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血塗られし古城に剣を捧ぐ 〜死にたかった俺が仲間の魂を喰らうスキルで生き残る〜  作者: 新田青


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第8話 「戦場組」


 戦場から大広間に帰還すると、そこには誰もいなかった。


「ちっ。出迎えも無しかよー」


 ジンが悪態をこぼす。


「待たれていても気が悪い。どうせ臆病者の集まりじゃ」


「私が言った言葉、まだ気にしてるんですか?」


 3人とも怪我はないみたいだ。


 俺自身もポーションを使って腕の怪我は完治したし、残っているのは小さな擦り傷や疲れだけだった。


 今回こそは誰も死なずに帰ってくることができた。それが何よりも嬉しいと感じる。


「あ、ルイ。どこ行くんだ?」


「クルルもいないですし、特訓しようと思って」


「おいおい。帰ってきてまたすぐ動くのか?」


 呆れた様子のジンの言葉に苦笑いする。


「クラシキさんからも言ってやってくださいよ」


「好きにしろ。だが、飯は食え。まだ起きてから何も腹に入れてないだろう」


「あ、はい」


「クラシキさんの言葉はちゃんと聞くんだから嫉妬しちゃうぜ。そうだ。俺も特訓に参加していいですか? あとそこのカナエも」


「構わん。組み手の相手が増えるのは喜ばしい事じゃ」


「それよりお腹が空いて仕方ないわ。さっさと食堂行きましょ」


 カナエが俺の肩を押す。


「それにしてもルイ。お前、なんか凄かったぞ?」


「何がですか?」


「いや、なんか鬼気迫るって感じでさ。途中から異世界人の奴らも、ゴブリンでさえもお前にビビってたぞ」


 そうなのだろうか。話しかけてきたネイサンという男はそんな感じはしなかったが。


「確かに。生き生きしてる感じはあったわね。大怪我してるのに気づかなかったくらいだし」


「あの時はありがとうございますカナエさん」


「いいわよ別に。ていうかもっと自分の身体を大事にしたら? いくらポーションがあるからって、そのまま死んじゃったら終わりなのよ?」


 カナエの叱咤に返す言葉もなかった。


「まあまあ。ルイがいたから俺たちもやりやすかったじゃん? お手柄だよ」


「そういう問題じゃないのよ。ったく。年少者に無茶させて良心の呵責とかないのアンタ?」


「そんなに責めないでやれって話だよ」


 まとわりつくジンにカナエが鬱陶しそうに押しのける。


「小僧」


「あ、はい。なんですか?」


「……いや、なんでもない」


 クラシキは何かを言おうとして、言葉を止めた。揺れる瞳を見ていると、責める眼差しではないとは思ったが。


「どうでしたか? 上手く戦えてたでしょうか」


「ああ。上出来じゃ。だが……命は大事にしろ。一つしかないのだから」




 ――――――――――――――――


 それからというものの、幾つかの戦場に呼び出され、その度に俺は参加した。


 ジン、カナエ、クラシキも同じ様に毎回参加し、生きて帰ってきた。


 何度も戦いを重ねるうちに、アビリティである《死の嗅覚》の使い方がわかってきた。


 どうやら嫌な匂いにも種類があるらしく、些細な危険から、即座に死に繋がるような匂いもあるらしい。


 それを嗅ぎ分けながら、時に回避し、時に怪我をしながらも俺は戦場に立ち続けた。


 その中で気づいたのが、《死の嗅覚》が猛烈に発動する時、それは一転してチャンスにもなり得るということだ。


 その香りが危険であればあるほど、それを受け流した時は敵を簡単に葬ることが出来た。


 俺が死に近づけば近づくほど、敵も同じなのだと悟った時、自分の中で戦い方が変わった気がする。


 より危うく、より命を燃やすように。


 ポイントは300ポイントまで膨れ上がり、古城からの解放に現実味を帯びてきた。


 ジン、カナエ、クラシキも同様にスキルの使い方が馴染んできたらしく、戦場ではポイント上位を独占する様になった。


 四人の連携もスムーズにできる様になり、最初の頃よりも随分と打ち解けた気がする。


 強くなったという確かな実感と共に、他の古城のメンバーとは少し確執が生まれた。


 俺を含めた四人は毎回の戦場に参加するため"戦場組"と呼ばれ、他の古城のメンバーは"待機組"と呼ばれるようになった。


 "待機組"は戦場に自分からは参加せず、必要人数に足りない場合のみ、各々が古城からの指名を待っている。


 それが理由で、食堂で問題が起きた。


 食堂に入ろうとしたら、中で俺の噂話をしている人たちがいた。


「何が戦場組だよ。馬鹿らしい。わざわざ危険を犯す必要なくね」

「あのルイって奴、毎日広場で延々と剣振ってるんだぜ。頭おかしいだろ。どんだけ戦いたいんだよ」

「死にたがりなんじゃね?」


 なぜか気まずくなって食堂に入りづらかった時、ジンがその集団の一人にいきなり掴み掛かった。


 食器が床に落ちる音や、悲鳴が響き渡る。


「もう一回言ってみろよ? あ? 誰が死にたがりだって?」


「く、苦しいっ……! は、はなせよ」


 周りで静観していた人たちもジンを止めに入り、無理やり男から離される。


「誰のおかげであそこに行かなくて済んでると思ってんだ? 死にたがりだと? 俺たちが戦場に行かなかったら、お前らが選ばれる可能性だって上がるんだぞ!?」


「お、おちつけよジンさん!」


「っ! 離せよ! ルイが毎回どれだけ怪我してると思ってんだよ!? たかだか16歳の子供が、傷ついて、それでも戦ってるってのに、よく陰でそんなこと言えるな!? じゃあお前らの内、誰か一人でもルイの代わりに戦場に行けるのかよ!?」


「そ、それはっ」


「ちっ! ルイが何も言い返さないからって二度と気色が悪い事を言うんじゃねえぞ。次からはこんなんじゃ済まさねえ」


 俺は食堂に入ろうとしていたのに、思わずその場から走って逃げてしまった。


 どこか落ち着ける場所を探して走り、目に入った道具屋に飛び込んだ。


「いらっしゃいませ!」


 ホムンクルスのルビーがいつもの様に挨拶をしてきて、俺は後ろ手に扉を閉めた。


「ごめん……少しだけここにいていいかな」


「はい! 構いませんよ!」


 底抜けに明るいルビーから視線を外し、俺はズルズルと道具屋の床に座り込む。


 腹の底から何かが込み上げてきて、目頭が熱くなった。


 未だに大きな声を聞くと緊張してしまう。虐められていた時はそれでいつも嫌な気持ちになった。


 だが、今回は違う。


 誰かが自分のために声を上げてくれる。それがこんなにも嬉しいことだとは思わなかった。


「そういえば、最初にいじめられてたあの男の子も、俺を見て泣いてたな」


 泣きながらごめんと繰り返していた同級生。


 あの子のために声を上げたのは、間違いじゃなかったのかもしれない。


 状況は違えど、あの男の子も、俺と同じ気持ちになっていたら嬉しいと思った。


「泣いてるんですか?」


 いつの間にか近くにきていたルビー。


「あんまり見ないでほしい」


「あ、すいません! でもどうして泣いてるんですか?」


「……嬉しいから、かな」


「嬉しくても涙が出るんですね。羨ましいです」


「羨ましい?」


「はい。ホムンクルスは涙を流せないんです」


 笑顔で告げるルビー。それを見て、俺は可哀想だと感じた。


「そっか……じゃあ、悲しい時は辛いな」


「どうなんでしょうか。私は悲しくなった事がないからわかりません。あ、でも」


「ん?」


「貴方が私にルビーという名前をくれた時、なんだかここが暖かくなった気がします」


 自らの心臓に手を当てたルビーに、俺は思わず呆然とした。


「そ、そうなんだ?」


「あれは嬉しいっていう感情なのでしょうか? 今まで経験した事がないのでわからないんです。でも、皆さんにルビーと呼ばれると、その度に暖かくなる気がします」


「そっか。なら、名前をつけた甲斐があったよ」


「はい。それで、お願いがあるんですが、もう一度私の名前を呼んでくれませんか?」


「な、名前? 君の?」


「はい!」


 突然の事で慌てたが、相手は人間じゃない。ホムンクルスという名の人形なのだから、それくらいしてやってもいいと思った。


「えっと……じゃあ……る、ルビー?」


「あ、ほら! また暖かくなった気がします! 触ってみてください!」


 俺の手を引っ張り、自分の胸に押し当てるルビー。柔らかな膨らみに手が触れて、俺は慌てて引き抜いた。


「ちょ! や、やめてくれ!」


「何がですか?」


「頼むから……こういう事は、気軽に人にしちゃいけない」


「どうしてですか?」


「そ、それは……」


 自分の顔が熱くなってるのがわかる。鏡で見たら茹でダコのようになってる事だろう。


「とりあえずダメだから……誰にも自分の身体に無理やり触れさせようとするのは良くない」


「わかりました。ルイがそう言うなら」


「え?」


 今まであなた呼びだったのに、いきなり名前を呼ばれて思考が停止する。


「名前を呼ばれると、嬉しい気持ちになるんでしょう? だからルイと呼びます。よかったですね!」


「は、はあ。まあいいや。じゃあ、俺はそろそろ行くから」


「はい。またのお越しをお待ちしております。ルイ」


 扉が閉まる音を聞きながら、俺は頭を掻いた。


 そして、その手がルビーの胸に触れたのを思い出して思わず止める。


 また頬が熱を持ってきたように感じて、自分の両頬を叩く。


「はぁ。なんか疲れたな」


 妙な疲労感と共に、俺はそろそろ落ち着いたであろう食堂に向かった。


 

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