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1-11 初仕事

「部活の勧誘期間ですか」


廓義はある日の昼休み、白銀に呼び出されて風紀委員室にいた。


「ああ。学期開始からしばらくたって新入生も落ち着いただろう。

毎年この学校ではこの期間に各部活が部員の争奪戦をおこなうんだ」


白銀が答える。

それは廓義の初仕事についてだった。


「なるほど。しかしなぜそこに風紀委員が介入するんですか?」


廓義の問いかけは至極当然のもので普通の勧誘の過程で

風紀委員が介入するほどの乱闘は発生しないはずなのである。


「それがな…落ち着きのないのはむしろ在校生のほうなんだよ」


白銀が気持ち声を落としていうと廓義はそれを怪訝な目で見る。


「つまりどういうことですか?」


「今はもう時間がない。放課後またここに集まってくれ」


「わかりました」


廓義はそういって風紀委員室の扉を開けた。


「それと任務中は杖の携行を認めるぞ。支度をしておけよ」


扉からで用とする間際に白銀が廓義を呼び止める。

廓義はあまりの警戒具合にこの学校の体制を疑ったが白銀のまじめな顔をみて

踵を返すと教室へ向かった。





授業が終わり生徒が吐き出される。廓義は風紀委員室へ向かう。

その中で普段とは異なる雰囲気を彼はひしひしと感じていた。


「こんにちは」


扉を開ける。


「きたか、じゃあ早速仕事の説明をしよう」


いつも通りの真面目な眼差しで彼女はいう。


「今回仕事の主な内容は暴走しがちな生徒を押さえることだ」


「暴走…ですか」


廓義はあまりにも物騒な言葉が現れたことにさらにこの学校の異常性を痛感する。


「ああ、有望な部員を確保するためにあらゆる部活動が躍起になっている。

この学校がいくら最高峰の実力者を集めているといってもその中でも格差は確実に存在している」


「それは俺ももっぱら痛感しているところです」


「そうだろうな。だから彼らは戦闘魔術師への道をあきらめて別の道を探すわけだ。

いくら彼らの目的が戦闘魔術師になることだとはいっても、無理なものは無理だろう?

それは挑戦ではなくただの無謀だよ。

それを追い求めるような生徒はこの学校にはほとんどいないさ。しかし新入生はちがう」


白銀の非情ともいえる発言はここに及んではひどく正論だ。


「その温度差が原因だということですか」


「ああ。その間でトラブルが毎年のように起きているんだ。」


「新入生のプライドというわけですか…」


「そうだな。まあ簡単に言えば空気の読めない在校生といった感じなのだろう。

さてと話を進めよう。問題発生後の鎮圧方法はできるだけ穏便に済ませてくれ。

できるだけ攻撃性のある魔術は用いないこと。もちろん事件の発生前に抑えることが最善だがな」


「わかりました。杖の使用をともなった攻撃魔術の行使許可はどういう基準で?」


「相手が悪意ある魔術を行使しようとしたときだ」


「了解です」


その言葉をうけてから廓義は黒い箱を開く。

その中には見覚えのある怪しく黒光りするマグナム型杖が収まっていた。


「そう言えば廓義、おまえの杖を見るのは2回目だななにを使っているんだ?」


白銀が訪ねる。


「これですか。これはアンティークですよ。

ずいぶん昔のマニュアルもマニュアルな杖です。

術式の選択もこのリボルバーを回さないといけません。

長所と言えばその代わり処理の肩代わり能力がほかのよりもたかいくらいですね。

なかなかピーキーです」


廓義は黒の銃弾を弾倉に詰めながら答える。

その動きはなんども繰り返し反復したかのように滑らかでそして機械のようだった。


「ほう、だが使っているからには理由があるんだろ?」


「まあ一番肌に合うってぐらいですよ」


廓義は自らの特異体質には触れずに静かに席を立ち、

そしてそのまま彼は仕事場へ出向いていった。





「さてと…それにしてもすさまじいな、これは」


廓義は校舎の屋上から勧誘のメイン会場である広場をみわたしていた。

そこにはたくさんの生徒がひしめき合い、

大きな幕を手に持ち勧誘をする上級生などが特にその存在感を放っていた。

新入生の中では露骨にそれを避けるもの、興味を持って近寄っていくものがいた。

廓義はその中に知り合いの顔を見つけた。


「私は部活とかは入らないつもりなので…」


それは帳だった。

多人数の生徒に囲まれて勧誘を受けているようだ。

確かに帳はかなりかわいらしい容姿をしていて、

部活としてはマスコットとして入部させたいということなのだろう。

一つの客引きパンダだ。

廓義はしばらく様子を見ていたが本格的に帳がいやがり始めたのを見て腰を上げた。


「さて、お仕事しますか」


彼はそうつぶやくと一歩踏み出した。しかしここは屋上。しかもその淵である。

そこから一歩踏み出す行為は、すなわち飛び降りることに等しい。

それは常人ならば危険な行為だろうが、彼は少なくとも常人ではない。

その身に異能を宿しているのだから。見る見る近づく地面をよそに彼は杖の引き金を引く。

撃鉄の落ちる軽い金属音とともに彼の足元を具現子の輝きが包む。

着地は無音。屋上から飛び降りたはずの彼も何も無かったような顔で走り出す。

人ごみを風のようにすり抜けた彼は帳をかこむ生徒の輪までたどり着く。


「失礼します」


彼はここまでくるのに使った方法と同様にして帳の周りの輪を超えた。


「帳、大丈夫か?」


「…あれ廓義君なんでこんな所に?」


わずかの動揺と共に帳が問う。


「これの仕事だよ。まったく、初仕事から大変だ」


彼は自らの腕にまかれた委員証を指さしながら答える。


「君、何者だい?勧誘をしたいならちゃんと並ばないと」


輪を構成していた生徒がいう。

その言い分は的を射ている様に見えるが決してそうではなかった。


「俺は勧誘にきたわけではないですよ。それよりも重要な案件は

あなたがたがこの子が嫌がっているにも関わらず勧誘を強引に勧誘を続けていたことです」


「なんのことだよ?」


そういいながら彼は帳を見る。帳は視線を感じると廓義の後ろに隠れてしまった。


「ん?その腕章…風紀委員か?」


ふと別の生徒が声を上げる。話が早いと廓義が切り出す。


「はい、風紀委員副委員長、廓義宣人です。これ以上続けるようでしたら…」


その声を輪の中の一人が遮る。


「てことはお前あのワーストなのに生徒会に入った問題児か!」


その言葉を聞いたとたんに輪を構築していた人間たちの目が好奇に光った。

それは自分たちが圧倒的優位に立った時の人の目によく似ていた。

それを見て取った廓義はすぐに動く。このまま彼らと問答を続けていては

時間をとられてしまうし、なにより廓義自身で問題を起こしてしまう。

それは成り行き上の風紀委員といえど申し訳ない事態だ。


「帳、ここを離れる。俺の合図と同時に飛んでくれ」


「え?とぶって…」


「3、2、1…」


廓義は返事を待たずにカウントを始めて…


その足を地面に勢いをつけて叩きつけた。


突如として発生する振動。それは地震のような大きなものでもなくかといって

電車の揺れのような生易しいものではなかった。

それを形容するとすれば「しびれる」そんな振動だった。

その震えは彼の足もとから発生して地面を伝播、輪を崩した。


「震脚」


自らの踏み込みによって地面を揺らし、相手を揺さぶる、

武道の一つの極地である。しかしそれは1対1の死合の時に効果を

発揮するいわば気迫にも似たもので今ここで起きている事象を説明するには足りないものだ。

なぜなら彼を取り巻いていた生徒は総じて平衡感覚を失いよろめいていたのだ。

その様子を一瞥すると


「いこう」


そういって彼は帳の手を掴むと人混みの外まで引っ張っていった。





「ありがとうございました」


校門までたどり着くと帳が口を開いた。


「なに、いまさらそんなことはいいよ。さてと…面倒だけどまだ仕事があるから」


そういって彼は手を放し、踵を返す。それを少女はなにもいわずに見送った。

その眼はどこか懐かしいものを見るかのように、

その表情はどこか残念そうに、しかしそのような憂いを持ちながら

その頬はわずかながら紅潮していた。

もちろん彼がそれに気づくようなことはなかったが。





その後も廓義は大いに仕事に励んだ。

それには彼の責任感、仕事に関する一つの主義が見て取れた。

そのかいあってか特に珍しい事件も起こらず、

事件の芽は廓義の手によって大事になる前に処理された。


そうして無難に穏便に常識な日常が時を終えようとしていたころ、

非日常は突然に始まった。

お久しぶりです。しばらくの間筆を持てる時間が確保できず、かなりのブランクをあけてしまいました。これからは更新頻度を上げて頑張りたいと思います。

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