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1-12 異変

異変は二つ。

一つは彼の周りからいっさいの生徒が消えていたこと。

そしてもう一つ。

彼の周りを怪しい紋章があしらわれた黒装束の男6人ほどが取り囲んでいた事だ。


廓義は仕事を進め、ほとんどの生徒がそれぞれの意向によって様々な場所に移動を終えていた。

しかしいつの間にか彼の周りから人は消えていて

そこには見覚えのない黒装束だけがいた。

その風貌は黒子のそれににているが不気味な存在感は

それに真っ向から対を成していた。それらはどれも体を鍛えているうえに

周りを漂う具現子の残滓を魔術師たちのようでもあるようだ。


「廓義宣人だな?」


その中のひとりが声をあげる。

その声はおそらく魔術によって加工されているのだろう、ひどく無機質なものであった。

廓義はそれに答えず、黒装束もそれを望んでいたようで続けて口を開いた。


「一緒にきてもらう」


それはひどく冷たく、その無機質な声質も相まって、不気味かつ荘厳な印象を生んだ。


「何者ですか?」


廓義はそんな中でも冷静に紡ぐ。


「答える必要はないな」


相変わらずの無機質な声であった。


「すでに我々はこの学校の主要箇所を押さえている。

部活動の全体説明会すなわち一番多くの生徒が集まっているであろうポイントも確保済みだ」


黒子が紡ぐ言葉は信じがたいものだった。


「…脅しということですか。

それにしても俺一人にそこまでの人手を割いてくれるとは光栄ですね」


そういって彼は両手を広げた。

その言葉を連行への合意ととったのか1人の黒装束が近寄る。しかし廓義はそれを制した。


「少し待ってくださいよ。たった数日過ごした場所でも

思い入れというのはあるものですよ。少しだけ眺めさせてください」


その声は彼のものとは思えないほどに弱々しかった。

黒装束はその言葉を受けて立ち止まる。しかしそれが廓義の合図になった。


「終わりましたよ…」


続けて彼は言う。


「そして、わかりました」


それは決して彼らに従うなんていう意味ではなく、

ただ単に状況を飲み込んだ、すなわち彼が動き出すことの保証が生まれたということ。

その声とともに一人の黒子が崩れ落ちる。

その背後には廓義が相変わらずのゆるんだ姿勢で立っていた。


「そもそもがおかしいんです」


彼は別の黒装束の懐に一歩で飛び込みつつつぶやく。

黒装束はなにやら魔術を紡ごうと杖を構えていたがそんな猶予はもちろん与えない。

鳩尾に的確に一撃。それだけでヒトは動けなくなる。

しかし彼らも魔術師だ。仲間が倒れ伏す中でも術式を完成させようとしていた。

しかし…


「あなたがたみたいな甘い人たちが説明会場を占拠。

本当ですか?あそこには生徒会がいるんですよ」


術式を完成させようとしていた2人は急に体勢を崩していた。

「震脚」

先ほど廓義が用いたものと同じ武術。

しかし今回は先ほどよりも強烈に彼らを揺さぶった。

その証拠に廓義の足は具現子の白い発光に包まれていた。

彼の得意術式、それでは言い方に語弊があるか。

彼の扱える唯一の魔術である振動の魔術だ。

彼の振動魔術に震脚という方向性を加えて放たれたそれは

黒装束の三半規管をはげしく振動させて麻痺させた。

加えてこれは足元から伝わる波だ。足の裏と地面の間に隙間などあるわけがなく、

そこに障壁を展開する領域などもちろん存在しない。故に不意打ちには最良な技である。

そして今回のその「震脚」の部分に該当するのは先ほどの踏込であった。

彼はあらかじめ背後に対する備えを設けていたのだ。


「きっと出任せでしょう?」


最後の一人に具現子を纏った手刀を食らわせ気絶させると

彼は最初に口を開いた黒装束に向き直る。その姿は普段通りの彼にしか見えない。

その中で追い込まれたはずの黒装束は嬉しそうに、

いや必然、黒装束に覆われたそれからそのような感情を読みとることは不可能である。

しかしそうとわかってしまいそうな程に人間らしく言った。


「なる程。忌み子もなかなかに育ったものだ」


男の発言に一瞬だけ廓義の表情が引きつる。しかしそれもつかの間であった。


「まあいい。今回はこんなものだろう」


そういって黒装束は霧散した。どうやらそれをかれも予期していたらしく

動じなかったが、その心うちはとても穏やかなものとは言えないかった。

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