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エウトピア   作者: 十ノ青日
序章
32/39

Ⅸ・世界の詠歌、政界の成果、正解の対価→Ⅱ

「ねえ、アキ」

「うん?」


 全部忘れて、幸せの中にいた僕は、リコの言葉でまどろみから覚める。

 外はもう真っ暗だ。月が無い夜。空は黒くて、見つめていると落ちてしまいそうな程に寒々しく、空虚だ。

 僕の心みたいに。


「アキは、どこ?」


 暖かい身体とは裏腹に、心が冷えていく。胸に冷たいものがこみ上げる。肩を震わせそうになるのを必死でこらえた。

 リコが枕元の電気を点ける。暗闇の中、リコの顔が鮮やかに浮かび上がった。


「……僕は、ここにいるよ」


 とぼけてみる。笑ってしまうくらいにわざとらしく。

 リコは、真面目な顔を崩さなかった。その顔が、何よりも僕を怯えさせる。


「嘘。君はアキだけど、本物のアキじゃないよ。だって……」


 リコはベッドのシーツを示した。目をこらすまでもない。どうせ暗い中じゃあ見えない。


「アキはもう、処女じゃないもの」


 身体をひねって光を避ける。シーツを電気の明りが照らす。そこには、赤い赤い染みが一つ、悪夢のように残されていた。


「生理だって言ったら、信じてくれる?」

「無理だよ。それくらいの違いはわかる」

「うめき声は、上げないようにしたんだけどな」


 僕は身体を起こす。リコの、女か子供のような細い身体が見える。胸の前でぎゅっと手を握った。


「やっぱり、君はアキじゃないんだね?」


 リコの顔は、今にも泣きそうだった。


「僕は僕だよ。紛れも無く、磯近明利(いそちかあかり)だ。ただ、身体はまがい物だけどね」

「まがい物……」


 リコは、噛み締めるように呟く。


「どういうことなの? アキは……」


 隠す気は、あまりなかった。気付くなら気付いてもよかった。

 でも、できることなら、秘密にしておきたかった。


「話すよ、全部ね」


 処女なんて、自分で破いてしまえばよかったのに。

 覚悟を決めた。もう全部、晒け出してしまおう。


「あれはね、ミズキが政権を継いだ日のこと……」


 僕は語る。あの日、僕がしたことの全てを。









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