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原初の種〜落ちこぼれの僕がダンジョン探索で成り上がっていく話〜  作者: 綺凛


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第15話 原初の力

 

 遠くから声が聞こえる。

 自分を呼ぶこどもの声だ。


「慧はやっぱり足が速いな!さすがは俺のライバルだぜ」


 幼い頃、まだ仲が良かった頃の神原獅斗だ。

 彼と僕はよくお互いをライバルと呼んでいた。


 そうだ、僕はスキルを授かる年齢、15歳になるまでは保護施設の中でリーダーのような存在だった。

 僕は誰よりも足が速くて、だれよりも運動ができて、だれよりも明るかった。


 施設の年上のやつらが、自分よりも小さい子をいじめている場面に遭遇したことがあった。

 そのときも、力でも人数でも敵わないとわかっていながら、その子を助けるために行動できるような

 人間だった。


 小さい頃から、漠然と誰かを助けたい、誰かの力になりたい、立派な大人になりたいと願い、それを

 目標に行動していた。


 どうして、そんな目標があったんだっけ…

 あぁ、そうだ、人を助ければ、誰かの役に立って立派な大人になれば、自分を捨てた両親が、立派になった僕を迎えに来てくれると、そう信じていたんだ。


 体が大きくなるにつれ、それは叶わない夢だと気づいたが、それでも誰かを助けたい、誰かの力にな

 りたいという気持ちだけは、自分の軸として残っていた。


 僕も獅斗もほかの施設のみんなも、身寄りがなくて、親に捨てられて、生まれたときから絶望に包まれ

 た子どもだった。


 スキルが発現しない僕を見て、彼らはどう思っただろうか。

 スキルもない、力もない僕が、誰かの力になりたいと藻掻く様を見て、どう感じただろうか。


 獅斗は僕を、というよりこの世界を呪っているのかもしれない。

 不平等で、不条理で、差別的なこの世界を。


「慧、早く帰ろうぜ!めっちゃ雨が降ってきた!」


 僕の手を、子どものときの小さい手をつかんで、獅斗が走る。

 頬には水滴がつく感触がして、体を冷やす不幸から逃げるように、僕たちは走って施設に帰った。


 施設について、屋内に入ったのに、自分の頬が濡れていることに気づいた。


 あれ?泣いてるのか僕は?

 目元を触ってみたが、泣いてはいないようだ

 それなのに、頬には水の感触がずっとしている。


 なんだこれは…と疑問に思っていると、途端に息が苦しくなった。

 まるで水中にいるかのような息苦しさだ。


 獅子斗やほかのみんなも心配してくれているが、息苦しさは続いた。

 でも自分の視界には水なんて映っていない。


 苦しくて目を閉じると、遠くの方に光が見えた。

 その光の方へ一気に這い上がるように手を伸ばすと、だんだんと光は強烈になっていった。


「ぶっはぁ!!!」


 目を開けると、そこはさっきまで美奈さんと訓練していた部屋だった。

 自分の顔や髪、手はなぜかびしょぬれになっていて、水が髪からしたたり落ちるのがみえる。


 何があったのかと周りを見わたそうと、真横を見ると。

 お互いの鼻がくっつきそうな距離に女の子の顔があった。


「…うっわぁ!!」


 思わずのけぞって距離をとると、女の子はきょとんとした顔のまま首を傾げた。


「起きた、おはよう」


「え、あ、おはようございます…えーと…水瀬さん?」


 同じDランク探索者で、天空の翼クランと合同訓練をしていた水瀬さんだ。

 でもなんでここにいるのだろうか。


「水瀬いおだよ。おはよう…えーと…」


「め、芽吹慧です」


 彼女が顎に指を充てて、少し困った顔をしているので、あわてて名前を言う。


「そうそう、芽吹くん」


 なんだかマイペースというか、ゆったりというか、不思議な雰囲気をしている人だな…

 彼女が立ち上がると、僕の髪や顔や、地面を濡らしていた水が集まり、塊となって彼女の足元に移動し

 ていく。

 そのまま見ていると、水の塊は1匹の猫の形になって、水瀬さんの足にすりついていた。


「あ、あの…それって…」


 水でできた猫を指して聞くと、水瀬さんはゆっくりと猫を抱きかかえる。


「この子?にゃおちゃんだよ」


「にゃ、にゃおちゃん…?」


「そう、にゃおちゃん。かわいいよね、猫って」


 あ、この子は天然なんだなと確信した。

 この状況をどう説明してもらおうかとしどろもどろしていると、彼女は指を少し振って、新しく水でで

 きた大型犬を足元に出した。


「この子は、ばうくんだよ。ばうくん、あいさつしてね」


「バシャァ!!」


 大型犬“ばうくん”が泣くようなそぶりをすると、鳴き声ではなく水しぶきが口から発射された。

 猫を作る?のに、髪を濡らしていた水がなくなったと思ったら、またびしょぬれになった。


「そのこたちは、水瀬さんのスキルなんですか?」


 足元に来たばうくんをなでなでる。水のようにひんやりしているが、なでても手が濡れることはなかっ

 た。

 不思議だな…うすい膜でおおわれているみたいだ。


「そうだよ、私のスキルで召喚?創造?できるの。って、あんまり知らない人に見せちゃだめなんだった」


 水瀬さんはあちゃ~という顔をしながら猫をなでている。

 結構表情豊かな人なんだな…かわいい

 余計なことを考えていると、ばうくんが僕の顔をぺろぺろなめ始めた。


「…っと!ははは!なんかひんやりしてくすぐったい!」


「私以外の人間になつくの初めてみた…」


 彼女はアクアマリンのように透き通った青色の瞳を大きく見開いた。


「え、そ、そうなんですか?この子、結構人懐っこい雰囲気ありますけど…」


 顔をなめてくるばうくんをなだめながら、彼女の方を見る。


 視線が交わった瞬間、どくんと胸の奥が強く脈動した。

 しかもそれは一回だけじゃなく、どんどん早く強い鼓動へ変わっていく。

 心臓のあたりが急激に熱を持っているようだ。

 胸が避けてそのまま飛び出るんじゃないかと思うほどの強い鼓動が続く。

 苦しさに耐え切れず、床に転がり丸まるしかなかった。


「芽吹くん?大丈夫?」


 水瀬さんが心配してかけより、僕の肩をゆする。

 彼女の声がはるか遠くから聞こえるように感じた。


「…――、――!」


 まずい、いよいよ何を言っているのか聞き取れないほど、意識が朦朧としてきた。

 うっすらと空いた瞼の隙間から、水瀬さんが何かを詠唱しているのが聞こえる。


「――スキル《原初の水・回天》」


 彼女の手から、金色に光る液体があふれ出た。

 金色の液体は、小さな魚…金魚のような姿に変わり、そのまま宙を泳いで、僕の口の中へと入ってきた。


 僕はそれを反射的に飲み込んだ。


 ◇


 突然、芽吹くんが倒れた。

 彼の翡翠のような緑色の瞳と私の瞳が交差した瞬間、彼が胸を押さえくるしそうに倒れた。


 最初は私の美貌に心を打たれたのかと思ったけれど、尋常じゃない苦しみ方をしていたので、何かの病

 気か、または怪我かなと心配した。


 彼に近寄って肩をゆすったり、声をかけてみたけれど、苦しそうな声しか返ってこなかった。

 試しに通常の回復スキルを使ってみたけれど、効果はないようだ。


 本当はクランメンバー以外には使っちゃいけないように言われていたけれど、緊急事態だから仕方ない

 と思う。

 私は隠しているスキルを発動した。


「蒼井さん、ごめんなさい。でも緊急時だから許してください。…スキル《原初の水・回天》」


 このスキルは特殊な回復スキルだ。

 怪我はもちろん、呪いの類も解決できる。

 一度使用すると、半年のクールタイムがある貴重なスキルだけど、彼の様子は普通じゃない。そして、直観というか、”原初の水”がこのスキルを使えっていっているようだった。

 こういう直観は信じたほうがいいと思っている。


 金魚を模したスキルは、彼の口の中に入り、彼が反射的に飲み込むのを確認した。

 よし、これで大体の傷とか病気は回復するはず。

 もう少し様子を見ようと近づこうとした瞬間、彼を中心に暴風が巻き起こった。


「…!!たるくん!」


 咄嗟に防御特化の召喚獣、亀型のたるくんを召喚し、自分を守るように展開する。

 Cランク魔獣の攻撃にも余裕で耐えるたるくんの防御は、芽吹くんから発せられた暴風にどんどん削ら

 れていく。


 暴風の中心にいる芽吹くんは、自らの暴風に包まれて、横になったまま宙に浮かんでいる。

 魔力を共有してたるくんの修復を行っているが、修復よりも削られる方が早い。

 どうしようかなと考えていると、風が急にピタッと止まり、芽吹くんの胸を中心に吸い込まれていった。


 なんだったんだろうか、たるくんとにゃうちゃん、ばうくんを引き連れて、ゆっくり近づいていく。

 そばまで来たけれど、彼は眠っているようだった。


「…どうしたんだろう…」


 にゃうちゃんの手を使って、頬をつんつんしてみるけど、完全に気を失っているようで、規則正しい呼

 吸しか返ってこなかった。


「…ねむくなってきた。おいで、すうちゃん」


 魔力の使いすぎかな、眠気が急にきた。

 私は巨大な水の塊、スライム型召喚獣のすうちゃんを召喚し、そのまますうちゃんの上に横になる。

 すうちゃんは巨大なベットのようで、とても寝心地がいい。


 ばうくんに見張りをしてもらえば大丈夫だよね。

 私はそうやって眠りについた。


―—綺凛(作者)から皆様へ――


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