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The shining day before the pass away

作者: 櫻井秋月

長い間入院していた従妹が退院してきた。

何故か自分は夏休みにその従妹の家に呼び出され、従妹と遊んで欲しいと言われた。

暇を持て余していた自分はそれを快諾し、従妹の家へと向かった。

それは、大学1年生の夏休み。

2泊3日の旅だった。


「あ、やっちゃん」


従妹の家に行って真っ先に迎えてくれたのは、従妹本人だった。

夏だというのに日焼けもせず、Tシャツと短パンというラフな格好で出迎えてくれた。

手には食べかけのアイス。

相変わらずメガネを掛けていて二つ結びのお下げ姿。典型的な田舎の女の子って感じがした。

でも、久しぶりに会うせいか…こう、どこか少し大人っぽくなっていた。

僕はというと、自分もTシャツにGパンというラフな格好で大きめのスポーツバッグを肩から提げていた。此処までの道のり、最寄のバス停からでも15分ほど歩く為、汗がTシャツに滲んでいた。


「や、美沙。遊びに来たよ」

「うん、いらっしゃい」


僕がそういうと美沙は僕を家へと招き入れる。

そして、何時も僕が使う部屋に案内してくれた。

此処はこの家で今は使われていない部屋で、客間として利用されている。

とはいえ、そんなに客人も多くないこの家では、殆ど僕の私物と化していた。


「相変わらずこの部屋だけど」

「有難う」


何かのイベントの時に美沙は一時退院をしてこの家に戻ってくる。

僕もその時にこの家に居る事が多かったので、此処が殆ど僕の私物だと美沙は知っているのだ。

僕はその部屋に荷物を置き、汗でベタベタになったTシャツを着替えると、とりあえず部屋を出る。


居間にはTVを見ながら座椅子に座る美沙が居た。


(あなたの知らないセカーイ)

(いや、ホンマですねん。ワイのバイクが白い無数の手に引っ張られて…あん時のこと思い出すだけで背筋が凍りますぅ。アカンでっせあそこは)

(そこは大阪某所の峠…其処は沢山の幽霊が見える心霊スポットとして有名だ)


美沙は、昼間の夏の定番である特番をTVで見ながら少し身を震わせていた。


「美沙?」

「ウワッ!!!!!!…なんだ、やっちゃんか」

「ゴメンゴメン。驚かせた?」

「ううん。私が怖いの見てたから。どうしたの?」

「いや、叔父さんと叔母さんはどうしたのかなと思って」

「二人ともまだハウスだと思う。お仕事中だよ」

「そか、じゃ美沙だけなのか」

「そうそう。あ、おなか空いた?」

「あ、そういえば…少し」

「待ってて、素麺作るから」


そう言うとキッチンの方へと向かっていった。

残されるのは美沙の飲みかけの麦茶と麦茶が入ったポット。

どちらも結露で外側が濡れていた。

木目調のテーブルの上にその水分が垂れていた。

そして美沙がまた僕の所へと戻ってきた。


「訊くの忘れてた。素麺で良い?」

「良いよ?素麺好きだし」


それを聞くとほっとした表情でまたキッチンへと戻っていった。

何だ、もしかして素麺以外出来ないのか?


扇風機は中のボタンが凹んだままで首振り状態で付けられていた。

たまに来る涼風に癒されながら、僕は素麺が出来るのを待つ。

TVでは相変わらず恐怖特番をやっている。


(呪われた学校)

(この学校の地下トイレには…昔この学校で自殺したといわれている少年の霊が夜な夜な現れてはすすり泣いていると言う…)

(ええ、私も見たことがあります。あれは私が深夜の巡回に行ったとき…何だかすすり泣く声がして地下トイレまでいったんです…そうしたら…)


「やっちゃん、素麺できたよ~」


ガラスの大きな器で美沙は素麺を持ってくる


「うわっ!!!!!」


僕は先ほど美沙が驚いたように驚いてしまった。

恐怖特番恐るべし…確かにこんなものを見ていていきなり声を掛けられたら驚く。


「うわ、ごめん…」

「いや、恐怖特番見てた僕が悪い」


謝る美沙に僕は照れ笑いしながらそう言う。すると彼女も笑いながら反応する。


「やっちゃんもああいうの苦手?」

「得意な方じゃないかな」


僕のその言葉に笑いながら僕につゆと薬味を持ってきてくれた。

そして二人は素麺を食べ始めた。


食べ終えて、僕らは雑談をしていた。

久しぶりに会う二人だ。色々な事を話していた。

今まで何をしていただとか、お互いの生活のどうのこうのだとか…。

数え切れない沢山の雑談。

そして話題はこれから二人で何をして遊ぶかになっていた。


「美沙は僕と何をしたいの?」

「んっと。やっちゃんはプラネタリウムって行った事ある?」

「いや、行った事無いなぁ」

「じゃあ、私ね。プラネタリウムに行ってみたいんだ。ほら、近くに天文台あったでしょ?あの隣にプラネタリウムが出来たんだって」

「そっか、じゃあ、明日は二人でプラネタリウムに行こうか」

「そうしよう~」


そんなことを言っていると、叔父さんと叔母さんが帰ってきて…

そしてその日はそうやって過ぎて行ったのだった。


2日目。

僕らは夕方にプラネタリウムに行くことにして、昼は僕と叔父さんと叔母さんで家の近くで栽培している夏野菜の世話をすることになった。彼女は木陰で見学。

あまり運動をするのは良く無いらしい。当たり前か、退院したばかりなのだし。

彼女は白いワンピースを着て、麦藁帽子を被っていた。相変わらずメガネと二つ結びのお下げで、やはりこの姿を見ていると典型的な田舎の少女だ。

しかし…


(本当、人ってのは成長するもんだな)


何時の間にか胸には二つの膨らみがあった…。嗚呼、愚かな男の性。僕はそういうことに興味を抱き出すお年頃なので、そういうところをどうしても見てしまうのだ。

そんな僕を見た叔父さんは、笑みを零しながら


「もう手伝いはいいから美沙と遊んでやってくれないか?アイツもやっちゃんが来るのを待ってたみたいだしな」


と僕に言って来た。

バレてるのだろうか。僕の心の中が。

否、そんな筈は無い…と自分で自分につっこんだ。


「はい、じゃあ…」

「おう!ああ、そうだ」


叔父さんはホースを持って来て軽トラックの荷台に水を入れ始めた。


「熱いだろ、これで涼しくなるぞ」


そうやって、荷台は子供プールみたいになってしまった。

…僕がこれに入れと?


「うわ~、久しぶり。入って良い?」


それを見ていた美沙が食いついてきた。

え?入るのかこれに?

どうやって?

まさか下は水着か?


「おう、入れ入れ」


そして叔父さんもさも当たり前のように言っている。

そう言うと叔父さんは畑の方に戻って行ってしまった。

嗚呼…どうする心算だ?

まさか…


そんなことを考えていると美沙はサンダルを脱いで素足になるとワンピースの侭その中へと入っていった。

そして足を伸ばし、幸せそうな表情を浮かべる。


「すずしー…」


僕はその光景をただボーッと眺めていた。

なんでもないその情景が、なんだかすごく綺麗に見えたのだ。

そか、従妹ってこんなに可愛かったんだっけか。

思えば昔から美人だった覚えがある。成長して色気も出てきて…。

何考えてるんだ僕は、相手は従妹だぞ?


「あれ?やっちゃんは入らないの?」

「ああ、僕は良いや」

「そっか…気持ちいいのになー」


少し足をバタつかせる美沙。

水が跳ねる音がする。それだけで少しだけ涼が感じられた。

僕はその光景を、近くの木陰で見ていた。


「昔々」


彼女はいきなり目を瞑りながらそんなことを語り出す。


「小さな女の子が居ました。その女の子には幼い頃から仲の良かった男の子が居ました」

「いきなり、どうしたんだ?」

「んー?昔話」

「そか」

「うん、独り言みたいな感じ」

「聴きたいな」

「うん…」


少し恥ずかしそうにしながら、未だ目を瞑ったまま、彼女は足をバタつかせたりしながら水と戯れてその話を紡いだ。


「ある日、女の子は病気に掛かってしまい…外に出られなくなってしまいました。それでも男の子は病院に来て…沢山の話をしてくれました。今日はこんな事があったよとか昨日はこんなことがあったよだとか。女の子はそれを聞きながら喜んでいました」

「ある日女の子は言いました。“私はもう外には出られないかもしれない”と。そうすると男の子は言いました“馬鹿、そんなこと思っちゃ駄目だ。僕がきっと外に連れ出して見せるから、お前は体を治すことだけ考えろ”と。女の子はその言葉に沢山励まされました」


これって…


「男の子は学校が遠くなってしまい、会える時間が少し減りました。女の子は男の子が来てくれるのを待ち望みながらずっと病院で生活していました。男の子は定期的に女の子を訪ねると、沢山のお土産を持って来てくれました。沢山のお話と一緒に。そんな外の世界のことを教えてくれる男の子。回復を何時までも待ってくれている男の子。彼女は男の子のことがずっとずっと待ち遠しくて仕方ありませんでした」


まさか…


「男の子は約束通り、医者の道を目指し始めました。女の子はそれを見て感動しました。多分男の子はあの日の言葉を忘れているでしょう。でも女の子はそれでも良かったのです。あの日からずっと男の子は約束を破った事は一度もありません。女の子はそんな彼にいつしか惹かれていました」


僕と美沙のことなんじゃないか?


「ある日、女の子は退院して来ました。男の子はそれを喜んで電話をしてきてくれました。だから、女の子も嬉しくて男の子を夏休みになったある日、女の子の家へと招きました。そして、女の子は男の子へ告白をしようと考えました…その言葉は…」


鼓動が上がるのを感じる。

告白されるって初めてだ。

瞑っていた目を少しづつ開けて…恥じらいながら彼女はその唇から言葉を紡いだ。


「すきです。やっちゃん」


僕を眼鏡越しに純粋な目で見つめてきた。

僕は…ドキドキして、唇の水分が奪われるのを感じながら、動かない口を動かした。


「う、うん…よろしく…」


その言葉にまた恥らいながら、美沙は俯いた。


「えと、よ、よろしく…やっちゃん…」



プラネタリウムまでは叔父さんと叔母さんが送ってくれた。

迎えを呼ぶ時は僕の携帯から呼ぶように言われている。

しかし、この辺りも進歩したものだ。

前までは携帯が圏外だったのに今ではちゃんと電波が入るようになっている。


叔父さんと叔母さんの乗る車が見えなくなると、二人は手を繋いでプラネタリウムへと向かう。

出来たてのカップル。恥らう二人に最初は会話がなかった。


「あの、さ…何時から僕の事好きだったの?」

「小学校高学年くらいかな…あの時から好きだったよ?」

「そ、そうか…ありがとう」

「なんで?」

「いや、僕なんかで良いのかと…」

「やっちゃん“だからこそ”なんだよ?“なんか”じゃないの。やっちゃんでないと駄目なんだからね?」

「う、あ・・・有難う」


イチャイチャし始める僕ら…嗚呼、はたから見ればただのバカップルなんだろうなと思いながら…まぁ、それでもいいやと今の僕は思っている。

幸せの絶頂ってヤツだ。


プラネタリウムはとても幻想的だった。

確かに田舎の空はとても綺麗で、このプラネタリウムに負けない程の星空が見える。

だが、説明や効果音、そして点を繋いで星座を紹介するところなんかはすごく良かった。星が好きな僕にとってはたまらない場所だった。


(夏の大三角形は、こと座のα星ベガ、わし座のα星アルタイル、はくちょう座のα星デネブの3つの星を結んで描かれています。3星のうちベガとアルタイルは、七夕の伝説における「織姫」と「彦星」です)


(こと座の1等星ベガは、中国・日本の七夕伝説では織姫星(織女星)として知られています。織姫は天帝の娘で、機織の上手な働き者の娘でした。

わし座のアルタイルである夏彦星(彦星、牽牛星)。夏彦もまた働き者であり、天帝は二人の結婚を認めました。

めでたく夫婦となりましたが夫婦生活が楽しく、織姫は機を織らなくなり、夏彦は牛を追わなくなりました。

このため天帝は怒り、二人を天の川を隔てて引き離しましたが、年に1度、7月7日だけ天帝は会うことをゆるし、天の川にどこからかやってきたカササギが橋を架けてくれ会うことができました。

しかし7月7日に雨が降ると天の川の水かさが増し、織姫は渡ることができず夏彦も彼女に会うことができません。

星の逢引であることから、七夕には星あい(星合い、星合)という別名があります)


そんな説明がなされていく。

そんな説明を美沙は隣で少し涙を流しながら聞いていた。


帰ってきて、夜の僕の部屋。

窓辺で電気もつけず、ただ二人で星を眺めていた。

あのプラネタリウムの後だ、僕らはどうしても二人で星を見上げたくなったのだ。

隣に居る美沙は僕にこう言った。


「織姫と彦星だって…可哀想だよね、1年に1回しか会えないなんて」

「だな…」

「やっちゃんはさ…これからも会いに来てくれる?」

「勿論だよ。僕らはもう…その、恋人、なんだし」

「そ、そうだね…」


照れながら僕に寄り添う美沙。

やっぱり、可愛いし…彼女の感触は何だか柔らかかった。


「あのさ…やっちゃん?」

「どうしたんだ?」

「私さ…もう少ししたら…また病院に戻らなきゃいけないかもしれない」

「なんで?退院できたんだろ?」

「うん、実は完璧じゃないんだ…本当は退院できなかったんだけど…無理して家に帰してもらったの」

「そうだったのか…何で?」

「やっちゃんと居たかったから…」

「馬鹿…何やってるんだよ…」

「だって、好きだったから…」

「ああ、僕も好きだ…だからもう無理はしないでくれ」


そう言って、僕は彼女を抱きしめた。


あくる日、その日は僕が帰る日。叔父さんと叔母さんが僕を送ってくれることになった。

恋人になった美沙にキスをしてお別れを告げ、叔父さんの車で僕は駅へと向かっていった。


「楽しかったかい?」


叔父さんは助手席に居る僕にハンドルを握りながら語りかけてきた。


「楽しかったです」


僕はそう言った。


「そうか…実は君に言っておかなければならない事がある」

「何ですか?」

「彼女…もう長くは無いそうだよ」


戦慄…いや、予測はしていたことか。

余りにも出来すぎたシナリオだった。

突然の退院…そして召集される僕、突然の告白。

きっと彼女には知らされていないのだろうが、彼女自身も悟っていたのかもしれない。

自身の死期が近い事を。


「どうしても、君に言わなければいけないことがあるって言うからね、呼んだんだ。すまなかったね。最後ぐらいは我侭を通してやりたくてね」

「いえ…僕も楽しんだので…」

「美沙は、君のことが好きだったらしい。もう長くは無いだろうけど…仲良くしてやって欲しいんだ」

「当たり前です。僕は、彼女の恋人ですから」

「そうか、ハハ…やっぱり美沙は告白していたか!」

「ええ、好きですと」

「娘を宜しく頼む」

「任せてください、お義父さん」


そして、僕の2泊3日の旅は、終わりを迎えた。

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― 新着の感想 ―
[一言] シュールな告白にクスッと来ましたが、その後を読んで切なくなりました。 自分の最後を考えると、そんな唐突な告白になってもしょうがないんじゃないかなぁ…と考えさせられました。 この作品の彼…
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