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1-5 いざこざ

その後のHRは一年間の学事予定について確認を行った。

今日は学校開始初日なので日程はこれでおしまいのはずだ。


「ではこれで今日の説明はおしまいね。

明日からは授業があるから気の抜きすぎには注意してね。では解散!」


京が高らかに宣言すると購買に向かう人、家に帰る人、

研究所に向かう人、さまざまな人々が教室から流れ出した。

すると九重が声をかけてきた。

その顔は普段通りににやけている。


「なあ。どうせ午後暇だし喫茶店で学校でのこれからについて語り合わないか?」


「構わないよ。しかし、これからってどうせ女がらみだろ?お前」


「…。廓義の俺に対する認識の是正を切に願う。

んで、帳ちゃんも連れて行こうと思うんだけど」


沈黙の意味は定かではないがおそらく肯定であろう。これだから盛りの高校生は。


「帳。ということなんだけど付き合ってくれる?」


俺は隣で家に帰る支度をしている帳に声をかける。


「えっ。そんな…急すぎますよ。廓義さん…。

私たちまだ出会ってから一日もたっていませんし…」


…俺は以前にもこの感覚を味わった気がする。

デジャブというやつだろう。ただし立場は逆だった気がするが。

誤解を正すために俺は言葉を紡ぐ。


「えっと…。「喫茶店」で少しおしゃべりをしてから帰らない?」


「あ…。えっ。そういう意味でしたか。そうですよね。

まさか宣人さんが…。申し訳ありません。私…つい。興奮してしまって」


少し残念そうに帳は言った。

何に興奮したのだろうか?女の子というのは分からない。


「帳ちゃん。俺は別にそういう意味でのお付き合いも可能だけど?」


隣で九重が瞳を輝かせて尋ねる。馬鹿だ。


「不潔です。死んでください」


帳の普段からは想像しがたい言動に俺は一瞬だが寒気を感じた。

しかし「普段」を知りえるほどの月日を過ごしたわけでもないので

決めつけるのは早計だったかもしれないな。


「じゃあ行こうか」


隣で死んだ魚のような目をしている九重を無視して俺と帳は歩き出した。








帳と談笑しながら喫茶店に向かう途中、

校門までたどり着くとふとした人垣が目に入った。


「どうしたんでしょうか…」


隣の帳が心配そうにつぶやいた。

なにやら口論になっているらしい。

数人の生徒が周りを囲んで傍観者を決め込んでいる。

俺は柄にもなくその輪の中へ向かって行ってしまった。


「おい。廓義。どこいくんだよ?」


いつの間にか九重が追い付いてきていた。その眼には生気が戻っている。

ずいぶんと立ち直るのが早い。俺も見習わなくては。


「少し興味があってな。この学校の口げんかに。」


「喫茶店どうすんだよ!」


といいながらも九重は帳とともについてくる。

人込みをかき分けて進むとそこには女生徒と男生徒が

激しくいがみ合っている姿があった。


「ちがうな。いがんでいるのは男子生徒のみか」


男子生徒と女子生徒で明確な温度差がある。

どうやら騒動の中心はこの二人であるようだ。

両者ともに胸にエリートの証明であるバッジが光っている。


「しってるやつなのか?」


九重が俺に不満そうに尋ねてくる。


「いや、どちらも知らない。

わかるのはどっちもエリートさんってことだ」


俺が九重に答えていると輪の中心で動きがあった。


「もう一度いう。俺の魔術実験に付き合え。」


先に動いたのは男子生徒のほうだった

高圧的な態度で女生徒にせまる。初日から実験とは見上げた研究者精神だ。


「だから何回いっても変わらないわ。

あなたみたいな劣等生と付き合っていい時間は私にはないの。」


少女は小柄で完成された人形のようであった。瞳はヒスイ色でその髪は

ムラのない真紅、やや広がり気味のツインテールが彼岸花を連想させる。

容姿はとても美しい者だったが、彼女の笑みは下の存在を徹底的に侮蔑するかの表情で

とても彼女のものとは思えなかった。

どうやらあの髪は地の色のようだ。どこかのお嬢様が着るような

ドレスをイメージさせるような洋服をきている。

その服装に魔術的な要素は見てとれない。

小柄な体躯に似合わず、やたらと強い口調で話す女生徒は

男生徒の顔を見ようともしない。

その行動が癪に障ったのか男生徒は少女に一歩迫る。

その肩は少女の侮蔑的な態度に震えている。


「なに?やる気かしら?いいわよ。相手してあげる。

あんたの研究に付き合うよりもだいぶ早く済みそうだし。」


少女は一歩もそこから引かずに相手を見下すような目で男子生徒と初めて目を合わせた。

その眼には疑いのないような自らへの自信に満ちていた。

そのしぐさに男生徒のプライドの最後の堰が崩壊した。



男は手を肩口に走らせ、瞬時に地面を滑るための術式、

つまり浮遊の魔術と風の空気抵抗現象魔術を展開し、

完了とともにその移動速度を持って女生徒に殴りかかった。

その男の肩にみられるワッペンには風の魔術を示す緑色の陣が形成されている。

男のほうはどうやら典型的な陣術師だったようだ。


陣術師は本来、魔術の完成のために高度で文字数が多く完成に時間が多く

必要になる詠唱による魔術情報の構築と

陣の形成が必要であったが近代魔術の進歩はその速度を被いに向上させた。

その立役者が「杖」と呼ばれる装備品だ。

「杖」は個人が使用したい術の陣と魔術情報を記録できる媒体である。

陣術師は「杖」にたいして自分の使用したい

術式のイメージをデータとして出力する。

それをうけた「杖」は逆に術の発動イメージである詠唱を

使用者の脳内に直接出力する。詠唱は摩術師個人の魔術情報の固定化、

すなわち一種の自己催眠が目的とされているので実際にそれを唱える必要性はない。

杖から脳に直接出力された術式情報を用いることのほうが

自らの口から詠唱を紡ぐことよりはるかに効率がいいのだ。

たしかに「杖」の行使と詠唱を同時に行うことでさらに術式情報の厳密化が

可能であるがそれと術の連続性を天秤にかけると後者に軍配が上がる。

さらに杖には情報処理の一部を肩代わりする機能が施されていて、

魔術師の情報処理負担を軽減する。

そして陣の形成も同様で「杖」にたいして陣の情報を入力し、

あとは「杖」が自らに記録されている陣を外部の具現子に出力する。

「杖」の登場によってこの二つの作業を並行して迅速して行えるようになり、

その術の大きさに左右されるが陣術行使までの時間は短いもでは一秒ほどにまで短縮された。

そして「杖」には二つの種類がある。

それは汎用型陣術杖と速成型陣術杖だ。

前者は多くの容量を魔術のデータ保管に使用できる。

つまりより多くの魔術を行使できる。

その数の限度は揮おうとする魔術の規模や、

詠唱の短縮工夫などによって変わってくるが約120種類といわれている。

しかし術式データの保管領域が広いために、

術者への情報処理へのアシストは少なくなっている。

これにたいして後者、速成型はデータ保管領域が非常に少なく

12種類程しかストックできない代わりに、そのデータを引き出す速度が速く、

より早く魔術を完成できるという利点がある。

さらにデータの保管領域が狭い代わりに、術師のアシストに

割ける容量は確保されており、情報量の多くを杖に任せることができる。


そしてあの男子生徒が使用しているのはワッペン型の「杖」であった。

一般的な汎用型陣術杖である。


術式発動後に少年の肩に光る緑色の陣は

彼が魔術として想像しきれなかった具現子の運動の現れである。

これが少ない者ほど具現子の創造技術に卓越した魔術師であるともいえる。

しかし少年のそれは特別多いというわけではない。

むしろ少ないほうだろう。

先ほどの術式完成までの速度も見るとさすがエリートだと音をあげざる負えない。

そしてその杖の発光を見ると少女はなぜかうれしそうに唇をゆがめて、

迫りくるこぶしに向けて自らの素のこぶしを突き出した。

その動作には一切の迷いがなかった。


ごりっ。


何かが鈍くすれ合う音がした。

周りの野次馬も息をのむ。

一部の女生徒は小さく声を上げていた。

隣の帳も目を伏せている。

二人の様子を見ると男が元の位置まで引きかえし、

信じられないといった顔で女生徒を見ている。

女生徒のこぶしは血にぬれていた。

その手の指と平と指をつなぐ関節部分が大きく裂けており、

そこから朱い血が流れ出している。

それを眺めて微笑む少女の姿は壮絶の一言だった。


「なぜよけなかった…。今のならよけられるはずだ。なぜ打ち込んできた」


たいして男のほうは無傷にもかかわらずひどく狼狽していた。

手から血を流し続け少女は答える。その表情は先ほどと何の変化もない。


「ええ。そうね。けどこうしたほうがあたしにとって都合がいいのよ」


「しかし校内での流血沙汰は…」


この研究所も一応は高校だ。

構内での流血沙汰はもちろん芳しくない。

この学校の規則では生徒間での魔術の行使を伴った戦闘は基本的に禁止されている。

その規律を先に破った男が今のセリフを言うのは何かがおかしい気がする。

その言葉を代弁するかのように少女は言った。


「何をいまさら言っているのかしらね。まあいいわ。

ほらいいのかしら?あなたが勝てば私はあなたに付き合ってあげるわよ?」


少女はまだ続けるつもりらしいが男生徒のほうは

血を見てしまったからか少し表情に焦りが見られる。



「それは本当だな…」


しかししばらくすると男子生徒の目に再び火がともる。

やってしまったのだからとことんということか。


「ええ。私の知識でも純潔でもなんでも差し上げるわ」


少女は小柄な体に似合わない妖艶な笑みを浮かべる。

互いに次の衝突に備えて構えをとる。

少年は「杖」を身に着けた左手を突き出し、

少女は自らの血にぬれた左腕と無傷の右腕を一度揃えてから、

そして右手を前に突き出した。掌の形は人を指さすような形。

その一指し指の先はわずかに血にぬれていた。

二人の間で高まる緊張感。

二人が術式を展開しようと情報処理に入った瞬間変化が訪れた。


「なっ…」


当事者の二人が音もなく地面にくずれおちたのだ。

両者ともに外傷はなく、意識も保たれている。

しかしその表情はひきつっており、不快感にあふれている。

深く観察すると彼らの周りの具現子が不気味に躍動していた。

その動き方はまるでうねりを上げる海のようで

見いているだけで酔ってしまいそうだった。

俺は観察レベルを一つ下げる。


「具現子の不快振動…。白銀の仕業ね…」


少女がその均整のとれた顔をわずかにゆがませつぶやく

不快振動とは具現子に故意に特定の固有運動を与えて、

その具現子を使って魔術を使用しようとした魔術師の処理能力に大きな負荷をかけて

擬似的な脳のパンク状態を作り出す魔術である。

多くのち密な情報設定が必要になるこの魔術は非常に難度が高く

扱えるだけでも素晴らしいものだが、

それを対象をここまで限定して発動できる手腕には恐れ入る。


すると二人の奥、つまり俺の目の前から一人の少女が歩いてきた。


「校内での魔術の行使及び戦闘行為は禁止されている。

それに背いたとして現行犯で対象生徒二名を風紀委員長、

白銀(しろがね)咲妃(さき)の権限を持って逮捕する」


平坦な声で紡がれたそれはどうやら彼女たちの罪状であったようだ。

その言葉はひどく事務的で、無機質だった。

彼女はしゃべりながらも拘束系術式を発動。二人の両手を束縛していた。


「あら?咲妃じゃない?こんなところまでご苦労様ね」


「無駄話はあとだ紅水(あかみず)


現れた少女は当事者の少女の挑発を

バッサリと切り捨てると二人に間までたどり着いて歩みを止めた。

彼女は長い黒髪を後ろで一本にまとめていて前髪をばっさりと

一直線に裁たっているかなり懐かしい、

言い換えれば事態遅れな髪型だった。しかしそれは彼女の白い肌によく映えている。

そしてもっとも特筆すべきは彼女の右手に開かれている巨大な一冊の本である。

おそらくあれが彼女の杖だろう。

しかしそれは見慣れないものだった。

近代の杖は俺が目指そうと考えている魔術エンジニアなどで構成されている

魔導器会社で製作されている。

だが彼女のそれは今のところ市場に出回っているどの杖とも違っていた。

すると九重が彼女を見つめ続けている俺に気がついて説明をくれた


「彼女は白銀(しろがね)咲妃(さき)

この学校の風紀委員長だ。名家白銀家の長女で

束縛性質術式「曲絃(きょくげん)」の使い手、

あの後ろに浮いてる待機術式もたぶんそれだな」


といって彼女の後ろを指差す。

かなりの多くの魔術が待機状態にあるようで

その具現子輝きは彼女を照らす威光のようでもあった。


「あれだけの術式を同時に展開できるのか…。

すごい処理能力だな」


俺は素直な感嘆の声を上げた。この年であれだけの数を並立して組み上げる

彼女の構築力、創造力はともにぬきんでたものだろう。

九重の話を聞きながら俺は「曲絃」を観察する。

具現子の動き、陣の構成、術式情報の定義、なかなかに面白い。


隣の九重もうなずきながら話を進める。


「そして彼女はこの学校で三傑と呼ばれるうちの一人なんだと。

んでもう一人があそこで面倒を起こしていた女の子。ええっと名前は…」


「たしか紅水(あかみず)麗華(れいか)さんだったとおもいます」


詰まってしまった九重に帳が助け船を出す。


「そうだった。なにやら資料がしっかり残ってないらしいんだがどうも

先天型の稀有な能力持ちらしいぜ」


「なるほど。たしかに陣術師って雰囲気ではなかったな。杖も持ってないようだし」


学校なのに資料が残っていないといううのはいささか不可解だったが

今は追及しないことにする。すでになんとなく種が割れているし。


「そして最後の一人がこの学校の生徒会長。

名前は三年生、千手(せんじゅ)海那(かいな)。こっちもかなりのアブノーマル。

直接出力(ダイレクト)の持ち主らしいぜ。いやあ恐れ多いわ」


その発言に俺は息をのむ。

直接出力(ダイレクト)とは魔術を構築する際に必要な

術式理論の構築段階を省略して自分の思う通りに具現子を操ることのできるスキルだ。

彼らは世界に存在する具現子を手でつかむようなイメージで

動かすことができるそうだ。なので彼らには術式の情報構築は必要なく、

術式の結果を創造するだけでいいのである。

もちろん術式の構築までにかかる時間は普通の魔術師とは段違いに速く

発生までのスピードではもはや勝負のできないものになる。

そしてその人数は世界に数人といない。それがこの学校の生徒会長?

俺は何とも言えない違和感を感じていた。

もし本当に直接出力(ダイレクト)ならばいかに扱える魔術の規模が小さかろうと

戦争に引っ張りだこのはずだ。

そこまでに直接出力(ダイレクト)とそうでないものの実力は段違いなのだ。

それが18歳にもなって戦争に出向いていない?


そういって野次馬の中で3人で語らっていると中心でまた動きがあった。


「この中から誰かにこの現場の証言を頼みたいのだが

面倒は承知でだれか引き受けてくれないだろうか?」


先ほどの無機質だった声色とは違い若干の譲渡が見受けられる白銀の声が響く。

当然誰も願い出たりはしない。

面倒と向こうが言っているのだ。それは確実に面倒なことだろう。

俺も当然無視を決め込む。さわらぬ神にたたりなしだ。


「ならば、申し訳ないがこちらから指名させてもらう。では…」


まあ当然そうなるな…しかしこれだけ生徒がいるのだ。

まさかその中から俺が選ばれるわけは…


「じゃあそこの黒髪で割とかわいらしい君。頼めるかい?」


あった。

しかもかわいいだと…


「……ええっと。一応聞きかせてください。なぜでしょう?」


俺は感情を押し殺して質問をする。

返答は思っていたものとだいぶ違っていた。


「先ほどから私の「曲絃」をみてただろ?

その眼がとても精密なものに見えたからね。

前の状況もつぶさに観察しているかもしれないという期待を込めて選ばせてもらった。

まあ一種の第一印象だ」


「おっと、ばれてたか」


俺は自分にしか聞こえないようにつぶやく。

そこまで露骨にはやっていなかったつもりなんだがな。


思ったよりも白銀はよくしゃべる生徒のようだ。言葉の端々から

素の彼女をのぞかせている気がした。

断って事を大きくして後々が厄介になるのはさけたい。


「わかりました。証言をしましょう」


俺は面倒とは感じながらもうなずいた。

三傑というのに若干の興味もあるしな。


「帳、九重、悪いな。今度でいいかい?」


「ああ、仕方ねえな」

「そうですね。それまでにお店も調べておきましょう」


「それでは行こうか。二人もついてこい」


白銀は「曲絃」でつないで拘束した二人を連れて歩き出す。

男子生徒の顔はひどく暗く沈んでとぼとぼ歩いているのに対して

紅水は上機嫌そうに足取り早く白銀について行った。

俺は三人の後についてゆっくりと風紀委員室に向けて歩き出した。

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