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血塗られし古城に剣を捧ぐ 〜死にたかった俺が仲間の魂を喰らうスキルで生き残る〜  作者: 新田青


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第14話 「血塗られし古城に剣を捧ぐ」



 

 青白い光が掻き消え、大広間の床に倒れ込む。


「……」


 ひゅーひゅーと喉を空気が通り抜けるだけの音がか細く響く。


 霞む視界に、古びた革靴が映り込んだ。



 ――――――――――――――


 燃え盛る大地の上で、円形にうずたかく積み上げられた死体の壁に囲われている。


 俺は膝を抱えて座っていて、揺らめく炎の中にいながら、その寒さに身を震わせていた。


 死体の壁が阿鼻叫喚の悲鳴を上げながら俺の前に道を作る。


 暗闇の中から、甲冑を鳴らす巨人が現れる。


『ヒルドラン。貴様を殺す名だ』


 ――――――――――――――――――


「──っは! はぁはぁはぁはぁ」


 目を開けると、知らない天井が目に入った。


「ぐうぅっ!?」


 慌てて起き上がり、身体中の痛みに悶絶する。


 ──ここは一体どこだ。俺はなんで?


「目が覚めましたか?」


 声の主を見ると、俺の真横で血のように赤い目が俺を見ていた。


「……る、ルビー?」


「はい! 看板娘ルビーです!」


 そこで漸く気づいた。俺はルビーの腕の中で眠っていたらしい。


「ここは……道具屋、か? なんで俺はここにいるんだ……?」


「大広間に倒れていたので運びました。お加減はどうですか?」


 自分の身体を触ると、多少の痛みはあるが、動けないほどではなかった。


 俺は立ち上がり、ルビーに訊ねる。


「……みんな……みんなは? どこからが夢で、どこからが現実なんだ?」


 俺の問いに、ルビーは笑顔のまま首をかしげる。白いツインテールが、ふわりと動く。


「私が知っているのは戦場が終わったということだけです。それより、何か買われますか?」


 ルビーの言葉にボードを見ると、何か違和感がした。


「……戦場スキップカード……なんで無いんだ?」


 ルビーを見ると、彼女は笑顔のままだ。


「その商品は期間限定なんです!」


 その言葉に、思わず身を乗り出してルビーの胸ぐらを掴んだ。


「期間限定……? ……特売品じゃないんだぞ?」


「どうして怒っているんですか?」


「それはっ……」


 ルビーの胸元から手を離し、俺は彼女に背を向ける。


「もう行かれるんですか?」


「……」


「またのお越しをお待ちしております!」


 俺は道具屋の扉を開ける。そして、古城の中を歩き始める。


「ふっ……はぁ」


 ただ歩いていただけじゃ、何も落ち着ける筈がなかった。


 次第に足の回転は早まって、走り出しても尚、もっと早くと心が急かす。


「はぁっ……はぁ……みんなっ……? どこにいるんだよっ? ジンさん! カナエさん! クラシキさん!」


 エントランスから飛び出し、中庭に赴く。うざったい程穏やかな風を感じながら、また古城の中に戻る。


 食堂に行くと、静けさと誰も座っていないテーブルがある。


 大広間の扉を開け、中に入る。


 戦場を用意する時計は今は動いていない。


 床に描かれた円形の魔法陣の中心に、折れた俺の剣が横たわっていた。


 俺は大広間を飛び出して、エントランスも抜けて中庭に出た。


「はぁはぁはぁはあ!!」


 身体の疲れからだけではない。瞼を閉じると凄惨な場面が頭に思い浮かび、それがあまりにも息苦しくて呼吸が勝手に早まる。


「いないのか……? だれも」


 ──現実なのか。本当に。この古城も。ここで出会った仲間たちも。みんな本当に存在するのか。


 死、という物について考えると、喉が狭まって胃液が込み上げてくる。


「……うっ!」


 地面に蹲る。


 堪えた嘔吐の代わりに、涙が溢れ出た。鼻先に当たる土が気にならない程、ただ体を丸めて泣いた。


「うぁぁあ……!」


 そんな中、ある声が聞こえた気がした。


『俺が死んだら、お前のスキルを俺に使ってくれよ』


 その声に反応するように、頭の中で思考が巡る。


「あっ……あ……く、クルルぅ!!」


 顔を上げて黒猫の名前を呼ぶ。


 奴ならば出来るはずだ。


「クルル!! 見てるんだろ!?」


 声の限り叫ぶ。


「──仲間の死体を、ここに召喚してくれ!!」


 クルルはそれが可能なはずだ。なぜなら、奴は一度、俺の前でその力を見せている。


「頼むっ……頼むよクルルっ……? 出来るんだろ……? あの時みたいにっ」


 喉を枯らし、クルルに願う。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになったまま、ありったけの息を吸い込む。


「──俺に落合理沙の死体を見せつけた時みたいに!!」


 俺の叫びに呼応するかのように、中庭の宙空に赤い魔法陣が浮かび上がる。


 そこからするりと現れたクルルは、地面に這いつくばりながら懇願する俺を見た。


 その口元が見たことない程醜悪に笑っている。だが、今はそれに縋り付くしかなかった。


「損傷があまりに激しい死体は召喚できない。それでもいいかな?」


「構わないっ……!」


「よしきた」


 クルルの掛け声が届くや否や、赤い魔法陣からドサドサと落ちてくる遺骸。


 強烈な死の匂いと、仲間たちの光を失った瞳が俺を射抜く。


「あぁああアァ!!!!」


 絶叫しながらも、その光景から目を離すわけにはいかなかった。


 なぜなら俺は約束した。忘れないと。


 四つん這いのまま、積み上げられた死体の山に近づく。


 青ざめた顔で、こちらを見る死体の山。


 イナバ、コバヤシ、ユーカ、シンジョウ、マツダ、シンタロウ、イシカワ、トモキ、コウスケ。


 そして、ジン、カナエ、クラシキの光を失った瞳。


「うぅっ……!」


 それらに手を伸ばす。


 教えられなくても、スキルをどういう風に使えばいいのか本能で理解できた。


 向けた手のひらに、仲間たちの死体から星屑のような輝きが流れ込んでくる。


「──っ!?」


 その瞬間、視界が途切れ途切れになり、見たことのない光景が連続で頭にフラッシュバックする。


 単眼と呼ばれた巨人の攻撃によって、体を貫かれ橋の下へと落下していった仲間たちの記憶。


 ヒルドランと名乗った巨人に蹂躙され、頭を潰され、血を吸われ、身体を引きちぎられる記憶。


 絶望と死、それらが頭の中に雪崩のように堆積していく。


 視界が真っ赤に染まり、涙ではない何かが頬を伝う。


 赤い血が地面に落ち、もう死んでしまいたいと思った時、唐突に明るい風景が頭の中に映し出された。


『あんたルイにそんなこと言ったの!? 馬鹿じゃないの!? ルイが気にしたらどうするのよ!?』


『儂はジンならば言う資格があると思っておる。儂はお前を責めんよ。小僧は……ルイは自己犠牲でしか自分の価値を証明できないと思っておるからの』


『はは。まあ、俺みたいなやつの言葉なんて陳腐かもしれないけどさ。けど、仕方がなかったんだ』


 ジン、カナエ、クラシキが三人で食堂で話している。その声に懐かしさと、耐えようのない寂しさが押し寄せてくる。


『あまり責めるなカナエ。ジンが死ぬつもりというわけでもあるまい。儂らだって、もしその時が来たらルイに連れて行ってほしいと思ってる筈じゃ』


『だからって、自分が死んだ時の話をするなんて……』


『そうでも言わないと、あいつは折れないだろ? それに、死ぬのが怖いのだって本心だよ。そのために出来ることをやる。あいつにもそうあって欲しい。俺はさ。ただ──』


 瞼の裏に浮かぶ風景が、ガラスが割れたように亀裂が入る。


「まだ行かないでくれっ。もう少しだけ声を聴かせてくれ……」


 そう願う心とは裏腹に、大きくひび割れ、懐かしい光景が崩れ去っていく。


 何も見えなくなる直前、暖かい声が耳元で聞こえた。


『──あいつに生きていてほしいんだ』


 その瞬間、瞼を開き、顔を上げた。


 ドクドクと鼓動を打つ心臓を抑え、俺は泣きながら笑う。


「はっ……はっ……なんだよそれ……? なんでそんなのっ……」


 俺が死ぬくらいなら、スキルを使ってでも生き延びろと、そう言うのか。


「なんでだよっ……! なんで!? なんで、こんなに悲しいのに、こんなに暖かい気持ちになるんだよぉっ……!?」


 絶え間なく涙が溢れてくる。


 もう一緒に悲しむことも、一緒に笑うことも出来ないのに。


 死しても尚、共に戦ってくれると言うのか。


 俺なんかを生かすために。


『スキル《共食いのハイエナ》が《骸拾いの王》に進化しました。アビリティである《死の嗅覚》が《死者択一》へと変換します。死の匂いを嗅ぎ取り、死の淵にあるほど、身体能力が強化されます。《裁きの雷》《剛力》《加速》が魂の純度により、スキルとして追加されました』


 不快なアナウンスによる頭痛を、覆い隠すほどの決意。


 震える程強い思いが、波の様にそれまでの"願い"を攫っていく。


「……忘れない。絶対に。他の何を捨てても、必ず生き残ってやるっ……! そして、報いを受けさせてやるっ!」


 脳裏に浮かぶ怪物。


 単眼とヒルドラン。


 二匹の巨人たちを思い浮かべると、胸がジクジクと痛む。


「何がなんでも生き延びて、俺がこの手で必ず殺すっ。俺を殺さなかった事を、地獄で後悔しろっ!!」


 誰かのために死にたいと、ずっと願っていた。


 誰かが俺を生かすなんて、想像すらしていなかった。


 ──だからこれは、俺の背負うべき罪であり、仲間たちにできるただ一つ約束だ。




 ――――――――――――――



 土がついた手を、払わずにダラリと下げた。


 12個の墓標は整然と並んでいて、刻まれた各々の名前を見ると、枯れたはずの涙がまた溢れる様だった。


「手伝ってくれてありがとう……」


「いえ。構いませんよ! それに本来は私の仕事ですから!」


 ルビーも俺と同じ様に土に汚れている。


 雪のように真っ白な肌に、焦茶色の土がついている。今はそれを見ても、何も感じられない。


 俺は大広間から持ってきた、折れた剣を見た。


 鏡のように反射した俺の胸には、ヒルドランにつけられた呪いの跡がある。


 蜘蛛の巣状に走る黒い線は、それを見るたびに俺の中の炎に薪をくべる様だった。


「はっ……酷い顔だ」


「そうですか? いつもと変わりませんよ?」


 ルビーの言葉に、首を振る。


 クラシキが言っていたスキルの代償。なんとなく、その意味がわかった。


 感情が抜け落ちてしまった様な、そんな虚無感がある。


「……1000ポイントか」


 古城からの解放と、願いを叶えるためのポイント。


 俺のポイントは411ポイントあったはずが、なぜか111ポイントまで減っていた。


 あとおよそ900ポイント。遠いのか、近いのかすら今はよくわからない。


「俺も、ここにいるから、みんな安らかに眠ってくれ」


 俺は折れた剣を、墓標のそばに突き刺す。


 これまでの自分と決別する様に、新たな誓いを刻む様に。


 今の俺が仲間たちに捧げられるのは、折れた剣一本だけだ。


 それでも、確かにここに俺たちの歴史がある。


「今度は折れないからさ。必ず、この血塗られた古城を生き残る。皆のことを覚えているのは……俺だけだから」


 墓標に背を向け、俺は振り返らなかった。


 後ろ髪を引かれる様な思いを振り切り、前だけを見る。


 そして古城の鐘の音を待つ獣になるのだ。


 いつか来るその日を願いながら。










 




 


 


 

これにて序章完結になります。ここまで付き合っていただいた読者の方はありがとうございました。


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