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原初の種〜落ちこぼれの僕がダンジョン探索で成り上がっていく話〜  作者: 綺凛


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第17話 VS 神田武

 

 午前の訓練を終えた。

 最初はスキルに振り回されていたが、だいぶ動けるようになった気がする。


 いったん汗を流しに、シャワーを浴びて、支部の食堂へ向かう。

 今日の献立を考えてくれる栄養士さんからは、なぜ朝食を抜いたのかと責められ、昼飯は普段の倍の量を出された。


 午後からも訓練なのに…

 それでも作ってもらったものは感謝してすべて食べきらなければ。


 お金に余裕がない施設で育ったからか、ご飯は一粒でも残してはいけないという精神が骨の髄までしみ込んでいる。

 漫画盛りのようなこのごはんも、もちろん残すわけにはいかないのだ。


 そうやって必死にごはんに食らいついていると、隣から声をかけられた。


「隣、いい?」


「ど、どうぞ…あ、えーと君は…観世くん?」


「オモナでいいよ、呼びづらいでしょその苗字。」


 金髪に黒いメッシュ、前髪は目に少しかかるくらいの長さで、襟足は少し長めにしている。いわゆるウルフカットというやつだろう。


 白い肌に黄色い瞳がどこか幻想的で、中性的な顔つきもあって女の子みたいな子だ。


「ありがとうオモナくん。訓練はどう?」


「んー、まぁまぁかな。昨日は神田武さんとだったんだけど、化け物だねあの人。」


 オモナくんは果物がたくさんのったヨーグルトを食べながら眉をひそめている。


「化け物って…」


 僕のはこんなに量が多いステーキ定食なのに…オモナくんはフルーツ…


「僕、支援系のスキルを持ってるんだけど、火力にも少しは自信があったんだよね。でも何してもあの人はノーダメージ、信じられないよ」


「あーー…微動だにしない神田さんが思い浮かぶよ」


「本当にそんな感じだった。慧くんの方はどうだったの?」


「僕は美奈さんとだったんだけど、一撃も当てられなかったよ…早すぎて追いつかなかった」


「ふーん、まだまだAランクの壁は高そうだね」


 オモナくんはさっさとフルーツとヨーグルトを食べ終わって、僕が大量に盛られた定食と戦っているのをじっと見始めた。


「…あ、あの、食べづらい…んだけど」


「気にしないでいいよ」


 …いや気になる…何でこんなに見られてるんだろう…


「こんなに食べられるもんなんだね、別な生き物みたいで面白いね」


「別な生き物って…」


 僕の苦しい表情を見てオモナくん快活に笑った。

 見た目は少し怖いけど、なんだか話しやすい男の子だ。

 年下だからなのかな?


「オモナくんってかなり若いよね?何歳になるの?」


「…14歳だよ、子どもって言いたいの?」


「いやいや、そうじゃないけど、僕より年下なのにD級なの凄いなぁって」


「…凄くないよ、恵まれてただけ。っと、そろそろ午後の訓練に行かなきゃね。慧くんも早く食べ終わりなよ」


「あ、うん!ありがとう」


 オモナくんが訓練場に向かうのを横目に、ラストスパートと定食を食べ進める。


 …そういえば、1回顔合わせしただけなのに僕の名前まで覚えてたんだな…記憶力いいんだなオモナくんって…


 支援系スキルの最高峰であるスキル《聖女》を排出した観世家、そこの一人息子が観世オモナだ。

 彼が探索者になり瞬く間にDランクまで上がったのは有名な話だ。


 1部からは家の力を使ったパワーレベリングとか、才能が遺伝しただけとも言われるが、神田さんとの訓練を悔しがったり、高い壁を感じて悩んでいるのを見ると、僕とそんなに変わらないんじゃないかと思う。


「恵まれていただけ…か。14歳でそう思うってことは、余程周りから酷いことを言われてきたんだろうな」


 せめて、同じランクで歳の近い同期として仲良くしていきたいものだ。


 午後になり、訓練場へ向かうとフィールドの真ん中で神田さんが仁王立ちしていた。


 …うん、ただ立ってるだけなのに凄い威圧だ。


「来たか、芽吹」


「はい!今日はよろしくお願いします!」


 神田さんは無表情でこくりとうなづいた。

 その後、僕の頭から足元までをざっと眺めると、満足そうにもう一度うなずいた。


「うん、良い筋肉だ。えらいぞ」


「あ、ありがとうございます!食堂のおばちゃんにもたくさん食べさせてもらって…」


 ストレートに褒められるとは思っていなかったから照れる。


 神田 武。

 天空のスカイウイングの盾役で、聖騎士というスキルをもっている。

 高い防御力と自己回復のスキルで、崩れない安定した盾職としてクランでも絶大な信頼があるAランク探索者だ。

 昨日の実演でもオモナくんの攻撃を微動だにせずに受けていたらしいし、本当に盾職として優秀な人だ。


「やるか、模擬戦」


「はい、お願いします!」


 お互いに昨日と同じ訓練室の真ん中のコートに立ち、向かい合って構えをとる。

 神田さんは訓練用の大きな盾をどんと構え、体の半分以上を盾に隠してどっしりと構える。


 対する僕は、昨日と同じように大き目に足を広げて、相手から見て右腕側を後ろに半身を取る。

 すぅーっと大きく深呼吸をして、集中力を上げる。


「行きます」


「いつでも来い」


 正直、勝てる気はまったくしない。

 ……けど。


「スキル《森羅万象—感知》」


 スキルを発動した瞬間間、見える世界が変わる。

 神田さんの呼吸、足の重心、盾の角度……すべての情報が明確になり、自分の力の流れも理解できるようになった。


 午前中に自主練したけど、これ情報量が多すぎて長時間の使用は無理だ。

 となれば、短期決戦しかない。


 最適な力の流れにそうように、全身の力を足にため、一気に爆発させる。

 緑色の風…本当は風じゃなく、緑色に具現化した闘気を足で発しながら一瞬で神田さんとの距離を詰めた。


 そう、僕は《森羅万象—感知》を発動するまで、”原初の種”いや、今は”原初の芽”から流れる力を魔力だと勘違いしていたし、使える技も風魔法だと思っていた。


 しかし、これは本当は魔力ではなかった。

 今でも本当は何かよくわかっていないが、僕は”闘気”と暫定的に名前を付けた。


 その闘気を拳にも回して神田さんの盾めがけて思いっきり拳を振るう。


「おおおおりゃぁ!!」


 バガン!!と強烈な音が響く。


「!!」


 神田さんはその場から一歩も動かずに僕の攻撃を受け止めたが、驚いた顔をしていた。


「…面白い。こないだダンジョンでみたときより、はるかに強いな。だが、それじゃ俺を倒せないぞ」


 神田さんはその場で大きく盾を前に出して、僕を突飛ばそうとする。

 身長が2m近い神田さんの半身が隠れるほどの巨大な盾が僕めがけて突撃してくるのは正直めっちゃ怖い。


 余裕をもってバックステップをしながら攻撃を回避する。


 通常の攻撃では防御を突破することは不可能だと思う。

 それなら、できる限りの最大火力を放って、隙を見つけるしかない。


「スキル《力の葉脈》」


 ”原初の芽”がある胸がドクンと力強く鼓動する。

 そして、緑色の闘気が体中に流れ、力が循環していくのを感じる。


 このスキルは身体能力バフだ。

 使うとめっちゃ疲れるし、反動もあるけど、バフ量は尋常じゃない。


 それこそ《森羅万象ー感知》を使用していないと制御が聞かないほどだ。


「ほう…おもしろそうなスキルだな。さぁ、来い」


「いきます!!!」


 さっきよりもはるかに強い踏み込みで、一気に神田さんの後ろに回り込む。

 このスキル状態なら、美奈さんの速度にも少しはついていけるのではないだろうか。


 動かない神田さんの背後から、後ろ首めがけて飛び回し蹴りを放つ。


「はぁああ!!」


 ドガンという音がして、僕の蹴りが見事に神田さんの首に直撃した。


 …微動だにしない。この人の首どうなってるんだ?先輩冒険者に遠慮してもなと思って、思いっ切り急所狙ってるのに…


「ふふ、ふふふ…」


 神田さんは小さく笑いながらこちらに向き直る。

 いつもの無表情が少し崩れて、笑顔になっていた。


「いい、いいぞ、芽吹。もっと来い」


「は、はい!」


 脇に回りこみ、膝裏めがけてローキックを放つ。

 まだ、ドンという激しい音がなるが、神田さんは微動だにしない。


 上腕への肘打ち、腹部への正拳、足への蹴り、背中へのドロップキック


「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ…」


 本当に固すぎるこの人…どういう防御力をしているんだろう…


「はっはっは!!いいぞ、芽吹!強くなったな!あと一息だ!もっともっと来い!」


 なぜか神田さんのテンションが、攻撃を与える度にどんどん上がってきている気がするのは気のせいではないだろう。


 心なしか息も荒くなり、顔も紅潮している気がする…若干怖い


「最後に全力を振り絞らせていただきます!!」


 スキル《力の葉脈》は短時間しか続かないので、もう少しでバフが切れる。

 これを最後の一撃にするしかない。


 全身に行き渡る力を右腕に充填する。

 名前は風魔法と勘違いしていたときのままでいいだろう、見た目は一緒だし。


「《風纏(ふうてん)》!!」


 螺旋を描く緑色の闘気、まるで腕を中心とした小さい竜巻のような拳を顔面へ全力で叩き込む。


 激しい衝撃音がなり、自分の拳にも強い反動が来る。

 間違いなく今日一番の威力が出ているはずだ。


 残心を取るように少し距離を話して神田さんの様子を見る。


 すると彼の鼻から一筋の赤い血が流れた。

 血がそのまま唇に触れると、彼はそれを舌でなめとって大きく笑った。


「最高だ…俺の防御を突破するか!!あぁ…久しぶりの痛み…!なんて気持ちがいいんだ!」


 あ…これ、まずい琴線に触れたかもしれない。


「いいぞ、本当にいい…芽吹、休憩したらもう一回だ!!もっと!!俺に!!痛みを!!」


 Aランク探索者はみんなネジが飛んでるのだろうか…

 美奈さんはサドスティック、神田さんはマゾヒズム…やばい、天空の翼のことがかなり怖くなってきた…


 そういう懸念を外に、僕はそれから日が暮れるまで神田さんと訓練を続けた。


―—綺凛(作者)から皆様へ――


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