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原初の種〜落ちこぼれの僕がダンジョン探索で成り上がっていく話〜  作者: 綺凛


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第23話 かつて、天を掴んだ者たちは

 

 敵は一人。

 武器を構えているわけでも、威圧するような姿勢でもない。ただ、そこに立っているだけだ。


 それなのに――近づけば死ぬ。

 理屈ではなく、本能がそう告げていた。


「…月子、状況分析の結果を教えてくれ」


「…はい、私たちは格上のダンジョンボスという想定でバフをかけています。防御バフ、継続回復を重視している形です。Aランク魔獣相手であれば問題なく討伐できるでしょう。

 …しかし、私のスキル”月の巫女”により、危機的状況だという警鐘が聞こえてきております。これは…」


「…伝説のSランク相当ってこと…」


 月子の言葉に続き、美奈が事実を告げた。

 ―Sランク。数年前に発生した超巨大ダンジョンの暴走でダンジョンの外に現れた災厄の魔獣。

 当時、ダンジョンブレイクの起きたイギリスでは、想定で10万人が亡くなったそうだ。

 想定というのも、地形が大きく変わるほどの攻撃がSランク魔獣から発せられたため、正確な数が計測できなかったというものだ。


 その当時は、今のSランク探索者5名がどうにか討伐したと聞いている。

 彼らは人外の力を持ち、Sランク探索者1人で国を亡ぼせるといううわさも聞いている。


 僕たちAランク探索者も簡単に倒せるだろう。

 これでも人類の頂点付近にいる実力はあるんだけどな。


「…暫定Sランクという認識で決定だな。総員、支部からの援軍が来るまで生存重視で戦うぞ」


 低く告げると同時に、翔は剣をまっすぐ正眼に構える。

 刃に魔力を流し込み、赤茶色の光が剣を覆う。


 武が前に出て、さらに自身の防御力をあげるスキルを重ねがけする。

 聖騎士スキルによる防壁が展開され、月子のバフが背後から重なる。

 玲司の周囲には冷気が集まり、美奈の姿はいつの間にか視界から消えていた。


 男は、興味なさげに彼らを見回し、一言だけ言った。


「…羽虫どもが、せっかく見つけたというのに」


 男はなにか面倒そうな顔をして、フードを取る。

 紫色に淡く光る長髪をオールバックのようにしている。

 後ろ髪は長く、さらけ出された額からは煙のようなもので出来た角らしきものが生えていた。


「――行くぞ!」


 翔が地を蹴り、魔力を乗せた飛ぶ斬撃を放つ。

 斬撃波が空気を裂き、男へと一直線に走った。


 男は無造作に左腕をふるい、斬撃をはじきとばした。


「…ん?なんだ、思ったより良い攻撃をするじゃあないか。」


 男は手を軽く振るいながら、かすかに笑いをこぼす。


 Bランク魔獣程度だったら一発で倒せるほどの威力を込めたはずだ。Aランク相手でも傷を負わせることは確実な攻撃をこいつは簡単にいなした。


 翔は舌打ちし、武と一緒に男へ向かった飛び込む踏み込む。

 僕と武の間からは、玲司が放った氷の槍が紫髪の男に向かった飛んで行った。


 男は氷の槍も拳で軽く破壊し、棒立ちのまま僕たちが攻撃するのを待っている。


 剣と魔法を同時に放つ連撃。武も大きな盾で挟み込むように攻撃を放つ。

 男は、片手で僕の攻撃をはじき、神田の盾を足でけり止めた。


「武!」


「おう!!」


 武が盾をそのまま押し込み、男の体勢を崩す。

 その隙に、僕は剣を地面に突き刺し、支えにして力をためる。


「スキル《鷹飛脚》」


 スキルにより強化された跳躍力を蹴りに乗せて、男を空へ蹴り飛ばす。

 男は抵抗なく宙に飛ばされていった。


「スキル《空を縫う短剣(エアスティッチ)》」


 美奈がどこからか飛ばした短剣が男の外装に刺さり、男はそのまま空中に固定される。

 こいつの身体能力は化け物だが、空中に固定されていれば力を伝える物質もないから動けなくなる。


「…スキル《氷龍の咆哮(クリスタル・ロア)》!!」


 玲司の持つ長杖から彼のもっとも得意とする攻撃魔法が放たれる。


 極太の氷属性の光線がまっすぐと謎の男を貫いた。


「スキル《月鏡・重》」


 男を貫いてなお進む光線は、男の背後にできた銀色の鏡に吸い込まれ、そして同じ威力で打ち返し、また男を貫く。

 そしてその光線ももう一対できた銀色の鏡に吸い込まれ、また同じように光線を放つ。


 そうして2対の鏡に挟まれた光線は男を何往復も貫き続けた。


 光線は男を貫くにつれ、どんどん威力が弱まり次第に消えていった。


 光線が消えたあと、男を宙に縛っていた短剣が壊れ地面に落ちていく。


「…空で横になったのは初めてだな。まぶしくて寝れはしなかったが」


 男はなんでもないように着地して、ほこりを払うように外装を手ではたいた。


「…ぼ、僕の最高火力なんだけど…」


「本当に人外なのですね…」


 玲司と月子の合体技はこのパーティの最高火力だ。

 これで傷一つついていないとなると、さすがに絶望も感じる。


「さて、これ以上はないのか?つまらんな」


 男の姿がぶれた。

 いや、ぶれて見えるほど高速で移動している。


 近接戦闘職の僕でさえ、掠れて見える早さで玲司と月子の方へ向かっている。


「くそっ!!」


「スキル《影縫い(シャドウ・スティッチ)》」


 美奈のスキルにより、男がピタッと動きを止める。

 美奈は隠密で気配を消し、男が美奈に気が付かずに通りすぎようとしたとき、影を短剣で刺して動きを止めた。


 その隙に僕と神田が男の方へ全力で移動する。


「…うそ、拘束できない!」


 Aランク魔獣ですら10秒は高速できるのにも関わらず、男は1秒もかからずに拘束を解いた。


「お前は少々、癇に障るな」


 男は足元にいた美奈を蹴り飛ばした。

 軽く見える動作なのに、美奈の体は一瞬で壁まで吹き飛ばされる。


 壁に叩きつけられ、美奈はそのまま崩れ落ちる。

 生死を確認している隙なんてない、目を離せば一瞬で倒されると直感で分かった。


「…脆いな」


 戦場に、重い沈黙が落ちる。


 僕と神田はそこから、一歩も前に出られない。

 玲司の魔法も月子の補助もやつには届かない。


 翔は歯を食いしばり、剣を構える。

 一歩、また一歩と、後退している自分に気づく。


「…ふざけるな、僕たちが、天空の翼が、10年以上最前線で動いてきた僕たちが、こんな形で終わるわけがないだろ」


 心の奥底からやつが憎いと思った。

 それと同時に、日本のトップ層に甘んじて訓練を怠り、強くなった傲慢で訓練もせずに、偉そうに後輩に教えていた自分が、心底憎い。


 もっと力をつけていれば、Sランクにはなれないと夢に見ることすらせず、Aランクに到達した時点で努力をやめた自分が憎い。


 僕にはわかる、ほかのメンバーも同じ気持ちだ。

 みな、表情を苦し気にゆがめている。

 でも、今更そんなことを思っても変えられないことも理解している。


「最後まで、あきらめてたまるか、僕たちにだってプライドがある!みんな、もう一度立て直していくぞ!!」


「「「おう!!!」」」


 月子は美奈の回復を第一に、僕と武はヘイトを集めて玲司の補助で時間を稼ぐ、美奈が復活したらいったん体制を立て直して…


「心底、くだらない」


 大きくもない男の声が、なぜか僕らの耳に強く響く。

 途方もない絶望感を振り払うために、わき上げた気力や勇気が、かたっぱしから壊されていくのを感じる。


 男の額から出る煙が、少しだけ濃くなったと、なぜか冷静になった頭で思った。


「※※の※」


 なんて言ったのか聞き取ることもできないまま、僕の視界は真っ二つに割れ、暗闇に沈んだ。




―—綺凛(作者)から皆様へ――


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