2-3 会議
「ではすでに情報は持ち出されていたと?」
今は放課後。先日の試験について生徒会のメンバーがそろって話し合っているところだ。
「はい。俺が駆け付けた時にはすでに転送を終えていたようです」
「まったく、理事長はわざわざ研究成果を献上して何がしたいんだろうな」
その通りで俺は理事長の策にはまり記録庫に向かうまでの時間を大幅にロスしていた。
「わからないわね……」
俺は議論が膠着してしまったのをみて話題を変える。
「理事長はあなたたちにどのような指示を?」
その発言は少なからず驚愕を生んだ。
「お見通しですか……」
千葉さんが申し訳なく言う。
「はい。そもそも先輩方が動ける状態になっていればあそこまでの侵入を許可しないでしょう」
「まさしくその通りだ、廓義」
白銀委員長が悔しそうに唇を噛む。
「あの時は理事長に「動くな」と命令されていてな。
もちろんこちらも不本意ながらに従っていたわけだが…」
「そういえば誰かの動きを見たいとか言ってたっけな?」
そういって切谷先輩は俺のほうを見てくる。おそらく誰かは俺だろう。
「申し訳ないことをしました……」
理事長は俺の実験のために全校生徒を教団にさらしたのだ。
俺がいなければまず起きなかった出来事だろう。
「何を言っているんだ廓義…だれも君を責めはしないさ。むしろ申し訳ないのは私たちのほうだ。
悔しいことだがあれの前ではどうにもならない…」
仕方なく従っている。おそらくはそうなのだろう、だが…
「わかっているわよ廓義君。彼もいい人ではない、それぐらいはね」
千手会長はいつもの穏やかな表情とはちがう悔しそうな目でそういった。
ほかのメンバーも今の状況をよしとはしていないようだ。
俺はその様子に少し安堵する。
「さて、昨日の事件に関してはまだ判断材料が少なすぎます。
なのでそれについての議論はここまでにしましょう。これからはそろそろ始まる新人戦についての
話し合いをしましょう」
「そうだな。ありゃいいお祭り企画だ」
切谷さんが歯を見せて笑う。それを誰も咎めようとはしなかった。
「私ももういちど出たいくらいだよ~」
「もう一度やってみるかしら?準優勝、綴紙成果ちゃん?」
千手会長が挑発的に言う。
「うう、あの時はまぐれで負けちゃったんだよ!いまやればきっと勝てるもんね」
「それはどうかしら?」
「楽しそうなところ悪いが話を進めよう」
白銀が割って入る。そこで俺は興味本位で問いを発した。
「みなさん、何番だったのですか?」
白銀委員長は少し嫌そうな顔をしたが何も言わないでいてくれた。
「私は準優勝!!っつうあの時は千手ちゃんに一本取られたねぇ」
「成果に言われてしまったけれど私は優勝だったわ。籤運もよかったわね」
「謙遜をするな、海那。私なんて3回戦で敗退してしまったさ」
「あ、私は出ていません…」
「俺も出てないな。ったくありゃ出るもんじゃないぞ。
痛いだけだ。しかしそういう女子を見てるのは…」
「といった感じだが廓義はどうするんだ?出場するのか?」
切谷先輩が何か言おうとしていたがそれは白銀委員長にとめられた。
「俺は出ませんよ。これ以上の荒事は遠慮しておきます」
「そうなのか、君ならある程度、いやかなりのラインまで行けるだろうに」
「いえ、俺の戦いは魔術師の戦いではありませんから」
これは本心である。俺は魔術を使えるが決して魔術師ではない。
「そうかそれは残念だな…生徒たちにそういう存在を認知させるいい機会かとも思ったのだが」
「そうよね、本当に残念だわ…」
千手会長がやたらもったいぶっていう。少し嫌な予感がするのだが気のせいだろうか。
「まあ仕方がないわね。逆に好都合でした。私たち生徒会は当日は開催の運営と警備に当たります」
切り替えて千手会長が言う。
「生徒の多くが杖の携帯を許可される行事だからな」
「しかも多くの生徒が一か所に集まる手前警備が手薄になるわ。
前回のようなことがないように対策を練る必要があるわね」
顎に指を当て少し考える千手会長。そこで俺は一つ気がかりであったことを問う。
「理事長はなんと?」
今回の事件で一番の不確定要素が理事長だ。彼がこの行事で「何か」をしたいといえば
新人戦はまったく違った行事になってしまう。
「彼は何も言ってきていないわ…不気味ね」
「いや、その件だが俺は関与しないってきいたぞ」
すると切谷先輩が意外な一言を口にした。
「その時期は仕事が入ってて違うところに向かうらしい。ったくなんのための新人戦なんだ?」
「理事長が欠席?」
「ああ、だから「僕がいないからフォローもないよ、もし何かあったら頑張ってね」だそうだ」
「相変わらずわけわかんないねえ理事長~。まるで何かあるみたいな言いぐさじゃん」
その通りである。
その後俺たちはわだかまりを抱えながらも当日の運びなどを確認して解散した。




