2-4 新人戦 開催
視点が少しの間移動しています。
―――であらわしておりますのでご注意ください。
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訂正として加えました。申し訳ありません
「それにしても…すごい熱気ですね」
「そうだな。この間の部活勧誘時もなかなかにひどかったがこれは…」
俺はもはやコロシアムのような体を成している第一体育館にいた。
ここは新人戦の主会場になっていて、多くの生徒が集っていた。
参加する新入生、観戦が義務付けられている一年生、
野次馬にきた上級生なのであふれかえっていた。中央には実戦練習用の区域が用意されている。
それはこの間俺が伊形とそれを行った時と全く同じものである。
「九重さんは今日、出場するんでしたっけ」
「いや、あいつは明日だったはずだ。今日あたりは対抗馬の観察でもしているんじゃないか?」
そういってあたりを見回すがやはり九重の姿はない。
俺はもとよりすさまじい人ごみの中から九重を見つけることを期待していなかったが
俺は人込みの中に別の見覚えのある人間を見つけた。
「?」
その影が誰だかは分からない。しかし見覚えがあるのは確かだ。
その陰は力がなく、やせ細っているように見えた。肌は白く不健康なイメージをうみ、
その眼はにいごり、髪は整っておらずぼさぼさだった。
猫背のまま彼は独り言をぼつぼつとつぶやいていたようだがその内容までは分からない。
しばらくすると彼は人込みに流されて消えてしまった。
「どうしたんですか?」
「いや…なんでもない」
なにか見覚えのあるものを見た気がして少し頭が痛くなった。
しかしそれが何かは思い出せなかった。
「それよりも観戦場所を探そう。せっかくだから見ておくに越したことはないだろう」
「そうですね、あそこなんてどうでしょう?」
そういって帳は最前席の長椅子を指さす。間近で見たほうが面白いことは間違いない。
「しばらくは俺も仕事がないからな。さてどんなものかね~九重君の実力は」
「あれ、廓義さんなんだか楽しそうですね?」
「そうかな?」
「あと九重さんの出番は明日だって言っていたじゃないですか」
「そういえばそうか、すまない」
九重はなにか隠している。それが少し気になって俺は浮かれていたのかもしれない。
いや浮かれすぎていた。教団を退け、戻ってきた平穏に。
その陰に隠れて俺は大事なことを見落としていたのだった。
―――――――――
「俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない
俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない
俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない」
つぶやき続ける。もう何回繰り返しただろう。
たしか10000くらいで数えるのを辞めた気がする。俺は悪くない。
悪いのはあいつだ。俺はただ家の仕事を果たそうとしただけなのに、
それをあの女に邪魔をされ、あの男に邪魔をされ…家に帰れば恥さらしだとののしられた。
仕事のできない奴は家を継ぐ資格がないとさえ言われた。
あの時の弟の顔が憎らしくてならない。
「奴さえいなければ…」
やつは卑怯だ。正々堂々の魔術の試合であんな不正を働くなんて…
許せない。しかしあの時の俺に力が足りず、それに屈したのは事実だ。
しかし今の俺には力がある。
「ししし…」
前とは違う感覚に体も慣れてきた。見えてる世界があいつらとは違う。
今度は同じ轍は踏まない…
俺は何度目になるかわからない呪詛にも似た決意を紡ぎ続けた
―――――――――
「新人戦第一試合が開始10分前です。出場者は集合場所までお越しください」
館内にアナウンスが響き渡る。それに呼応するように生徒の歓声も大きくなる。
またそれは俺の仕事の準備開始の合図でもあった。
「帳、すまないがそろそろ仕事だ」
そういって席を立つ。
「あ、はい。今日はどんな仕事なんですか?」
帳はわざわざ席を立って見送ってっくれる。
「試合のレフリー、というかいざという時のための調整役だよ。
頭に血が上った生徒も過去にはいたっていうしな」
「気を付けてくださいね。なんだか妙な雰囲気がします…」
「そうかな?みんながはしゃいでいるだけだろうさ」
「それだけでしょうか…」
やけに不安がる帳が少し気になるが仕事の開始時間は迫っていた。
「杞憂だろうさ」
俺は委員長が待つ待合室に向かった。
「来たか」
「お待たせしました」
会場に隣接する待合室に入る。そこには予定通りに白銀委員長がいた。
その手には彼女の本型の杖が握られていた。
「なにか異常は見られたか?」
彼女は本を閉じながらいう。
「いえ、なにも。しかしやたらに盛り上がっていますね」
俺は彼女からあらかじめの調査も課されていた。何者かの侵入がないかの確認だ。
「そうだな。毎年こうだといえばそうなのだが、それにしてもだな…まあいい。
仕事の説明に戻ろう。今回も荒事の解決が主になる。すまないな」
「いえ、かまいません」
「基本は試合区域の外で立っていてくれ。負傷者の介抱なども仕事に含まれる。
そのような準備もしておけ。それと杖の携帯を認める。
攻撃性のある魔術も状況に応じて判断して使用しろ。その判断は個人にゆだねる」
「わかりました」
「なんだ廓義。ずいぶんとそっけないな」
「そうでしょうか?」
「同級と触れ合うような感じで構わないというのに」
「そうですか。善処しますがこれは癖のようなものなので…」
「ふふ、しかしその様子も君らしいな。なんでもない。気にしなくていいよ」
そういうと白銀委員長は部屋から出て会場へ向かってしまった。
開始まであと5分。
「俺も行くか…」
長い付き合いになる相棒を手に俺は部屋から出て会場へ入った。
第一対戦…第二対戦…第三対戦…
そのどれもがすさまじい魔術のぶつかり合いであった。
時にはあたりが炎に巻かれ、ある時は疾風が切り裂き、またあるときは雷が天を貫いた。
まさに「魔術師同士」の戦いであった。
互いがほとんど動かず相手の魔術は自分の魔術で相殺する。
基本的に彼らに回避の概念はないようだ。たしかに魔術の効果が及ぶ範囲は広大であるから、
回避という概念が浮上しないことは容易に想像がつくが……
あそこまで広大な魔術を揮えるほどの処理能力がない俺はあんな戦い方はできない。
「しかし……」
俺は荒れ狂う具現子の波にさらされながらも思った。
「御子の選別か……」
俺はそんなことを思い返していた。たしかに形式はこんな感じだったかもしれない。
しかし教団で行われていたより優れた御子を選別するための殺し合い。
それは「こんなもの」じゃなかった。
空間がゆがむほどの具現子への干渉。そんなことは日常茶飯事だった。
そもそものノルマが相手の殺害だったのだ。
毎日が地獄。いや当時はそんなことすらなかった。それが普通だったのだから。
それは救われていたのだろうか?きっとそうだ。認識していなければそれは事実足りえない…
そういって自らを納得させようとしたところに不意に声をかけられた。
「ソンナコトナイヨ」
「っつ!!」
俺はとっさに振り返る。しかしそこに人影はいない。
当たり前だ。今は試合中、むしろ周りに人がいるはずもなく…
「きゃあああああああああああああ」
その悲鳴が俺を思考の海から引きづり出した。
発信源は観戦中の女子生徒、その視線の先には壁まで吹き飛ばされて口から血を吐いている生徒と
無傷で立っている猫背の生徒がいた。俺はその姿に見覚えがあった。
「さっきの…」
人込みの中で見つけた不健康そうな生徒だ。しかしいったい何があったのだろう。
たしかにひどいけがだが大会の規則的には起こりえる事象だ。
しかし自体は俺が思っているほどに簡単ではなかった。
猫背の生徒がさらにもう一度手を掲げたのだ。そして展開される陣。それは
「黒…?」
それもどす黒い黒ではない。怪しく光る黒。
まるでそれは教団の魔術の具現子の輝きのように見えて…
突如の閃光。黒は雷という方向性をもって重傷の生徒を襲う。それはまるで黒い槌だ。
俺もここにきて事態の異常さを理解した。我ながら気を緩めすぎだ。
そのふがいなさに歯噛みをしながら彼のもとへ走る。しかしその雷を止めるすべは今の俺にはなく…
「曲絃!!」
しかし雷は生徒の前で止まった。
無数の輝く白い具現子の糸によって絡め取られ、その勢いを大幅にそがれている。
いまだに惰性で直進を続けているがそれの消滅も時間の問題だろう。
そしてその糸がつながっている先、それは風紀委員長、白銀咲妃だった。
彼女は片手に杖をもう一方の手にその意図の端を接いでいる。
指先をほんの少しだけ動かした。
しかしそのごく小さな動きにも拘束系術式「曲絃」は正確に答える。絃たちは
先ほどの魔術を発した生徒の周りに浮かび上がると間髪を入れず彼を縛り上げ、宙づりにした。
まるで芸術のような手際である。
しかし完全に手も足も出なくなった生徒はうれしそうににやにやと笑っていた。
その様子をいぶかしく思ったのか委員長は声を上げる。
「貴様、あれ以上の攻撃行動は規則違反だと知らなかったのか?」
その声は凄味があり、彼女の目は冷ややかに彼を見つめていた。
「………素晴らしい」
しかし彼は白銀委員長のほうを見るどころか何かにうっとりと酔いしれていた。
「なんだと…?」
「いえいえ、緊張の中で思ったよりも十全な力を出せたのがうれしくてつい…」
彼は全く反省していないような声色で言う。
「あなたの今の行為はこの大会規格で定められたルールに反します。理解していますね?
よって厳重注意として、次回の注意をもって強制的に失格とします」
白銀のもとにたどり着いた俺は彼に向かって言う。
この大会には一定以上のけがを負わせないためにもそのような規定が設けられていた。
俺のその言葉を聞いた彼は少し顔をゆがめたがすぐに口を開いた。
「…申し訳ありません。すこしハイになってしまって…」
その言い方はどこかかみ合っていなかったが、白銀はそれで良しとしたようだ。
指をわずかに動かし、拘束を解く。
すでにけがをした生徒は運び出されているので、問題はないだろう。
「それではこの試合、伊形穿人の勝利とする…」
白銀が淡々という。しかし俺は想像外の人物の登場に愕然としていた。
「伊形…?」
そういう俺に向かって奴は大きく口を開いてニヤッと笑うと、会場の袖へ消えていった。




