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1-14 真相

「それにしても…こりゃどういうことだ?」


九重が不満げに漏らす。彼らは生徒解放の下準備として杖の回収に向かっていた。

相手方も杖の重要性は理解している。

当然この行動は想像通りでほぼ確実に妨害に合うと思っていたのだが

彼らの予想は杞憂に終わっていた。


「妙に静かだな」


廓義も続く。二人は足早に廊下を進む。


「なら杖はすでに処分したってことか?」


杖が重要であるという事実は確固たるものであって、そのうえで妨害策を

とっていないとするならばそれはすでに何らかの対策を打っていると考えるのが妥当であろう。


「いやそれはまずありえない。そもそもが戦闘用に作られた代物だ。

大規模な破壊魔術でも行使しなければまず壊れないぞ」


その一つの対策の例としてあげられるのが杖の処分である。

しかし杖は兵器として製造されている。

兵器である杖が簡単に壊れてしまうような設計されていない。

それは当然のことながら考慮されていてその強度はすさまじいものだ。


「そうなんだよなあ…そんな術が揮われた後もない」


それほどの魔術を行使すればほかの魔術師が感知しているはずである。

しかも今は非常事態。彼らを含むすべての魔術師は具現子の動きを注視しているだろう。

誰も見逃しはしないだろう。


「とすると杖はどこかに移動された?」


廓義がいう。


「なるほど。確かに杖は単価が異常に高いからな。そのまま転売すれば

利は出るだろう。けどここに潜入するリスクを考えれば釣り合わないか…」


杖は各人が所持している。その杖の種類などは戸籍とともに登録されており、

もしそれを用いて犯罪が発生すればすぐに検挙される仕組みになっている。

名義がわからない杖は非常にその手の組織の需要があり、高値で取引される。

ゆえに杖の盗難事件はメジャーな犯罪の一つなのである。


「訳が分からないな…」


九重がいぶかしげに首をひねる。


「とりあえずは杖の所在の確認だ。急ぐぞ」


廓義は了承を得ずに駆け出した。


「ああ。なにか怪しい香りがする!」


廊下を二人がかけていった。








「っとこれで終いだ」


切谷が黒装束の首筋に彼の杖である大剣の柄を打ち込みながら言う。


「こっちもおわったよ~」


綴紙が少しはなれたところでいう。

二人の周りには10人ほどの黒装束がそれぞれ倒れていた。


「ほねがないな~まったくぅ」


綴紙が唇をとがらせて手持無沙汰に長杖を振り回しながら言う。


「楽ができるなら構わないさ」


切谷は具現子で構成された大剣の現存を解く。そこには不釣り合いな柄だけが残った。


「けどそうも言ってられないと思うけどなあ」


そういう綴紙はいつも通りにのんきな表情をしていた。


「あいつらの目的がかなりわかってきたがこりゃほっておいていいレベルなのか?」


「うーん。あれってこの学校のかなめでしょ?やばくない?」


「ああ。やばいな」


緊急事態とは思えないほどの軽いテンポで話は進んでいた。


「けどさ。理事長の命令に背くのもやばいよね…」


しかし綴紙が普段の元気とは正反対な声色でつぶやく。

それは切谷も同じ事であった。


「ああ。…そっちのほうが…やばいな」


そういって二人はそろって震えだす。

しばらくそのままだったが落ち着くと


「まあ新人君に頑張ってもらおうかな」

「そうだね。彼の杖も気になるし~」


などとひどく間の抜けた会話を始めた。

綴紙はさっきの静けさはどこへやら。杖の話には目がないようだ。

二人はそんなおしゃべりを続けながら、黒装束の間引きを進めていた。





「はぁはぁったく。この施設はどんだけでかいんだよ」


九重が息を切らしながら悪態をつく。

その不満も当然でさまざまな系統の魔術を学ぶために作られたこの施設は

そのニーズにこたえるために増設、改修繰り返していまや一つの迷宮と化している。


「そろそろ息を整えろよ九重」


だが廓義のいうとおり杖の管理所までの距離はもう遠いものではなかった。


「わかってるさ。あの中には何人くらいいるんだ?

ここまで妨害がなかったことを考えると完全にフリー

もしくはすさまじい防衛を敷いてるかの二択になるよな」


そういって九重は間近に迫った保管所の入口へ目を向ける。

その扉はわずかに開いており、そこから光がこぼれていた。


「今洗い出す。少し待ってろ」


そういって廓義はおもむろに引き金を引く。彼を中心にわずかに具現子がざわめいた。

ただそれだけであるがそれで彼には十分だ。


「中には3人…すくないな」


廓義はまたしても思慮にふけろうとするがそれを九重の疑問が止めに入る。


「おい、今何をした?」


九重が急にまじめな顔をして問う。それに廓義は相変わらず澄ました感じで答えた。


「薄い具現子の波を作った。それの反射波が

どのタイミングで帰ってくるかによって障害物と人間の位置を大まかに出したんだ」


具現子は目に見えないながらも物質だ。

具現子に振動の術式で「波」という情報を与えればそれは物理現象的にも「波」と扱う。

ゆえにそれを判断材料にソナーとして利用することは可能だ。

しかしそのためにはとても緻密な観察能力が要求される。


「それって精神系統に特化した術師がたどりつける極地だろ?」


精神系統の魔術師はより緻密な具現子制御を要求されるために

このような探知術式に秀でることも多いのだ。しかしもちろん物理系統を主に扱う魔術師でも

この探知術式は扱うことができる。とはいってもそれに至るのにはかなりの修練を必要とする。


「おれが洗ったのは人の存在だけだからな。しかも相手は魔術師。

具現子の残滓で跳ね返りが極端に変わるんだ。なれればなんともないさ」


そう軽く言ってのける彼のその芸当はやはり離れ業であるのだ。

もしそれが容易に可能ならばこの学校の生徒がすでに身に着けていることだろう。

しかし彼はそこを誇示したりはしなかった。


「よし行くぞ」


「了解だ。どんな感じで制圧する?」


「まかせる。好きなようにやってくれ」


「あれ?お前ってそういうキャラだっけ?」


そういって九重はいつも通り笑った。


「3、2、1…」


廓義のカウントダウン。


「0」


その発声とともに彼らは保管室へ踏み込む。

こちらの手数は二人に対して相手方は3人。

本来ならば互いに左右に散り、片方が一人をいち早くかたづけ、

早々に一対一を作り出すことが重要だ。

しかし彼らは以外にも正面からまっすぐに突っ込んでいった。

もちろんそんな作戦など立てていない。

互いに好きなようにやった結果である。

廓義は九重に背を預け敵への最後の一歩を踏み出そうとして


「切谷先輩…?」


予想外の人物の登場に唖然とする。

そこには保管所の用務員と楽しげに会話をする切谷と綴紙がいた。


「おや?廓義君やっほー。勤務ご苦労!」


綴紙の気楽な発言に廓義の困惑はさらに深まっていく。


「今は緊急事態ですよね…」


「ああそうだな。いわゆる緊急事態だ」


切谷がそっけなく返す。それは今日の時間割をきくただの学生のようだった。


「なのにそこでサボっ…休憩しているんですか?」


「サボってないよぉまったく失礼だよ!私たちには今仕事がないからねー」


「その通りだな。むしろ仕事をしないことが仕事だ」


二人は誇らしげにいう。その仕草に九重ですら愕然としていた。


「おい、廓義。この人たちはいったい…なんだ?」


「生徒会役員の切谷先輩と綴紙先輩…のはずだ」


廓義はなぜか自信がなさそうに言った。


「お?疑ってるのか?確かに今は緊急事態だからな。

しかし擬態魔術はなかなかの高等テクニックだぞ?

あとお前だったらきっとさっきの波で気づいてるだろうに」


「違いますよ!なんであなた方は仕事をしてないんですか!!」


切谷のあまりにも的を射ない発言に廓義はつい怒鳴ってしまった。

しかしそれに対する返答はやはり真剣みにかけるものであった。


「まー理事長がからんでるからどーしようもないんだよねー」


何気ない一言。しかしそれが何かを刺激した。

その瞬間、場の空気が止まった。

一言でいうならば怒気。一般の人間でも感じ得るほどの感情の奔流が起きていた。

その感情(じょうほう)の発信源は廓義。

それにこたえるように場の具現子が一瞬だけざわめいた。


「切谷さん。事情は理解しました。一つだけ教えてください」


無表情。しかしその眼はいつもより暗く鋭いものだった。

その変貌は普段の廓義らしからぬもので、どこか突発的なものに感じられた。


「なんだい?新入り君」


「やつらは今どこにいますか?

千葉さんが探知術式を展開して把握しているんでしょう?」


事実、千葉はこの学校全域に対してあの黒装束の動向を探るという命令を理事長から受けており、

それを実行している。


「察しがいいな。けど理事長から言われてるように…」


理事長は廓義に任せるといった。それは一種の廓義への試練。

そう切谷はとらえていた。

ゆえに切谷はここでの情報開示は理事長の意向ではないと考えていた。

しかし廓義は食い下がる。彼が他人の発言に割って入ることはとても珍しいことであった。


「あなたもわかっているでしょう?あの人は平気で他人を犠牲にできる人だ」


「そんな臭いは確かにしてるさ。

けどあの人の指示で人死には出ていないんだよ。あんなに危なっかしい人なのにな。

けど逆らうわけにはいかないだろう?」


廓義に同意を求めるように言う。

その口ぶりはどこか悔しげであったが今の廓義には些事なことであった。


「わかりました。その気持ちは痛いほどにわかります。

けれど俺はやつらを止めなければいけない。俺の平穏な今を崩したのもそうですが

何よりあの手のやからは厄介です。

おそらくそれが理事長のたくらみでそのうえでおどるのは

気に入りませんが…仕方ないですね」


彼は自らの杖を腰のホルダーへしまう。

そしてその手をかざし唱え願う。

その姿はまるで神に祈るように。何もない空間に何かを求め、掴み取るかのように。


「我、虚空に問う」


発光。白く輝くそれは高貴な文様を描き、空を飾る。

それは彼のまわりを囲いおおった。


「数多の軌跡、その流動の系譜を知るものよ」


閃光。そうとしか形容しがたい光。

しかもそれは突発的なものではなく絶え間なく照らす。

その白はすべての色を否定する無慈悲な白。それが空間を覆う。


「汝が名を持って今ここに…」


彼の周りの空間が白に変わり、塗り替えられようとしたときに


「その必要はないよ」


理事長が現れた。

まるで存在感を感じさせずに廓義の背後に現れていた。

相変わらずのはりついた笑顔。


「いやあ、今そんなことしたらさすがにまずいでしょ廓義君」


廓義はその言葉を聞き入れずに理事長を凝視する。

その意味を汲んでとった理事長は続ける。


「そう睨まないでよ。あと切谷くんちょっかいだし過ぎだよ。

僕は彼の思うがままにといったはずだよ?君たちは言われたことをそのまま実行すればいい。

それくらい人形でもできるのにね」


その言葉が意味することはこの人物、人形術師、糸式手繰の前では強烈な意味を成す。

その意味は彼も理解大いに理解し、恐怖している。


「さてと。じゃあ廓義君の質問に答えよう。やつらが今どこにいるか?だね」


「はい」


廓義の返答は素っ気がなく、彼の心境を映す鏡のようであった。


「彼らは今、記録庫にいるよ。ちょうどロックをこじ開けたくらいじゃないかな?」


その言葉を聞き終える前に廓義は駆け出していた。

あまりの速さにだれも引き止めることはできなかった。


「おい!廓義どこに行くんだよ!?」


九重が叫ぶ。その問いに廓義は答えなかった。

その行くあてをなくした問いに答えたのは理事長。


「愚問だね。もちろん記録庫さ」


「それは分かっていますがなぜやつらが記録庫へ?」


九重は一応の敬意を払って言う。


「それはここは法3、魔法域到達方法研究所。

魔法へ至る方法を追い求める研究施設だよ?

その成果たる記録を彼らが求めるのはまあ当然のことだよね」


「それは事実から考えれば当然のことです。

なぜ奴らみたいな犯罪者が魔法を求めるんです?」


食い違い。それが生まれていた。九重は知らなかったのだ。

事実、生徒会メンバーと理事長しか知りえなかったかもしれない。

彼はこれらが何かの金銭的利益を求めてここを襲撃していたと思っていたのだ。

しかし


「なるほどね。君たちはそう理解してたのか。

じゃあ君たちにもわかりやすいように最近知れた名前で言ってあげるよ。

あれは魔術結社…いやちがうね。(てい)はそうだけど実質は宗教団体だ。

彼らはこう呼ばれているよ「堕法教団(だほうきょうだん)」ってね」


「それって…」


九重が顔をひきつらせて言う。

それほどまでにその存在はその業界では禁忌に近いものなのだ。


「そう。このあいだの首都施設占拠。あの事件を起こして

「雷神」こと光京に抹殺されたはずの団体だよ。

そのほかにも悪名高く、ひどい人体実験を繰り返して魔法へ至ろうと企んで、

過去に何度も抗争を発生させている頭のおかしい奴らの集まり。それが堕法教団だ」


「待ってください!!そんなやつらに廓義一人なんて無謀すぎる!」


九重が駆け出そうとして…そのままで止まる。いや、動かないのである。

彼の四肢には糸が付着していた。

妖しく輝くその糸は彼の四肢と理事長の指へつながっていた。

「手取り足取り(マリオネット)」

糸式手繰が彼たる所以の術式である。


「君もそう思う?じゃあ見てあげようよ。本当にそうなのかさ。

あと彼も教団との因縁が少なからずあるしね。君の介入をよしとは思わないと思うよ」


理事長は珍しく無表情だった。

かれが引きづるウサギの口はつりあがって裂けていた。

こんにちは。長くなってきてしまいました黒装束編(仮)

次回にて一区切りの予定です。

つたない文章ですがこれからも読んでいただければ幸いです。

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