Ⅸ・世界の詠歌、政界の成果、正解の対価→Ⅱ
「ねえ、アキ」
「うん?」
全部忘れて、幸せの中にいた僕は、リコの言葉でまどろみから覚める。
外はもう真っ暗だ。月が無い夜。空は黒くて、見つめていると落ちてしまいそうな程に寒々しく、空虚だ。
僕の心みたいに。
「アキは、どこ?」
暖かい身体とは裏腹に、心が冷えていく。胸に冷たいものがこみ上げる。肩を震わせそうになるのを必死でこらえた。
リコが枕元の電気を点ける。暗闇の中、リコの顔が鮮やかに浮かび上がった。
「……僕は、ここにいるよ」
とぼけてみる。笑ってしまうくらいにわざとらしく。
リコは、真面目な顔を崩さなかった。その顔が、何よりも僕を怯えさせる。
「嘘。君はアキだけど、本物のアキじゃないよ。だって……」
リコはベッドのシーツを示した。目をこらすまでもない。どうせ暗い中じゃあ見えない。
「アキはもう、処女じゃないもの」
身体をひねって光を避ける。シーツを電気の明りが照らす。そこには、赤い赤い染みが一つ、悪夢のように残されていた。
「生理だって言ったら、信じてくれる?」
「無理だよ。それくらいの違いはわかる」
「うめき声は、上げないようにしたんだけどな」
僕は身体を起こす。リコの、女か子供のような細い身体が見える。胸の前でぎゅっと手を握った。
「やっぱり、君はアキじゃないんだね?」
リコの顔は、今にも泣きそうだった。
「僕は僕だよ。紛れも無く、磯近明利だ。ただ、身体はまがい物だけどね」
「まがい物……」
リコは、噛み締めるように呟く。
「どういうことなの? アキは……」
隠す気は、あまりなかった。気付くなら気付いてもよかった。
でも、できることなら、秘密にしておきたかった。
「話すよ、全部ね」
処女なんて、自分で破いてしまえばよかったのに。
覚悟を決めた。もう全部、晒け出してしまおう。
「あれはね、ミズキが政権を継いだ日のこと……」
僕は語る。あの日、僕がしたことの全てを。




