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黒淵覘

概念系統魔術。

それは他の系統の魔術とは一線を画す、魔術の特異点。己が生み出した概念を情報に変換し、他の物質にもそれを強要させる魔術。そしてこの術式たちには一つの共通点がある。具現子を扱うことがない…ということである。魔術はそもそも具現子を介した己の想像との勝負である。しかしこの概念術式は相手の体に直接その概念を信じ込ませるといったものである。一人が感じたのならそれは虚実かもしれないが二人が全く同一のものを感じたのならばそれは真実になる。そんなあやふやな概念のもとに成り立つこの魔術系統はもっとも魔法に近いとも言われている。




「……どこだ…?」

「大丈夫か!!廓義!」

「おーい坊主、大丈夫か?」

「あ、目を開けたみたいだよ!!」


俺が目を開くとそこには俺を覗き込む生徒会の面々がいた。


「みなさん…無事ですか…」

「それよりも君だ!何をした?」

「すこし…慣れないことを」


俺の頭はいまだに先ほどの概念術式の反動で揺れ続けている。俺はその嫌悪感に耐えながら答える。


「伊形は…?」

「あそこで倒れているが別段問題はないようだ…しかしさき程のあれはなんだったんだ?」

「俺はそこにいなかったから何ともな」

「私と白銀ちゃんはすぐにやられちゃったしね…」


綴紙さんが珍しく弱気な声色で言う。俺は感傷に浸り気味だったこの空間を変えるべく問いかける。


「そういえば千葉さんと千手会長の姿が見えません…」

「あいつらは下手人探しに躍起だよ。ほら、あそこ」


そういって会場の屋根のあたりを切谷さんが指さす。そこにはその体を白い発光に染め上げられた千葉さんが立っていた。その周りの陣を見る限り、それは探知術式のようだった。


「すごいねぇ相変わらず…どんだけの範囲にサーチかけてるんだ?」

「たぶん…この国の首都圏全域くらいかな?」

「…人間業じゃないな、それ」

「終わったみたいだよ」


綴紙さんが言う。俺が彼女から千葉さんに視線を戻したころには探知は終わっていたようで、屋根から地面まで一気に飛び降りた。そして俺たちに近寄ってくる。その表情はどこか憂いに沈んでいた。


「廓義くん…大丈夫ですか?」

「はい、どうにか」

「よかった…」

「それより探査の結果だ、千葉」

「あ、はい。この首都圏全域にわたって先ほどの伊形君に憑依…といっていいのでしょうか。それをひきおこしていると思われた精神体は既に存在していませんでした」

「やはり…か…奴らのロッジでも見つけられれば…」


その報告に面々は嘆息する。白銀委員長はことさらにつらそうな表情をしていた。


「発見できたとしてもそのあとの仕事をするのは俺たちの管轄じゃない規模だな」

「そうなの?」

「そこらへんは廓義が知ってるんじゃないのか?」


そういって切谷さんは俺のほうを見やる。もはや言い逃れはできそうにない。


「…今までありがとうございます」

「どうした。突然」

「あえて触れないでいただいたその心遣いに感謝します。しかしもはや俺のわがままを通していい状況ではなくなりました」

「そうらしいな」


切谷さんはいまだに軽薄な笑みを浮かべている。


「さっきの伊形の中にいた人間は死んだはずの堕法教団教主…黒淵覘(くろぶちのぞく)です」

「…なぜ…だ?あいつは死んだはずだろう?」


この俺の発言は少なからず驚愕を生んだ。しかしそれの規模は思ったよりも小さかった。


「まああの規模の闇の魔術行使…うわさに聞くやつってことか」

「はい…」

「でもなんで伊形の体で出てきたんだ?」

「おそらく彼が服用していたと思われる「黒の英知」―それに何かしらの術式が内包されていたのかと」

「幻聴…報告にあった末期症状の一つはもしかしてやつの声か?」

「おそらくはそうです。そして教主と思しき人間がかかわるほどの大事、それは…」

「もはや私たちが介入できる問題ではないわね」


千手会長が腕を組む。


「はい…そして問題はもう一つあります」

「なんだ、廓義」

「おそらくはやつが再びこの世界に意識を戻したこと…その理由はおそらく…」

「君だね、廓義君」


その聞きなれた声は俺たちの後ろから響いた。そこには理事長と…従者姿の女性が立っていた。


「いやいや、災難だったね?」

「理事長…あなたは知っていたでしょう」

「さあ?僕は仕事が忙しかったからわからないなあ」


そのあまりにもわざとらしい態度に全員が目つきを鋭くする。しかし彼はそれを何とも思っていないようだ。


「ん、どうしたのさ」

「いえ…それで廓義が目的っていうのはどういう意味だよ?」

「ふふふ、教えていいのかな?」


瞳を覗き込んでくる理事長の表情はいつも通りにくるっていた。


「俺が話します。理事長は黙っていてください」

「うん、それならいいよ」


彼は一歩引く。俺はどうやら言わねばならないようだ。


「やつのターゲット…それは俺でしょう。いや、俺ではないかもしれません」

「含みがある表現だな?」

「すいません…やはり、あまり気乗りがしないもので…」


大きく息をつく。そして一息に紡いだ。


「俺は元教団所属の御子…そこまではみなさんなんとなく察していると思います。そして俺はその中でもひとつ特別だったんです。こういえばみなさんわかるかと思います…俺は「虚ろの鍵」―教団が過去におこした最大の惨事である、「黒の魔都」事件を引き起こす際に用いられた、魔法へいたるためのデバイスです」


全員が息をのむ。理事長だけがにやつきながらこちらを見ていた。

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