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血塗られし古城に剣を捧ぐ 〜死にたかった俺が仲間の魂を喰らうスキルで生き残る〜  作者: 新田青


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第2話 「死に場所を求めて」



「じゃあスキルの説明も終わったことだし、自由に──」


 ゴーン、と重たい金属を打ち鳴らすような音が聞こえた。

 

「あー。どうやら古城が戦場を用意したみたいだ」

 

 鐘の音に自分の言葉が遮られたのに、クルルは特段意に介してはいない。むしろ、この音を聞いて楽しくて仕方がないといった様子だ。

 

「戦場……?」

 

「そう。30分後には君たちは戦いに行かないといけない。ちょうど武器庫にいるし、各自装備を揃えてね」

 

 クルルの言葉に最初は誰も動けなかった。

 

「……よし」

 

 モデルのようなルックスの男が、自分に気合を入れるように頬を張ると、武器を物色していく。

 

 それを見て、俺もじっとしてはいられないと後に続いた。

 

 並んでいる武器は剣、槍、弓の三種だ。


 その他に盾や、革の装備が点在している。どれも古びた代物で、剣や槍を見ても切れ味が保証できるのか疑問が残る。

 

 一番安全なのは弓だろうか。もしくはリーチのある槍か。

 

 だが、弓なんて使ったことはないし、槍も扱うのが難しそうだ。

 

 結局俺は振り回しやすい剣と、片手用の小さな盾を選んだ。そして胸当てと膝肘の関節を守る革製の防具を着用する。

 

 武装した学生服の男なんて、チグハグな感じが拭えなかったが。

 

 鞘から剣を抜いてみると、鈍色に光る刀身が姿を表す。剣の腹をコンコンと指で叩くと、色は燻んでいるが、思ったより切れそうだ。

 

 刃物を見て、妙な気分になる。

 

 先ほど見た生首を思い出したからではない。


 それよりもっと前、何故かいじめっ子のシンヤに押しつけられたバッタを思い出したからだ。

 

 生きているものを傷つけるための道具を、こんなにも迷いなく手に取っている。

 

 その事実に、脳が現実感を失う。

 

「あっ」

 

 考え込んでいたところ、一人の女性が躓いて倒れた。

 

「大丈夫ですか?」

 

 咄嗟に手を差し出すと、スーツ姿の女性は弓と矢筒を抱えたまま、俺の手を取る。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「いえ」

 

 顔を見ると先ほどクルルに質問をしていた女性だった。


 度が強そうな眼鏡をかけていて髪は後ろで括られている。新調したてのパリッとしたスーツを着ていて、仕事人という印象だ。

 

「一体なんなんですかねこの状況?」

 

「……さあ」

 

 立ち上がった女性は困惑した表情を浮かべつつ話しかけてくる。まさか会話が続くとは思っていなかった俺は、少し突き放すような態度をとってしまった。

 

 だが、目の前の女性は気を悪くした様子もなく、にっこりと笑うと続けた。

 

「自己紹介がまだでした。私、落合理沙と言います。お名前を聞いても?」

 

「俺は……」

 

 そこでフルネームを名乗ろうとして、急に悪寒がした。クルルが一人の新川という男を殺した時、名前を訊ねていた場面を思い出した。

 

「ルイです……」

 

「ルイ君ですね。よろしくお願いします」

 

「はい」

 

 半ば無理やりに握手をさせられ、俺は気恥ずかしさからすぐに手を離して口を開く。

 

「それより、弓を選んだんですね」

 

「はい。私のスキル、《鷹の目》って言って、遠くのものを見れるものだったんです。ふふ。視力悪いのに変ですよね」

 

「はあ……」

 

「ルイ君はどんなスキルだったんですか?」

 

 その質問に、答えるのを躊躇した。

 

 あなたが死んだ時に使えるスキルです、なんて言えるわけがない。

 

 だが、それ以上に躊躇った理由がある。

 

 《鷹の目》というスキルは、戦場では弓との相性がいいのはわかる。遠くから的確に敵を射る。それは確かに強力だろう。

 

 だが、彼女を守る前線がいなければ、遠くが見える目は何の意味も持たない。


 彼女の弓の技量がどの程度なのかはわからないが、その事実が頭をよぎって、俺は黙った。

 

 首を傾げる落合に、何かを言わなければと思ったところで、クルルの声が響く。

 

「みんな準備はできたみたいだね。じゃあ大広間に行くよ」

 

 その言葉に、俺たちは黙って後ろをついていく。

 

 沈黙の中、自分の心臓の音がやけにうるさかった。


 ――――――――――――――

 

 大広間と呼ばれる場所は、古城の入り口から真正面の大きな扉の先にあった。

 

 部屋に入ると、まず目に入ったのは床の中央に描かれた円形の模様。


 そして、部屋の奥にかけられた巨大な時計だった。

 

「この魔法陣の中にいる者が戦場に送られるんだ。だから、もしも戦場に行きたくない人は、この円の中に入らなければいい」

 

 その言葉に、露骨にホッとしたような表情を浮かべる人が沢山いた。かくいう俺も、少し胸を撫でおろした。

 

 だが、続く言葉でそれは幻想だと打ち砕かれる。

 

「ああ。けど、戦場に向かう兵士の数は決められてる。だから、その規定の人数が円の中にいない場合、残りは古城が無作為に補完するから注意してね」


 その言葉に、モデルのようなルックスの男が呟くように聞く。

 

「それはランダムってことか……? 規定の人数ってなんだ?」

 

「部屋の奥にある時計を見て。あそこに出撃までの残り時間と、下に数字が書かれているだろう?」


 残り時間は目減りしているアラビア数字で、下にある文字が出撃する人の数だろう。


 文字?

 

「あーそっか。今回はチュートリアルみたいなものだからね。人数の規定はないみたいだ。ほら。ALLって書かれているだろ? これは全員って意味だよ」

 

「は? つまり強制参加って事か?」

 

「うん。そうだよ。全員参加の戦場はそんなに多くはないんだけどね。まあ、初戦だし、きっと古城も君たちに戦場がどんなものなのかちゃんと経験させてあげたいんだと思うよ?」

 

「……俺たちはこれから何をさせられるんだ?」

 

 俺の言葉に、クルルは笑う。

 

「勿論、戦場にあるのは殺し合いだ。相手は人なのか、怪物なのか、それは行ってみてからのお楽しみだけどね」


 醜悪に笑うクルルに、怒号が飛び交う。

 

「ふざけんな! なんで俺たちがそんな事しなきゃいけないんだよ!?」

「そうよ! 早く家に帰してよ!」

「人を拉致するなんて、これは犯罪だぞ!?」


 叫びと共に過熱化していく怒り。それを遮るようにクルルが前足を向ける。

 

「まあ、君たちの気持ちもわかるよ。けど、これは君たちにとって悪い話ってだけではないんだよ?」

 

「どこをどう見たら俺らの得になるようなことがあるんだ?」


 率先してクルルの前に立つ、モデルのような男。

 

「──戦場では貢献度によってポイントが支払われるんだ。そのポイントを貯めれば、どんな願いでも一つだけ叶えられる。古城からの解放と共にね」

 

 クルルの言葉に大広間を静寂が支配した。

 

「……どんな願いでもって言ったな? それは言葉の通り受け取っていいのか?」

 

「うん。大金持ちになりたいとか、世界を破滅させたいとか、生まれ変わりたいとか。基本的に叶えられないものはない。まあ、願いは一つだけどね」

 

 欠伸混じりに言い切ったクルルは、時計を振り返る。

 

「そろそろ時間だね」

 

 心臓が早鐘を打つ。足元が酷く不確かで、地面が本当にあるのか不安になる。

 

「大丈夫?」

 

「え……?」

 

「緊張しているみたいだから」

 

 落合理沙だった。自分も震えているのに、まるでこちらを案ずるかのような表情をしていた。

 

「大丈夫……ではないですけど、落合さんこそ大丈夫ですか?」

 

「う、うん。私も怖いけど……でもこういう時ほどしっかりしなきゃって思うから」

 

 強い人だと思った。

 

「……ありがとうございます。けど、なんで落合さんは俺のことを気にかけてくれるんですか?」

 

「あ……私、ルイ君と同い年くらいの弟がいるの。たった一人の、大切な家族なんだ。だからかな? なんだか放っておけなくて」

 

 遠くを見るような目で落合は言った。

 

 その横顔を見ながら、俺は自分がどんな人間なのかを思い出す。


 誰からも必要とされない自分。

 

 生首を見ても、死にかけのバッタを見た時と同じようにしか感じられなかった自分。

 

 目の前の落合は今、恐怖を抱えながらも誰かを気にかけている。

 

 俺にはそれが、ひどく遠く、そして眩しいものに感じられた。

 

「さあ、出陣だ。初めてだしヒントをあげる。異世界の人間たちは味方だ。君たちはそれ以外を殺せばいい。じゃ、行ってらっしゃい──」

 

 足元に青白い光が発生し、視界が遮られる。

 

 光の中で、俺は一つだけ決心する。

 

 落合理沙を守りたい。彼女の暖かさは、俺が持ってはいないものだ。


 そして、彼女を守れば、必ず俺に感謝してくれるだろうという期待感があった。


 左腰に備え付けられた剣、その柄を握りしめると、襲いくる浮遊感に身体を預けた。


 


 

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