適性
「今日ついに、俺の適性が分かる」
どんな適正になるんだろう。炎のようなカッコいいやつかそれともいろんな事ができそうな水だろうか。
…楽しみだな。
この世界には魔法が存在する。
すべての人間は五歳になると、その適性を調べることができる。
「レイはなんの適性になるんだろうな!水か電気もしくは土や風に氷。私たちの家系はみんな炎の適性を持っているから、レイの適性も炎だといいな!」
父はそう言って、俺以上に楽しみにしている様子だった。
適性の調べかたは水晶に手を置くと水晶の色が変化する。その色で判断する事が出来る。
炎なら赤色。
どの適性も大きく劣っているわけではない。
ただ、うちの家系で考えるなら——
炎の適性が一番、好ましい。
兄と母も集まり、俺を含めた四人全員が揃ったところで、
俺は水晶の前に立った。
「じゃあ、触ります」
ゆっくりと手を伸ばし、水晶に触れる。
一瞬、肌寒い感覚が全身を走った。
次の瞬間、水晶が——
冷気を発しながら淡い水色に変化した。
「水色…つまり氷系か」
父親が少し驚いていたのをよそに兄は意外と冷静に観察している。
誰一人として残念な様子は見せず話しかけてくれる。母は、
「いいじゃない氷も立派な適性よ。なんかこの家でレアって感じもするし」
父も最初に驚いていたとは思えないほど冷静になっていて、
「レイも魔法を早く使いたいだろ? 教えられることは教えるから、なんでも聞いてくれよ」
そう言ってくれた。
俺自身、期待を裏切ってしまったという思いと、
自分の適性への小さな落胆はあった。
「炎属性が良かったなぁ」
そう呟くと頭に手が置かれる。振り向くとそこには兄がいた。
「確かにみんなとは違ったかもしれないけどレイなら大丈夫だよ」
「うん…ありがとう。ちょっと外歩いてくるね」
そう告げて扉を開ける。今までと変わらない風景…属性がわかったところで直ぐに魔法が使えるわけでもない。
——つまらない。
何も考えずに歩く。街を出て…外の森へ。
今まで行ったことがなかった街の外の世界に踏み出す。
「魔法が使えるかもってなったら何か変わると思ったんだけどな」
外へ出ても結局変わることのない退屈さに諦め来た道に目を向けた瞬間——。
背後に出現した何かに見つめられる。
息を忘れ流れ出る汗に気づかない程の死期が迫っていると幼いながらにレイは理解する。
ゆっくり振り返るとそこには…電気を纏った猿がいた。
「…逃げ…」
痛い…
真下へ目を向けると猿の腕が体を貫きその先は赤く染まっている。
「ゴフッ」
あぁ…お腹が暑い。
思う間もなく投げ捨てられる。
その猿は再びレイの元へ近づき顔を覗き込みながら口を開く。
暑かったお腹はもう寒さしか感じない。
近づく猿に目を向けずレイは徐ろに腕を広げた。
猿の口は目と鼻の先にある。
手が何かに触れる。
冷たいような暖かいような。レイが向けた視線の先…レイの手が触れていたのはこの世の何よりも綺麗に黒く光る石だった。
横から迫る猿の魔物…その牙を最後に目の前が真っ暗になった。
—————————
「おや、客人とは珍しい」
再び視界に光が戻ったと思ったらそこは知らないところだった。
目の前にはさっきの石のような色をした角に白銀の髪をした少女が立っている。
「ここはどこ?」
澄んだ空が広がりレイが立っているところは広い広い水面の上。
いや、レイがいるところこそが水の中で水面の下に立っているようにも感じる。
「ッ…」
何?ここは?僕はさっき死んだ筈…じゃあこの状きょ、
「落ち着いて」
そう呟きながら少女はゆるりと距離を詰め優しくレイの手を取る。
優しく笑う少女の顔は半分ほど黒いツノが占めている。
「…ありがとう」
「顔見てまた驚かせちゃうかと思ったけど落ち着いてくれてよかった。怖い顔なのに」
怖いという感情はレイには浮かばなかった。
レイが感じたことはただ一つ。
綺麗…
レイがその感覚に浸っていると少女が口を開く。
「なんで助けを呼んだりしなかったの?」
「怖かったかr」
「それならもっと叫んだり泣いたり家族のことを思い出したりするんじゃない?」
「それに君は今日、せっかく魔法の属性が分かったのにあまり楽しそうじゃなかったし」
「だって…炎属性じゃなかったし母さんたちに申し訳ない」
静かに吐露するレイに少女は笑いかける。
「君が残念だったのは炎の属性じゃなかったからじゃないでしょ。もちろんそれもあるかもだけど、直接の原因じゃない」
「もしかしたら退屈だったからさっきもそれほど怖がらなかったのかもね」
本心を見抜かれたレイは目を暗くし、ただ認めるしかなかった。
「そうだよ。でももう関係ないけどね。あの魔物に食べられて死んだわけだし…生きててもつまらない奴になってたと思うし」
その言葉を話すレイは年齢に似合わずただ、淡々としていた。
静かに始まった静寂は訪れると共に壊される。
「それは違うと思うよ君はつまらない人間じゃないしつまらない人生を送ることもない」
「え…」
「だって死ぬ瞬間まで恐怖を感じなかったんだよ。君は普通じゃない。そんな感性の君があれぐらいで足るわけがない」
「それに君の本質は…」
「え、それって…」
レイが聞き返す前に視界が歪む。
「話は終わり…久しぶりに人と話せて気分がいいしねオマケだよ」
—————————
「レイ!レイ!」
目が覚めると周りが暗くなっていて兄と父が必死にレイに呼びかけている。
「ここは?」
レイの返事を聞いた瞬間に父は強く抱きしめる。
レイが貫かれたはずのお腹は元に戻っている。
あの猿に襲われてから何も覚えてない。
「レイ…」
その父をよそに兄が口を開く。
「レイはこれを誰がやったか分かる?」
兄の視線の先にはところどころが氷動かなくなっているあの猿がいた。
「わかんない」
「そうか…わかった」
兄はここに少し残ると告げ先にレイと父だけが家に戻る。
家に戻ると母に直ぐに抱きしめられる。
「外には行っちゃダメでしょ…」
「ごめん…なさい」
「何もなくて…よかった。本当に良かった」
初めて母がこんなに泣いてるのを見た。
——ごめん。
その2日後から、父や兄に魔法を教えてもらうことになったのだが――
今、俺が受けているのは、
まったく魔法の練習とは思えない座学だった。
父はどちらかというと大雑把で、
正直、脳筋寄りのイメージを持っていた。
(……まさか、ここから始まるとは)
期待していた光景とは違い、
じわじわと睡魔が襲ってくる。
まぶたを閉じかけたその時、
父がゆっくり近づいてきて、低い声で言った。
「魔法をうまく使うためにはな、まず“ルール”を知っておかないといけない。だから最後まで聞くように」
確かに、教えてほしいと頼んだのは俺だ。
どうせなら、上手く使えるようになりたい。
そう思い直し、俺は姿勢を正した。
それを確認した父は、再び話し始める。
「魔法っていうのはな、基本的に足し算と引き算の繰り返しでできている」
「たとえば基本の魔法として使われたりしている《ファイアボール》。あれは自分に引火しないことや安全性、連射できる回数、射程距離——そういう“足し算”をしている」
「その代わり、“威力”を引いている」
授業を受け魔法を学び、時が経ち15歳になった。
そしてとうとう明日…家を出て俺は学園へ通う。
出来るだけ家族に心配かけないように頑張らないとな。安全第一で…
『普通じゃない』
その言葉がなぜか頭で響いた。
「なんだっけ…これ




