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血塗られし古城に剣を捧ぐ 〜死にたかった俺が仲間の魂を喰らうスキルで生き残る〜  作者: 新田青


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第4話 「割れたレンズ」


 乗り物酔いのような不快感と共に、足が冷たい地面に触れる。


「帰ってきたのか……?」


 呟きつつ周りを見ると、土や血で汚れながらも皆安心したような顔をしている。


 そんな中、クルルが全員の前に姿を現す。


「お疲れ様。まずはポイントの集計を行おうか。今日は初回だしランキング形式で行ってみよう!」


 クルルの言葉に、全員が思い出したように苦い顔をする。


「まずポイント一位はそこの君、60ポイントだ」


 小さな手で示されたのはモデルのような見た目の男だった。


 確かにあの男の魔法のようなスキルは強力だった。何度もゴブリンの群れを吹き飛ばす所を俺も見ていた。


 自分のスキルとの差は強く感じたが、思ったよりもそれを理不尽と思わない自分がいることに驚いた。


 直前にユスティアに言われた礼のおかげだろうか、まるで、あの血生臭い戦場で英雄にでもなった気分だ。


「二位は君。42ポイントだよ」


 そんなことを考えていたら、クルルの視線がこちらを向いて、俺は固まった。


「三位は40ポイントでそこの女の子ね」


 腕を組んだままクルルを睨みつける女性。緩くウェーブがかった髪を鬱陶しそうにかきあげる。


 ──俺が二位。


 ポイントの基準がわからない。確かに自分の中では必死に動いたつもりだが、結果としては大して活躍していない筈だ。


 困惑していると、一位の男が手を挙げる。


「一つ聞かせてくれ。この古城からの解放と願いを叶えるためには、一体何ポイント貯めればいいんだ?」


「ああ。まだ説明してなかったね。1000ポイントだよ。つまり、君の場合は同じことをあと16回やればいいって事だね」


 高すぎる。俺のポイントは42だから、今のを20回以上やれだと?


 他の人は知らないが、俺にとっては過酷な場所だった。このままでは手足が何本あっても足りない。


 何か対策をしなくてはいけない。


「それにしても皆すごいよ。初めての戦場にしては上出来だ」


 クルルは前足で器用に拍手する。その言葉に俺だけじゃなく、全員が満更でもない気持ちだったらしい。


 だから続けて放たれた言葉に、全員が固まった。


「──だって三人しか死ななかったからね」


 クルルは三という数字をさも少ない数字かのように告げた。


「う、嘘をつけよ」

「……死んだ奴がいるのか? 本当に?」


 口々にクルルを疑う声が上がる。


 かくいう俺も同じ気持ちだった。確かに大怪我もした。疲労困憊でもある。


 だが、ゴブリン自体は単体では脅威でもなく、誰かが死んだなんて信じられないという気持ちだった。


「ボクを疑うのかい? 仕方ないなあ。じゃあ証拠を見せてあげるよ」


「っ」


 証拠、と言われて呻く程の不快な匂いがした。


 クルルの前足が光り、赤い魔法陣が空中に展開される。


 何か大きなモノが鈍い音を立てて大広間の床へ落ちる。


「ヒッ」


 誰かが引き攣るような悲鳴をあげた。


「──あ?」


 俺は頭の芯が急激に冷えていくような感覚と共に、一歩足を進める。


 思いがけず体がブルブルと震え、足の力が抜けて地面に膝をついた。


 何度も殴られたような青紫の痣。大きな裂傷。そして、割れた眼鏡の奥にある、生気を失った瞳。


 ──そこには先ほど知り合ったばかりの"落合理沙"の死体があった。


「ウッ……!?」


 迫り上がって来る胃液を、口を抑えて我慢する。


「──な、んで……?」


 思わず呆然とクルルを見た。


「乱戦には不向きなスキルもあるからね」


 クルルは舌を出し、笑いながら言った。


 彼女は《鷹の目》という遠くのものが見えるスキルを持っていた。確かにそれ単体では戦うためのスキルになり得ない。


 俺はそれを本人から聞いて知っていた筈だ。


 先ほどまでの安堵感、そして戦闘を終えた後の高揚感を、全て無に帰すような残酷な光景だった。


 ──ユスティアに感謝された時、俺は彼女の事を少しでも考えていたか。


「あ、そうだ。そこの君」


「お、俺……?」


 クルルに呼ばれ、定まらない焦点を向ける。


「君、確か死体から魂を吸収するスキルだったよね? どうせなら使ってみたらどうだい?」


 その発言に大広間にいる全員の視線が俺に注がれる。


 クルルはどうやら全員のスキルを把握しているようだ。


 それをこんな場所で暴露されるとは思っていなかったため、背筋に冷や汗を垂らしながら沈黙する。


 集中する視線は、昔いじめに声を上げた時と似た空気だと感じた。


「どうしたんだい? 使わないのかい? スキル」


 クルルは笑みを浮かべたまま問いかけて来る。


 俺はカラカラに乾いた喉から、声を搾り出す。


「つか、わない」


 俺が拒否したことで、張り詰めた空気がわずかに緩んだのを感じた。


「そう? 勿体無いね。せっかく三つも素材があるのに」


 クルルは欠伸混じりに言う。


 素材だと。


「ま、いいけど。じゃ、ここからは次の戦場が決まるまで自由時間だよ。あ、怪我した人がいたら道具屋に行ってみることをお勧めするよ」


 それっきり大広間からクルルは去っていった。


 僅かに緩んだ空気の中で誰かから肩を叩かれる。


「提案を蹴ったのは正解だ。あんなやつの口車に乗らない方がいいぜ」


 声をかけてきたのはポイント一位だった男だ。艶のある茶色い髪の男で、長身と整った顔立ちはモデルの様な雰囲気がある。


「あ……はい」


「俺はジンだ。お前は?」


「……ルイです」


「ルイね。あんまり気にしすぎるなよ。っと。それより、道具屋に行くだろ? 一緒に行こうぜ」


 ジンは馴れ馴れしく肩を組んで言う。


 それに返事しようとした時、もう一人の人物が声をかけてくる。


「私も行くわ」


 三位の女性だ。ウェーブした茶色い髪と、切れ長の瞳。仏頂面で、気が強そうだ。


「お、丁度いい。ポイント一位から三位までが揃い踏みってことか。お姉さん名前は?」


「カナエ。あんたたちはジンとルイでしょ。会話を聞いてたからわざわざ言わなくていいわ」


 カナエと名乗る女性はこちらを見もせずにため息をつく。


「それで? ルイも行くだろ?」


「そうですね……」


 ジンとカナエは二人とも俺より年上に見える。まだ高校生の俺よりよっぽど落ち着いた様子だ。


 先ほどあんな事があったというのに。


 クルルが怪我をしたなら道具屋に行けと言っていた。


 それに従う様で癪ではあるが、左腕の痛みは益々酷くなっている。


 道具屋という存在がどんなものなのかはわからないが、これからもあの様な戦場に向かうなら、早めにどういうものなのか知っておいた方がいいだろう。


「それにしても見てたぜ。お前、色んな人のこと手助けしてたろ?」


「──それが何ですか?」


 茶化すような言い方のジンに、つい苛立ちまじりに聞き返す。


「そんな言い方したら怒らせるってわからないの? 頭が悪いか、ゴブリンに殴られておかしくなったの?」


 だが、俺以上にジンに毒を吐くカナエを見て呆気に取られる。


「誤解だ! そういうつもりじゃなくてさ。ただ、もう少し自分を大事にしろよって言いたかったんだよ」


「自分を大事にする?」


「そうだよ。どうせその怪我も、誰かを庇ってそうなったんだろ? こんな訳のわからない状況なんだからさ。自分のことだけ考えてもバチは当たらねえ筈だ」


 ジンは気まずそうに頭を掻く。彼なりに善意からの忠告をするために言った言葉だったらしい。


 俺も少し神経質すぎたと思って、深呼吸を挟む。


「そう、ですね。ありがとうございますジンさん」


「いいんだよ。気にすんな。これで仲直りって事でいいよな? だからあんまり睨まないでくれよカナエ」


「カナエ? 呼び捨てにしないでくれる?」


「どうしろってんだ……勘弁してくれよ。なあルイ?」


「……はあ」


 そのまま三人で談笑しながら、古城の中を歩き出す。


 最後に振り返った俺の視界に、光を反射するレンズが映った。



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