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9,可愛そうなやつ
「さっきから先生のせいで話がそれてばっかりですよ。なんなんですか、先生は僕に話をさせたくないのですか?」
「いや、そんなことはないさ。でも、美しい花っていうけど、辺銀の見ている花っていうのはすべてが美しく見えるんじゃなかったっけ。」
「えぇ。すべてがすべて美しいですが、僕が今日見た花は格別に美しかったのですよ。」
それぐらい考えろって…辺銀、口にしないのはいいけど顔に出ていたら同じだぞ。
「なるほど、じゃあお話しください。」
「もう横から口出さないでくださいね。先生。話をしてほしいときに話をせず、話をして欲しくない時に話をする、空気の読めない作家ってレッテルを張られてしまいますよ。」
「大丈夫。そのレッテルを知っているのは辺銀だけだ。」
「…駄目人間」
今、私が胸に手を当てているのは傷ついているからではない。心臓が痛むから抑えているのだ。敬語なしで本当のことをぼそりと言われたからって、それぐらいのことで傷ついたりする六篇ではない、のだ。




