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血塗られし古城に剣を捧ぐ 〜死にたかった俺が仲間の魂を喰らうスキルで生き残る〜  作者: 新田青


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第12話 「猫の甘言」


 いつもの喧騒に塗れた食堂を、今は静寂が支配していた。

 

「みんなに話しておくことがある。ここ数日で道具屋に行ったやつはいるか?」


 ジンの問いかけに、誰も手をあげない。


「どうしたの?」


 カナエの質問に答えるようにジンが息を吸う。


「後で各自で確認してほしいんだが、その中に戦場スキップカードってアイテムがある。値段は400ポイントで、買えば誰も戦場に行かなくて済む。このアイテムを使うかどうか、皆の意見を聞きたい」


 ジンの言葉に場がざわつく。


「まじか……」

「でも、私200ポイントしかないんだけど」


 口々にそのアイテムについて話している時、クラシキが俺の肩を叩く。


「小僧。剣は新調しなかったのか?」


「はい。剣を買ったらカードが買えないんです。それに、やっぱり手に馴染んでいるものの方がいいかなって思って」


 それは半分本音で、半分嘘だった。


 本当は、ルビーの"掃除"の話を聞いて、モップを新調したと語る彼女に不快感を抱いたからだ。


 同じように剣を新調するのは、これまでの出来事を無かったことにするようで嫌だった。


「それより、みんな意外とスキップカードには否定的なんですね」


「当たり前じゃ。400は高すぎる。戦場に行かなくて済むとはいえど、ポイントがただ減るだけなのは心理的にも許容しがたい」


 クラシキの言うとおりだ。古城から解放されるには1000ポイントが必要で、その中の半分近くが消し飛ぶと考えると、二の足を踏むのはわかる。


 各々の考えが纏まらない中で、突然空中に赤色の魔法陣が瞬く。


「やあ皆」


「何しに来たんだよ? 悪いが今は仲間だけでミーティング中だ」


 音もなくテーブルに着地したクルルに、ジンが刺々しく難色を示す。


「冷たいなあ。ボクだって古城の仲間じゃないのかい?」


「……冗談を言いにきたのか?」


 張り詰めた空気の中で、クルルだけが前足を舐めながら緩んだ表情を見せる。


 その嫌悪感に、古城の兵士たちの視線が殺気立つ。


「ふふ。君たちが入荷されたアイテムのことで随分と混乱しているみたいだったから、いい事を教えてあげようと思って」


「いい事?」


「うん。次の戦場は皆も知っている通り、これまでより幾分過酷なものになる。けど、その分だけポイントも美味しいんだ」


「それで?」


「もしかしたら今回で1000ポイントに到達する人が生まれる可能性がある。古城から解放され、願いを叶える人がね」


 クルルの言葉に皆の空気が変わる。ザワザワと落ち着かなく囁く声は、目の前に見えてきた希望に縋りつくようだった。


 1000ポイントを代償に叶える願い。


 俺の願いは、一体なんなんだろう。


「くそ。やってやるっ」

「そうだよ。さっさとこんな場所からおさらばして、日本に帰るんだ」

「もし本当に願いが叶うなら、私だって」


 口々に傾いていく人心が、抗えないうねりとなって食堂を包んでいく。


「安心していい。君たちは優秀だ。そのスキルは、異世界人の誰も持ってはいないものだ。君たちだけの力なんだよ」


 なぜクルルは突然鼓舞するような事を言うのだろう。


 信用してはいけない、という内心と、どちらにせよ俺たちには選択の余地は残されていないという事実が、重くのしかかってくる。


 喧騒に支配された食堂が、ジンが手を打ち鳴らしたことで静かになる。


「わかった。行こう。戦場に」


 ジンの言葉に、反論する者はいなかった。それどころか全体の士気は、これまでで一番の熱気を感じるくらいだった。


「──ただ、各々万全の準備はしてほしい。転移したら、もう道具屋には行けないし、相談することもままならない。分からないことがあったら、どんなに些細なことでも聞いてくれ。全員の無事と解放を祈る!」


 おお、と力強い返事が響く。


 すぐに皆動き出し、それぞれが道具屋や武器庫へと走っていく。


「ルイ。お前は何か気になる事とかあるか?」


「いえ。特にはありません」


「そっか。俺とカナエは少し話すことがあるから食堂に残るけど……ルイとクラシキさんはどうする?」


「俺は中庭に剣でも振りに行こうかと」


「儂も一緒に行こう」


 俺とクラシキの言葉に、ジンは笑う。


 黙っていたカナエが、呆れた様に言った。


「二人ともいつも通りね。まあ、それが大事なのかもしれないけど。じゃあ、また後でね二人とも」


 カナエに手を振りかえし、俺は食堂を出るために踵を返した。


「行きましょうクラシキさん」


「ああ」



 ――――――――――――――



 俺の木剣が、クラシキの拳を受け流す。


 最初は馬鹿みたいに真正面から受けていたが、今では最後までよく見て、その軌道を逸らすことができるようになった。


 何合か打ち合い、懐に入ってきたクラシキ。


 その顎に膝蹴りを撃ち込む。


 鈍い音が響き、一瞬後でクラシキの腕で防御されたのがわかった。


「随分と、動きがよくなったな」


「指導のおかげです」


「ふんっ。世辞も上手くなった」


 お世辞では無かったのだが。


「今回の戦場は大丈夫でしょうか。最初の時以来の、全員参加なので」


「さあな。なるようにしかなるまい。あの黒猫が珍しく焚き付けおったのが、気がかりではあるがな」


「そうですね……クルルは、一体何が目的なんでしょうか?」


「奴は儂らの生き死にに興味がない。解放されようが、願いを叶えようがどうでもいいと思っているように見える」


 クラシキも俺と同じように思っているのを知って、少し安心する。


「やっぱりそうですよね……」


「──なに? ボクと話がしたいのかな?」


 突然現れたクルルに、思わず木剣を振り抜く。


「あ」


「ちょっと! 危ないじゃないか。こんなか弱い猫ちゃんに何するんだい?」


「いきなり後ろから話かけたからだろ? それより、聞いたら教えてくれるのか?」


 クルルは俺の質問に腕を組む。何かを考えるように眉を曲げているが、見れば見るほど不可解な生物である。


「そうだねえ。とりあえず言えるのは、君たちはボクにとって、よく出来た兵士って事だよ」


「それはどういう意味じゃ?」


 俺の前に出るようにクラシキが訊ねる。


「そのまんまだよ。これまでにも古城に召喚された兵士はいるんだ。君たちもなんとなく気づいてたんじゃないかな?」


 クルルの言う通りだ。武器庫にあった様々な使い古された武器や防具を見れば、想像はついた。


「その人たちは……解放されたのか?」


「ううん。全員死んだよ。その殆どが、召喚からすぐに戦場で死に、そして古城で死んだ。仲間内での争いもあったからね」


 俺たちも戦場組、待機組と分かれて壁ができた事もあった。一歩間違えれば、そうなっていたかもしれない。


「だから、君たちは優秀だって言ったのは本当さ。数を減らしながらも、日々結束を高めている。その中でも君たち四人は特にいい」


「それがよく出来た兵士って事なのか?」


「そうだよ。あのジンって子は、群れを率いる者としての才能がある。彼の存在は、君たちがここまで来るのにとても有効に働いたよ」


 俺もそう思っている。ジンがいなかったら。いや、ジンだけではない。カナエも、クラシキも、待機組の皆だって、誰一人として必要じゃない人間なんていない。


「──そして、君の存在が大きな変化を生んでいる」


「俺……?」


「うん。君は戦場でいつでも、誰よりも死に近い。だからこそ、他の子達が死から逃れる要因になっている」


「──そこまでじゃ」


 クラシキがピシャリと言い放つ。少しずつクルルに近づいていた俺の前に手を出して、それ以上の接近を止める。


「過保護だね。とりあえず、ボクが言いたいのは、君たちの選択を尊重するということさ。だからこそ、悔いのない選択をしてほしい。ボクが尊重するその選択が、君たちにとって後味の悪い物になってしまったら興醒めだろう?」


 クルルはそれっきり、赤色の魔法陣の中へと消えていった。


「あまり奴の話に耳を貸すな」


「はい……すいません」


「くそ。目の前に立つ度に、毎度冷や汗が止まってくれん」


 言葉通りにクラシキは汗を拭っている。酷く疲れたような表情は、それだけストレスがかかったという事に他ならない。


「はい。俺も、最初の頃より、今の方がクルルが怖いと感じます」


 俺の言葉にクラシキは少し笑みを浮かべた。


「ルイ」


「はい?」


 クラシキは少し躊躇いながら、口を開く。


「まだ死にたいと思っているか?」


 その質問に、俺はすぐに返事ができなかった。


 少し乾いた喉を潤すために、唾液を飲んでから答える。


「わかりません。けど、もっと……皆と一緒にいたいと思っています」


「それでいい。儂はジンとカナエに用事がある。もう少し素振りをしたらお前も切り上げろ」


「はい」




 

 

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