表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
血塗られし古城に剣を捧ぐ 〜死にたかった俺が仲間の魂を喰らうスキルで生き残る〜  作者: 新田青


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/15

第7話 「戦場に酔いしれる」


 ある日の食堂。


「ルイ。お前、あの爺さんと特訓してるんだって?」


 薄いスープを啜っていると、ジンから声をかけられた。


「はい。クラシキさんって人で、道場をやられていたみたいです」


「道場? 空手? 柔道?」


「古武道って言ってましたが、よくわかってません」


「ふーん」


 興味深いといったジンに、俺は居心地の悪さを感じた。


「ご飯食べてる時に足組むのやめてくれる? 下品なんだけど」


 カナエがジンを睨みつける。


「あ、失礼。育ちが悪いもんでね」


 慌てて姿勢を変えるジン。


 古城に来てから一週間ほど経つが、俺はジンとカナエと行動を共にすることが増えた。


 二人は犬猿の仲のようで、その緩衝材として俺が連れまわされている。


「二人はおいくつなんですか?」


 なんの気無しに訊ねると、ジンは身を乗り出してくる。


「21だよ。大学三年。ちなみにカナエも同い年らしい」


「呼び捨てにすんなって言ってるでしょ?」


「まあまあ。ルイは幾つなんだ?」


「俺は……16歳です。多分」


「多分?」


 俺の言葉に二人が同時に言葉を発する。


「ここに連れてこられた日の3日後が誕生日だったので。ここに来てから一週間経ってますよね?」


「あーなるほどね。なんだよ。言ってくれれば誕生日お祝いしたのに」


「はは……」


 そんなことを言える状況でもなかったため、ジンの言葉に愛想笑いだけを返す。


 すると、俺を黙って見ていたカナエが口を開く。


「誕生日おめでと。あんたも災難だね。高校一年生なんて一番楽しい時期なのに、こんな訳のわからない状況に巻き込まれて」


「……はい。そう、ですね」


 ここに来る前までより、ここに来てからの方が気分がいいと言ったら、二人はどんな反応をするのだろう。


 答えのない問いを霧散させるように頭を振る。


「俺も特訓とかした方がいいのかなぁ」


「あんたもルイと一緒に教わったら? あんたのスキルって雷出すやつでしょ。誤って私たちにぶつけられたらたまったもんじゃないわ」


「いやー。まあ、そうだな。カナエも一緒に行くなら行こうかなぁ」


「は? なんで私が」


「だってさあ。ルイとクラシキって人が二人の世界に入っちゃったら気まずいじゃん。なあなあ。ついてきてくれよー」


 カナエの袖を引っ張るジン。それに対して手を振り払って悪態をつくカナエ。


 二人を見ていると、仲が悪そうに見えて、実はかなり相性が良さそうに見えた。


「カナエさんはどんなスキルなんですか?」


 俺の質問にカナエはスプーンを止めた。


「私のスキルはシンプルよ。"剛力"ってスキルで、筋力が上がる」


「ちなみに俺のは"裁きの雷"だ。名前もかっこいいだろ?」


 カナエを見ていた視界に映り込むようにジンが割り込んでくる。


「そうなんですね。俺のスキルは……もう知ってますよね」


「ええ。死体がないと使えないんでしょ。あと、ルイ。あんただからスキルを明かしたのであって、好き勝手に喋るんじゃないわよ? もし誰かに漏らしたら──」


「漏らしたら?」


 カナエが持っていたスプーンが手の中でひしゃげた。見るも無惨な木片と化したスプーンをパラパラと手から落とし、カナエは微笑む。


「ゴリラみたいだよな? な? ルイもそう思うだろ?」


「え、いやいや!」


「あんた達はっ倒すわよっ」


 大笑いするジンと睨むカナエ。


 それを見て、俺も不思議と口元が緩んだ。



 ――――――――――



 それは朝方に唐突に訪れた。


 大きな鐘の音で目を覚ます。


 一度しか聞いたことがないはずなのに、妙に動悸がする。


 ──待ち侘びていた死に場所がやっと来た。


 恐怖からではなく、高揚感に支配され、俺は足早に大広間へと向かう。


 途中で合流した人たちと一緒に大広間に入ると、時計には四の数字と、残り時間30分と表記されていた。


「今回は四人か……」


 誰かの呟きが耳を打つ。


 最初の戦場で三人が死に、古城にいる人たちの人数は21人になった。


 その中の四人というと大体5分の1程度だ。


「誰が行くんだ……?」

「俺はちょっと」

「男の人がいいんじゃないですか……?」


 口々になすりつけ合う人たちを見ていると不思議な気分になった。


「俺が行きます」


 一番手に名乗りをあげた俺に、視線が集中する。バクバクと高鳴る心臓の音。


 ──クラシキとの特訓の成果を活かしたい。また戦場で誰かの役に立ちたい。


「ルイが行くなら俺も行くよ」


 次いで前に出てきたのはジンだった。仕方がない、と首を振りながら俺の肩を掴む。


「臆病者しかいないみたいだし参加するわ」


 カナエが毒を吐く。周りの人たちは気まずそうにカナエから目を背ける。


 これで3人。残り一人はランダムになるのだろうか。


 そう思っていた時、一人の老人が集団から出てくる。


「儂が行こう」


「クラシキさん……。どうして?」


「参加する理由は特にないが、お前の剣を見たい。それに、臆病者と誹りを受けるのも気に食わんからの」


 クラシキは一切緊張した様子もなく俺を見る。


 こうして俺たちは二度目の戦場へ向かうことになった。



 ――――――――――――――――


 古城の大広間から転送された戦場は、密林の中だった。


 所狭しと立ち並ぶ木々のせいで、周りがよく見えない状況の中、一緒に来た3人も見当たらず一人で歩いていく。


 不意に嗚咽しそうな程の臭気がした。


「っ」


 突如、風切り音と共に耳元を掠めた槍。


 地面に突き刺さってしなるそれを見て、俺は槍を投擲してきたゴブリンへと走っていった。


 剣を引き抜き、躊躇なく振り下ろす。


「グギッ!?」


 耳障りな鳴き声と共に青い血を流すゴブリンからすぐさま視線を外し、密林の中を走っていく。


 強烈な獣臭さに一瞬足を止めると、後ろから猛獣が覆い被さってきた。


「くっ……!」


 なんとか剣を盾にして爪を防いだ。だが、足がもつれて倒れ込んでしまう。茶色いジャガーの様な猛獣の牙が目前に迫る。


 そして、その体が真横に吹き飛んだ。


「生きてるな?」


「つっ……ありがとうございますクラシキさん」


 飛び退いたジャガーを正面に捉え、構えるクラシキ。


「グオオ!」


 猛々しい咆哮と共に襲いかかってきたジャガーに、クラシキは目にも止まらないスピードで手刀を突き刺す。


 下から突き上げるように腹部を貫いたまま、クラシキは悶えるジャガーを木に向かって叩きつけた。


「油断するな。まだ山ほどおる」


「はい……」


 少し離れたところでも争っているような音が聞こえる。多分ジンとカナエだろう。


「ここは地形が悪い。ついてこい」


 剣を構えたままクラシキの後ろをついていく。


 その合間にゴブリンやジャガーと接触もしたが、なんとか死の匂いを嗅ぎ分けながら対処することができた。


 密林を抜け、開けた先にはだだっ広い砂漠のような風景が広がっていた。


 いくつも荷車が連なるキャラバンが遠くに見える。


 その周りをジャガーとゴブリンが囲んでいて、キャラバンを守る様に異世界人らしき人たちが戦っていた。


 助けようと思ってすぐさま足を向けた。


「待て小僧」


「嫌です」


 クラシキの手を払い退け、俺は剣を手に走り出す。


「なぜ行く必要がある? 馬鹿者がっ」


 後ろからクラシキの怒った様な声が届いたが、気にせずにキャラバンへと走る。


 反応が遅れたゴブリンの背中を斜めに切り裂き、蹴飛ばす。


「ギギっ!」


 俺に気づいたゴブリンが棍棒で殴りかかってくるが、左腕の手甲で受け止める。


 骨の軋む音と共に、ビリビリした痛みが走る。だが、それを無視してゴブリンの首を横薙ぎする。


 首の骨に阻まれて刃が止まるが、地面に倒れ込んだゴブリンの血は止まらない。


「はっはっ……ははは!」


 俺はおかしくなったのだろうか。何故か笑いが込み上げてくる。


 絶えず高速で拍動を続ける心臓と、燃えているかのように熱い身体。


 襲いくるゴブリンの手足を切り裂き、ジャガーの頭蓋を叩き割る。


 一つ一つ、命の火を消していくたびに、その火が自分の中へと移っていく感覚。


 俺の剣によって積み上げられる死体を見ていると、強烈に生きている実感が湧いた。


「グオオ!」


「ぐうっ……!」


 ジャガーの爪が、手甲の隙間を切り裂く。


 冷えた金属が通り過ぎる様な痛みと共に、生臭い香りが鼻を掠める。


 明確に死の気配を感じて、熱を持った身体に冷や水をかけられたように感じた。


「せっかく身体があったまってきたのに」


 力無く垂れ下がる腕。その袖口を噛んで無理やり持ち上げ、両手で剣を握る。


「グオオア!」


 飛びかかってくるジャガーの口の中を、しっかりと握った剣が突き進んでいく。


 そのまま一緒に地面に倒れ込み、ジャガーの口の中から溢れ出た血液が顔に降りかかった。


「……熱い」


 今さっきまで生きていた生物の血。それを顔に浴びて、正に目が覚める思いだった。


「あ……なんか前もこんなことあったような気がする……」


 ジャガーの死体を押しのけて立ち上がりながら、ぼうっとしたまま頭を回転させる。


 どこだったろうか。


「あ、そうだ。コーヒーだ」


「ギギャ!」


 嫌な匂いがして、剣を水平に構えたまま後ろに振り抜く。


 ゴブリンの顔がひしゃげ、地面を転がった後に痙攣する。


 クラシキとの毎朝の特訓で、力を抜いて剣を振るうということが身についてる気がする。


 ──もっと戦いたい。もっともっと。いっそ死ぬまで。


「なんて顔してんのよあんた……」


「あ?」


 声をかけられて後ろを見ると、そこにはカナエが立っていた。


 横目で見るといつのまにかクラシキだけではなく、ジンとカナエも合流していたらしい。


 ジンとクラシキはキャラバンを守る様にスキルを使っている。


 ジンは言わずもがな、雷を操って敵を殲滅している。次々に黒焦げになっていく敵を見ると、最初の戦場と変わらず、圧倒的な破壊力が感じられる。


 だが、その中でも目を引くクラシキの体捌き。


 密集している敵の間をすり抜けながら急所を手刀で的確に突き刺していき、囲まれたら加速で退路を確保する。


 その鮮やかな動きに見惚れていると、頬に弱々しい衝撃が走った。


 ぱちん、と音が鳴って、俺は視線をカナエに向ける。


「ルイ……あんた大丈夫?」


「……何がですか?」


 槍を持ったカナエが、俺の頬に手を当てたまま悲痛に表情を歪める。その視線の先は俺の腕に向いていた。


「ぐあっ……!」


 釣られて見ると、肘の先の前腕がただぶら下がっているだけに見える。


 おびただしい程の血が流れ続けていて、まるで自分の身体じゃないかのようだった。


「ポーションは持ってきてるわよね……?」


「は、いっ……」


「あんたは下がりなさい」


「でも」


「──下がりなさい。二度も言わせないで」


 カナエに睨まれ、仕方なくキャラバンの方へと歩いていく。カナエは襲いかかってくるゴブリンやジャガーをその怪力で蹴散らしている。


「はぁ……つっ」


 俺は震える手でポーションを取り出し、傷口に振りかける。


 視界がブラックアウトする様な痛みを耐えていると、徐々に腕の感覚が戻ってくる。


 幻肢痛のような、痺れるような痛みが残っているが、動かす分には問題がなさそうだ。


「あ、あの」


 後ろを振り返ると、キャラバンの中から小太りの男が出てきた。


「俺ですか?」


 話しかけると、小太りの男は大きく何度も頷く。


「助けていただいてありがとうございます! あなたは王国の方ですか?」


 前も同じ様な質問をされた気がする。


 そうだ。ユスティアという女の子に会った時も王国という名前が出てきた。


「違います」


「あ、そ、そうなんですね。わ、わたしは普段グリモワ共和国で商売をしているネイサンと申します。あなたの名前をお聞きしても?」


「ルイです」


「る、ルイさんですね。王国の方ではないということは、あなたは巨人討伐団の方でしょうか?」


「巨人討伐団……?」


「は、はい。各地に未曾有の災害を起こす巨人族を討伐する方々です。あなた方は違うのですか?」


 巨人。


 そんな存在がいるのか。やはり名前の通り大きいのだろうか。それならどれほどの斬りごたえがあるのだろう。どれだけ大きな命の火を持っているのだろう。


 ──斬ってみたい。


「あ、あの?」


 いきなり沈黙した俺に、ネイサンは困惑した様子で語りかけてくる。


「あ、すいません。違います。俺たちは……古城の兵士です」


「古城の兵士?」


 自分たちをなんと称したらいいのかわからなくなり、慌ててそう言ったのだが、ネイサンは考え込むそぶりを見せる。


「商売柄小耳に挟んだことがあります。首輪をつけた兵士たち。そうなのですね。あなた方が……」


 信じられないといった表情のネイサンに、俺は質問を投げかけようとした。


 だが、どうやら時間切れの様だ。足元が淡く光を発し始める。


「それじゃ」


 手を振ると、ネイサンは慌てて深々と頭を下げる。


「助けていただき誠にありがとうございました。もしグリモワを訪れることがございましたら、改めてお礼をさせていただきたい」


 ネイサンの真摯な礼に、胸がちくりと痛んだ。


 なぜなら、間違いなく今日の俺は、誰かを助けるために戦っていたのではないのだから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ