召喚姫とおサボりの騎士(?)
※【神様の気紛れで異世界にトリップした乙女達の幸か不幸かそんな物語シリーズ1-1】
異世界に来てもうすぐ二週間。
可愛らしい癒しのもふもふ獣達のお陰で悲観に暮れる事なく、少しはこっちの世界に慣れた私です!
しかし一番の問題・私が関係する【皇帝達の嫁取り問題】は未だに平行線のまま…。
それも私が体調不良や心の準備がまだ…とかそういう理由をつけて皇帝様方と会うのをのらりくらりとかわしているせいもあるんだけどね。(実際彼らには初対面以降会ってもないし。)
でも自分があのキラキラ美形集団の花嫁にとか実感わかないし、正直まともに男の人と付き合った事もないのに結婚とかありえる?
友達と遊ぶかゲームに明け暮れていた高校生にそんなレベル高いこと望まれたって、無理だよ無理。
…と言うことで回避に回避を重ねてたんだけど、とうとう本日昼に皇帝達との会食を決定事項にされ逃げられなくなりました…。
時間が来るまで部屋でもっふもふチビ獣達と遊んで気を紛らわせてはいたんだけど、約束の時間が近付くにつれ私のそわそわドキドキ度も高まり、チキンな私は決心した。
…よし、逃げよう!
だってあんな美形達を前に食事とかできる!?
美形に観察されながらの食事なんて緊張で料理の味も味わえずに終わるに決まってるし。
三度のご飯が何より好きな育ち盛りの学生にそれは拷問ってもんでしょうっ。
なので拙者、敵(美形)に会う前にドロンさせていただきますっ!
「ねぇ君達何処か人のこない秘密の場所みたいな所知らない?
できれば誰にも見つからず皆で外で食事もとれたらいいんだけどなぁ~?」
しっぽをふりふりしてる小さな獣達に甘える様な声色で問いかけると、私の言葉に皆で一斉に鳴いて返事をしてくれた。
この獣達は【せいじゅー】と呼ばれていて普通の動物とは違って特別らしい。
確にこの可愛さは格別だし、人の言葉も理解しているみたいで話しかけると鳴き声で返事もしてくれる。
人の言葉を話すことはないけど彼らが理解してくれるので意思疎通も最近では出来るようになってきた。
聖なる獣と書いて聖獣と同音なのもそんな賢い獣だから皆から崇められるのだろう。
まぁそんな賢く可愛らしいちびっ子獣達の案内のもと、私は窓から抜け出してトコトコ歩く彼らの後ろに従った。
そうして彼らに従い歩くこと数十分…。
案内役の彼らが優秀なのか誰にも会うことなく、人一人通れる様な木のトンネルをくぐり、私の背丈より高い草をかき分けて進んだ先に出ると前方に広がるのは壮大な景色。
太陽の光を反射してキラキラと輝く大きな青い湖。そしてそれを囲むように森が広がり、湖の辺にはト●ロもびっくりな一際目立つ巨大な大樹がそびえ立っていた。
「うわぁ…凄い…」
しばらく感動で言葉も無く見入っていたけれど、ちっちゃい彼ら(足元にいる子狼、子虎、子馬。ちなみに小鳥は肩の上で子ドラゴンは肩に乗りつつ頭にへばりついている)にズボンの裾を引かれたので私はしゃがみこんで彼らの頭を撫でた。
「木の実とか果物を採取してあの大きな木の下で食事にしよっか!」
大樹はここから湖を隔てた丁度反対側だ。
あそこに行くまでに果物なんかを調達できるだろう。
可愛らしい声で返事する頼もしい案内役達と共に木苺みたいなものや梨みたいな果物を採取し、腕いっぱいに抱えながらようやく目的地を目前にした時、子狼が突然大樹に向かって駆け出した。
「あ!オーちゃん!」
名前が無いので便宜上狼のオーちゃんと呼んでるんだけど(その他のもふ獣達の命名は…小虎→タイちゃん、子馬→ウーちゃん、小鳥→ピーちゃん、ドラゴン→ドラちゃん)、大樹の大きな根の間に飛び込んで姿が見えなくなってしまった。
何事だと思ったけど、ここ、ここ!というようにワンワンと鳴き声が聞こえ、私達は昼食を落とさないように急いでオーちゃんの後を追った。
そうして駆け寄って大樹をすぐ目の前にして私は更に驚いた。
遠くからみても大きいのは分かっていたけれど目の前の根は1本だけでも私の身長ほどの高さがある。
それに根は湖の中まで伸び表面は苔に覆われ結構な年月が感じられる。
こういう所なら森の妖精ト●ロも出てきそうな気がするけど…
「ワンワン!ワンワン!」
「腹の上で飛び跳ねるなっ!」
残念ながら私が見たのは銀髪のイケメンとイケメンの腹の上でぴょんぴょん飛び跳ねてるオーちゃんの姿だった。
「「あ」」
どうやらイケメンもこっちに気づいたみたいで私と同じタイミングで声をあげた。
まさか人がいるとは思って無かったので私の焦りは最高潮に高まる。
しかもイケメンがこっちを凝視したまんまだし、こちとら蛇に睨まれたカエル状態デスヨ!
けれどそんな私の窮地を察してか、オーちゃんがイケメンの顔に飛びげりを食らわした。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
「…っ。だ、大丈夫だ。」
イケメンは顔を押さえて悶えているがオーちゃんの予期せぬ行動のお陰で私はイケメンの視線の呪縛からは解き放たれたけれど、イケメンもオーちゃんの予期せぬ行動にはダメージを受けたようで、手をどけた額からはオーちゃんの爪が当たったのか血が滲んでいた。
私は急いで登れる足場を探して根を登り、一度湖の方へ行ってハンカチを水で濡らしてからイケメンとオーちゃんの元に向かった。
そんな私の様子を見ていたらしいイケメンに濡れたハンカチを差し出すとハンカチを怪訝そうに見られた。
「額から血が出てますよ。良かったら使って下さい。」
「…感謝する。」
ハンカチを渡した後イケメンから少し離れて座ると、オーちゃん達も周りに座り出す。
私は彼らに果物を配りながら横目でチラリとイケメンを観察する。
前髪に黒いメッシュの入った銀髪イケメンは簡素な白いシャツを着崩して黒いズボンを身につけていた。
ちょっとはだけた胸元がイケメンだけにセクシーすぎるが、帯剣している所を見ると騎士だろうか?
剣には私の部屋の前に常駐してるイケメン騎士達と同じマークが入っているし、関係者なのはわかる。
ただ、人のいないこんな所で寝ていたようだし、サボっていたのかもしれない。
なら、同じ穴のムジナだよね。
「…えーっと…あなた騎士の方ですよ、ね?
こんな時間に人気のない所に一人でいるってことはサボリ中だと思うんですけど、あなたがここでサボってたって事を誰にも言わないので、私がここにいた事も内緒にしてくれないですかね?」
「交換条件だと?」
「別にそんなお硬い事じゃなくてお互いサボり同士のんびりサボりましょって事ですよ!
ごはん食べてのんびりしたら私達は戻るし、私のことは気にせずサボりを続けて下さい。」
イケメンに果物を一つ投げて差し上げると、カッコ悪く取り落とすこともなく片手で容易くキャッチする。
それを見てから私も手にしていた果物にかぶりついた。
梨に似たそれは皮も薄くて皮ごと食べれる。瑞々しくて味もマンゴーっぽい甘さだった。
「ん~…美味しい~♡」
私の周りでは皆器用に前足や手を使って食べてる。
その様も癒し効果抜群だ。
ふとイケメンの視線に気付いて、果物を齧りながらそちらに目を向けるともふもふ達ではなく私の方をじっと見ていた。
いやいやいやっ!平凡な私を見てたって癒しの足しにもならないからっ!
……あ、もしかして私の今食べてるこの美味しい果物が欲しいのかな?
イケメンも所詮人間だから腹も減るし、*******もするもんね~…。
そう思うとイケメンだからとお堅く身構える必要もないのかもしれない。
「…お前は黒曜の姫だったな。今頃姿がないと騒ぎになっているのではないのか?」
「それは分かってるけど…、私だって私の都合があるんですよ…。
そりゃこっちの人の都合もわかるけど、私はまだこっちの世界の人と正面切って向き合えるような気分じゃないし…。」
突然奪われた私の今までの生活。
それを奪った原因に今はまだ文句しか湧いてこない。
会えば罵るしかできないだろう自分も嫌だし、罵られる方もいい気分じゃないだろう。
だからお互い嫌な気になるならまだ会わない方がいい。
もしもう帰れないのなら前向きにこの世界を受け入れないといけないのは分かってる。くよくよめそめそしてたって現状がよくなる訳でもないし。
けれど今はまだ諦める踏ん切りがつかないから現実と向き合うのを避けている…という事をイケメンに愚痴るように漏らした。
でもこういう気持ちを初めてこっちの世界の人に話したかもしれない。
イケメンも私の言葉に少し驚いて目を見張っていた。
「…小さいのにお前はしっかりしているな。」
「女子高生に向かって小さいって何よ!?失礼でしょっ!」
「失礼も何も俺はお前の年もそのジョシコーセーというものもわからんのだが。」
「女子高生ってのは女の子の学生のことだよ。ちなみに私は17歳だけどね!」
「17…。てっきり12.3歳かとも思ったが…。」
「12!?…いやそれはちょっと失礼すぎなんじゃ……。」
余り強く言い返せないのは幼児体型(主に胸の発育)を自覚しているせいもある。
けれど他人に言われるとやはりダメージは大きく心を抉られた気分だ。
しかしイケメンは私の体型より私の世界の事の方が気になったようで、
「お前の世界では女も勉学を学ぶのか?」
そっちの話を聞きたがってきた。
私としてはイケメンと関わらず静かに食事をしたかったんだけど、まぁいいか。
おサボリ仲間だしね。
「男とか女とか関係なく6歳から15歳まで義務教育でどの子も教育を受けるし、その後も高校や大学とかいったりもするかな。」
簡単に日本について説明するとイケメンの食いつきはハンパなかった。
魔法はないけど、科学の発展で豊かなこと。政治のこと、医療のこと、治安のこと、わかる範囲でイケメンの問いに昼食を食べながらポツポツと答えた。
まぁ、知らない世界の話とかだと男の人は興味あるのかもしれない。
「男も女も身分も関係ない国…か。」
「こっちの世界はまだ良く分からないけど、城がある時点で私の世界の他の国の数百年前の時代に似てるのかも。」
「ここは身分もあれば男尊女卑もある。貴族の女は勉学より己の美を磨き身分の高い男に取り入る事以外に熱心な事はない。」
「それはつまらない世界だね。私の国じゃ働かざる者食うべからずっていう偉い格言があるよ。
それは女でも男でも関係ないと思うけど。」
私がそう言うとイケメンは少し考え込むようにして黙り込み、
「…自由な国だな。」
少ししてからポツリと呟いた。
まぁ確かに仕事や学校、自分のしたい道に進む選択肢がある分自由なのかもしれないけど。
「自由でも責任はあるけどね。」
自分の行動には責任を。…そう言ってた父親の顔を思い出して急にホームシックにかかって泣きたくなった。
帰りたい。会いたい。話したい。
でもどれも叶えられない願いで、泣き言と罵声と涙を堪えるために私はきつく唇を噛み締めギュッと目をつぶった。
「…気分でも悪いのか?」
イケメンに声をかけられてはっと視線を上げるとイケメンがこっちを見ていた。
それに周りにいる子達も耳を垂れ心配そうにこちらを見上げていて、私は誤魔化すように笑って首を横に振った。
「ちょ、ちょっとあっちの世界を思い出しただけ。
食事も終わったし私達もう行くねっ。」
これ以上はここにいられなくてイケメンから逃げるように私は立ち上がって周りの子達を促した。
果汁でベタベタな彼らに湖で少し泳ごうと駆け出すと呼び止める声がして私は無視することも出来なくて仕方なく足を止めて振り返った。
「…思い出させて悪かった。…ただまた話を聞かせてくれ。
その代わりと言ってはなんだが、お前の世界に繋がる方法を調べておこう。
帰す方法は保証出来ないが、通信ぐらいなら何とかなるだろう。」
一瞬イケメンの言った言葉に頭がついていかなかった。けど、言葉を噛み砕くように頭の中で繰り返して私は震える声を抑えながらイケメンにそんな事が出来るのかと尋ね返した。
本当にそんなことが出来るのなら土下座でもなんでもするからお願いしたい。
帰れなくても声だけでも聞けるなら。
縋るような目を向けたままイケメンの言葉を待っていると隣でオーちゃんがワンッと鳴いた。
大丈夫、元気出せっていってるみたいに。
「騎士としてこの剣にかけて。」
鞘からするりと抜いた刀身を胸の前に構えてイケメンはそう誓ってくれた。
強い意志を宿す瞳に嘘はないと私もそう思えて、私も強く頷いた。
今はそれだけでもいい。でもそれだけで心を強く持てる気がした。
それからあちらの世界と繋ぐための繋ぎとなるあちらの世界の物を貸して欲しいと言われたので丁度身に付けていたミサンガをイケメンに手渡した。
「じゃあ…託してもいい?
えっと……名前を伺っても…?」
「俺は…ヒュー、でいい。」
「わかった。じゃあ私も雪でいいよ。」
少し言葉を詰まらせたイケメン…じゃなくてヒューに少し違和感を感じながらも、深くは考えず私は後は任せたと笑顔で手を振って足元で待っていた彼らとともに湖に駆け出した。
元の世界と繋がれる。
それだけで嬉しさが全身から溢れ出す。
テンションも最高潮だった私は乙女の恥じらいも忘れ、
「ぃやっっふぅーぅっ!!」
某ゲームの配管工ばりの声をあげてそのまま湖に飛び込んだ。
湖に大きな水しぶきと小さな水しぶきがいくつもあがる。
泳ぎの得意な私でも服がまとわり付いて少し泳ぎにくいけど、泳げないわけじゃない。
水面から顔を上げると、一緒に飛び込んできたもふもふ達が犬かきで近付いてくる。
(流石にピーちゃんだけは上空でくるくる旋回して待機してるけど)
犬かき姿も可愛いなんてもう本当に癒しだわ~…。
「大丈夫かっ!?」
大声を上げ、血相を変えたヒューが湖の方に駆けてくる。
間違って池に落ちたのだとでも思ったんだろう。
私は手を振って平気平気と言おうとしたのだけど、「へ」と口に出した時には近くで大きな水しぶきが上がっていた。
「ヒューっ!?」
「俺に捕まれっ。」
バシャバシャと水を掻き分け、あっという間に私の体に片腕を回し岸へと泳いでいこうとする。
「ちょ、ちょっと、ヒュー!私泳げるから!溺れてないからっ!」
私が抵抗しながらヒューの腕を振り解き一人でスイスイと立ち泳ぎして見せると、ぽかんとしていたヒューの顔が見る間に鬼の形相へと変わった。
「…紛らわしいことをするなっ!」
「お、怒らなくてもいいじゃない。心配させたのは悪かったけど、ヒューだって勘違いしたんだし。」
「この世界の男でも泳げるものは少ない。…勘違いもする。」
ぶすっとした膨れっ面で返されて私はくすくすと笑って返した。
それからヒューはすぐに岸に上がってしまったけど(ヒューもあまり長くは泳げないらしい)、私は暫く湖での水泳を楽しんだ。
でも私が岸に上がった時にはもうヒューは居なくて、代わりにどこから持ってきたのかバスタオルが一枚置いてあった。
それは有り難く使わせてもらうことにして、服ともふもふ毛皮の彼らの体を乾かす間、暫しのお昼寝タイム。
けれど目覚めたらいつもの自分の部屋のベットの上だった。
侍女の方が言うには運んでくれたのはもふもふの彼らだっていうんだけど、【せいじゅー】って呼ばれる彼らは魔法まで使えるらしい。
異世界のもふもふ達は可愛いだけでなくチート能力まで持ってるなんて、まるでよくあるおとぎ話の神様の使いの神獣みたい。
…まぁ、そんな神聖な動物がこんな所に居るはずもないだろうけど。
その後エスケープしたことを捜索してくれていた皆様に謝って、それからもう一度皇帝達との面会の場を設けてもらうことにした。
ヒューのおかげで私には希望が出来たから、目を反らさずにこっちの人達と向き合おうと思う。
もちろんそれは自分が彼等の花嫁になると言うことを受け入れるんじゃない。
異なる世界に立っていても自分が自分らしくあるために。
これはその為の最初の一歩なのだ。
〈End〉
次はおさぼり騎士(?)の視点のネタバレで。