プロローグ 魔法使い
夏休みも終わりまた過酷な日々が返ってきました。
更新頻度も落ちてしまって申し訳ありませんが
これからもがんばって書いていきたいと思いますので
よろしくお願いします。
感想・改善点などあれば是非お願いします。
三人目の魔法使い プロローグ―魔法使い―
「魔法。」
そんな言葉が現実味を帯びてきたのはいつだっただろうか。
史記によればそれは1世紀ほど前とされている。
当時、地球を滅ぼすといわれた隕石が存在した。
大国が集い何発もの原子爆弾を映画よろしく打ち込んだが、
それでも軌道をまったくと言っていいほど変えなかった超巨大隕石。
人々は本当にまじめな顔をして地球脱出に備え眠れぬ日々を過ごしていた。
その確定的な滅びを地球からそらした。いや。
その滅びをこの世界、宇宙から消してしまった英雄が存在した。
それが最初の魔法使い。
名前は廓図定。
最初に彼はとある紛争地に突如として現れ、人々の傷をいやした。
現れた時に彼が口にした言葉がある。
「この世界を救う。」
そして彼は自分の特異性の証明のために多数の予言を残した。
それは危険人物の死期や宝くじの当選番号など、
大小さまざまなジャンルに分かれてなされた。
この何とも現実味がない予言の数々に彼をただのめだちたがりだと
評価し批判する人が当時には多数存在したそうだ。
しかし彼の予言は正しかった。
世界で起きる事件。隕石の軌道。
そのすべてが彼の予言のままに動いて行った。
さらに彼には特異な点があった。彼は戸籍を持っていなかったのだ。
彼が現れようと行動を起こした時以外は一切コンタクトをとれなかった。
国を挙げて調査しても返ってくるのは廓図の存在を否定する結果ばかり。
このような様々な不可思議な事項が並びに並び、世界は彼にくぎ付けになった。
人々は言った。彼は魔法使いだと。預言者だと。
一部の人は神としてあがめることさえした。
そして世界中の多くの人々が彼にあこがれた。
しかしある日、彼は言ったそうだ。
「決して私は神ではない。ただのしがない人間だ。
ただ君たちより少し深い世界を観測しているだけだ。
君たちにもいつか見える時が来るだろう。」と。
その言葉の真意はいまだに解明されていない。
そしてこの言葉を残した日、隕石は何の痕跡もなく消滅していた。
当時の隕石の動きをたどっていたレーダー管制官によると
巨大隕石は何の前触れもなしにレーダーから消滅したそうだ。
そしてそれと時を同じくして廓図定もその消息を絶った。
多くの人間が彼を探した。
しかし世界のどこを探しても彼のいた痕跡は存在しなかった。
当時はこれこそ世界の終りだと恐慌に陥る人々もいたそうだ。
そこまでに廓図は世界に認識されていた。
しかしそんな恐慌もつかの間である。
彼の存在は人々の意識からも本来ありえないほどのスピードで
消滅していった。まるで仕組まれているかのように。
データを消去するかのように。
昨日まで世界が終ると信じ込み、小康状態になっていた人間も
次の日には以前のように過ごすようになった。
誰もが彼の行った神業ともいえる所業に興味を持たなくなった。
痕跡の捜索に興味を示す人間も減っていった。
世界に彼という存在がもとより存在していなかったかのように
改変されていった。
それはまるで魔法のように。と当時の人間は語っていたそうだ。
ならばなぜこの情報が残っているのか。
それは当時唯一記憶の浸食を受けなかった
7人の人間が記録したからである。
彼らは記憶を維持しているほかにも共通点がある。
それは彼の捜索を試みた人間であること。
そして出向いた先で謎の光を観測したこと。
その光の正体と効能は現代の魔術でも大きな到達地点とされている。
そして彼らは覚醒する。
廓図定の技を継ぐ人間として。
しかし彼等の揮える術は「魔法」などという
人々が望み、憧れた救いの力ではなかった。
その力は七人を通して人を殺害せしめる力だった。
7人はそれぞれの見地から「人」のためになる行動をとった。
一人は敵国を打ち滅ぼし、一人は一人の女ために国を滅ぼした。
彼らは他人のためにといいながら自分のために「魔術」を行使し続けた。
ただ一人の女性を除いては。
その女性は偶然か必然か廓図の名を持っていた。
名を廓図津奈木。
歴史上の二人目の魔法使いである。
彼女は魔術の利己的な行使によって腐敗した世界を平定した。
彼女以外の6人の魔術師を殺害することで。
そして殺害した魔術師の力を模倣し自分のものにした。
それが彼女の扱える唯一の魔術。
それは投影魔術」であった。
詳しい理論などは一切確認されていないが、
別の文献によると彼女は見たものを理解し、完全に複写できたそうだ。
彼女はそれを6人にわたって行いすべてを自らに投影した。
彼女はその先に見えたそうだ。
物事のすべての源。存在理由を。魔術の上位。魔法の存在を。
彼女は自らを「魔法使い」と呼称した。
「魔法使い」そう自称する彼女の顔は常に
自嘲的な微笑に包まれていたという。
世界は二人目の魔法使いの存在に大いに沸いた。
そんな中、彼女は人々に「魔術」を平等に説き普及した。
ゆっくりと。着実に。魔術を通した人間の育成。
一種の宗教的な意味合いを込めて人間を導こうとした。
前と同じことは繰り返さないように。
しかし繰り返す、悲劇。
彼女は殺害されてしまう。
彼女の弟子たちである魔術師たちに。
彼らが動いた理由は簡単だ。
彼女は自分たちを脅かす可能性を持つ上位の存在である
「魔法使い」だったからである。
弟子たちが仲間を引き連れて津奈木を殺害しようと現れた時、
彼女は用意していたかのように言葉を紡いだ。
「殺しなさい。
それが私という歯車の存在意義なのだから。世界の加速を彼は望んでいるわ。」
そこからは連鎖的だった。各国家、勢力はすさまじい勢いで魔術を研究、発展させた。
他を出し抜き、圧倒し、支配したい。
人類発生当初から受け継がれる黒き願望に導かれ人びとは争いを始めた。
それが今日も続く戦争の発端である。
人間は争いのたびに技術を発展させる。
皮肉にも彼女の死が今の技術力の根底をささえ、
人間に繁栄をもたらしている魔術の始まりだった。
たしかに魔術は多くの利益を生み出したが多くの犠牲も生み出している。
世界では今この一瞬でも何千という人々が魔術によって未来を刈り取られているかもしれない。
そしてその争いは今日もその火を小さくはしたものの燃え続け、世界をむしばんでいる。
三人目の魔法使いの到来を期待したいくらいに現実は腐っている。
また同じことを繰り返すかもしれない。争い続けるかもしれない。
それでも願ってしまうほどに世界は無変で、無情で残酷だ。
けれど多くの魔術師たちはいまでも
個人のためにその大きすぎる力を振るいつづけている。
魔術は人々に浸透し、人々は魔術に依存した。
しかしそんな世の中でも守らなければならないものは確かに存在する。
それを守るためならば俺は喜んでこの力をふるおう。
いつだったか、俺はそう決意した。