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1-15 教団と御子

駆ける。行く先は一つ。

その影は廓義。その足取りに迷いはない。


「完全にやられた…」


そうつぶやく彼はどこか焦っているようにも見えた。


「堕法教団」


「魔法」についての数々の功績を残す魔術結社。

しかしその実績の多くはあまたの非人道的な人体実験に支えられており、

その実態は悪趣味なアクマ崇拝に近いゆがんだものである。


「争いこそ魔の存在意義。混沌こそ至高」


そのような認識でもって彼らは魔法をもとめた。

人体実験。それは燦燦たるものである。その材料は無垢な子供。

彼らは巷の民家、魔術師の家から子供をさらっては人体実験の素材にした。

子彼らは子供に特別な術式を強制的に組み込んで能力の底上げを図ったのだ。

子供はまだ発達途中で新しく「何か」を組み込む際に抵抗が少ない。

そう教団はいい、実験をすすめ、その子たちは魔法へいたるための御子としてあがめられた。

しかしその結果は地獄絵図そのものだった。

実験中に術式にたいする拒絶反応で死亡することは日常茶飯事で、

それはむしろ救われたほうかもしれない。

それを乗りこえると今度は御子同士の殺し合い。より優れた種しか彼らは求めない。

互いに互いを知らない。まったくの赤の他人。しかし殺しあう。

それが当たり前のように教育されていたから。

そして一人が残る。教団はその子を柱に魔法へいたるための術式を揮う。


作成。

失敗。

作成。

失敗。

作成。

失敗。


数多の犠牲に成り立つ歪んだトライ&エラー。

何人の子供が犠牲になったのか。もはやだれも知らない。





あるとき彼らのロッジのうちの一つが国によって解体された。

それは対話などを用いた静かなものではない。実力行使。

そこに異論がある人間は当時ほとんどいなかっただろう。

もちろん彼らは抵抗に抵抗を重ね、争いは長きにわたり、互いに大きな損害を残した。

数多くの魔術師が息絶え、まるで国家間の戦争のような有様であった。

しかしそこで特筆すべきはその戦場の過激さではない。

その歪んだ惨事を生み出した一つのファクター。

教団の言うところの御子の存在である。

御子たちは教団側として参戦していた。

教団、それが彼らの世界でありそれ以外は異物でしかなかったのだ。

そして彼らの扱う魔術はこと如くがとてつもなく強力であった。

その力は屈指の実力を持つ戦闘魔術師のそれとも匹敵していた。

事実、国軍も彼らにひどく手を焼いたが何よりも問題だったのが御子の生命の確保であった。

もとは無害な一般市民。確保し救済する、それが国の指標であったのだ。

しかし欠点が一つ。いや、ある意味教団にとってはプラスだったかもしれない。

そしてそれはまさしく致命的なものであった。

子供たちが魔術をふるうたびに倒れていったのだ。それは体の内側から壊れていくように。

身に余るほどの術行使。周りの具現子の奔流にのまれて消えていった。

しかしそれを彼らは恐怖とは認識していなかった。

むしろ彼らは笑っていたそうだ。激痛に顔をゆがめながら、

自らが光にのまれていく姿をうつろに見つめながら彼らは笑いながら死んでいった。

そして国軍はその対処に追われ最終的な結論として抵抗する御子の抹殺を命令した。

戦闘をすることが死につながる御子たちを生存確保するのは実質的に不可能と判断したのだ。

そして最後に残ったのは残り少ない国軍と残酷な研究施設。

実験に用いられた子供たちは一人を除いて全員が死亡した。

そして…








廓義は記録庫までたどり着いていた。そこにはやはり黒装束。

しかし先ほどのものとは違い黒子のようなそれではなく全員が顔を覆うほどのフードをもった

ローブのようなものに身を包んでいる。そこからにじみ出る雰囲気はまさしく黒。

そのゆがんだ感情が空間を侵食しているかのようだった。

表情をうかがうことはできないがおそらく男性であろうことは体型から推測できる。


「いやはやしかしなんともすさまじい研究成果だ。

我々があれほどの御子の命をささげても到達できなかった魔法の境地へ

これほどまで近づいているとは…さすがの手繰さんですねえ…」


その発言はだれに受け取ってもらうことを想定したものではないだろう。

男の独白は続く。


「やはり量よりは質…ということですかねえ?

私たちも互いに競わせてより良い優越種の作成に努めたのですが…」


そういって黒衣の男は文書をめくる。その指先は楽しそうに泳いでいた。


「うふふ。これはいいアドバイスをいただきました。彼も私と同じ魔法を目指す人間。

もしかしたらこんな回りくどいことをしなくとも頼めば見せてくれたかもしれませねえ」


そういって満足そうに本を閉じる。


「さてと…何の用ですか?少年?」


男は廓義へ向き直る。その挙動からは待ったく存在感を感じることができない。


「何しに来た?あんたは本来こんな所まで来る人間じゃないだろ」


「うふふ。おかしいですね?君、私のことを知ってるんですか?」


男は自らを知っているかのような廓義の態度をそういって笑う。

その端からはやはり何もうかがえない。


「そんなことはどうでもいい。さっさと答えろ」


廓義はそういって杖を男に向ける。その動作はどこか挑発的だった。


「待ったく…礼儀がなってませんねえ。これはお仕置きが必要だ」


そういって男は指を鳴らす。瞬間、廓義が立っていた位置に黒い炎が立ち込める。

そして間をおかずに爆発。そこには廓義の姿はなく、黒い煤だけがまいおどる。

まるで黒が空間を塗りつぶしたかのように。そこは「黒」だった。


「ふふふ…やっぱり礼儀は重要ですね。帰ったら子供たちにも教えてあげなければ…」


男は袖のうちへ手をしまい、感慨深くいう。

そのまま一歩出口へ足をすすめたところで違和感に気が付く。

源は背後。


「っつ!!」


その正体は廓義だった。

男の背後から迫っていたのだ。

背後、正しくは後頭部。そこを上から廓義は狙っていた。

最短の動きで振るわれる手刀。それは男の首筋のロープを切り裂いた。



男の初動はわずかなものだった。それを察知してから彼は真上にとんでいたのだ。

人がそれをみれば彼が天井に張り付いていたように見えただろう。

しかしそんなことはもちろんなく、彼は自らが上にとんだ加速度が負の方向に働くまで

天上に押し付けられていただけである。ゆえにそこに魔術は必要がない。

完全に人間のみの技である。

男は完全にうぬぼれていた。しかも男のフードは明らかに戦闘において重要な視界を阻害していた。

それが合わさり奇天烈な方向からの奇襲を可能にしたのだ。


さらに踏み込む。しかしもう一度射程圏に入れさせるほどに男は甘くなかった。

黒い法衣に包まれた腕を横一文字に揮う。

それだけで彼の周りの具現子が光を帯びる。しかしそこに現れる輝きは黒。

それを輝きと評することは語弊を生むかもしれない。しかしその黒はどこか妖しく

人々を魅了する輝きがあった。


廓義は踏みとどまる。すると男が薙いだ空間がまたしても黒に埋まった。

まさしく敵意を持った殺傷せしめんとする魔の力。

廓義はそれを回避するとそれもつかの間、廓義は駆け出す。

彼は黒が消滅するその瞬間にそこを通り抜け、男に肉薄する。


「なかなかやりますねえ。さすが手繰さんのお弟子さんといったところでしょうか」


男は相変わらずの余裕をもってそこから飛び退く。

廓義の大きな踏込を込めた正拳突きは空を切る。そしてその隙はあまりにも大きかった。


「これはどうでしょうかねえ?」


彼の周りから黒い発光。それは地面に敷かれた設置型魔術の発動を示していた。

教団式魔術「(わだち)」自らが敷いた陣の定義する空間に人間が入り込んだことを察知し

その空間を爆発させる罠のような魔術。

攻撃を空振りした硬直にある廓義にそれをよけるすべはない。

もちろん男もそれを理解した上での術行使。

しかし…


「術式解析完了…解除」


そういって杖の引き金を引く。白いわずかな発光。それだけで黒い陣は消滅する。

廓義が生徒会に所属する所以にもなった能力。術式の解析能力。その技術の応用である。

彼の解析力で術式の弱点を見出し、そこに計算された振動の術式を打ち込むことで

その術式の構成を弛緩させて崩壊させる。彼ならではの演算能力の活かし方だった。

相手の必殺の魔術を打ち消す。それは確実におおきな隙を生む。

必殺のカウンターは必殺。その理念のもとに成り立つ究極の不意打ち。


その様子に男は目を見開く。それは生徒会の面々がしたような当然の驚きでもあると同時に

男にとっては別の意味ももっていた。


「おや、もしかしてあなたは…」


「その先はいらない」


廓義はもう一歩踏み込む、もはや男に抵抗の意思はなく、

その表情はどこか満足げですらあった。彼は障壁すら張っていない。

そこに打ち込まれる容赦のない正拳突き。

それはみぞおちに突き刺さり、容赦なく男の意識を刈り取った。







俺は大きく息をつく。想定していたよりも短い戦闘にもかかわらず、

息は上がり肩で息をしているような有様であった。我ながら情けない。

今ここで倒れているこいつはおそらく「堕法教団」の人間。

それもそれなりの地位のものであったはずだ。なぜならこの服装は見覚えがある。

先ほどの複数名のものによる襲撃。

あれはおそらく教団という印象を浮かばせないためのダミー。

あれほど¨ぬけている連中¨が教団であるわけがない。

そう認識させるための手であろう。


「完全にしてやられたわけか…」


この男もどうやら仕事を終えていたようだし、

おそらく魔法についての研究成果も教団へ流出しているのだろう。


「教団…か」


俺は震える体に喝をいれて男を拘束してから理事長に連絡を入れた。

それでも震え続ける足は俺のものではないのかもしれない。

そんな錯覚を覚えるほどに弛緩していた。


「終わりましたよ…すべてあなたの思い通りでしょう」


俺は力なくそういったのだろう。自分でもわかるほどに今の俺には覇気がなかった。

さっきまでの威勢はどこに行ったのだろう。


「うふふ。本当?お疲れ様だね、御子様」


やはり理事長はアクマみたいに笑っていた。

こんにちは。某県民です。

何ともテンポの悪い感じになってしまいましたが

このお話でとりあえずの区切りとなります。


次回はこのお話の後日談(短編)の予定です。

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