物によるのだろうが、悠一が欲している魔道具なら餞別の金が全てが飛んでいくような額でもおかしくなさそうだ。

逆に考えれば、これから一人で稼ぐ気でいるのだから、後生大切に取っておくべきではないのかもしれない。

髪の色をどうにかする手段は絶対に必要なので、あるのに買わないという選択肢はないのだ。


「すみません」


「どうなさいましたか?」


店員は鮮やかなエメラルドグリーンのローブを着ていた。

ひょろりとした真面目そうな男性だ。

眼鏡を掛けている。


「姿を変えるような魔道具は置いていませんか?」


理解を早めるために、フードを下ろして髪を晒しながら言う。

彼は合点がいったというように苦笑して、特に怪しむ事もなく幾つかの魔道具を持ってきてくれる。


「髪の色だけなら、この辺りですね。目の色や姿形を丸っきり変えたいというなら、此方です」


指し示されたのは、どれも小物の形をしていた。

身に付ける事で、効力を発揮するという。

手前にあった指輪の形をした魔道具を左手の中指に押し込み、近くの鏡を覗き込む。

髪は鮮やかなオレンジに近い茶色、目はグリーンに変わっている。


(ちょっと明るすぎるかな)


棚に戻す。

ハルシオンは明るめの茶髪が多いので、これくらいでも黒髪よりは目立たないだろうが、気分的に落ち着かない。

手前に置かれた髪と目を弄れる程度の魔道具を幾つか試した末、悠一はピアスの形をした魔道具を選んだ。

栗色の髪と瞳、肌の色も象牙から白に変えてくれる魔道具だ。

あまり変わらないんじゃと思われるだろうが、漆黒と栗色には雲泥の差があるのだ、此処には。

肌の色を変えてくれる所も有り難い。

その魔道具を確認すると、札には10万K“カタリナ・クラン”と刻まれている。


(あれ?意外と安い)


絶対にランプよりは有用な魔道具だと思うのだが。

何処かで見た名前だと思いながら、悠一は財布を取り出した。


「はい、6万5千Kになります」


ローブ三枚が5千K、魔道具が6万Kだ。

二割も引かれている。

会員割引はかなり比率がいいようだ。

魔術師でなくとも所属したいという人の気持ちがよく分かる。

悠一は封印した方の袋から金貨を一枚取り出して渡し、銀板四枚を受け取った。

そして、その場で耳に穴を開けて通す。

話を聞くと、ここにある魔道具は二パターンなのだという。

価値をギルドが判定して買い取ったものと、委託を受けて販売しているもの。

前者の利点は直ぐに換金出来ること、後者の利点は自分の好きな価格に設定出来ること、だ。

会員だと安くなる分はギルドが負担しているそうだ。

とはいえ、取る筈の手数料を取らないというだけの事なのだが。

因みに、二人の場合はランプの製作者が後者、ピアスの製作者が前者である。

ランプの製作者は相当吹っ掛けているそうで、かれこれ二年もの間売れていないそうだ。

二年て。

期間とか設けないんだな。







魔術師ギルドに登録を済ませた翌日、悠一は堂々と顔を晒して冒険者ギルドにいた。

髪の色も目立たなくなったし、隠す理由がなくなったのだ。

因みに、風呂の魔道具は正規の値段で24万K。

餞別を切り崩せば買えなくないが、高い買い物なので即決は出来ないし、そもそもフェイクのピアスと違って風呂は必需品ではない。

いや欲しさで言えば勿論必需品何だけれども。

買うのは、自分で稼いでからにしようと決めて、金貨金板入りの巾着には再度封印を施したのだ。


先日は閑散としていた冒険者ギルドは、打って変わって大にぎわいを見せていた。


(今日って祝日だっけ)


そんな訳がない。

大体、彼らは休日に街を彷徨いているのではなく、働きに来ているのだ。

まだ六時を回ったばかりだというのに、昨日とは全く違って人が溢れかえっている。

活気があると言えば聞こえは良いが、ギルドが然程広くない事もあって、失礼だがむさ苦しい。

一瞬部活を思い出すが、周りが厳つい体格の成人男性ばかりである事を鑑みると一層酷い光景に思える。


悠一は壁際に陣取り、ひたすら空くのを待つ。


(明日からはもう少し来る時間を遅らせよう)


早めに来た方が空いていると思ったのだが、完全に裏目に出た。

こんなに冒険者が早起きだったとは。

大の男どもに囲まれ、下手に絡まれたくはない。

魔術師というのは少数なので、知られれば勧誘を受けるのは避けられないだろうという話は昨日の段階で聞いている。

しかしながら、悠一は暫く一人でいたい。

人と依頼を取り合う気も、仲間になる気もないのだから無用な争いの元は断つべきだろう。

壁の花を決め込む悠一は、髪の色をフェイクしても隠せない冒険者に似合わぬ細身の体躯と整った顔立ちが原因で、随分目を引いていたのだが気付く事はなかった。

元より、悪意以外の感情には鈍感なのだ。


悠一は鞄から取り出した眼鏡を掛けた。

巳夏の餞別に入っていた一つで、千里眼鏡という魔導具だ。

多すぎて興味があるものしかチェックしていないが、目録にそう書いてあった。

遠くの物は勿論、障害物も透かして対象を見ることが出来る技能が付与された眼鏡で

、拡縮も自在という優れもの。


「俺もこういうの作れれば良いのに」


ぽつりと呟く。

切ないことだが、悠一にそれらの分野の才はない。

器用な人が羨ましい。


(手先だけなら器用なんだけどなぁ)


魔法を作るのは好きなのだが、魔力操作は残念なくらい下手なのだ。

結構作りっぱなしで使えていないものも多い。

細かい魔力制御が微妙なので、コントロール面で自由が利かないのだ。

五行思想を引用した魔術は一通り修めているものの、それらも自在に操る事は出来ない。

比較的自由が利くのが、重力魔法と風魔法、空間魔法だ。

使い慣れたともいう。

魔法というのは、魔素をもとに作られた魔力を術により発生もしくは誕生させる事で具現化する。

魔素により、火を作る。

魔素により空間を広い空間に繋げる。

そうした事象を人は“魔法”と呼ぶのだ。


やり方は人其々で、乱暴な言い方をすれば要は発動すればいい。

呪文を唱えようが、頭でイメージしようが、杖を使おうが、歌おうが、何でも構わない。

悠一の魔法は魔法陣を使う物が大半だ。

魔法陣や呪文は規則性さえ守られていれば汎用できる事が多い。

つまり、きちんと作れば他の人間も使えるのだ。

悠一が魔法陣ばかり使うようになったのは、作るという作業にハマった為。

規則に添って文字の羅列なり、記号なりを散りばめるのは意外と楽しいのだ。

器用な悠一は自分が考案した魔法陣を書き貯めて、ファイリングしていた。

ただ、覚えているかと聞かれると怪しいものだが。

それが作りっぱなしになる要因の一つだった。


(魔物討伐系って実は少ないんだな)


ボードを見ていてそう思う。

討伐依頼よりも、お使い系の依頼が多い。

魔物討伐でも切羽詰まってるというよりは、「どれどれの素材が欲しいから狩ってきてくださーい」と言わんばかりの緩い依頼ばかり。


人が捌けてからじっくり品定めした後に受注したのは、配達の依頼だった。

配達の依頼で銀貨二枚。

つまり2千K。

お使い系の依頼も、物を選べば下手な魔物を狩るより稼げるように思える。

少なくとも、この依頼は昨日適当に狩ってきて売り払った魔物達の総金額より割りがいい。

門内の薬問屋から一番遠い北の村へ薬を届け、逆に薬草をハーブを受け取って帰ってくるという内容のもの。

普通に行けば、往復で二日掛かる上に魔物がちらほら出るのでその額なのだが、悠一には転移魔法があるので全く関係ない。


ギルドで依頼書を提出して受理してもらい、薬問屋へ赴く。

薬を受け取った悠一は一応目立たぬよう配慮して、宿屋の部屋から西の村の外れに転移した。

そして人目につかない所を選んで空を駆けて村へ入り、薬を渡すと依頼書にサインを貰い、ハーブを受けとった。

薬になるハーブを卸し、そのハーブを使って作った薬を返す。

この世界は、使用用途を選ばず全てポーションで解決するようなのだ。

腹痛も病気も、怪我も関係なくポーションで治す。

その為、価格は利き具合で変動する。

そのハーブは効果をかさ増しにする効能があるそうだ。

そんな予備知識を増やしながら、悠一は村で少し遊ぶ。

ワインって初めて飲んだけど美味しいんだな。

帰りはまた宿屋に転移して帰る。

端から見れば、一日部屋に引きこもっていたように見えただろう。


北の村ではハーブの他に野菜とワイン用のブドウを栽培しているらしく、既に季節外れでブドウは見られなかったが、ワイン数本と干し葡萄、取れ立ての野菜、それにハーブも少し持たせてくれた。

怪しまれないように翌日の夕方まで待って薬問屋にハーブを卸し、サインを貰ってギルドに終了報告を行う。

2千Kと3ポイント、薬問屋からは簡単なポーションを数本受けとった。

風邪くらいは治してしまうというが、試す機会があるまでは鞄の肥やしだ。


そういえば、地図の入手方法についてだが、あっさり解決していた。

昨日ギルドでハルシオン付近一帯の地図を貰ったのだ。

この都市で活動するなら必要だろうということで、ギルド員が調査した物を配付しているそうだ。

因みに、紛失すると1千Kで購入する事になる。

ペラ一枚の地図にしては高い。

冒険者ギルドは至る所に存在するので、この大陸に関してはかなり精密な世界地図を作っているそうだ。

その世界地図も販売していた。

金貨二枚(20万K)とかなりの値段なので今は買えそうにないが、折りを見て購入を考えたい。

そして、ハルシオンの地図には、念入りに防水防塵の魔法を付与しておいた。


翌日からは、複数の依頼を受けてみた。

Gランクの依頼料は、基本的に銅板五枚の500K前後でポイントは1~3。

一日一件では、その日の宿代を賄えるくらいの報酬だ。

ランクが上がるまではある程度仕方がないのだろうが、余裕があるなら貯蓄の事もあるし色々経験してみた方がいい。

Fランクに上がれば、討伐や採取系の依頼が受けられる。

そちらは、銀貨一枚~二枚(1千K~2千K)でポイントも5~8。

Gランクで受けられる依頼というのは、殆どが雑用なので依頼料が少ないのだ。


一週間経って、一日に複数の依頼をこなすコツを覚えた。

日に日に依頼数が増えて、ここ二、三日は五件ずつこなしている。

内容が内容なので、ものを選べば一日拘束されたりはしないものなのだ。


ランクも四日目の依頼を終えた段階でFに上がった。

次のEランクに上がるには100ポイントが必要で、現在は47ポイント。

悠一が好んで毎日のように受けていたのは、門外にある方の薬屋の依頼でランク不問の調合の手伝いの仕事だった。

そこの店主が気の良い老人で、悠一と唯一親しいと言って過言でない。


お金の方も1万8千K貯まり、もうそろそろEに上がる道も見えてきた。

Gランクで貯金が出来ている自体が凄いことなのだが、悠一にその自覚は薄く、貯まった額を見てため息を吐く。

風呂が遠い。

いい加減、桶のお湯で体を拭くだけの生活は限界だ。

Eランクになれば、暮らしは少し余裕が出来てくる筈なので、宿のランクアップを考えたい。


そうこうしている内にもう五月に入っていた。

そう、この世界の暦は地球とほぼ同じ。

一日は二十四時間で、月は三十日、年は三百六十日。

気候は何となくだが、北海道に近い。

ハルシオンはファーレンの中でも北の末端なのでそのせいだろう。

暖かくなると、ここ一年で育った冒険者達が巣立ち、また新たな冒険者が増えるのだという。

それに合わせる訳ではないが、春から夏は商人もかなり行き来するようで、護衛などの依頼も舞い込んでくるそうだ。

新人候補は、主に孤児院の子どもと村から出てきた子ども、跡継ぎになれない三男坊以下の貴族の子どもなど。

そうなれば、一気に冒険者層が変わる。

そんな微妙な季節に差し掛かっていた。





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