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原初の種〜落ちこぼれの僕がダンジョン探索で成り上がっていく話〜  作者: 綺凛


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第25話 生き残った僕らは

こんなに暗い話をクリスマスにアップするべきではないのでは?と思ってますが、毎日投稿が大事かなって…思いまして、

 

 暗闇に慣れた視界に、まばゆく感じるほどの夕日が入ってくる。

 湿った空気が肺から抜け落ち、代わりに土と草木、そして消毒薬と金属の匂いが喉の奥に貼りつく。

 ダンジョンから出た先は野戦病院のようになっていて、けが人の二人を全力で治療していた。


 Aランク探索者は国にとって財産に等しい。

 人類が兵器同様の力を持っている今、Aランク探索者は核よりも大切な抑止力になる。


 Aランク探索者は能力として兵器級でも、人であることに変わりはない。

 そのため戦車や重火器のような扱いをするわけにもいかず、各国に旅行名義で入り込むのも問題ない。

 Aランク探索者自体がどの国にも潜り込める兵器のようなもので、だからこそ抑止力になる。


 そんな貴重なAランク探索者が重症とあっては、国の危機になるのだ。


「バイタル未だに不安定です!血液パック、魔力パックの追加を!」

「危険域を抜け次第、支部へ帰還!早急に集中治療にあたるための手配をしておけ!」

「軍用医療車両が到着!いつでも帰還できます!」


 怒号のような、必死の指示が飛び交ってる。二人の命を救う怒号だ。

 でもなぜか、僕にはそれが、ひどく気分が悪い音に聞こえた。


「バイタル安定!帰還できます!」

「救急部隊、至急帰還!」


 担架の上を、春梨美奈が運ばれていく。

 白いシーツの下から覗く手は、信じられないほど冷たそうで、様々な管が体中から伸びていた。

 まるで糸の操り人形のようだが、しっかりと生きているのを感じた。


 僕も車両にのって支部へ帰還した。

 帰還した支部から、ざわめきが押し寄せる。

 誰かが名前を口にした。


 ――天空の翼のほかのメンバーは!


 その瞬間、空気が一段沈む。


 芽吹は思い出してしまう。

 助けられたとき、あの五人が見せていた背中。

 頼もしい背中、信頼し合っているチームの空気。


「……大丈夫だと思ってた」


 誰に向けた言葉でもなかった。

 それでも、胸の奥で何かが崩れ落ちる音がした。


 バンと支部の扉が開き、救急隊が二つの担架を運んでくる。

 傍にはいおさんの姿もあり、懸命に回復スキルを使っているようだ。

 その後ろでは、重そうな医療器具を赤石くんがもって付いて言っている。

 素早く担架で運ばれていく二人がロビーから廊下の先に消え、急に支部の中に静寂が下りた。


 そのあとすぐに、支部の入り口から、ゆっくりとした音が聞こえてきた。

 誰かが、ゴクリと唾を飲み込んだのがわかるほどの静寂に、シャンという音が小さく響く。


 黒い集団が支部の中へ入ってきた。

 彼らはみな黒い袈裟のような服を着ており、仰々しい錫杖をコンと床に当てながらゆっくりと歩く。

 錫杖が床につくたびにシャンという音がなる。


 この音は全探索者が嫌いな音だと思う。

 この…探索者の遺体が運び込まれてきたときの音は。


 集団の真ん中に、三つの黒い棺があった。

 棺は完全に閉じられていて、中にいる人の顔はわからない。

 けれど、棺の表面には


「鷹宮 翔」「神田 武」「菰田 月子」


 この3名の名前が、金色の文字で書かれていた。


 その列は、霊安室に向かってゆっくりと進んでいく。

 その最後尾に、オモナくんの姿があった。


 探索者の遺体を葬儀するのは”観世一族”の生業。

 その本家の跡とりである観世オモナは、支部のホールから出ていく際に、ホールで見守っていた探索者や職員に一礼して、暗い廊下へ消えていった。


 途中で呼吸を忘れていたようで、ふと苦しくなって大きく息をすって、喉の奥が焼けるように痛んだ。


「……僕、」


 声が震える。


「きっと……あの人たちなら…無事に生きて帰ると思って…」


 いつの間にか隣にいた鉄心は黙って聞いていた。

 彼は否定もしない、慰めもしない。


「そう思わせる強さだった」


 短い言葉をただの事実のように話す。


「だから、お前らを守り抜いたんだ」


 芽吹は俯いた。

 床がやけに遠い。


 彼らは強いから大丈夫、Aランク探索者なら絶対に生き残る。

 その考えが、音を立てて砕けていった。


 ◇


 その日の夜は寝れる気がしなかった。


 目を閉じると、いなくなってしまった3人の顔が浮かぶ。

 初めてクラン同行のダンジョン探索に連れて行ってくれた鷹宮さん。

 神田さんには初対面で筋肉が足りないと叱られた。

 菰田さんは訓練中、時折回復してくれたり頑張りを褒めてくれた。


 美奈さんと霧坂さんは峠を越えて、安静にしていれば回復すると聞いた。

 二人の無事を喜ぶ気持ちはもちろんあるが、それよりも喪失感が大きかった。


 何度も寝返りを打つ。

 シーツが擦れる音が、やけに大きく聞こえる。


 天空の翼の三人の顔が、順番に浮かぶ。

 最後に見たわけではない。

 それでも、なぜか笑っている姿ばかりが浮かんだ。


「……っ」


 胃が締めつけられる。

 吐き気が込み上げる。


 生き残った二人を救助した後もそうだ。

 赤石くんもオモナくんもいおさんもそれぞれが自分の役目を全うしていたのに。

 僕だけが落ち込んだままで何も動いていない。


 誰かを助けるために生きているんじゃなかったのか。

 この気持ちは、この行動原理は、ただの偽善だったのか。

 とっさに動けない心の弱い自分に、なんの意味があるのか。


 カーテンの隙間から見える夜空は、星がない曇り空で、どんよりとした気持ちを表しているようだった。


 …生きている自分が、場違いに思えた。


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