1:アメリカーノ
AM.8:20_
「アメリカーノください」
財布から小銭を取り出してレシートを受け取る。
店員さんに軽く会釈をして受け取りのカウンターへ向かうと、零れ出る小さなあくび。
「あー、ねむ」
クシでとかしただけ髪を耳にかけて、腕時計を見た。
やっべー、ちょっとゆっくりしすぎたかな__
まぁいいか_
会社のすぐ隣に建っているカフェが、わたしの性格をどんどんルーズへ変えていく。
変えていくというか、元からルーズ人間だったわ__
「お待たせ致しました」
朝から絶えず笑顔で接客する店員さんに尊敬の念を抱きつつ、アメリカーノを片手にカフェを出た。
「せんぱーい!」
「げ、」
カフェを出てすぐ、わたしの脳に「起きろ!」と言わんばかりの大きな声で話しかけてきた人間。
「__久遠くん。」
「おはよーす!竹内せんぱい!」
彼は久遠凪。同じ会社で働く爽やかすぎるにもほどがある青年。
わたしとは全く合わない、まぶしすぎる。
「元気だねぇ、朝から」
「せんぱいは今日もコーヒーっすか?」
「うん。これが無いとわたしは不愛想になるからね」
「いつも不愛想じゃないっすか!」
がはは!__
大きく口を開けて笑う久遠青年。
遠慮にも遠まわしとは言えない先輩ディス。なんなんだコイツは。
「悪気がないのが余計腹立つねー久遠青年よ」
「その呼び方やめてくださいよ!せんぱいより子供みたいじゃないっすか」
「いや、ガキだろうが」
「もう26歳っす!」
ぷくぅと頬を膨らましてわたしのほうを見る。
コイツは自分のことどっかのアイドルとでも思ってんのか?
「普通にきもいよ?」
「えー」
いや、26歳はガキなんだよ。わたしに比べると。
右手に持ったアメリカーノを口に運びながらエレベーターを待つ。
わたし竹内笑真、今年30歳。




