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血塗られし古城に剣を捧ぐ 〜死にたかった俺が仲間の魂を喰らうスキルで生き残る〜  作者: 新田青


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第11話 「月夜の約束」


 ある日の夜、俺は眠れなくて中庭で剣を振っていた。


 程よい疲れに切り上げて、古城の自室への道を帰っていると、廊下にジンが立っていた。


 月明かりを受けて僅かに白んだ顔は、古城の外にある遠い地平線を眺めている。


「ジンさん」


「ん? ああ、ルイか」


「寝ないんですか?」


「あー……ちょっとな。なあルイ。なんで、この古城はこんな草原の真ん中にあるんだろうな」


「さあ?」


「もう少し気の利いた返ししろよ。はあ……あの地平線の向こうには何があるってのか」


「……ずっと同じ景色が広がっているんじゃないですか? クルルは隔絶された空間とだけ言ってましたが」


 ジンの隣に立って、古城の外を見る。


「あのクソ猫の言うことを信じるのかよ?」


「そういうわけじゃないですが……考えても仕方がない気がして。この首輪がある限り、俺たちは古城から出られないじゃないですか?」


 ジンは俺に釣られて自らの首輪を触る。


「ああ……そうだな」


 その様子があまりに普段と違いすぎて、俺は口を開く。


「どうしたんですか? なんか変ですよ」


「いや……なあルイ。決して悪気はない質問なんだが、お前は死ぬのが怖くないのか?」


 ジンは俺を真っ直ぐ見て聞いた。


 その表情があまりにも真剣だったため、俺は自分の考えを伝えた。


「怖くないわけではないです。ただ……それよりも、俺なんかより生き残るべき人が死んでしまう方が怖いです」


 そう言うと、ジンは大きく、長いため息を吐いた。


「ルイと違って俺は本当に怖いよ。本来はこんなリーダーみたいな役割、俺に似合わないと思うしな。誰かの命が、俺の方針一つで失われるかもしれないと思うと恐ろしいし、そんな状況でも、俺だけは生き残りたいと思ってる」


 ジンは弱々しく言った。


「それでいいと思います」


「はは。ルイの言葉は嘘が無くていいな。胸が痛いくらいだよ」


 ジンは頭を掻きながら白々しく笑う。


「──俺はこんな場所で、人知れず死ぬのが怖い。古城に来てから、8人の人間が死んだだろ? けど、そいつらの事を誰も話題にあげないし、俺も見知らぬ他人だからいちいち覚えてられねえ」


「それは……俺だって同じです」


 ただ一人、心にひっかかる落合理沙を除いて。


「俺が死んでも、多分そうなるだろ? 誰も俺のことなんて覚えていられねえし、ここではそんな余裕はないんだよなみんな……」


「そんな事ないですよ……」


 今の俺は、ジンを死なせたくはないと思っている。


 それはクラシキもカナエも同じで、なんなら、調理場のイナバも、確執があったコバヤシですら、今は生きてほしいと願っている。


 その中でもジンは古城のみんなからも必要とされている存在だ。


「はは。ありがとうなルイ。けど、俺は確かなものが欲しいんだよ」


「確かなもの?」


「そう。一つ約束してくれ。もし、俺が死んだら、お前のスキルを俺に使ってくれよ」


 その言葉に、怒りが湧いた。思わず握りしめた拳を振り翳そうと思ったくらいに。


「何を縁起でもない事をっ? やめてください」


「頼むよ。俺だけじゃなくて、みんな同じだと思う。自分が死んだら、ルイにスキルを使って欲しいって思ってる筈だ。だって、そうしたらもし死んでも、お前だけは覚えていてくれるだろ?」


「──っ」


「だから……頼むよ。男と男の約束だ」


 突き出した拳から伸びた小指。少し微笑みながらも、引く事はないというジンの表情に、俺も小指を絡めた。


「なら、俺が死んだら、ジンさんとカナエさんの間にもし子供が出来たらルイって名付けてくれますか?」


「お、おまえ。何言ってんだよ!?」


「二人がそういう関係なのは、みんなもう気づいてますよ」


 ジンは慌てふためく。こんなにも動揺しているジンを見たことが無かったため、俺は腹を抱えて笑った。


「と、とりあえず、その頼みは聞けねえな。お前は俺にとって弟みたいなもんだからな!」


「はは。冗談ですよ」


 疲れに眠気が襲ってきていた筈なのに、ジンとの会話は楽しくて止まらなかった。


 夜通し話した後に、クラシキに二人揃って怒られたのはまた別の話だ。



 ――――――――――――


 その日は風もなく、雲もない、そんな静かな朝だった。


 鐘の音が古城を揺らし、いつものように大広間へと向かった。


「嘘だろ……?」


 誰かの声が静寂にこだました。


 戦場に転送されるまでの時間は24時間。出撃する兵士の数はALL。


 最初の戦場以来、二度目の全員参加だ。


「一日も待つのか?」

「なんか怖い……」

「あの時は3人死んだんだったか?」


 皆して落ち着きがない様子だった。


 かくいう俺もいつもより鼓動が早まっている気がする。


 だが、鼻を利かせても嫌な臭気はない。


 無意識に匂いを嗅ぎ分けるのが自分の中で判断材料になっているのが、なんともいえない気持ち悪さを感じた。


「全員落ち着け。とりあえず、すぐに食堂でミーティングをしよう。どうせ1日も待つんだからな」


 ジンの一声に、皆僅かながら平静を取り戻した。このような場面で、ジンの存在は誰よりも頼りになった。


「ルイ。お前も一緒に行くよな?」


「いえ。俺は一度、道具屋に行こうと思ってます。剣を新調しようと思って」


「了解。俺たちは先に始めてるから、早めに来いよなー」


 ジンに手を振って別れると、俺は足早に道具屋に向かう。


 扉を開けると、ルビーがバケツとモップを手にして立っていた。


「……掃除でもするのか?」


「いらっしゃいませ! はい! 私の仕事なんです」


 ホムンクルスであるルビーには道具屋以外の仕事もあるらしい。


「クルルに任せればいいのに。どうせ暇なんだろうし」


「いえ。クルル様は猫ですから。モップを持てません」


 確かにそうなのだが、どうしてもルビーが不憫に思えた。


「そっか。とりあえず、在庫を見せてもらっていいか?」


「勿論です。私の1番の仕事は店番ですから」


 黒いボードを見ると、400ポイントの戦場スキップカードが嫌でも目に入る。


 今回の戦場は明らかに不穏に感じる。


 《死の嗅覚》は発動するタイミングが掴みづらい。もしかしたらこれから戦場に転移させられる時間が近づいてくれば、危険度を測ることもできるだろうか。


「やっぱり高いな」

 

 今ある411ポイントという数字は、俺が戦場に何度も赴いて培ってきたものだ。もう少しで1000ポイントまで折り返しの地点まで来ている。


 新調しようとしていた剣は、12ポイント。これを買ってしまえば、スキップカードは買えない。


「……どうするべきなんだ?」


 武器は大事だ。一度武器庫にあった剣を使っていて、戦場で折れた経験がある。


 今持っている剣は、同じ轍を踏まないために初めてポイントで買ったもので、クラシキに教えてもらいながら拙い手入れをしつつ大切にしていた剣だ。


 手に馴染んでいるといってもいい。


「何かお困りですか?」


「いや……今使ってる剣を新しいものに変えるか迷ってる。前の戦場で負担をかけた気がするから」


「そうなんですね。確かに仕事道具は大事です。私もモップを新しくしましたから」


 ふと見ると、確かにルビーの手に握られているモップは真新しいものに見える。


「大きいモップだな。もしかして、この部屋以外も掃除しないといけないのか?」


 なんの気なしにした質問だった。


 単に、そうだったら大変だなと。


「──はい。古城の兵士たちの死体を掃除するのも、私の役目ですから!」


「え?」


 一瞬、何を言われたのか分からなかった。


 満面の笑みを浮かべて語るルビーに、俺は手のひらを差し出してストップをかける。


「……掃除? 死体って?」


「どうしましたか?」


「っ……! どうしたってっ? お前は──」


 どうしてそんな事をさせられてるんだ。無理やりやらされてるのか。


 あの消えた新川敏樹の死体。そして大広間に積まれた落合理沙の死体は、お前が掃除したのか。


 ──何も感じず、いつもと変わらないその笑顔で。


 そう聞こうとして、口を開いたまま固まった。


「ルイ?」


「……ごめん。なんでもない」


 ルビーは正しくホムンクルスだ。その意味がわかった気がした。


「はい! では剣を購入されますか?」


「もう少し考える。じゃあ」


「またの起こしをお待ちしております」


 道具屋の扉を閉め、薄暗い廊下を歩く。


「はは……」


 最初はルビーがどこか自分に似ていると感じた。


 存在が希薄で、役目がないと誰の記憶の中でも生きてはいけない存在。そんな彼女に、成り行きで名前をつけたのが始まりだった。


 接していく中で、彼女は人間ではないとわかっていながら、いつも変わらない笑顔を向けてくれる姿に安心している自分がいた。


 そんな事を考えていた頭を、思い切り殴られた感覚だった。


「……みんなに会いたい」


 この場所で命が軽いなんてわかりきっていた筈だ。


 だからこの場所が俺にとっては居心地がよかった。誰かのために死ねるかもしれないと、希望に似た願いを抱いていた。


 なのに、どうしてだろう。


 今は自分の生が終わる事を想像すればする程、胸が苦しくて張り裂けそうだった。



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