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原初の種〜落ちこぼれの僕がダンジョン探索で成り上がっていく話〜  作者: 綺凛


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第24話 戻った先で

残酷な表現があります。

ご注意ください。

 

 緊急帰還アイテムは正常に作動したようで、僕たち4人はダンジョンの入り口にいた。

 外に出られた安堵を感じ、それよりも強烈な焦りが身を包む。

 天空の翼は探索者上位に入る強者だ、きっと大丈夫だと自分に言い聞かせつつ、これからの動きを考える。


「この中で移動速度が一番早いのは…慧だね」


 オモナくんが顎に手を当てて、考え事をしながらいう。

 確かに身体能力強化を得意としている僕は、おそらくこの中で一番早いだろう。


「車で移動するのもありだけど、それよりも速く移動できるならその方がいい。僕と水瀬で芽吹にバフをかけて、芽吹が全力で支部に向かうでいいかな」


「…体力が持つか…心配があるかな」


 冷静に考えるべきだ、バフをもらっても、車で片道一時間の距離を全力で走り切れる自信はない。


「私が、継続的に体力を回復すればいい」


 いおさんが強いまなざしでいう。

 いおさんのスキルには、スタミナを回復させるものがあるようだ。


「で、でもどうやって継続的にスキルをかける状況を作ればいいんだろう、いおさんも走るわけにはいかないし…」


「芽吹が背負っていけばいいだろ」

「確かに、慧の力なら問題ないだろうね。それでいこう」


 赤石くんが言い放ち、オモナくんも同意する。

 横を見るといおさんも真剣にうなづいていた。


 流石に女性に触れるのは申しわけがない気持ちになるけれど、緊急時にこんなことを言っている場合ではない。


 僕もうなづくと、オモナくんがバフスキルを発動させる。


「…ふぅ、最大でバフをかけたよ、それじゃあ二人ともよろしく」


「何もできなくてすまねぇ、せめて魔力回復用のアイテムを持っててくれ、水瀬」


「ありがとう、急ごう慧くん」


「はい!!」


 僕は全力で地を蹴った。


「行きます!!」


 最大のバフを受けた僕は、まさに風を切るような速度で道を進んでいく。

 いおさんは落ちないように、そして上体が揺れて不安定にならないようにしっかりと僕にしがみついてくれたので、走るのに苦はなかった。


「…きっと大丈夫、天空の翼の人たちは強いよ」


 移動してしばらくたって、いおさんが小さな声で励ましてくれた。


 そうだ、きっと大丈夫だ。

 そう信じて、探索支部への道を全力で進んでいった。


 ◇


 探索者支部のロビーに、僕といおさんは転がるように入った。

 突然、激しい勢いで支部に入ったからか、そこにいた探索者の視線が僕らに刺さる。


 でも今はそんなことを気にしている場合ではないし、疲労で脳に酸素が十分にまわっていないのか、ひどく遠くの出来事に感じられた。


 息が荒く、声がでない僕に代わり、いおさんが大きな声を張った。


「緊急事態の報告です!!」


 途端にざわめきが起き、近くにいた職員が駆け寄ってくる。


「報告があります!栗原ダンジョンにて、正体不明の脅威を確認しました、現在は天空の翼が対応中、同クランからの要請により、援軍を要請します!」


 職員の表情が変わる。


「緊急の援軍要請が必要な案件でよろしいですね?…かしこまりました」


 職員はトランシーバーのようなものに対して伝言を送ってくれた。


『緊急事態発生、緊急事態発生。職員ならびに協力できる探索者へ次ぐ。栗原ダンジョンで正体不明の脅威を確認。至急、援軍として出発せよ」


 放送が流れてすぐに、支部の職員と探索者たちが動き出す。

 芽吹は、その光景を、どこか現実感なく見ていた。


 自分の判断は、正しかったのだろうか。

 逃げたのではないか。

 置いてきてしまったのではないか。


 今になって頭によぎる思考をよそに、低い声がかかる。


「芽吹」


 振り向くと、鉄心が立っていた。

 いつもの穏やかな表情ではない。


「行くぞ、お前が動かなくてどうする」


 過保護な鉄心さんが肩を貸して、一緒に来いという。

 彼の表情は見たことがないほどの真剣さと不安をにじませていた。


 そうだ、ここで倒れている場合ではない。

 今すぐに戻らなければ。


 支部職員と協力してくれる探索者は緊急用転送装置に乗って、ダンジョンの目の前まで飛んだ。

 これは大量のダンジョン資源と大量の魔力を消費して使用する装置で、本当の緊急時にしか使えないものだと鉄心さんが説明してくれた。


 一行は隊列を整え、すぐにダンジョンへと入っていく。


 ダンジョン内で支援部隊の足音が、規則正しく響く。

 芽吹はその後ろを歩きながら、必死に考えないようにしていた。


 天空の翼なら、大丈夫だ。

 そう何度も、心の中で繰り返す。


 鷹宮翔さん、神田武さん、霧坂玲司さん、菰田月子さん、春梨美奈さん。


 彼らが負けるはずがない、負けるわけがない。

 そう信じて先に進んでいくが、深層に近づくにつれ、胸の奥がざわついていく。


 静かすぎる。

 そして鼻腔を貫く不吉な臭いがした。

 そう、血の匂いだった。


 最奥へ続く通路に足を踏み入れた瞬間、

 芽吹ははっきりと分かった。


 空気が違う。

 湿り気を帯びたダンジョン特有の匂いの奥に、

 混ざってはいけないものがあった。


 鉄の匂い。

 それも、新しい。


 誰かが小さく息を呑む音がした。

 芽吹自身のものか、隣の誰かのものかは分からない。


 広間に入る。


 最初に目に入ったのは、床だった。


 抉られ、砕かれ、焼け焦げている。

 氷が半ば溶けたまま張り付き、

 防壁の残骸が歪んだ形で散らばっている。


 戦闘があった。

 それも、ただの戦闘じゃない、災害とも感じられるほどの魔力の残り香だ。


 次に見えたのは、人影だった。


「……っ」


 声にならなかった。


 鷹宮翔が、そこにいた。


 剣を握ったまま、仰向けに倒れている。

 刃は途中で欠け、魔力は完全に抜け落ちていた。


 身体には、いくつもの打撲痕。

 だが、致命傷は別にある。


 一目でわかるほど明確な死因。

 彼の体は、頭の先から真っ二つに分かれていた。


 直視することのできない状況。同行している何人もからえずくような声が聞こえた。


 鷹宮さんは強かった。

 誰よりも前に立ち、誰よりも冷静で、誰よりも頼れる存在だった。


 僕は、呼吸の仕方を忘れた。

 無意識にそこへ歩み寄ろうと、隊列を抜いて前に進むと、もう一人倒れていることに気が付いた。


 次に見えたのは、神田武さんだった。


 彼は、細かい破片に埋もれる形で倒れていた。

 彼はいつも持っている大きな盾がないと気づき、彼に刺さっている細かい破片がその盾のなれ果てだと気づいた。

 どこが致命傷なのかもわからず、彼は真っ赤な血に濡れて倒れていた。


 もう何を考えていいのかわからなくなった。

 自分は今、正常に立てているのか、視界がぐるぐる回っている感覚がする。


 そんな視界の中に月子さんがいた。


 彼女は、広間の端に静かに横たわっている。

 長い髪で隠れた隙間から、顔面が大きく陥没しているのが見えた。


 即死。

 誰が見ても、疑いようがない死が、目の前に広がっている。


 芽吹の中で、何かが音を立てて崩れた。


 大丈夫だと思っていた。

 天空の翼なら、きっと勝っていると、疑いもしなかった。


 その希望が、粉々に砕け散る。


 同行者の声で気づくことができたが、生きている者もいた。


 霧坂玲司は、壁にもたれるように倒れている。

 全身に裂傷と打撲。

 魔力はほぼ枯渇し、呼吸は浅い。


 生きているのが奇跡のような状態だった。


 さらに奥には、春梨美奈がいた。


 血に濡れ、床に伏せている。

 手足は不自然な形に折れ、なんで生きているのか不思議なほどボロボロだった。


 支援部隊が動いていた。応急的な治療、生命活動の維持、搬送の準備。


 芽吹は、その光景を、他人事のように見ていた。

 足元が、ぐらつく。

 自分が、ここに立っていることが信じられない。

 天空の翼が、倒れた。

 あの人たちが、殺された。


 それなのに、敵はもういない。


 このダンジョンの奥から出てきたのは、あの黒いゲートから出てきた怪物はどこかに消えた。

 凄惨なこの空間を作り上げたまま、どこかへ消えたのだ。


 全身を包む恐怖と絶望感に苛まれ、僕たちはダンジョンから脱出することにした。



―—綺凛(作者)から皆様へ――


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