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血塗られし古城に剣を捧ぐ 〜死にたかった俺が仲間の魂を喰らうスキルで生き残る〜  作者: 新田青


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プロローグ


 熱い缶コーヒーが、頭上から注がれる。


「飲み物だけじゃ物足りないだろ? ほら、食えよ」

 

 シンヤが指先でつまんでいたのは、無惨に足をもがれたバッタだった。

 

 まだ生きているのか、必死に身体をくねらせている。

 

「……」

 

「食えって言ってんだろ」

 

 口元に押しつけられる。

 

 鼻腔をくすぐる土の匂いに、俺は嘔吐を堪えた。

 

 シンヤは周りからは優等生として認識されている。成績もよく、教師に好かれ、女子に慕われ、友人も多い。誰もが彼の本性を知らない。

 

 俺がそれを知ってしまったのは三ヶ月前、シンヤが別の同級生に同じ事をしていたのを見たからだ。

 

 ちんけな正義感で止めに入った。それが全ての始まりだった。

 

「お前の母親、水商売だろ。汚ねえ金で育てられた奴には、これくらいの飯が丁度いいんじゃないか」

 

 唯一の肉親である母親の名前を出された瞬間、俺はシンヤを睨みつけた。

 

 それが気に食わなかったのか、シンヤの顔から笑みが消える。

 

 乾いた音と共に、平手打ちされた頬が熱を持つ。

 

 取り巻きの笑い声が、耳の奥で反響する。

 

 逃げればいい。そう思っていた時期もあった。だが、足が動かなかった。逃げた先に何があるのかを、俺はもう知っていたから。


「ちっ。コーヒーがかかったじゃねえか。お前のせいで袖が汚れた。クリーニング代5万持ってこい」

 

――――――――――――



「ただいま」

 

 玄関を開けると、たった一人の家族である母さんが振り返って目を丸くした。

 

「どうしたのその頬? 制服も汚れてるじゃない」

 

「転んだ」

 

「……そう」

 

 それ以上は聞かなかった。母さんはいつもそうだ。聞かない。踏み込まない。それが優しさなのか、それとも別の何かなのか、俺にはわからない。

 

「冷凍庫に保冷剤あるから。私、仕事の準備するわね」

 

 テーブルの上の二千円を見て、シンヤに言われた五万円を思い出す。

 

 その時、母さんの携帯が震えた。

 

 盗み見るつもりはなかった。ただ、視界に入ってしまっただけだ。

 

『子供がいなかったらもう少し遅くまで一緒にいられるんだけどね……』

『子供が邪魔なら任せてくれ。預け先を探しておくよ』


 プチン、と頭の中で何かが切れる音がした。


 走り出した足は、ただこの場所から少しでも遠くへと、俺の体を連れ出した。


 背中に母親の呼び止める声が聞こえた気がするが、それに足を止める事なく扉を開けた。

 

――――――――――――


 家を飛び出して、気がつけば橋の上にいた。


「はあ……はあ」


 長い時間走っていたせいで、喉が張り付くようだ。

 

 走り疲れて背を丸めていると、肩にかけていた学生鞄が地面にずり落ちる。その些細な出来事で、少しだけ心身が軽くなった気がした。

 

 橋の欄干に手をかけて、川面を見下ろす。遠い目下にある水面は、夕陽を映して優しいオレンジ色に揺らいでいた。

 

 ──誰でもいい。必要とされたい。それが叶うなら、こんな命。

 

 その時、カラスの鳴き声が耳に届く。

 

 見上げると、一羽のカラスが群れに襲われていた。


 黒い羽が宙を舞い、次第に襲われていたカラスは体勢を崩して落下を始める。

 

 それに気づいた時には、欄干に乗り上げていた。

 

 腕を伸ばして、手のひらでカラスの体を受け止める。

 

 暖かいカラスの体を抱き寄せ、一瞬の浮遊感の後、重力に引かれて落ちていく。


 腕の中にあるカラスは、身悶えもせず静かに抱かれたままだ。それが、俺を受け入れてくれてるように感じて、思わず口の端が持ち上がった。


 ──これで終われるのか。

 

 諦念と喜びの狭間の中、加速度は最高潮に達する。

 

 川面に着水する瞬間、視界を青白い光が埋め尽くした。

 

 

――――――――――――

 

 

 ──頭を揺さぶられるようなドブの匂いがした。

 

 頬に当たる植物の感触で地面に寝転がっている事に気がつく。


「うっ……」

 

 首を持ち上げると、目の前には視界に収まりきらないほどの巨大な城が聳え立っていた。

 

 引き裂かれたような城旗が、暗い空に靡いている。

 

 辺りには俺以外にも大勢の人間がいて、皆同じように困惑していた。

 

「ニャア」


「うわっ!?」

 

 膝に何かが擦り寄ってきた。黒猫だ。喉を鳴らしながら、俺の指先を舐める。

 

 自らの首に触れると、いつの間にか金属製の首輪がある。周りを見ると、全員についているらしい。


(なんだこれ……まるでペットにでもなった気分だ)


 枠が狭いのか、外れない首輪に困惑していた俺を、更なる衝撃が襲う。

 

「──そろそろ皆落ち着いてきたみたいだし、説明するね」

 

 真横から突然声が聞こえた。


「っ……!?」


 その場から飛び退いて、俺は声の主を見た。


 心臓がバクバクと音を立てる。

 

「ボクの名前はクルル。古城の管理者であり、君たちにこの場所のルールを教える存在だ。君たちは古城の兵士になって"戦場"に赴いてもらう。よろしくね」

 

 自らをクルルと名乗った黒猫。


 その口から語られた戦場、という言葉に強烈な腐敗臭がした。


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