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血塗られし古城に剣を捧ぐ 〜死にたかった俺が仲間の魂を喰らうスキルで生き残る〜  作者: 新田青


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第5話 「道具屋のホムンクルス」



 クルルの言っていた場所に来たが、石造りの通路に佇む無機質な扉を見て、これが道具屋なのか疑問に思った。


 だが、他に部屋らしきものはなく、ジンが率先して扉を開ける。


 中は意外にも広く、丸いテーブルが三つと、その奥にカウンターの様なものがあった。


「あ、いらっしゃいませ!」


 扉の死角になっていて、誰かいるのに気が付かなかった。


 三人揃って大袈裟に肩を弾ませた。


「誰……?」


 部屋の中にいたのは、白髪のツインテールに赤い瞳をした女の子だった。


 灰色のブラウスに黒いスカート。履き物は古びた革靴。そして服装に合わない無骨な鍵束が腰からぶら下がっている。


「私は道具屋の店番です。よろしくお願いします」


 この古城にクルル以外の人間がいた事にまず驚いた。


 ジンも同じだったようで、女の子の前に立って訝しげな視線を向ける。


「店番かぁ。ここに俺たち以外に人間がいるなんて。君は一体何者なんだ?」


「私は人間ではありませんよ?」


「ん?」


「私はホムンクルスです。生殖によって生まれたわけではなく、錬金術によって生まれました!」


「ホムンクルス……」


 言葉を繰り返してみる。


 ホムンクルスというと人造人間だろうか。つまり彼女は人間ではなく、どちらかというと人形の様な存在ということか。


 確かにあまりにも精巧な顔立ちは、美しさよりも不気味さを感じるほどだが。


「喋る猫がいるんだもの。人造人間がいてもおかしくないわよ」


 固まっている俺とジンに発破をかけるように割って入るカナエ。


「あ、ああ。まあ、そうだな。今更か」


「それで? 道具屋とやらの説明はあんたがしてくれるの?」


 気怠げなカナエの言葉に、全く気にした素振りもなくホムンクルスは満面の笑みを浮かべる。


「はい! まずはカウンターへどうぞ」


 促されるままに部屋の奥に向かうと、カウンターには黒板の様なものが貼り付けられていた。


「そこに書かれているものが本日出荷している物になります。隣に書かれているポイントを支払う事で購入できます」


 そこには様々な物品が書かれていた。一見して用途がわかる物から、何に使うのか見当がつかないものまで。


 親切に日本語で書かれているため、なんとなく馴染み深さもあってか安心感がある。


 それにしてもグリモワフィッシュとはどんな魚なのだろう。2ポイントだから大分安いが。


「日用品から食品まで買えるのか。俺のポイントは60ポイントだったな。ちなみに現在のポイントはどう確認するんだ? 君は知っているのか?」


「はい! ポイントチェックと言えば声が聞こえるはずです。クルル様はそう言っていました!」


 スキルチェックと同じか。ということは不快な頭痛も同じくあるのだろうか。


 それよりも俺は堪えきれずに訊ねる。


「この怪我を治療するためのものはあるか?」


 俺がカウンターに左腕を置くと、ホムンクルスは一つの品物を指差した。


「このポーションを使えば治ると思います」


 ポーションの値段は5ポイント。高いのか安いのかはわからないが、買わない手はない。


「じゃあこのポーションを……ん?」


 ポーションの下に、エクリサーという品がある。


 ポイントは300ポイントだ。高すぎる。


「あ、それはどんな病気も怪我も即完治できる優れものですよ。オススメです!」


 ニコニコと笑うホムンクルスにゲンナリしながら、俺はポーションを指差す。


「ポーションを……とりあえず一つ」


「はい! 少し待っててください」


 カウンターの裏にある扉を開き、闇の中に消えていったホムンクルス。数秒後には手に小瓶を持って帰ってきた。


「どうぞ!」


 手渡されたポーションを見ると、薄い桃色の液体が入っている。


「どうやって使えばいいんだ?」


「傷にかけるのが一番です。飲んでもいいんですが、その場合は他の傷に作用してしまう場合もあるので」


 俺は言われた通りに小瓶のコルクを抜いて、左腕にかける。


「いっ──!」


 あまりの痛みに思わず腕を押さえる。つま先から頭のてっぺんまで電流が走ったみたいだった。


 傷に染み込んでいったポーションは湯気を上げ、空いていた無数の穴が盛り上がるように塞がっていく。


 痛みが徐々に消えていき、最後には瘡蓋のようになっていた。


「おう……すごい効き目だな。俺も買っておこうかなぁ」


「ホムンクルスちゃん。ポーションを三つちょうだい」


 ジンを押しのけてカナエが指を3本立てる。


 二人に実験台にされたみたいで正直いい気はしない。


 だが、左手を開閉してみても特に痛みも出なかったため、ポーションの効果は本物なのだろう。自分としてもいい経験と言える。


 5ポイントでこれなら、300ポイントのエリクサーはどれだけ効くのか。


「あ、手を出してください」


 考え事をしているとホムンクルスから話しかけられる。


「手?」


「はい。ポーションの代金を頂くために握手してください」


 差し出された真っ白な手に、自分の手を添える。


 ひんやりとした感触は体温が低く感じたが、それでも人間ではないと言われても信じられなかった。


「お買い上げありがとうございます」


 満面の笑みで言うホムンクルス。


 俺は気恥ずかしさからすぐに顔を背けた。


 ***


 結果的に俺はポーションを追加で一つ、そして金属製の腕を守る手甲を購入した。


 盾を使ってみてわかったのだが、確かに防御には優れている気がするが、両手で剣を振るときにどうしても邪魔になる。


 盾を使っていても左腕を怪我してしまったのもあって、より動きやすい手甲に変えた。


 ジンには心配性だと揶揄われたが。


 残りのポイントは22ポイントで、解放からは遠ざかるが、悪くない投資だと納得しておくことにする。


 ジンはポーションや新しい剣を購入し、カナエも同じくポーションを三つと新しい槍を購入した。


 そして、腹も空いたし食堂に行ってみよう、と提案するジンに、俺とカナエも頷く。


「ホムンクルスちゃんも一緒に行くか?」


「いえ! 仕事があるので」


「ふーん。そっか」


「お誘いありがとうございます。貴方は優しい人ですね!」


 ホムンクルスとはいえど、人間とは変わらない見た目の美少女に褒められ、ジンは照れ臭そうに頭を掻く。


 それを見てカナエがため息をつきながら言う。


「ホムンクルスちゃんって呼ぶの長いから、なんか愛称があるといいんだけどね。名前はないの?」


「私はホムンクルスでしかありません。私を作った錬金術師の方も、私に名前をつけませんでした」


「あ、それならホムちゃんは? それかムンクちゃん」


「あんたちょっと黙ってて?」


 俺は空腹もあって早く食堂に行きたかったのだが、二人は思ったよりホムンクルスの呼び方に拘っているらしい。


「ルイは? なんかいいのある?」


 カナエにそう聞かれ、俺はホムンクルスを見る。


 その赤い瞳と目が合い、俺は思わず呟く。


「ルビー」


 俺が漏らした言葉に、カナエが微笑む。


「いいんじゃない。呼びやすいし。少なくともこのセンスが終わってる男に名付けさせるよりはいいわ」


「まあ確かに。ルビーか。宝石の名前をつけるなんて、結構ロマンチストなんだなぁルイ?」


 何の気無しに呟いただけだったため、俺は慌ててホムンクルスを見る。


「ルビー……。気に入りました」


「え?」


「ありがとうございます。大事にしますね!」


 目の前まで歩いてきて、俺の手を握って上下に振るホムンクルス。


「あ、ああ。うん……」


「あ、こいつ照れてるな。さっきは俺のこと小馬鹿にした目で見てたくせに! お前も同じじゃねえか!」


「……はぁ。ほんと。男って馬鹿なんだから」


 居た堪れない気持ちになり、俺は踵を返す。揶揄ってくるジンと、それを鬱陶しそうになじるカナエ。


「またのご来店をお待ちしてます」


 ルビーの声を背中越しに聞き、俺たち三人は道具屋を後にした。


 

 ***


 ゴブリンが迫ってくる。周りには誰もいない。


 見渡す限りの怪物たちが、その短い足で追いかけてくる。俺の手には切れ味の悪い剣が握られていて、それでどうにかできる様な状況とは思えなかった。


 だから逃げた。逃げて、逃げて、逃げた先で、何かに躓いて転んだ。


 咄嗟に後ろを振り返ると、血に塗れた顔の女性が横たわっていた。


 生気のない顔が、唐突に俺の方を向いた。


『どうして助けてくれなかったの?』


 割れたレンズの奥にある、澱んだ眼が俺に語りかける。


「はっ! はぁはぁはぁ」


 目が覚めると、殺風景な石造りの部屋だった。


「夢……」


 そうだ。道具屋に行ったあとは三人で食堂に行ったのだった。


 食堂には硬いパンとじゃがいもしかなかった。料理経験のある人たちが調理をしてくれて、硬いパンを芋のスープに浸して食べた。


 質素ながらも賑わいを見せていたように思う。


 だからだろうか。この部屋の静寂が嘘の様に思える。


 俺は寝台から降りて、冷たい地べたに座った。


 寒さに耐える様に体育座りをしていると、落合の顔が頭に浮かぶ。


 一言二言交わしただけの人だった。


 けど、それだけであの人が優しい人だと感じた。緊張している俺を安心させるためだけに声をかけてくれたのだから。


「……どうして」


 ここに来る前から、俺はずっといつ死んでもいいと思っていた。俺に関心のない母親。そして虐めという悪意に晒され続けた高校生活。


 ずっと孤独のままなら、俺が死んでも何も変わらないし、それでいいと思っていた。今も息をしているのは、ただ惰性で生きていただけだ。


 そんな俺より、なんであの優しい人が死ななければいけなかったんだろう。


「俺が死ねばよかったんだ……」


 膝の間に顔を埋める。自問自答を繰り返す脳とは裏腹に、体は疲れ切っているみたいだ。


 次第に瞼は重たくなり、開けていられなくなってくる。


 ──俺の命に価値はない。けど、誰かのために死ねたなら、少しは意味のある命になるはずだ。


 その問いにいつか答えが出ることを願い、俺は眠りの世界に誘われる。


 古城の鐘の音を待ちながら。


 

 


 

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