第30話 獅斗、颯、恋の日常
無事にダンジョンを攻略した俺たちは、ボスからドロップしたアイテムを回収して帰路についた。
帰りにも敵は何体か出てきたが、特に問題なく倒すことができた。
こうしてダンジョン閉鎖期間が終わってから、初のダンジョン攻略はうまく終わりを迎える。
「ってか…そもそもなんでダンジョンが閉鎖されていたんだよ」
「それは仕方がないだろう。ダンジョン内で異例の事故が起きたらしいからな」
無事に探索者支部まで帰還した俺たちは、何よりも先に風呂へと直行した。
この支部には銭湯が併設されており、探索者であれば無料で利用することができる。
食堂といい銭湯といい、探索者には至れり尽くせりの施設だと常々思う。
施設で暮らしていたころは金もなく、お湯を張った風呂なんて入ったことがなかった。
満足な食事とあったかいお湯にはいれるだけで、探索者という仕事はなんとも魅力的な仕事だろう。
「ああああ~~…風呂は最高だな…」
体の汚れを洗い流し、湯舟にどっぷりと肩までつかる。
疲れが体から溶け出していくようで、情けない声が出てしまうのも仕方がない心地よさだ。
「こればかりは…天国と例えるのも致し方なしだな」
颯もくつろいだ表情で、肩をもみほぐしていた。
この風呂は探索者支部のスキルで回復系統の能力をもった人が、回復効果のある水を生成し、それを風呂にしているらしい。
そのおかげか疲れも取れやすいし、小さい切り傷なんかも簡単に治るのは便利だと思っている。
一度、その能力者が風呂を張っているところを見たことがあるが、魔力回復薬をどでかい樽に入れ、その樽に直接太いストローのようなものを指し、飲みながら青白い顔で作業していた。
ほかの探索者もそれを見ているからか、荒くれも多い仕事の割には風呂場は清潔に使っているようだ。
そうしてゆっくり風呂に使ったあと、銭湯用のロビーでくつろいでいると、風呂上りの恋も合流した。
「はぁ~本当にさっぱりしたね~」
「おせぇぞ、恋。」
俺と颯は10分以上前に風呂を上がって、髪も完全に乾かしていた。
「ごめんごめん~どうしても長くなっちゃうんだよね~」
恋はまだ髪を乾かしていないようで、毛先から小さい水滴が滴り落ちていた。
一つため息をつくと、男女共用の洗面台に恋を連れていく。
そこで自前のヘアオイルを恋の髪につけて馴染ませ、軽く櫛で髪を梳く。
そのあとはドライヤーで乾かしていく。
その脇で颯は化粧水と乳液を順番に恋の顔につけていく。
恋は昔から自分の容姿に無頓着なところがある。
容姿にというより、肌とか髪のケアというところだろうか。
俺も颯も汚い施設で育っていたせいで、一度、きれいになった自分の肌や髪を見てから、昔に戻るのが怖くてちゃんとケアをしている。
一方で、恋は施設で暮らしていたときよりは全然きれいだからいいと言って、ケアを怠っている節がある。
なんとなく俺と颯はそれをそのままにしておくことができなくて、勝手に恋のケアをしていた。
水分がだいぶ飛んで、サラサラと風に流れる恋の髪を乾かしながら思う。
「いつまで俺たちにやらせてるんだこれ」
「え~~~なんて~~~?」
ドライヤーの音が大きいせいで、俺の小さなボヤキは聞こえなかったようだ。
こうした平和のやり取りを済ませ、そのあとは食堂で食事をとりに向かった。
「…おっけー、はい、君は肉多めの食事でいこうかな。あ、あとさっきの女の子に、野菜食べさせといてね」
「…うっす」
「…承知しました」
俺と颯は微妙な表情で栄養士のもとを離れ、食事をもらって席につく。
すでに席についていた恋は、上半身を左右に軽く揺らしながら律儀に待っていた。
恋は俺と颯の一個下ということもあり、昔から妹のように面倒を見てきた。
もう探索者として活躍できる年齢になっても、この関係性は変わらないようだ。
「恋、さっき栄養士に野菜食べろって言われてたぞ」
どうせ素直には聞かないだろうなと思いながら、一応伝言を言う。
「…わかってる、それより、いただきまーす」
「いただきます」
「はぁ…いただきます」
恋は大の野菜嫌いだ。
生臭いとか、食感が好きじゃないとかで、なかなか食べようとしない。
「…ぐっ…」
まだ大の魚嫌いの颯は我慢して食べているからいいのだが、恋は全然食わないからな。
こいつらなんであの貧しい環境で育ってて好き嫌いがあるのか、意味がわからない。
「おい!こっそりと野菜を懐に隠すな、食え!」
ポケットにこっそりと野菜を入れようとする恋を止め
「颯!起きろ!魚食ったまま白目で気絶すんな!」
魚の苦手さに白目をむいて気絶する颯をたたき起こす。
なんで俺が面倒見てるんだ…という気持ちで、いつものような夜が終わる。
そう思っていたとき、支部全体で強烈なアラーム音が鳴り響いた。
『緊急事態発生!緊急事態発生!病棟にてAランク探索者”春梨 美奈”およびDランク探索者”芽吹 慧”が消失しました。各員、怪しい人物等がいないか警戒してください』
「…は?あいつが…?」
「嘘、慧くんが…消えた?」
「…どういう状況なのだ」
俺たちは困惑したまま動くことができなかった。
突然聞こえた異常事態、そしてその被害者が旧知の仲である人間。
混乱の中で、俺たちは自分たちの装備を整えて、支部の指示に従いロビーに集まった。
何がなんだかわからねぇ、けど、俺を置いたまま消えるなんて許せねぇ。
心配なのか怒りなのかわからない感情のまま、支部の指示を待った。
―—綺凛(作者)から皆様へ――
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