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血塗られし古城に剣を捧ぐ 〜死にたかった俺が仲間の魂を喰らうスキルで生き残る〜  作者: 新田青


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13話 「絶望の淵に立て」


 大広間はやけに静けさが漂っていた。


 一人一人の緊張と覚悟が伝わってくる様なピリピリした空気に、俺も深く深呼吸をする。


「なあルイ」


 隣に立っていたジンが、前を向きながら話しかけてくる。


「なんですか?」


「いや……なんでもねえ。ただ、急に妹の顔が浮かんでさ」


「妹さんがいるんですね。面倒見がいいのはそれが理由ですか?」


「はは。まあ、そうかもな。もし、ここから一緒に出られたら、妹をお前に紹介したいと思ってな」


 笑いながら言ったジンに、疑問符が浮かぶ。


「どうしてですか?」


「優しい子だからだよ。俺と違って。きっと、お前の中にある孤独とか、吐き出せない悲しみとか。そういうものをあの子だったら受け入れてくれるかもしれない」


 なんでそんな事を言ってくるのだろう。


「ジンさんには、感謝しています。ジンさんのおかげで俺は十分に救われましたよ」


 ジンの子供のような笑みを見て、俺も笑いたい気分になった。


「何笑ってんの? 二人とも気を引き締めなさいよ。これが最後の戦場になるかもしれないんだから」


 それは希望という意味の最後だと、カナエの力強い眼差しを見るとわかる。


「いつも通りやるだけじゃ。今も、戦場でも、そして、その後も」


 クラシキの言葉に三人揃って頷いた。


 時計の時間がゼロに近づいていく。


 青白い光が、俺たちの足元を強く照らした。




 ――――――――――――――



 地面に降り立つと、石で出来た道の上だった。


「橋……?」


 誰かの声が聞こえて、後ろを振り返る。


 すると、俺たちが立っているのが幅が広い跳ね橋の上で、それは目の前に聳える砦に繋がっているのだと知る。


「突然人が現れたぞ!?」

「何者だ!? 所属を言え!」


 砦の見晴らし台から、人の声が俺たちに向けられる。


 それは甲冑を着込んだ兵士たちで、この砦を守るためにいるのだと一目で理解できた。


「ルイ。砦の扉が閉まってるわ」


 カナエの耳打ちに、俺はただ何も返事できず固まっていた。


 ──息ができない程、強烈な悪臭が漂っている。


「なんだ?」


 誰かの疑問の声を聞いて、砦とは反対側、跳ね橋がかけられた崖を見る。


 何かが、近づいてきている。


 人間の姿をしているが、その大きさが人間のソレではない。


 灰色の肌に、ヒョロヒョロと伸びた手足。


 ギョロリとこちらを向いた、血のように赤い一つ眼を持った怪物。


「た、単眼だあ!! 早く跳ね橋を上げろ!!」


 砦から切羽詰まった恐怖の叫びが響く。


 俺たちが橋の上にいると言うのに、それを構わず進路を塞ごうとする異世界人の兵士たち。


 だが、それよりも"単眼"と呼ばれた巨人が動く方が先だった。


 赤く、巨大な一つの眼に、光の粒子が集まっていく。


 濃密な死の香りは、まだ足りないとばかりに不快さを益々増していく。


「オオォォォオン」


 角笛の音の様な単眼の雄叫びと共に、視界が真っ白に染まる。


 圧倒的な破壊力を秘めた光線が、幾重にも枝分かれしながら空襲のように放たれた。


 古城の兵士たちを包み込む光に、胸に飛来するのはたった一つの予感。


 死ぬ。


 ──その瞬間、誰かに力強く押された。


「え?」


 俺の体を押しのけたのが誰かを確認すると、それはカナエだった。


 スローモーションの中で、カナエの表情が鮮明に見えた。


 自分の行動に驚いた様な、そんな呆然とした表情をした後、すぐに俺の目を見て柔らかく微笑んだ。


 突如、轟音と共に捲れ上がった橋の残骸と共に空中に投げ出された。



 ――――――――――――――


 体に落ちてきた石の破片で目を覚ます。


 どうやら、寝転がっていたらしい。地面を見ると割れた瓦礫の上にいた。


「ぐうッ!?」


 覚醒すると、体の節々が痛みに悲鳴をあげる。


 ぐらつく頭を抑えると、手に血がべっとりと付着していた。


 開いていた腰のポーチを漁るが、ポーションがない。衝撃で瓶が割れたか、もしくは溢れ落ちたのか。


「……あ……カナエさんっ!? どこですかっ? ジンさん! クラシキさん!?」


 俺を突き飛ばしたカナエを探すが、どこにも見当たらない。それどころか、他の皆もいない。


 砦から伸びていた橋は崩壊していて、その僅かに繋ぎ止められた残骸の上で寝ていたらしい。


 少しでも距離がズレていたら、崖下に見える川に落ちていた。


「うっ……!」


 痛みを堪えながら、橋の瓦礫を登っていく。


 なんとか砦の入り口にある扉付近までやってきたが、単眼という怪物の攻撃でそこには大穴が開いていた。


「みんなっ……どこに……ウグッ!?」


 砦の中に入ると、その匂いに思わず嘔吐した。


 《死の嗅覚》で感じる物だけではない。本来の匂いも酷いものだった。


「な、んだよこれ?」


 砦の中にあったのは目を疑うほどの死体の数だった。


 どこを見渡しても、死体と、血と臓物に溢れていて、地獄だとしか思えなかった。


 その中で、地面にべったりと付着した血の跡は、何かを引きずったような物だった。


 行く当てもないまま、その跡を追いかけていく。


 血の跡は、大きな扉の前で途切れていた。


「はあ……はあ」


 鼻が馬鹿になりそうな匂いのせいで、口で呼吸することしかできない。


 だが、アビリティの効果はなくても目の前の扉の先がどれだけ危険なのかはわかる。


 ゆっくりと扉を開けると、暗い部屋の中央に大きな影が鎮座していた。


 水たまりを踏む様な音を立てながら、その影は何かを抱えている。口元から伸びた口吻の様なものを刺して、何かを啜っている。


 次第に暗闇に目が慣れてきた時、バクバクと音を立てる心臓が、一際強く鼓動した。


 それが胸に風穴を開け、ぐったりと手足を投げ出した血塗れのカナエと、その首から血を啜る怪物だとわかった瞬間、俺は剣を鞘から抜き放っていた。


「ウォオアアア!!」


 自分の喉から出たとは思えない、獣のような叫びと共に、怪物に向かって全速力で向かう。


 怪物は抱えていたカナエの死体を無造作に落とす。


「っ!!」


 怒りのままに振り上げた剣、それが怪物の体を斬りさくと思った瞬間、自分の体が急に怪物から離れていく。


 巨大な手のひらで叩かれたのだとわかった瞬間には、吹き飛んだ身体は壁に激突し、背中を突き抜ける衝撃に血を吐き出す。


「ウッ…ごほっ! がは!」


 膝をついて、苦しみから吐血を繰り返す。


 その合間にも怪物は迫ってくる。


 視線を向けると、その怪物の全容が視界に映る。


 四メートル程ある体躯に、筋骨隆々の身体。丸みを帯びた甲冑を纏い、口元に金属製の針のような部品があって、それが赤黒い血に塗れている。


 冗談かの様な大きさの戦斧を担ぎながら、ガシャンガシャンと音を立てて歩いてくる。


「ルイ!」


 誰かに名前を呼ばれて、視線をあげる。


 迫り来る怪物に、クラシキが飛び蹴りを放った。


「くら……しきさんっ?」


「ぬぅお!!」


 クラシキが繰り出す蹴りや突きに、僅かながら怪物の体が押されて地面を滑る。響く打撃音と、クラシキの叫びが呼応し、速さを増していく。


 だが、突然ブン、と高速で振られた戦斧が、クラシキの身体を両断した。


 立ったままのクラシキの下半身が、たたらを踏んで倒れた。


「うあ、あ、あぁぁぁあっ!!!」


 まだ叫べるほどの力があったのかと、自分に問いただす。


 怪物は自らが殺したクラシキからすぐに視線を外し、俺の元へと再度足を向ける。


 バチバチ、と断続的に光が瞬く。


 直後にズガンっと音を立てて降り注ぐ閃光。


 立ち止まった怪物の体を包み込むように眩しい雷が襲った。


 怪物の奥。部屋の反対側の壁に寄りかかりながら、力無く人差し指を怪物に向けるジンが座っていた。


 既に片腕を失くし、口の端から血を流しながら──。


 怪物が進行方向を変える。


「や、めろっ……!」


 血を吐きながら、怪物に向かって言葉を放つ。


 虚ろな表情のジンと目が合った。


 その口が、逃げろ、と動いた瞬間、怪物の戦斧がジンの脇腹を切り裂いた。


 糸が切れた人形のように、前のめりに崩れたジンを見て、俺は力強く剣を握りしめる。


「う、ぐっ…!」


 地面に左手をつき、ぶるぶると震える足を立てる。


 まるで揺れているかのように錯覚してしまう地面を一歩一歩踏み締め、怪物の元に歩いていく。


 後ろを向いたままの怪物に、力いっぱい握った剣を叩きつける。


 金属の音と、鋼が割れる音が、同時に響いた。


 手に持っていた剣、その刃が中ほどから折れる。


「──っ!?」


 怪物の裏拳によって、吹き飛ばされて地面を転がる。


 重たくなっていく瞼を必死に持ち上げ、指先で地面を掴んで立ち上がる。


「ぶっ! フウっ……フウ」


 迫り上がってきた血を吐き出し、折れた剣を抱えて歩く。


 視界が薄暗くぼやけていて、怪物がどこにいるかもわからない。


 その中で、僅かに見えた怪物の爪先。見えずともそこにいるであろう敵に向かって、剣を振る。


「見事」


 腹に響くような、低く、太い声がした。


 声の主を確認しようと顔を上げると、怪物が俺を見下ろしていた。


 遥か頭上から、見下ろすように赤い眼が俺に向けられている。


 俺はその足に、力の限り剣を振る。


 斬る、なんてものではなかった。


 怪物の甲冑に剣がカチンと、擦れる音だけが木霊する。折れた剣の破片が、地面に落ちる。


「──死に救いを求める者よ。貴様を我が獲物と認めよう」


 怪物の人差し指が、俺の胸に食い込む。


「うっ…おぉぉあぁぁっ!!?」


 ──熱い。痛い。苦しい。もう終わらせてくれ。


「これは貴様とオレを繋ぐ糸。再び相見えん時、必ずや貴様を啜ってやる。その時まで、せいぜいその血を研ぎ澄ませておけ」


 甲冑の隙間から見える口元が、醜悪に歪んでいるのが見えた。


 俺の足元に青白い光が生まれ、それが凄惨な光景を塗りつぶしていく。


「──ヒルドラン。貴様を殺す名だ」




 


次話は18時ごろに投稿予定です。

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