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原初の種〜落ちこぼれの僕がダンジョン探索で成り上がっていく話〜  作者: 綺凛


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第14話 VS春梨美奈

 

 くじの結果、今日は美奈さんとペアとして訓練することとなった。


 ペアが決まったメンバーはそれぞれ訓練所に併設されている模擬戦闘室へ移動する。

 模擬戦闘室はダンジョンで得られた材料を基にして作られた施設で、壁や床、柱などの自動修繕機能、最適温度の管理等の便利機能や録画機能も備わっている。


「相変わらずここは最適な温度でいいね~できるならここに住みたいよ」


「この部屋1つ作るのに億単位の金額がかかるらしいですからね…噂には聞いてましたけど、はじめて入りました」


「まぁここは上級以上、Bランク上位の探索者からしか使えないからね~人気過ぎて」


 美奈さんは軽く伸びをすると、訓練室の壁際にある武器置き場から、模擬戦用の短剣を手に取る。


「芽吹くんは素手なんだっけ?手甲とかもあるっぽいけど使う?」


「手甲は使ったことないので、とりあえず慣れている素手でお願いします!」


 鉄心さんとの訓練でも特に装備は付けずに練習していた。

 弱いうちから道具に頼るのは良くないぞという鉄心さんの教えだ。


 美奈さんは感心したようにウンウンとうなずき


「なるほど…芽吹くんはラッキースケベに備えて、素手でいたいわけだ…男の子だねぇ」


「い、いやいやいや!!そんな下心はないですよ!」


 美奈さんはからかうようにケラケラと笑う。

 美人からのいじりなんて耐性がなさすぎるし、心臓に悪いからやめてほしいと心から思う。


 一通り笑ったあと、美奈さんは部屋の真ん中に移動し、軽く短剣を構えた。


「じゃ、始めよっか。芽吹くん、遠慮はいらないよ?」


 美奈さんは華奢な体に短剣二本を逆手に構え、腰には細長い投擲用の訓練刀を何本も提げている。


 “隠密者シャドウランナー”、斥候と暗殺者の中間に位置する職能で、速度と奇襲を得意とする近接の達人だ。


 対する僕は、深く息を吸って腰を下ろす。

 足を肩幅よりも大きく開き、体は相手から見て半身になるように構える。

 拳はおなかの高さと、直線状に相手の目線が来るように構える。


 相手は探索者の中で上位0.1%以内のAランク探索者。

 勝てるわけがないけれど、なにか一つでも学んで帰る。


「美奈さん、行きます!」


「うん、来てみて」


 風の魔力を足に集め、地面から爆風とともに前へ踏み込む。

 10mはあった美奈さんとの距離を一瞬で0にし、崩拳を繰り出す。

 いわゆる空手の刻み突きのようなものだ。これが僕の中で放てる最速の打撃である。


「ふっ!」


「いいねぇ、芽吹くん」


 瞬きはしていなかったと思う。

 しっかりと美奈さんの全体をぼんやりとらえ、注意力は最大にしていたはずだ。


 なのに、気づけば美奈さんは僕の真後ろに立ち、模擬刀を僕の後頭部に軽くあてていた。


「――っ!」


「新人とは思えない動きだね。さすが鉄心さんの肝入りってところかな?

 でも、芽吹くんの動きは次を想定していないね。突きを躱されたら?後ろに回り込まれたら?

 ダンジョンでは想定外のことが起きる。それが当たり前だと常に思って用意することが大事だよ」


「…はい!もう一度お願いします!」


「うんうん、素直なところもかわいい!」


 美奈さんは満足気に笑い、楽しそうにステップを踏む。


「よし、次は私が攻撃するね。」


「お願いします!」


 とーんとーんと軽いジャンプのようなステップを踏んでいる。

 動きに集中しろ、常に想定外に備えろ、集中を切らすな。


 周りから音が消え、自分の鼓動だけが大きく聞こえる。

 世界から音が消えるほど、この戦闘に没入した。


 その瞬間、美奈さんの姿がぶれて消える。

 瞬く間に視界の右端から、刃が迫ってくるのをギリギリとらえることができた。


「あっぶな!!」


「おぉ!!よく躱せたね!」


「たまたま…です!」


 のけぞるように刃を躱していたので、そのまま重力に逆らわずにバク転のような要領で蹴りを放つ。


「体も柔らかいね~柔軟な動きはだいじだいじ~」


 美奈さんは難なく蹴りを躱し、また距離を取ろうとバックステップをする。


 距離を話したら追いつくのは不可能だ。

 拳が一番当てやすい距離で戦うしかない!


「はぁっ!!」


 風の魔力を足に集め、さっきのように風を推進力に前に進んで正拳を繰り出す。

 これも簡単に躱されるが、今回はさっきと同じではない。


 躱されることを前提にしていたため、流れるようにローキックを放つことができた。

 それも躱される、次は肘打ちを出す、躱される、後ろ回転蹴り、躱される、足の甲を踏みつける、躱される。


 どれだけ動作をつなげても、美奈さんは軽々と躱してしまう。

 しかも、こっちはどんどん体力がなくなっていくのに、美奈さんはずっとニコニコして、息も切らしていない。


「こ…のぉ!」


 風魔法を腕にまとわせ、見える範囲よりも広い打撃を放つ。

 それが予想外だったのか、美奈さんは初めて手に持っている短剣で衝撃を防いだ。


「!!…やるねぇ~。その技はなに~?見たことがないなぁ」


「内緒…です!!」


 スキル《風纏(フウテン)

 腕から先へ持続的に微弱な風魔法を発動し続ける。

 風魔法は腕を中心に螺旋を描くように流すことで、少ない魔力で効率的に破壊力を上げることができるスキルだ。

 鉄心さんとの訓練で編み出した切り札の一つ。


 当たればダメージを与えられると思ったが、簡単に防がれるのか…


「いい、本当にいいね、芽吹くん。思ったより動けて、学習能力も高くて、私が見たことのない未知の魔法も使える…アハッ、楽しくなってきたね♪」


 美奈さんから突如、衝撃波のような威圧が発せられる。

 これがAランク探索者の威圧…少しやる気を出しただけで、心臓が握るつぶされそうな圧を感じる。


「スキル《裏路地の闇(ダークアレイ)》」


 美奈さんがドロッと黒い液体のようになって、足元の影に溶けて消える。

 どこに行ったという思考が流れるまでもなく、背中に痛みが走る。


「ぐっ!」


「頑張って芽吹く…いや、慧くん!君ならきっと対処できるよ~!」


 振り向きながら裏拳を放つが、すでにそこに美奈さんはいない。

 あたりを見渡そうと顔を横に向けると、右足に衝撃が走った。


「いたっ!」


「そうだよね、痛いよね~!訓練用は刃がつぶれているけど、金属の棒だもんね!」


 その後も姿をとらえられず、一方的に攻撃を受け続ける時間が続く。

 体中にあざができ、裂傷もできて血が流れる。


 このままじゃジリ貧だ。

 おそらく美奈さんのスキルは極限まで気配を薄くした移動スキルだろう。

 攻撃を受ける瞬間まで音も気配も攻撃する意志すら感じない。


 こんなのどうやって防げば…


「ほらほら!足が止まってちゃだめだよ~!」


「ぐぅっ!」


 攻撃自体は軽いから、《風纏》なら防げるけど、美奈さんの攻撃は《風纏》を使っている腕以外を確実に攻撃してくる。

 こうなったら…これしかない!


 胸から、正確には”原初の種”から流れる魔力に制限をかけず、全身へ多大な魔力を流す。

 そして一気に風として魔力を開放した。


 ドン!!という音とともに、僕を中心として突風が巻き起こる。


「うわぁ!」


 背後から悲鳴が聞こえ、振り返ると美奈さんが突風に吹き飛ばされているところだった。


「はぁあああ!!」


 空中で体制が整わないうちに追撃を食らわせる!

 飛び込むように、美奈さんの腹部に向けて拳を突き出した。


「…おっしい~」


 美奈さんは空中を足場に横へジャンプして攻撃を回避した。


「えっ!?」


「よっしょっと…惜しかったね~。私のスキル《路地裏の陰(ダークアレイ)》は、気配遮断の最上級スキルで、特殊な効果として、空中や水中に足場を一瞬だけ作ることができるんだよ~。まさに路地裏を生き抜くためのスキル!路地裏で生きるには、空気でも足場として活用しなきゃね!」


「それ…だいぶチートな気がします…」


 ぜぇぜぇと息を切らしながら話す。

 もう体力も魔力も枯渇寸前で、地面に大の字に寝転ぶしかできなかった。


「新人冒険者に見せたのは初めてだよ、慧くん」


 寝転ぶ僕の隣に座り、僕の髪を優しくなでる。


「えっ、わぁ!!」


「なに~私が褒めてるのに逃げるの~?」


 美奈さんはおりゃ~という掛け声とともに、僕の頭を抱えてぐりぐりと撫でる。


「ちょ!やめてください美奈さん!」


「照れてるね~っかわいい~~!」


 そうしてごちゃごちゃと戯れたのち、少し休憩を挟んで、模擬戦を再開した。

 結局日が暮れるまで、一撃も与えることはできなかったが、なんとか速度になれることはできたと思う。


「よし!今日はここまでにしようね!」


「…ご、ご指導…ありがとうございました…」


 もう膝も腕も疲労でプルプルしている。

 美奈さんは「お風呂いって帰るね~また明日~」と、さっさと訓練室を出て行ってしまった。


 あれがAランク…体力も次元が違うなと感じた。


 自分はまだまだ弱いけれど、今日得られたものは本当に大きい。

 自分の現在地とトップとの差、今日だけで成長できた感覚。


 これらすべてを糧にして、明日も頑張ろうと心に誓った。

 地面に寝転んだまま動ける気がしないが。




―—綺凛(作者)から皆様へ――


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