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原初の種〜落ちこぼれの僕がダンジョン探索で成り上がっていく話〜  作者: 綺凛


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第8話 無事に地上へ

 

 地上の光が見え、鉄心さんに肩を支えられながらダンジョンの外に出る。


 途端に、ゲートの外で待機していた救助隊や支部の人たちがざわめきで満ちる。


「帰還確認! ……鉄心だ!」

「負傷者あり! 担架急げ!」

「魔力波の発生源、このダンジョンって本当かよ……?」


 そのまま僕は支部に備えてある緊急病棟に搬送された。


 医務室に運び込まれると、すぐに治療と並行して検査機器が僕に当てられた。

 魔力波長の測定器、精神負荷のチェック、骨折の確認……とにかく慌ただしい。


「…検査の中でも傷の治癒がありえない早さで進んでいる…」


 医療スタッフが困惑したように画面を覗き込む。


「前回の検査時より身体能力が上がっている…なんだこの成長速度…」


「胸に集中してる魔力の塊は何だ……魔力器官か?」


 胸の中心が、ゆっくりと熱くなる。

 原初の種が、静かに、でも確かに脈打っていた。


(…異端だとか言われたらどうしようかな…僕自身、何が起こったのかよくわかってないんだよな…)


 そう考えていたとき、胸の奥で“脈動が収まる”のがわかった。

 まるで核の痕跡を隠すように。


 医療スタッフは

「……なんだ? 今、反応が薄くなった?」

 と首を傾げたが、そのまま測定が終わった。


 ⸻


 診察が終わり、病室のベッドで横になっていると――

 廊下から、聞き慣れた声がした。


「……だから原因不明なんだよ。こっちが聞きてぇわ!!」


「鉄心さん! 本当に浅層で中層級の魔獣が出たんですか!?それを新人探索者が一人で倒したと!?」


「俺も直接みたわけじゃねぇ。詳細は芽吹に聞いてあとで報告書に書く。だから今はほっといてやれ」


 鉄心さんと支部の職員たちが言い合っている。

 獅斗の声も少し混じっていて、何度も僕の名前が聞こえた。


(……やっぱり、バレてるんだろうな)


 僕のせいで支部が騒がしくなっている。

 申し訳なさと、言いようのない不安が胸を締めつけた。


 しばらくして、鉄心さんがベッドの脇に来た。

 鉄心さんはベットの脇に備えられていた椅子にどかっと腰を下ろすと、ふぅと呼吸を整えて話し始める。


「……さて、芽吹。何があった?」


「……えっと……」


 説明しようとした瞬間、胸の奥が“やめろ”とでも言うようにズキンと痛む。


「……よくわからないんです。ダンジョン奥ですごい敵と、多分ダンジョンボスと戦って、気づいたら魔法が使えるようになっていたんです。」


「魔法、ってお前……」


「ほんとです。弱いですけど、使えるようになりました」


 鉄心さんは、頭をかきむしった。


「はぁ……マジかよ。

 こんな展開、報告書にどう書けってんだ」


「あ、あの……」


「いい。俺がなんとかする。お前は今のまま強くなればいい。責任は、全部俺が背負ってやる」


 胸の奥がじんと熱くなった。


「あ…ありがとうございます!」


「礼はいい。仕事だからなこれも」


 そう言いながらも、鉄心さんはどこか嬉しそうだった。



 その日のうちに怪我がほぼ治った。

 あれだけ無茶した両腕も完治している。


 病院の人たちに怪しまれないよう、ヒーラーの探索者から治療を受けたとごまかしておいた。

 納得はしていないようだったが、早く治ることは誰の迷惑でもないので、すぐに退院させてもらった。


 そうして次の日—


「――で。魔法……本当に使えるんだよな?」


 支部にある訓練場で、鉄心さんが腕を組んで僕を見る。


「はい。多分……」


「多分じゃいざってときに困る。やってみろ」


 深呼吸。

 体内に意識を向けると、胸の奥から魔力が流れているのを感じる。

 そこから風が流れ出すような感覚で手のひらに魔力を集める。


 どんどん魔力が手に集まっていき、掌の上に、小さな風の渦が生まれた。


「……!」


 それをそっと近くにある的にぶつけると、的の表面が薄く削れた。


「おいおいおい……マジで使えるのかよ……」


「す、すみません、弱くて……」


「馬鹿か! 初日でこれは十分すげぇよ!!」


 鉄心さんが声を上げた瞬間、

 少し離れた場所で誰かが拳を握りしめる音がした。


 建物の陰に獅斗が見えた。

 怪我が治りきっていないはずなのに、わざわざ見にきたらしい。


「……チッ」


 悔しそうに舌打ちして、そのまま支部の奥へ消えていった。


 なぜか獅斗に対して申し訳ない気持ちが出てくる。これは自分が強くなったことの傲慢なのだろうか。



 夕方、昨日の一件に関して支部全体が少し落ち着き始めた頃。

 廊下の端で鉄心さんと誰かもう一人が話している声が聞こえた。


「…原因不明の魔力波では済まされん」


「わかってます。……今後も引き続き俺の班で調査します」


「鉄心、お前……何を隠している?」


「何も。俺もよくわからんもんで」


 明らかに嘘だ。

 でも、それが僕のためだとわかった。


(鉄心さんには迷惑をかけてばかりだな…もう素直にこのスキルの話をしたほうがいいんだろうか…)


 心の中で小さく呟いたそのとき――胸の奥が、ふっと震えた。


 なんとなくだが、これはこの世界の力ではないのだろう。

 前例にない成長率に異常な回復力、身体強化系のスキルかと思えば魔力を使えるようにもなるなんて、聞いたことがない。


 出る杭は打たれるという。

 まだ自分自身が強くなるまでは、秘密にしておくべきだろう。


 今はまだ中層の敵に苦戦している状態だ。

 ここから魔力制御を覚え、魔法と身体強化を合わせた戦闘を考えなければいけない。


 もっと強くなるために。

 僕を見下していた残酷な世界を見返すために。


 いつの間にか臆病に、卑屈になってしまっていた僕自身を助けるために。


―—綺凛(作者)から皆様へ――


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