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最強の魔法使い

「勝負あり」


淡々と、勝敗は告げられた。


「残念だったね」


ゼクスは俺に勝てたことが嬉しそうにしている。

周りのクラスメイトはこの戦いを見た感想を言い合いながら、それぞれの考えをめぐらせていた。


俺の麻痺は消えたが、その後、この授業が終わるまで俺は誰とも戦わなかった。

完全に気持ちが切れていた。


この後は基本自習と昼休みだけだった。

そのため先生に許可をもらい俺はこの運動場に残った。


全員が見えなくなったのを確認する。


「クッソオオオオ!


……負けた。手は抜かなかった!


なのに!……次は、絶対に負けない!」


叫び終えた頃には少し頭がすっきりしていた。俺は改めてゼクスの能力について考え始める。


まず範囲攻撃に対しての考察はあってたはずだ。

範囲攻撃の中に自分が入りそうになったら使わなくなったのがいい証拠だ。

最後の蹴りで転ばせた時、ゼクスは手だけで衝撃を受け止めていた。

けれど、全く足が動いていなかった。

受け身を取るには足も動かすのが基本だ。つまりあの手の能力を使っている間は移動が出来ないということだ。


勝てた勝負だった、はずだ。

俺も相手の能力がわかっていたら——

……言い訳だ。


俺は本気でやった。真っ向勝負で負けたんだ。何言い訳してんだよ!ックッソー……


座って再び深呼吸をして落ち着こうとする。


どこからか足跡が聞こえてくる。誰かが近づいてきている。


若干俯いていたが視線を前に向けるとノア先輩が立っていた。


「なんのようですか」


「その様子だと今日はもう教室に戻らなそうだと思ってね。少し早いけどお昼ご飯用のサンドイッチ作ってきたから一緒に食べよう!」


「なんで、」


「こんな時こそちゃんと食べないといけないぞー」


「だからなんで!

  俺に関わってくるんですか?俺はただ負けたんですよ」


俺たちの間は静寂に包まれる。俺の目線に合わせるようにしゃがんでいた先輩は立ち上がる。

俺は再び視線を下へ向けた瞬間。


「せーーい!」


後頭部に軽いチョップを受ける。


「は?」


「なんでって聞いたでしょ?だから教えてあげる。私が君に話しかけたのはね…目が気に入ったからだよ。お姉さんが好きな負けず嫌いな目だ」


「そ…うですか?」


チョップの衝撃とノア先輩の言葉を聞いて何故か涙が流れてきた。


「え?なんで?

  こんな筈じゃ……」


ノア先輩は泣いている俺に何も言わず……ただ、俺の頭を撫でていてくれた。


俺が泣き止んだのを確認すると先輩は何かをポケットから取り出した。


「ジャジャーン!これはなんでしょう?そう魔法闘技場のエキシビションマッチのチケットです。水系統の最上級の魔導士の戦いが見れるチャンスだよ。一緒に行こっ」


「え?先輩が出場するんですか?」


「ううん。私は出ないよ。でも、私が知ってる中で最強の魔法使いの試合だよ。絶対に見て損はないって約束できる」


俺は言われるがままに手を引かれていく。


「でも今学校の時間ですよ。先輩は良くても俺は外に出ていいんですか?」


「大丈夫!先輩に任せなさい。後で一緒に謝るから」


ん?


何か聞きたくないことが聞こえた気がしたが、もう諦めてついていくことにした。


闘技場について先輩についていきながら席に座る。


「先輩、今日ここで戦う人について教えてくれませんか?」


「いいよ。能力は実際に見て考察した方がいいから適性と名前だけ話すね」


「ここで戦う人は最上位魔導士のクレイという人。まぁなんていうか個性的な人かな…対戦相手は戦いたいって言った人全員」


「全員!?連戦が得意な人もいるって知ってますけど流石に戦いたいと言った人全員はきついんじゃないんですか?」


「あの人だしねー…大丈夫じゃないかな?多分今回のこれも暇つぶしにやるだけだろうし」


そんなことを話していたらスポットライトを浴びながら少し化粧をして頭を丸刈りにしたような人が入ってくる。

実況はない。ただ歩いて闘技場の中央まで歩いていく。その行為だけでも先輩が発したような圧を感じる。

先輩の時は凄いと思えた。けれど、この人の場合は恐怖さえも感じる。

「なんだ…この人」


「あの化粧が濃い男の人がクレイ。私が知る中で最強の魔法使いだよ。早速チャレンジャーが何人かいるみたいだから戦闘を見てみようか」


先輩の言う通りクレイさんの戦闘を見る。


相手の人は炎系の魔法使いでかなりの使い手だ。俺なんか足元にも及ばないぐらい条件を変更し続けて攻撃の性質をわからないようにしている……たぶん。


これをクレイさんはどうやって攻略するんだ?





クレイさんが消えた。


何が起こったのかわからない。相手が吹っ飛んでいる。

俺だけでなく他にもわかっていない人がいるようだ。ここでやっとみんな話し始める。

ここまでクレイさんの圧だけでこの闘技場がさっきまで静まり帰っていたことに今更気づいた。


「レイ君は見えた?」


「いえ…まったく」


「慣れたら見えるんだけどね。今回は特別に見えるようにしてあげる」

先輩は俺の手を掴んだ。

「じゃあ、いくよ」


俺の視界が少しおかしい。急激に疲れるような、


「深呼吸して落ち着いて、そしたらクレイさんの戦いを見てみて」


言われた通りにすると微かに見えるようになった。


クレイさんは人間とは思えない身体能力に加えて相手が自身の動きを認識できている場合も考慮した動きで戦っている。


全てのチャレンジャーがどんどん負けていき終わってしまった。

「せっかくだから話を聞きにいこう!私の紹介ならたぶん通してくれるよ」


そう言ってすぐに選手控え室に連れて行かれるとそのまま先輩はドアを開ける。

中にはクレイさんがいて先輩を見つけて笑顔になる。


「あら〜ノアちゃんじゃない!いたなら戦っていけばよかったのに〜」


「それはまた今度にしておきます」


「あらそう?でそっちの子は?」


「私の後輩のレイ君です!せっかくだからクレイさんの話を聞かせてあげようと思って」


「いいわよ。でも、聞く話は2つだけ。ノアちゃんの紹介だから話を聞いてあげるけどまだ面白いかもわからない子に使う時間はないから」


「だって。でも2つは話を聞いてくれるみたいだから何か質問してみたら?」


「分かりました」


と言っても何を質問すればいいんだ?技術?能力?

いや、もっと違うもの…もっと根源的な……。


「あなたはどうして最上位魔導士になったんですか?」


「ただやりたいことをするために強くなっただけよ。まぁやりたいことが叩くことだったからずっと戦う目的を達成してたら自然になってたって感じかしら?」


「ありがとうございます」


「本当にそんな質問でいいの?」


「はい?」


「そこの私は少し特殊なところがあるけどさっきの質問されても基本みんなやりたいことをやっていたらなっていたか、なりたいからなったくらいの答えしか返ってこないわよ」


「もう一度聞くけど残り1つしかないけど本当にそんな質問でいいの?あなたの成長につながる質問をしなさい」


俺の成長につながる?


一つ思いついた。いや、馬鹿か?奢りもここまできたらただのバカだ。

それでも…


「俺と勝負してください」


意味があるかわからない。むしろ無駄になる可能性の方が高い。


「ップッアッハッハッハッハ。いいわねノア、あなたの後輩最高!レイちゃんだっけ?そのままやったら一方的になっちゃうからルールを提案するわ」


「分かりました」


「私が1発殴る。それを防いでちょうだい。私は手加減した状態で真正面から殴るわ。防げたらあなたの勝ち」


「分かりました」


実戦の時のように離れたのを確認して俺は強度を極限まで高めた盾を作る。この戦いでは制限をつけまくっていい。移動は出来ない。射程距離は、前方に1mだけ


「オッケーです」


「じゃあ…いくわよ」

  

なにが起きたーー俺は、なんで天井を見ている?


「大丈夫?」


「あ…、ゔぁ…い」


「まだ殴られたダメージで喋れなそうね」


やっと俺が喋れるようになった。


「すいま…せん」


「大丈夫?」

先輩にも心配をかけてしまった。


「何回かやってれば一瞬は私の拳を止められそうね」


「次で…止めます」


「え?これでまだやる気があるなんて凄いわね。いいわよ特別にもう一回やってあげる」


チャンスをもらえた。

さっきは物理だけであれば止められたはずだ。魔法を用いた攻撃だから盾はすぐに壊された。クレイさんは魔法を二つ使っている。血液操作による身体強化ともう一つ何か?クレイさんの攻撃の強さのせいで何かわからなかったが今はそれでいい。使っていると言うことがわかっていればいい。


次はさっきの制約だけじゃない。もっと制約を追加しろ。

能力を使用中移動できない。射程距離は前方50センチ。

縦の大きさは、俺の身長の4分の3程度を勘で指定する。

まだ足りない。能力を使っているあいだは、呼吸すらできなくしろ。


この制約を用いて物理耐性と魔法耐性に全振りした盾をつくる。


「準備はできたみたいね」


クレイさんの拳が俺の盾にぶつかる。


ガキッ


止まっーー



なぜか俺は意識を失っていたようで先輩に膝枕されていた。


「結果は?」


「凄いよレイ。君手加減したクレイさんの拳を一瞬だけど止めてたよ」


あれだけやっても一瞬だけ?

それだけ差は……


「あなた、なかなか面白いわねまた気分がいい時に遊んであげる」


こうして俺の最強との戦いは静かに終わりを迎えた。

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