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エウトピア   作者: 十ノ青日
序章
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序章 ある男の軌跡

 その男は、この国を一つに纏めることに成功した。


 二×××年、今からもう六十年も前のこと。今はもう存在しない国家の暴走に端を発する戦争で、男は着実に権力を握った。述べ五万からなる私設軍隊と、火事場泥棒的に手にした財産で、一躍この国のトップに踊り出たのである。


 その男が誰なのか、誰一人知らなかった。戦争の混乱に乗じて、名前も公表しないままに、男は誰もが知る存在になった。

 最初は一レジスタンスに過ぎなかった男の軍隊は、あれよあれよと膨れ上がり、正規軍をも吸収し、世界で一番規模の大きい軍隊へと成長した。


 当時の男は一学生に過ぎなかったという。しかし、男には卓越した頭脳と、運と、カリスマがあった。その頭脳によって、人々を導き、操り、敵を翻弄し、陥れた。

 暴走した国家が鎮圧、解体され、表向き平定された頃には、既に男はこの国の指導者だった。誰もが男を畏れていた。誰も男に逆らえなかった。

 元々技術力では世界一を誇った国家である。本気で軍事に着手すれば、止められる国はなかった。


 これらの顛末については、今は語らない。それを記すには、あまりにも時間が掛かる。

 それから、男は様々な改革を行った。国を根底から作り変えていった。この国はまさに、男の描く通りの様相を呈していった。

 その頃、男は三度の結婚をしている。世界で一番の権力者になびく女は数知れなかった。しかし、その誰もが愛したのは男自身ではなく、男の権力と威光、または、男の影であった。


 男は落胆し、自著の中でこう述べた。「愛とは打算のいち形態に過ぎない」と。

 この言葉に、一部の者達が呼応した。

 愛など幻想。愛など虚構。愛など効率よく生殖するための機能に過ぎぬ。そう声高に主張する者が現れた。この意見に思うところがある者でも、男の威光を畏れて口を噤んだ。そうなると、ますますその伝播は止まらなかった。


 やがて国内に留まらず、世界中からたくさんの賛同者が現れた。

 中でも、道ならぬ恋をする者達は、この主張に賛同した。

 同性愛者、異種愛者、様々なフェティシズムを持った人々……彼らは、真実の愛とは、生殖から切り離された場所にこそ存在すると主張した。それは主流になりつつあったが、これはしかし、男の「そういったことではない」の一言でなりを潜めた。

 多少のズレはあったものの、賛同者の多さに、男は考えた。


 愛は、必要なのか?

 愛とは効率よく生殖するためのシステムである。ならば、よりシステマティックであるべきだと。

 そうして男は、重く口を開いた。


 人間とは、愛とは、なんなのか。

 それから男は、システムと呼ばれる機構を作り、国中に流布した。

 国内外を問わず、反発は凄まじいものがあったが、第一世代、及び第二世代では概ね成功をおさめ、第三世代でも着実に準備が進められている。システム成立前に生まれていた内の、十歳未満の子供がシステム最初の対象者であり、第一世代と呼ばれる。閣下の子供も、ここに含まれた。


 システムの成立から五十年が経過した。システム成立時には、大きな反対運動が起きた。これは男の軍隊により鎮圧された。しかし、第二世代では、大規模な反対運動は起こる気配すらなかったし、第三世代では尚更であった。

 人々はすでに、システムを受け入れている。

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